一般モブでもネームドキャラとの桃色ルートは開拓可能であるか   作:ホシノ記研究委員会

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3.王都で励む娘

 受験の結果が出たら、必ず手紙をよこすこと。

 

 村を発つ際、両親とはそう約束していた。

 

 正直に今の状況を伝えたら、即刻村へ呼び戻されて、生涯を畑仕事で終えることになるだろう。それだけは避けたい。

 

 ゆえに、私は以下の内容で手紙を送ることにした。

 

 ────────

 

 父上、母上へ。

 

 王立魔法学園の合格者発表の当日はとても晴れやかな日で、大きな障害もなく、つつがなく進行されました。みんなの喜ぶ顔が今でも瞳の奥に焼き付いています。私はこの記念すべき日を決して忘れることはないでしょう。

 

 そんなわけで、学園がよく見える場所で新しい生活が始まろうとしています。住居については街に一室を借りる予定です。

 

 今後は王立魔法学園に集う同世代の若者たちから多くを学び、自らの可能性を広げていきたいと思います。

 

 他の学生たちに遅れをとりたくないので、このホシノに引き続きご支援いただければ幸いです。

 

 王都で励む娘

 ホシノ

 

 ────────

 

 嘘は一つも書いていない。

 

 受け手がどのような結論に至るかは、受け手の自由である。

 

 数日後、返事が届いた。

 

 ────────

 

 娘へ。

 

 不合格だったのね。

 

 村へ帰って家の仕事を手伝うなら、帰りの馬車代を同封してあります。

 

 王都に残りたいなら、この後は自分で働いて生活しなさい。来月からの仕送りはありません。

 

 追伸。

 

 合格者は全員が学園寮に入ると、案内に書いてありました。

 

 父さん、母さんより

 

 ────────

 

 両親の温かい返信に、涙がこぼれそうだった。

 

 私は帰りのために渡された馬車代を安部屋の敷金に変え、その日のうちに仕事を探した。

 

 仕事探しは、少々難航した。

 

『はい、上京したての十五歳です』

 

『迷子ではありません。家族とは別居中です』

 

『生活費が必要なのでフルタイム希望です』

 

『学校、ですか。温かい陽射しも、降り注ぐ雨も、吹き荒ぶ嵐も、すべて私に生き方を教えてくれる教師です。しからば、立派な壁に囲まれたあの丘の上の建物だけが、どうして学び舎と言えましょうや』

 

 面接は完璧だったはずだが、どうやら勤労意欲より先に「事情あり」の気配が漏れ出ていたらしい。

 

 どの店でも、まず両親の所在を尋ねられ、次に「なぜ十五歳で生活費に困っているのか」などと問われた。

 

 前者には「遠方の村です」、後者には「のっぴきならぬ事情です」と答えた。

 

 嘘は一つもついていない。真実とは往々にして正しく伝わらないものである。

 

 数件ほど断られた末、商店区の片隅にある寂れたパン屋が私を迎え入れてくれた。

 

 店にいたのは、店長のおばちゃん一人だった。

 

「助かったわ。前の子が急に辞めちゃって、困ってたのよ」

 

 おばちゃんはそう言って、にこやかに笑った。

 

 店内には焼きたてのパンが並んでいたが、客の姿はない。

 

 しめた、と思った。

 

 おばちゃんがパンを焼き、私が棚へ並べて売る。

 

 客が来なければ、私はただそこに立っているだけでよい。

 

 余ったパンは、ひょっとすると持ち帰れるかもしれない。

 

 少ない労力、安定した賃金、食費の削減。私の求める職場環境が、そこにはあった。

 

「ぜひ働かせてください」

 

「よかった。それじゃ、さっそく奥のテーブルを運ぶのを手伝ってちょうだい」

 

 商品棚にはまだ売れ残りのパンが並んでいるのに、なぜ追加のテーブルが必要になるのか。

 

 疑問をぶつける間もなく、私は店の奥へ連れていかれた。

 

 物置には丸いテーブルがいくつも重ねられ、その周囲を大量の椅子が囲んでいた。

 

 それらを二人で運び出し、パン棚の向かいに並べていく。

 

 さらに壁際へ小さなカウンターが据えられ、食器棚からカップと皿が取り出され、各テーブルには花まで飾られた。

 

 客のいない静かなパン屋は、見る見るうちにベーカリーカフェへと姿を変えていった。

 

「前からカフェもやりたかったのよ。ようやく始められるわ」

 

 どうやら私が来るまで、開店準備が止まっていただけらしい。

 

 おばちゃんは満足そうに店内を見渡すと、どこからともなく一着の服を取り出した。

 

 白いブラウスに膝丈のスカート。その上から着るエプロンには、おびただしいほどのフリルが重なっている。このあたりから私は過呼吸が始まっていた。

 

「はい。これ、あなたの制服ね」

 

「パン屋の、制服にしては、装飾が、過剰では、ありませんか」

 

「あなたにはホールもお願いするから」

 

 そんな話、聞いていない──そう言いかけた時に記憶がフラッシュバックする。

 

 求人票には「販売および店内業務全般」と書かれていた。

 

 確かに嘘は一つも書かれていない。真実とはかくも正しく伝わらないものなのか。

 

 因果がめぐる。私の目もまわる。

 

「給仕の、経験は、はぁはぁ、ありませんけど」

 

「注文を聞く。運ぶ。そして笑顔で接客するだけよ。簡単でしょう?」

 

 そう言われると簡単そうに聞こえてくる。二つ目までは。

 

「ほら、笑ってみて」

 

 息も絶え絶えに、私は笑った。

 

「これから人でも殺すつもり?」

 

 鏡の前で口角を上げ、声の調子を整え、柄にもなく愛想を振りまく訓練が始まった。

 

 前の店員が急に辞めた理由について、いくらか察しがついた。

 

 こうして私は、パンを棚に並べるだけの静かな仕事に就くはずが、ベーカリーカフェの給仕となった。

 

 それから半年。ホシノ16歳現在。

 

 魔法学園の生徒たちが日々の青春に励む傍らで、私はパンと飲み物を運び続けている。

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