人工生命と再生産(カット版) 作:あるぼざろ好きだったカリジャナリ
埋まることのないその穴は、例えば埋めたいと切実に願って、
似た形のものを押し付けて何とかしようとするくらいの穴もあれば、
本人も失っていることにすら気づかない穴もある。
切実にそれを願う時、知らずにその方向へ歩み出す時。
人は段々と手段を選ばなくなっていくんだ。
ありもしないものを本当のように見たり、あるいはそれが違うと知っていても。
1.
さる夢を見し。
淡泊色が部屋にぽつりと立ちて、離れ場所に児子ありけり。
たる児子ふは不安なる様子で回りを見まわした末に、目線が忽然と合いたり。
さりざまにゆるやかに歩み寄りて、腕を寄せたる児子を慈しく思ふたか、
不思議と「因縁」たるイミッジを抱きて。
かかる児子を撫で置かん、手を触れんと、
心突かぬうちに消え去りて。
手中に残る幻想の冷えたると共に、私はうすら寒き寝台の上にて目を開ける。奇妙に思えど、思い当たりたる
普段通り朝刻に遅れぬよう部屋を出たると、聞き慣れし、いささかな喧騒ありけり。
静穏たる場所より、あんがいにもこちらの方が私は落ち着けど。
その時、イシュメール嬢から紙を渡されし。
I「イサンさん、お知らせだそうです。」
Y「感謝せり。」
無造作に回されたる紙の一つが目に留まりて、唯一枚の表面だけに記されし簡素なる短文。
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「Homunculus計画についてのお知らせ」
此度、Limbus Company bus部署において、
雑務や作業等が滞納し、主に囚人1.11.12番等の一部囚人に処理が集中し、本来の作業を中断する事態が常態化しています。
この事態について通常の注意喚起や別部署からの動員でなく、この機会を取り
本社より[
これについて、詳しくは本紙配布日の夕頃(業務終了宣言時)に囚人二番による説明をお聞きください。
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Y「…ふむ。」
…?
手中に残りし紙片の手触りと、記憶に残る空の手がふと曖昧になりて。
ホムンクルゥスなる語の添えられし意味を、思考の端で手繰り寄せんとしては、
同時に湧き出たるふつふつとした汚物の感触にそれを手ずから断ち切る。
さりて、いつの間にか私は思考を空に還すのみに身をやつせり。
2.
D〈囚人の業務終了を承認します。〉
F「ありがとうございます。今から変動可能性のある最大十二時間の就寝及び休息を開始します。良い夜を。」
管理人がいつものように形式化された業務終了宣言のされた夕方。
相も変わらず絶妙に狭い車内の中、子供達は様子が異なっていたみたい。
たぶん、あの紙を読んだか読んでないかって所かな?
まあ、一部の子供はどっちにしろ変わらなそうだけど。
H「んぁ……あー、やっと終わりか。おい、どけって。さっさと部屋戻って横になりてぇんだよ」
普段のようにさっさと廊下に入りたがる子供に、肩を掴む手が伸びたんだ。
F「ヒースクリフさん。」
何だよ、突っかかろうとする彼に、その子供はまるで手慣れたみたいに言ったんだ。
F「今朝配布した書類を確認していれば業務終了時に説明の場が設けられることは把握できたはずですが?
