卑弥呼転生 ~妹を女王に、現代知識で邪馬台国を作る~   作:露李鈴

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| 夏:三章「富国強兵のみち」
第四十四話 名張に響く笛の音


「ぴっ、ぴっ、ぴっ」

 

 軽快な笛の音が、名張に響きわたる。

 

 笛を吹いているのは、

 村からの出戻り組のカヤだった。

 

 三輪の国から帰ってきてから、

 数日が経ち、毎朝、皆が広場に集まってくる。

 

 

「そこ、遅れてるぞ」

 

 イワホコが声をあげる。

 それで、村人たちの動きが、また揃う。

 

 朝の準備運動に、笛の音でリズムを付けた。

 後の、ラジオ体操の形を真似した。

 

 

「ぴっ、ぴっ、ぴっ」

 

 笛の音に合わせて、村中が動く。

 

「はい、そこ遊ばないでー」

 

 背後から、アサメの声が聞こえてくる。

 

「はーい……」

 

 遠くから子供らの声があがる。

 

 村の子らは覚えが早いくせに、

 気を抜くと、すぐ勝手に動き始める。

 

 

 そんな子供らと歳を近くする、イミコは、

 広場の中央で、俺を見習うように腕を上げていた。

 

「……ん、んー……」

 

 その小さな身体を一生懸命に伸ばす。

 

 その横では、シラガが、

 渋い表情を浮かべながら同じ動きをする。

 

 その様子が可笑しくて、

 おもわず、俺の口元がゆるんだ。

 

 

――――――――――

 

「ぴっ、ぴっ、ぴっ」

 

 笛の吹き手は、毎日、変えていた。

 

 男衆に限らず、女衆も、

 子どもらに吹かせる時もある。

 

 音を鳴らすこと、音を聞くこと、

 どちらも経験することで動きに慣れていく。

 

「皆、笛の扱いにも、慣れてきたようですね」

 

「そうじゃのう」

 

 シラガが小さく頷いた。

 

 

 * * *

 

 石笛、草笛、竹笛など……。

 古来より「笛」は人類に馴染みのある道具だ。

 

 楽器としての性能を求めなければ、

 用意は簡単である。

 

 本当に大事なのは笛に合わせて動くこと。

 

 一糸乱れず、

 息を揃えて動くこと。

 

 つまり集団行動――

 

 皆の体に覚えさせるなら、

 こうした平時のうちから取り組むのが良い。

 

 * * *

 

 

「イワホコさん、畑は、どんな感じですか」

 

 ぴっ、ぴっと笛の音に合わせながら、

 隣に声をかける。

 

「おう、順調だ、もう種まきに移れるぞ」

 

 

「肥溜めのほうは、腐るものを分けるのが、

 皆、ようやく慣れてきたようです」

 

 後ろから、アサメが声をかけてきた。

 

 

「タケさん、山のほうはどうですか」

 

「暖かくなることで、

 山に獲物は戻ってきてるな」

 

 

 

 肩肘を張らず、村の情報を共有していく。

 

 誰かの連絡は、そのまま、

 すべての村人が耳にすることになる。

 

 縦方向だけではなく、

 水平方向にも情報が繋がっていく。

 

 こうした基本が、

 村を強くしていくのだと思う。

 

 

――――――――――

 

「村が息を吹き返したの……」

 

 シラガが、静かに言った。

 

 

 病に苦しんでいる村の者はいない。

 

 病を患った者たちも、

 すっかり、元気に働いている。

 

 時間は掛かったが、

 名張の村は、復活を果たしていた。

 

 

「……にぃに……なんか、

 みんな、ひとつになってるね……」

 

「そうだな」

 

 

 戦の備えに必要なのは、

 まず、ここからだ。

 

 同じ音を聞いて、

 同じように動けること。

 

 同じ朝を共有して、

 同じ持ち場へ散れること。

 

 名張村の「富国強兵」は。

 

 こうした何気ない朝から始まっていくのだ。

 

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