一般モブでもネームドキャラとの桃色ルートは開拓可能であるか 作:ホシノ記研究委員会
受験の結果が出たら、必ず手紙をよこすこと。
村を発つ際、両親とはそう約束していた。
正直に今の状況を伝えたら、即刻村へ呼び戻されて、生涯を畑仕事で終えることになるだろう。それだけは避けたい。
ゆえに、私は以下の内容で手紙を送ることにした。
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父上、母上へ。
王立魔法学園の合格者発表の当日はとても晴れやかな日で、大きな障害もなく、つつがなく進行されました。みんなの喜ぶ顔が今でも瞳の奥に焼き付いています。私はこの記念すべき日を決して忘れることはないでしょう。
そんなわけで、学園がよく見える場所で新しい生活が始まろうとしています。住居については街に一室を借りる予定です。
今後は王立魔法学園に集う同世代の若者たちから多くを学び、自らの可能性を広げていきたいと思います。
他の学生たちに遅れをとりたくないので、このホシノに引き続きご支援いただければ幸いです。
王都で励む娘
ホシノ
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嘘は一つも書いていない。
受け手がどのような結論に至るかは、受け手の自由である。
数日後、返事が届いた。
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娘へ。
不合格だったのね。
村へ帰って家の仕事を手伝うなら、帰りの馬車代を同封してあります。
王都に残りたいなら、この後は自分で働いて生活しなさい。来月からの仕送りはありません。
追伸。
合格者は全員が学園寮に入ると、案内に書いてありました。
父さん、母さんより
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両親の温かい返信に、涙がこぼれそうだった。
私は帰りのために渡された馬車代を安部屋の敷金に変え、その日のうちに仕事を探した。
仕事探しは、少々難航した。
『はい、上京したての十五歳です』
『迷子ではありません。家族とは別居中です』
『生活費が必要なのでフルタイム希望です』
『学校、ですか。温かい陽射しも、降り注ぐ雨も、吹き荒ぶ嵐も、すべて私に生き方を教えてくれる教師です。しからば、立派な壁に囲まれたあの丘の上の建物だけが、どうして学び舎と言えましょうや』
面接は完璧だったはずだが、どうやら勤労意欲より先に「事情あり」の気配が漏れ出ていたらしい。
どの店でも、まず両親の所在を尋ねられ、次に「なぜ十五歳で生活費に困っているのか」などと問われた。
前者には「遠方の村です」、後者には「のっぴきならぬ事情です」と答えた。
嘘は一つもついていない。真実とは往々にして正しく伝わらないものである。
数件ほど断られた末、商店区の片隅にある寂れたパン屋が私を迎え入れてくれた。
店にいたのは、店長のおばちゃん一人だった。
「助かったわ。前の子が急に辞めちゃって、困ってたのよ」
おばちゃんはそう言って、にこやかに笑った。
店内には焼きたてのパンが並んでいたが、客の姿はない。
しめた、と思った。
おばちゃんがパンを焼き、私が棚へ並べて売る。
客が来なければ、私はただそこに立っているだけでよい。
余ったパンは、ひょっとすると持ち帰れるかもしれない。
少ない労力、安定した賃金、食費の削減。私の求める職場環境が、そこにはあった。
「ぜひ働かせてください」
「よかった。それじゃ、さっそく奥のテーブルを運ぶのを手伝ってちょうだい」
商品棚にはまだ売れ残りのパンが並んでいるのに、なぜ追加のテーブルが必要になるのか。
疑問をぶつける間もなく、私は店の奥へ連れていかれた。
物置には丸いテーブルがいくつも重ねられ、その周囲を大量の椅子が囲んでいた。
それらを二人で運び出し、パン棚の向かいに並べていく。
さらに壁際へ小さなカウンターが据えられ、食器棚からカップと皿が取り出され、各テーブルには花まで飾られた。
客のいない静かなパン屋は、見る見るうちにベーカリーカフェへと姿を変えていった。
「前からカフェもやりたかったのよ。ようやく始められるわ」
どうやら私が来るまで、開店準備が止まっていただけらしい。
おばちゃんは満足そうに店内を見渡すと、どこからともなく一着の服を取り出した。
白いブラウスに膝丈のスカート。その上から着るエプロンには、おびただしいほどのフリルが重なっている。このあたりから私は過呼吸が始まっていた。
「はい。これ、あなたの制服ね」
「パン屋の、制服にしては、装飾が、過剰では、ありませんか」
「あなたにはホールもお願いするから」
そんな話、聞いていない──そう言いかけた時に記憶がフラッシュバックする。
求人票には「販売および店内業務全般」と書かれていた。
確かに嘘は一つも書かれていない。真実とはかくも正しく伝わらないものなのか。
因果がめぐる。私の目もまわる。
「給仕の、経験は、はぁはぁ、ありませんけど」
「注文を聞く。運ぶ。そして笑顔で接客するだけよ。簡単でしょう?」
そう言われると簡単そうに聞こえてくる。二つ目までは。
「ほら、笑ってみて」
息も絶え絶えに、私は笑った。
「これから人でも殺すつもり?」
鏡の前で口角を上げ、声の調子を整え、柄にもなく愛想を振りまく訓練が始まった。
前の店員が急に辞めた理由について、いくらか察しがついた。
こうして私は、パンを棚に並べるだけの静かな仕事に就くはずが、ベーカリーカフェの給仕となった。
それから半年。ホシノ16歳現在。
魔法学園の生徒たちが日々の青春に励む傍らで、私はパンと飲み物を運び続けている。