卑弥呼転生 ~妹を女王に、現代知識で邪馬台国を作る~   作:露李鈴

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第二十九話 値踏みする者たち

 名張の橋のたもとで、

 空気が変わった。

 

 こちらへ歩いてくる三人の男たち。

 

「我は、三野之(みのの)稲置(いなき)道長(みちなが)さまの命を受け、

 ここへ参った、三野之(みのの)長見(ながみ)である」

 

 礼を知らぬわけではない。

 この場の誰よりも整った衣をまとっている。

 

 だが、その目――

 

 なにか違和感を覚えた。

 

 

――――――――――

 

 ナガミと名乗る男が、橋の手前で足を止める。

 

 齢四十に届くかといった顔つき。

 鼻筋は通っているが、その笑みだけが薄い。

 

「病みあがりの村と聞いておったゆえ、

 近寄るのも気を遣うな」

 

 後ろの二人が、かすかに口元を歪めた。

 

 これが三野か――

 

 由緒ある名家の筋なのだろう。

 丁寧な言葉の裏で、相手を踏む。

 

 その動作が立ち振る舞いからにじみ出ていた。

 

 

「名張の長、シラガにございます」

 

 シラガが、杖をついたまま、一歩進み出る。

 名張の長として立つべきところで、ちゃんと立っていた。

 

「三野の方々が、わざわざ、このような小村へ、

 なんの御用にございましょう」

 

 

「なぁに、たいしたことではない」

 

 ナガミは橋の向こうへ視線を流した。

 

「病で倒れたと聞いた村が、

 また、動き始めたとも聞いたのでな」

 

 そこで一拍。

 

「ナバリを預かる側として、近くの様子は、

 知っておくべきと思うたまでよ」

 

 ナバリを、預かる側――

 

 

「……村は、なんとか息を吹き返しつつございます。

 田と、畑へも、人が戻り始めました」

 

「そんなことは見ればわかる」

 

 ナガミの視線が俺を見て、横へ動いた。

 

 

「その娘か」

 

 言葉に滲んだのは驚きではなく、

 面白がる響きだった。

 

「寒村にも、ずいぶん大きな噂が立つものよな」

 

「火の巫女、とやらでございましょうか」

 

 後ろのひとりが笑い声混じりに言う。

 

「子は、子よ」

 

 ナガミは肩をすくめた。

 

「なにも持たぬ貧しい村が箔を求める気持ち、

 まあ、分からぬでもないがのう……」

 

 

「…………」

 

 イミコの指先が、俺の袖をつかむ力を少し強めた。

 

 こいつらは見ていない。

 

 イミコの中身も。

 村の中身も。

 

 噂を、噂のまま。

 

 下から湧いた騒ぎくらいにしか、

 受け取っていない。

 

 

――――――――――

 

「よろしければ、村の中に……」

 

「いや、かまわぬ」

 

 男はすぐに手を振った。

 

「病を越えたばかりの村に、

 長く踏み入るのも、無作法というものよ」

 

 その目には、露骨な軽蔑の色が見て取れた。

 

 

「田には人が戻っておるようで」

 

「畑も起こしておりますな」

 

 後ろの二人が、橋の上から村を遠目に眺めた。

 

「とはいえ、小さきものよ」

 

 ナガミの一言で、視察は終わった。

 

 

「これなら、納めるべきものは問題なさそうだな」

 

「それは……」

 

 シラガが声をあげようとする。

 

「立ち直ったというなら、また然るべき形へ……だろう?」

 

「今の名張村に……そんな余裕は、まだ……」

 

「外の風に、あまり余計な顔を向けぬほうが、

 身のためじゃないのかえ」

 

 外の風……西の三輪のことだろうか。

 

「身の程に合うところへ従っておれば、

 それで、足りるというのに……」

 

 西の三輪に従わず、北の三野に従え――

 つまりはそういうことだった。

 

 

「名張は、名張なりに、

 今を生きておるだけにございます……」

 

 シラガの返しは短かった。

 

「今は、土を戻すことを第一と考えております」

 

「……まあよいだろう」

 

 ナガミは薄く笑い、踵を返した。

 

「病み上がりの寒村に、長居する趣味はないのでな」

 

 橋を渡って去っていく三人の背は、

 最後まで、こちらへ敬意を向けることがなかった。

 

 

――――――――――

 

「……にぃに」

 

 イミコが、小さく俺の袖を引いた。

 

「ん?」

 

「……やな、ひと……」

 

「ああ」

 

 

「はぁ……相変わらずだな」

 

 イワホコが、低く息を吐く。

 

「そうじゃのう」

 

 シラガの声は重かった。

 

 

「あいつらは、村を、

 見に来たわけじゃないんですね」

 

「値踏みだな……」

 

 イワホコが鼻を鳴らした。

 

 橋の向こうの三人は、

 もう、小さくなり始めていた。

 

 だが、その背中の目は、

 常にこちらに向けられている。

 

 

「北の三野、か……」

 

 三野は「名張」を見ていない。

 ただ、自分たちの土地を見にきた。

 

 そう、心の底から思っているから――

 

 厄介なことになりそうだ。

 




西……三輪氏・阿倍氏
北……伊賀氏・阿閉氏・三野氏

現状で名前の挙がっている勢力は上記のような感じです。
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