卑弥呼転生 ~妹を女王に、現代知識で邪馬台国を作る~   作:露李鈴

34 / 34
第三十話  名張の四人

 巫女の沢、その最も上流部分。

 

 川の澄んだ流れが、石のあいだを抜けて、

 絶えず心地よい音を立てていた。

 

 

 シラガは、平たい石へ腰をおろし、

 釣り針を垂らしていた。

 

 タケは、沢に入り、

 石槍を構えて水面を睨んでいる。

 

 俺は、イミコと並んで、

 川縁にしゃがみ、砂利に指を入れていた。

 

 

「……あった」

 

 イミコが、小さな指で貝を拾いあげ、

 陽の光に透かして嬉しそうに見上げていた。

 

 

――――――――――

 

「あいつらは、いつもそうだ……」

 

 ふと、タケが口を開いた。

 

「守ってやるだの、収めてやるだの……」

 

 その声が落ちると同時に、

 腕が動いた。

 

 石槍が水を裂き。

 

 銀色の魚が一匹、槍先で跳ねていた。

 

「……気に食わねぇ」

 

 

「それが三野じゃ……」

 

 シラガは糸を垂らしたまま、重い声で言う。

 

「自分たちは収める側、相手は従う側、

 それを本気で道理を言うておるつもりじゃよ」

 

「伝統と、格式の深い家系なんですね……」

 

「うむ……」

 

 

 俺は、二人の話を聞きながら、

 考えをまとめていく。

 

「問題は、三野が来たこと、そのものですね」

 

 水面と睨みあうタケの視線だけが、こちらへ向いた。

 シラガの糸を持つ指の動きも止める。

 

「火の巫女の話は、思ったより、

 村の外部へも広がっているようで……」

 

「うむ……」

 

 シラガは釣り糸を見つめたまま、ゆっくり頷く。

 

 

「……わたしが、みられてたの……?」

 

 イミコが顔を上げた。

 

 濡れた髪が頬に張りつき、

 日の光を受けて細く光っている。

 

「皆、村を見てるようで、見てるのはちびどもだ」

 

 タケの言い方は、ぶっきらぼうだが、

 そこに棘だけではないものが混じっていた。

 

「……なんか、やだ……」

 

 イミコは手の中の貝をぎゅっと握った。

 

 

――――――――――

 

「名張は選ばなければいけない、

 誰かに従うのか……自立するか……」

 

 俺は砂利の指先を払いながら言った。

 

「ただ、そのどちらを選ぶにしても、

 ナバリの村に力をつける必要があります」

 

 タケの眉が、わずかに動いた。

 

「弱いまま頭を下げても、

 ただ、強者に吸われて終わるだけです」

 

 俺は手の中の貝を、持ってきた籠(かご)へ入れる。

 

「逆に、力があれば、従うにしても形を選べます」

 

 

 そこで、シラガの糸が大きく沈んだ。

 

 老いた長は慌てず、

 手首だけで引く。

 

 ばしゃ、と水が割れ、

 よく太った魚が一尾、宙へ上がる。

 

「強うなる、か……」

 

 その声には、長く、

 土に根を張ってきた者の重みがあった。

 

「名張臣(なばりのおみ)の火種、ここで、消すわけにはいかぬなぁ……」

 

 

「俺は、三野に好きにされるのが気に食わねぇ」

 

 タケが槍の柄をぐっと握る。

 

「那婆理(なばり)は、名張の手で守る」

 

 

「村を強くするしかありませんね」

 

 俺は、二人の「ナバリ」の長を見た。

 

 二人は静かに頷いてみせた。

 

 俺と、シラガと、タケ。

 それぞれの三者の理由は違えど。

 

 やらなければいけない事が、

 ひとつに収束した。

 

 

 ナバリで イミコを 守る。

 

 

「……にぃに、また、あった……」

 

 そんな周りの想いも露知らず、

 イミコは、また、貝を見つけて目を輝かせていた。

 

 

――――――――――

 

 その時、沢の上流へ足音が近づいてきた。

 

 木々のあいだからアサメが現れる。

 息を切らし、裾を乱しながら駆けてきた。

 

