迷い込んだ路地裏見覚えのない、中世ヨーロッパを思わせる石造りの街並み。行き交う人々の中には、獣の耳や尾を生やした獣人までいる。
「……なんだここ。東京…ではねぇよな。……見た感じあれはコスプレや特殊メイクじゃない。もしかして一昔前に流行った異世界召喚やら転生って奴か?」
虎杖悠仁は自分の大きな掌を見つめた。
数々の死線を越え、世界の歪みを調整する過酷な旅の果て、気づけば見知らぬ雑踏の真ん中に立っていた。呪力廃棄が進んだはずの元いた世界とは違い、この空間には満ち満ちた未知のエネルギー——『マナ』が漂っている。
だが、虎杖の体内に流れるのは、かつて宿儺との戦いで磨き上げ、五条達の死を超えて馴染ませた、紛れもない、彼自身の『呪力』だった。
状況を飲み込めぬまま歩いていると、薄暗い路地裏で三人の男たちに囲まれた。
「おいおい、見ねえ格好だな。身ぐるみを剥がされたくなきゃ、持ってるもん全部出しな!」
ナイフを突きつけてくる小悪党たち。あまりの既視感に、虎杖は小さく息を吐いた。
「あー、実は金どころか此処がどこなのかも
知らねぇんだよな。金目の物はないけど何か教えてくれたらお礼でもするよ」
「あぁ!? てめぇふざけたことぬかしてんじゃねえぞッ!」
男の一人が掴みかかろうとした瞬間。
「そこまでよ!」
路地裏に凛とした声が響いた。銀髪に紫紺の瞳を持つ、息を呑むほど美しい少女。
「私の大切なものを盗んだコソ泥を見なかった!? 見てないならいいけど、もしその人たちを痛めつけるなら、私も黙ってないから!」
少女は自らを「サテラ」と名乗り、困っている虎杖を放っておけず、足止めされながらも泥棒を追っているという。
「……サテラ、か。ありがとな、助けてくれて。俺は虎杖悠仁」
虎杖は頭を掻いた。お人好しで、自分を犠牲にしてでも他者を救おうとする少女の魂の在り方は、かつての自分や、自分が救えなかった誰かたちの面影を強く呼び起こした。
「あんたの探し物、俺も手伝うよ。それが、俺がここにいる意味になるかもしれないからさ」
夕暮れ時。フェルトの足取りを追い、虎杖とエミリアは貧民街の最奥にある「盗品蔵」へとたどり着いた。扉を叩き、中にいた大男…ロム爺とフェルトを説得しようとしたその時。ギィ、と不吉な音を立てて建物の扉が開いた。
「あら、先客かしら?」
現れたのは、黒いドレスを身に纏い、妖艶な笑みを浮かべる黒髪の美女。——王都を騒がせている殺人鬼『腸狩り』エルザ・グランヒルテ。
張り詰める空気。エルザの視線がエミリアの胸元、そして彼女が取り戻そうとしていた『徽章』へと注がれる。
「交渉は決裂ね。持ち主が来てしまったのなら、全員のお腹を割いて中身を確かめるしかないもの」
エルザの袖口から、歪な形をしたククリ刀が滑り落ちる。その刹那、エルザの身体がブレた。常人には視認すら不可能な神速の踏み込み。
「危ねえッ!!」
ドン、と空気が爆ぜた。エルザの刃を受け止めたのは、エミリアでもロム爺でもない。虎杖悠仁の呪力で硬化した両腕だった。キィィィン! と金属音が響き、火花が散る。
「あら……? 私の刃を素手で受けるなんて。あなた、人間?」
「一応な。こういう修羅場には慣れてるよ」
虎杖の足が床を捉える。50メートルを3秒で駆ける規格外の肉体に、呪力の爆発が加わる。
「あんたも見た目の割に頑丈そうだ。少し強めに殴っても死なねえだろ」
至近距離からの右ストレート。空気を引き裂く一撃を、エルザは辛うじてククリ刀で防ぐが、その巨躯は盗品蔵の壁まで吹き飛んだ。
初投稿なんで行間とか色々変だったら忌憚無く言ってください