卑弥呼転生 ~妹を女王に、現代知識で邪馬台国を作る~ 作:露李鈴
「火の巫女は、病を退けるだけにありません」
三輪の神殿の正堂に、
俺は、大きく言葉を響かせる。
「病に荒れ、痩せこけた田畑にも、
火の巫女の理が活かせます」
「ほう」
だが、その視線は極めて厳しいものだった。
火の巫女の言葉に一定の理解を寄せたが、
俺には、まだ、なにも信を置いてないという顔だ。
「火の
正堂の、左右の両陣営がざわめく。
「土をだと?」
「
「さすがに信じられる話ではない」
まわりの反発が高まる。
だが、それまでは想定通りだ――
名張の村でもそうだったが……。
話題が「農」に至ると「反発」は大きくなる。
そもそも、その土地の「農」とは、
先祖代々の研鑽の賜物である。
そこに口出しをされることに、
抵抗が生まれるのは当然のことなのだ。
そして、イミコの「信仰」は場を和らげる。
だが、俺の「理」は冷たく固い。
だからこそ反発は強まるし、疑われる。
だがこれでいい。
今回は、それが役に立つ。
「信じていただく必要はありません」
間を置かずに言う。
「名張では、それをすでに進めております」
大仰に両手を広げてみせながら。
「火の巫女の理に従い、腐るもの、灰、
枯れ葉、土を重ね、寝かせて土へ返すのです」
疑われているということは、つまり、
説き伏せれば、従わせることができるということ。
「言葉より、結果で、おみせしましょう」
話を聞いてくれる場が成立し、
利を説けるのなら、そこに道は生まれる。
すべては、シラガが礼に従い、
イミコが興味を引き出したおかげである。
俺一人なら、まず、ここで、
理を説く場が成立すらしないだろう。
――――――――――
「ふぅむ……」
まわりの者達も奇怪な視線をむける。
以前にも誰かに「物の怪」と呼ばれたものだ。
「火の巫女の、浄化の話だけでもよいものを……」
さきほど、イミコへ向けてたものとは違う。
「なぜ、それ以上を説く必要があるのだ」
俺を、真っすぐ見据える。
俺の言葉の内容ではなく、
俺の意図に疑いをむけてきた。
やはり、目の付け所が鋭い――
俺は、一礼してから、ゆっくりと顔を上げる。
「火の巫女の御業が、病を退けて終われば、
名張の村は長く持たないでしょう」
「ぬしの言うとおりなら、名張の村には、
これから糧が増えるのだろう?」
俺は顔を横に振る。
「糧が増えて村が富み始めれば、
それを狙う手も、また寄ってきます……」
「ほう……」
三輪君の唇がゆるむ。
この時点で、すべてを理解したのだろう。
「糧を増やしても、人が増えるのには、
どうしても時間が掛かりますが、
脅威がすぐに訪れます」
「その時、防ぐ手立てを持ってなければ、
我らは滅ぶしかありません」
つまりは「北からの侵攻」の話である。
「ゆえに、我らには、三輪と、
さらに関係を深める必要があります……」
「その、ちいさな身で、
よく遠くまで見通しておるわ」
――――――――――
「ならば問おう、名張は、三輪になにを求める」
俺は、シラガに視線を向ける。
名張の村として――
その言葉を使ってよいのかと伺いを立てる。
シラガは、静かに首を縦に振った。
「農具を、いくつか融通いただければと」
正堂にざわめきが走った。
「今の名張では、土を起こし、畑を広げ、
積んだ肥やしを回すにも、手が足りませぬ」
「そらみたことかっ」
東の側、一人が立ち上がり声をあげた。
この場における二番手、
「火の巫女の力などではなく、
農具により収穫高で謀るつもりか」
さすがに切り込みが鋭い。
「いいえ、見るべきは、
同じ一区画における実りにございます」
俺は、
「つまり、土を肥やした地と、
そうでない地で、比べればよいのです」
「ぬぅ……」
「名張に道具を賜れば、その結果を、
「ふむ」
「土を肥やしたと言えど、名張の小さな土地では、
その収穫自体は些細なものです」
「なれど、同じことを三輪の全体で用いれば、
莫大な実りをもたらすことでしょう」
そこまで俺が言葉にしたところで。
「無形ゆえ、我ら三輪が、
力ずくで名張から奪うこともできぬし」
「さらにその間、名張を外敵から守ってやらねば、
我らが得られるはずの利、そのものが失われると……」
「その通りにございます」
「ふむぅ、おもしろいことを考えおる……」
――――――――――
あたりには沈黙が落ちた。
最後に、俺へ視線を戻した。
「よかろう……農具、生活に要る品をいくらか与える。
加えて、今年の畑起こしのための人も出そう」
「なんとっ……」
シラガが、おもわず小さな声を漏らした。
「ただし、そなたの申したこと、しかと見届けるぞ。
名張の働きも、土の実りも、すべてな……」
「仰せのままに」
俺は、深く頭を下げた。
そんなことは最初から承知の上だ。
どうせ、これまでも、
村の外から監視はされていたのだろう。
それなら、内から堂々と見せてやればいい。
今は「まだ」見られて困ることをするつもりはない。
「ありがとうございます」
横で、シラガも、また頭を下げた。
「名張は、必ずや、応えてみせましょうぞ」
シラガの声は、かすかに震えていた。
病に痩せこけた村を、その一身に背負い続けてきた
ひとりの長としての心の叫びなのだろう。
「うむ、励まれよ」
――――――――――
火の巫女の神秘で開かれた幕は、
理を説く言葉によって三輪からの支えを得た。
だが、同時に、三輪の目も抱え込む。
それでも、進むしかない――
急いで力を付けなければ。
これから、先を、生き残ることができない。
名張は、もう。
ただの寒村ではいられない。