「大変です」

 

「どうした」

 

 座したまま、シラガは視線だけを向ける。

 

 

「三輪からの使者が来ました」

 

 その一言に、沢の水音が、ひどく遠く感じられた。

 

 シラガが目を細める。

 タケが低く鼻を鳴らした。

 

 イミコが、俺を見る。

 

 

「先手を打たれた……」

 

 俺は籠(かご)を置いて、立ち上がる。

 

 想像よりも速く、

 外の世界は動いていたようだ。

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。

評価する
点
※参考:評価数の上限
評価する前に 評価する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。


  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

読者層が似ている作品 総合 二次 オリ

八甲田山転生 ~現代知識で雪中行軍を生き抜く。犠牲者は、出さない~(作者:露李鈴)(オリジナル:現代/戦記)

【カクヨム10テーマ小説コンテスト「歴史・時代IF」部門 選考委員セレクト賞 受賞作】▼明治三十五年(1902年) 八甲田山雪中行軍遭難事件▼210名中199名が命を落とした日本史上最悪の遭難事件。▼ ――もし、その地獄の行軍に『失敗の歴史』を知る者がいたら?▼~ 生存率5%の絶望を覆せ ~▼現代日本から、明治時代の「陸軍少尉・小林守」として転生した主人公。…


総合評価:1124/評価:8.64/完結:56話/更新日時:2026年09月16日(水) 21:05 小説情報

転生したら異世界の宇宙最強の龍でした!〜0から星と生命を作り出して一大文明の支配者になったので現代日本へ帰還します。自分は日本が一番暮らしやすい。〜(作者:電動ガン)(オリジナル:現代/コメディ)

目覚めたら無だった。何も無い。宇宙さえも。自分の身体を見る。銀色の甲殻、長い尻尾これモンスターだ!?よく見ると俺の他にも二頭のモンスターが。ドラゴンだこれ!!▼俺たち三頭の女神龍は宇宙創成の前の世界にいる。俺たちを生み出した主神の指示で世界を作り生命を繁栄させることとなったけど・・・・・・それ何年掛かるの?▼何億年も掛けて生命が宿れる星を何個も作り、失敗し、…


総合評価:2918/評価:7.62/連載:146話/更新日時:2026年09月27日(日) 17:07 小説情報

真祖吸血鬼、まだ存在しないアメリカに寄生する 〜合法的な血液供給のため、建国前から国家運用保守を始めました〜(作者:パラレル・ゲーマー)(オリジナル:歴史/冒険・バトル)

アメリカ建国250年おめでとうございます記念小説です。▼欧州の吸血鬼貴族ヴァレンシュタイン家に転生したルカは、始祖の血を濃く継ぐ「真祖の中の真祖」だった。▼霧化、影操作、自己再生、記憶読取、そして前世の記録から現代の物品や情報を引き寄せる力。▼無法なまでのチートを持って生まれたルカだったが、両親の価値観は最悪だった。人間牧場、血統管理、血の風呂。現代日本人の…


総合評価:1192/評価:6.22/連載:39話/更新日時:2026年08月10日(月) 16:18 小説情報

スキル制ステータスで現代をお気楽に過ご……したい(作者:逆鯖)(オリジナル:現代/ノンジャンル)

▼ 工場派遣として働く25歳、佐藤直人。▼ ある日突然、視界に《スキルシステム》なんてものが現れた。▼ 《清掃》《料理》《プログラミング》みたいな普通の技能から、《豪運》《魔術》《錬金術》《ダンジョン作成》なんて明らかにおかしいものまで、SPさえあれば取得可能。▼ だったらまあ、使うっきゃない。▼ 仕事は楽に、金はなるべく効率よく稼いで、自分の時間はしっかり…


総合評価:7575/評価:8.47/連載:19話/更新日時:2026年10月09日(金) 21:25 小説情報

ポケモン現代入り(作者:ささみ)(原作:ポケットモンスター)

▼ よくあるポケモン現代入り系作品です。それ以上も以下もないよ。


総合評価:16344/評価:8.28/連載:102話/更新日時:2026年08月16日(日) 00:00 小説情報


小説検索で他の候補を表示>>