魔術学園の異端者(イレギュラー) 作:みのきのこ
春風と共によく晴れた日。
その日、とある学園では入学式が執り行われようとしていた。
16歳になった少年少女たちが制服に身を包み、その背にリュックを背負って校門をくぐる。
彼らが学園に入学する理由は様々だ。
自らの力を誇示するため、自らの未来を切り開くため、自らのそして『
彼らはその魔術学園へ入学する、様々な理由を持って。
それは俺ーーヴァルト・ランロードも同じだった。
俺には俺の野望があって、ここで魔術を学び、やるべきことをやるために学園へとやってきた。
……やってきた、はずだったのに。
普通に、入学式が行われているはずだったのに。
「マジで、なんでこうなった……」
歓声の上がる会場の中、俺は両手にグローブを付けて、純銀に輝く白い少女の顔を見る。
純銀の少女は感情の薄そうな顔で俺を睨みつけながら、
いや、マジでなんでこんなことになってんの?
俺は確かにさっきまで、平和に入学式が始まるのを待っていたはずだ。
だというのに、気づけば俺は目の前の少女とグラウンドに立ち、お互いに構えあっている。
周りでは俺と同じように入学式に来た生徒たちが、歓声を上げて俺たちの行く末を見守っていた。
「ヘイルラーク家の御令嬢とバトるなんて、あいつも無謀だよなぁ」
「バカなんだろ、ほら顔がいかにもそれっぽい」
あーだこーだ言われているような気もするが、歓声に紛れて聞こえないと言うことにしておこう。
しかし……決して、怖気づいたとかって訳では無いが、あまりにも戦う意味が無さすぎる。
「クエルティア・ヘイルラークっ!!」
俺はグローブを嵌めた手をポケットに突っ込み、声を上げてみる。
周りの歓声に掻き消されながらも俺の呼び声に気づいたのか、少しだけ表情を変えながら俺の顔を見る。
「……なに」
声が小さいせいか、歓声のせいか、声が聞こえづらかったが、何を言ってるかまでは判別できた。
「もうやめようぜ!これ、やっぱよくねぇって!!」
「でも、喧嘩しようって言ったのは、そっち」
「売り言葉に買い言葉って、大昔に『外』から来た人も言ってただろ!!」
事の発端は、俺と彼女が入学式で隣の席になったことが始まりだったーー
「よ」
「ん」
最初の挨拶はそんな……たった一文字だけの言葉だった気がする。
「俺の名前はヴァルト・ランロードだ。よろしくな」
「私は……クエルティア・ヘイルラーク」
そんな自己紹介も交わした気がする。
で、その後の会話については……まぁ、それなりに覚えている。
まず奴が自身の使う魔術について教えて。
それに対して俺の魔術も教えようとした、が。
「どーでもいいって言ったか!?」
「だって、覚えてる意味、ないから……」
「……はっ、そうかよ。だったらお前の……てん……なんだっけ」
「覚えてないの……?」
「……だって、覚える意味ないからな」
って言い換えしたら、言い争いが始まって。
「だったら、やってみるか?」
「……いいよ、その体に刻み込んであげる」
って、わけで。
こんなことになりました、と。
うん、俺は悪いし、あいつも悪い。
つまりお互い様だーー
「このままやっちゃったらやべぇって!」
「……怖気づいた?」
後ろに垂らした二つ結びを靡かせて、純銀の少女は小さな笑みを浮かべる。
それは勝利を確信したかのような笑みだ。
敢えて言おう。
「俺は!!怖気づいてねぇッ!!」
と、言葉を返すがままに構えてしまう。
もう後戻りはできなさそうだ。
構えた俺に対し、彼女は目を細めて構え直す。
すると衆の中から俺たちと同じような入学式に参加していた、少し気弱そうな男子学生が一人出てくる。
「えー、っと。レフェリーがいないっぽいので、僕がやるね」
片手にコインを持ち、俺と彼女の間に立つ。
そしてコインを指で弾くと、くるくると回転しながら宙を舞う。
飛んでいくコインを見ながら男子学生は逃げ出した。
俺はそれを見届けながら、グローブを嵌めた手を力強く握り、脚に力を込める。
約一秒の静寂ーー直後、コインが音を立て地面に着地した瞬間。
「《
同時に言葉を発すると、俺の身体が鈍く光り始める。
と、同時に彼女の目の前に何か暗い穴のようなものが開く。
次の瞬間、穴から何か球体のようなものが飛び出したかと思うと、一秒も掛からずに俺の顔面へと飛来する。
すんでの所で腰を低く落としたことで、当たることはなく後ろへと飛んで行くと観客に当たる前に燃え尽きた。
その間に、俺は地面を蹴って彼女へ襲来。
彼女は俺を止めるべく、次の一手を打とうと、その手に持った手杖を振ろうとした。
が、その前に俺は彼女の懐へ入り込むと、その手杖を持つ手を叩いて杖を落とす。
あまりにも速い速度差に、彼女はついてこれず狼狽えた。
俺は追撃……とまでは言わないが、顔面すれすれで寸止めしようと、拳を顔に向けて振る。
「……あっ」
まず、言い訳をさせてほしい。
俺は寸止めをしようとしたんだ、確かに、間違いなく。
だって女の子に暴力振るうのって、ほら……世間体的にもよくないし。
そもそも人に暴力振るうのってよくないし。
で、止めようとしたんだけど。
俺は床に足を滑らせて前のめりに倒れ行く。
そして気づけば、寸止めしようとした右腕は彼女の顔面へ深々と突き刺さる。
そして遥か後方、観客の中心へと突っ込んでいった。
一気に静まり返る観客たち。
一気に血の気が引いていく、倒れた俺。
「お前らッ!!一体何をしている!?」
「おいっ、何故誰も教師がいない!」
「そこで倒れている子を救護室へ!」
と、本来いるはずだった先生たちが、戻ってきたことで生徒たちは一斉に騒ぎ出す。
クエルティア・ヘイルラークは救護室へ。
本来、入学式を受けるはずだった生徒たちは別室へ。
そして俺は、教師たちに取り押さえられて何処かへと連行されて行く。
俺の学園生活。
初日からおしまいが確定した瞬間だった。