Re:ゼロから始まる廻る呪いに   作:トンパ=ゾルディック

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停滞の器

「悠ー仁君、アイツの防御は魔法の域を超えてるーーよ。私の極大魔法ですら、掠りもしない」

 

 

ロズワールの顔から道化の余裕が消えていた。虎杖はチッと舌を打った。肉弾戦の攻撃力なら負ける気はしない。だが、どんなに呪力を込めた『黒閃』を叩き込もうが、空間ごと切り刻む通常の『解』を放とうが、相手の時間が止まっている以上、全ての攻撃のベクトルが虚無に変換されてしまう。

レグルスの無敵のカラクリ『獅子の心臓』で妻たちに心臓を預けているという事実を見抜くための情報が、今の虎杖には圧倒的に足りていなかった。そして領域展開による必中攻撃も当たりはしないだろう

 

「ヴィルヘルムのじいさん、ロズワール、全員下がれ! ここは一旦引くぞ!」

 

虎杖の的確な状況判断。

 

「しかし、悠仁殿! 敵を前にして——」

 

「ダメだ、今の俺たちの攻撃はアイツに一発も通らねえ! これ以上戦えば被害が広がる。みんなが退く時間は俺が稼ぐ!」

 

レグルスが

 

「おや、逃げるのかい? それは僕の尊厳を侮辱する行為だ——」

 

と喚き散らしながら砂粒を散布してくるが、虎杖は『赤血操術』による血の盾と、自身の超人的なステップで全員の盾となり、攻撃を捌きながら後退していく。大罪司教『暴食』を瞬殺するという大金星を挙げたものの、あまりにも理不尽な『強欲』の無敵バリアを前に、虎杖たちは情けなくも一時撤退を余儀なくされるのだった。だが、レムもクルシュも、五体満足で生き延びている。この生還こそが、次なる反撃への最大の布石となることを、まだ誰も知らなかった。

 

 

撤退する虎杖たちを、レグルス・コルニアスはそれ以上追おうとはしなかった。手元の『福音書』に次の指示が記されたこと、そして何より、これ以上異界の騎士と交戦を続ければ、自身の無敵を担保する「妻たち(心臓を預けた存在)」に勘づかれる危険性を本能的に察したからである。 

 

「ふん、僕の平穏な時間をこれ以上邪魔しないというなら、見逃してあげないこともない。元より、僕の欲を満たすような価値も理由も、君たちにはないからね」

 

傲然と言い放ち、レグルスは霧の彼方へと消え去った。

 

ロズワール邸への帰路、虎杖は自らの掌を見つめ、苦い悔恨に駆られていた。ラインハルトのような純粋な生物としての頂点だけでなく、強さの優劣という単純な物差しでは計れない理不尽な権能を持つ敵がいる。

怠惰と暴食をあっさりと倒せたことで、この世界の強者を心のどこかで侮っていた己の愚かさを、虎杖は深く悔いた。それも無理はなかった。かつて世界の境界で相見えたシムリア人最強の男・ダブラ・カバラの一件の際も、虎杖自身は戦う機会がなかった。両面宿儺との決戦を終えて世界の調律者となってからの六十年以上、命を賭した『本物の格上』と戦う機会など一度もなかったからだ。生前の伏黒や乙骨、東堂とたまの手合わせと術式の出力を調整する程度のみの日々。平和な世界のメンテナンスに慣れきっていた心が、戦闘の最前線における油断を生んでいた。

 

(ダメだな、俺……。先生や宿儺と戦ってた頃の感覚、忘れてやがった)

 

虎杖は自らの両頬を強く叩き、魂の芯を冷徹に引き締め直した。

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