貴方がそれを熟読したか否かの発言は不要ですが、ひとまず着席してください。」
H「…チッ。」
読み忘れや放置でこういう事を何度も経験したことのある子供は、言い返す意味がないとわかっているのだろう。
F「それではこれより連絡及び説明を開始します。
記載の通り、現在メフィストフェレスの整備や、雑務、作業負債が一部囚人へと集中しています、
従来ならば、単なる注意喚起等で終わる話ですが…
今回に至っては、これを機会と取り本社より試作機をこの部署にて試用するよう下されました。
Homunculus計画と試作機についての概要ですが、現在運用されている人工子宮及び保育器の新機能、または別装置に搭載する養育個体の変調・傾向操作に関するデータ集めを目的としています
この部署に指示された理由としては優れた遺伝子を用いて生産し、実務試験を行うためです。」
「具体的な製造過程としては、対象者の間で期間短縮のために通常の生物的工程を経た後、初期分裂を開始した段階で槽内へ投入し……製造体は環境変数の高さや、成長性によるデータ取得効率の側面から初期状態は…… と仮称される部品を用いて継続的に経験缶詰を溶け込ませ……既存の手法ですが、初認知のしていない状態なので空間加速が利用でき……現在の候補者は、傾向から……
……………。
………。
…。
延々と続く専門用語の羅列と、息継ぎすら感じさせない子供の淀みない説明。
その子供達は、そこまで話を聞いて、まあ大体「研究の試作品のテストで生まれた知らない人間が雑務をしてくれる」程度の理解だったみたい。半分以上の子供達は、途中で完全に頭を空っぽにして聞き流していたようだしね。
その時。
D「ま、待ちなされ!!!!!」
子供が耳をつんざくような声を上げたんだ。
D「それはどういうことであるか!?つまりは、その作業にイサン君とファウスト殿の遺伝子を起用するということか?それでは、まるでこれから血縁者が追加人員となるような…」
生真面目に話を聞いていたのかな?とにかく、それが気に障ったみたいだけど。
F「はい。現在の予定ならその認識で構いません。」
R「……んぁっ!? な、何……?」
M「囚人3番が計画の説明に関して自らの視点で倫理的・思想的に異を唱えている。」
頬杖をついて夢うつつだった子供は、その声に飛び起きてしまったみたいだね。
R「そうじゃなくて!何で文句を言ってるの?ちょっと置いて行かれてるんだけど…」
M「囚人3番は、当該計画において製造される個体が囚人1番および囚人2番の生物学的血縁者として生産される可能性の高い事、または囚人同士の血縁者自体に異議を立てている。
また、生産個体の初期状態、生産過程にも負の感情を示していた。」
それを聞いてもよくわからないようだけど、とにかく何かおかしいのは皆に伝わったのかな。
D「自らの子をそのような風に扱うのか!?か様な実験などに、実の子を…」
G「おい、落ち着けって!別にただ入れるだけだ、それよりも本人の気分が大事だろ。」
D「で…であるが…むぅ…」
衝動的に飛び出した子供を静めるのは少し難しいようだ。
H「何をそんなに怒っているんですか? 僕の家でも、お仕事や教育用に調整されたお腹違いの弟や妹がたくさんいましたよ?」
でも、あくまで遺伝子を使うだけなんだから、何か似ている人が加わるだけ。
これまでも一時的に旅に加わる人は居たはずだから良いんじゃないかってのが皆の意見みたい
バスの内部に居ることは少なかったけど。
D「で、であるのならばイサンくんはどう思うのだ!」
後に引けなくなった子供の論点が、彼に移ったみたいだね。
そう問われた子供は少しの迷いもなく答えたんだ。
Y「私が、いとはしに思えど?」
Y「否、さるのみならず。恐るる程に美しく、賢きファウスト嬢と子を成すとは。非常に光栄なり。」
静かに放った言葉に、反論の余地は無かった。
G「よし。これで止める理由もないだろ?」
そう言うとその子供は悔しそうではあるけど、すっぱり納得した様子で席に着いた。
F「試作品は次の目的地に同時に配送されていますので、その際搬入してください。それでは、これにて説明を終了します。ファウストの言葉に、これ以上の付け足しは存在しません。」
H「きっと、イサンさんとファウストさんの顔立ちを継ぐなら、きっとお人形みたいに綺麗で賢いお子さんができますよ。」
そんな後追いの言葉にも反応せずに、子供はその場を去ったんだ。
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3.
メフィストフェレスの既にアイドリングモォドなりける駆動音の響きける深夜。
私は冷たい寝台の上で、一人暗闇を見つめけり。
…たるファウスト嬢の人間の域超えゆる美しさへ、欲を感じたることありけり。
何時からか。研究に没頭せし、九人会が時か、かつての朋に監禁されし時。それらはあいまいなれど私は
人の裸姿にも感わず、自然の理の循環されゆく様子、ぐちぐちにすり潰されし植物の実、じりじりに還元されゆる澱粉。それらに対し、人に向けたるはずの熱を帯びる私なり。
されど。一筋の狂いもなく配分されし、人間の極点たる造形へ。人の体を後から宿せり計算式が如く見えたりて。
手が恋文を書きたる事ありけり。
羞恥に襲われど廃棄することかなわず、乾花を添え机上に置きたれば。
その文の行き先は一片も知らず。
長めなのは初投稿です!
不定期更新です。一週間ごとに更新しようと思っていましたが無理でした
あとハーメルン初めでだから勝手がわからん!
別掲載とは同一人物です