ロズワール邸に帰還後、事の顛末を聞いたエミリア陣営は、白鯨討伐と暴食撃破という大戦果に沸き立った。だが、主のロズワールだけは、レグルスの情報を踏まえた上で、王選を次の段階へと進めるための采配を振るう。
「いやはや、大罪司教を2人屠り、世界中で最も被害の大きい『強欲』も退けた。悠仁くん、君の偉業は確実にルグニカの歴史に…いや世界の歴史に残るぅーよ。……だが、エミリア様を真に王座へ就けるためには、我がメイザース家が管理する『あの場所』の解放も不可欠でーね」
ロズワールが提示したのは、彼が結界を張り、亜人たちを囲い込んでいる秘密の土地。
「悠仁くん、そしてエミリア様。二人で『聖域』へ向かっておくれ。そこにある『試練』を乗り越えることこそが、次なる道を開く鍵となるのさーあ」
無敵の権能への対策と魔女教の情報入手、そしてエミリアの歩む未来のため。虎杖は静かに頷き、次なる戦いの舞台である『聖域』へと足を進めるのだった。
ロズワール・L・メイザースの懐にある『叡知の書』には、本来なら別の未来が記されていた。そこには、「時間をやり直す絶対的な権能を持ち、エミリアに執着する平凡な少年が現れるとあったはずだった。ロズワールはその少年を絶望の底に突き落とし、「エミリア以外のすべてを切り捨てる冷徹な駒」へと調教するつもりだったのだ。しかし、何の手違いか、実際に現れたのはそんな歪な少年ではなかった。純粋な戦闘力において今代の『剣聖』ラインハルトに肉薄し、そしてこれはロズワールの与り知らぬ事だが異界の地でこの世界の他3大国の頂点である帝国の『青き雷光』、都市国家の『礼賛者』、聖王国の『狂皇子』と同等かそれすら上回るであろう実力を誇っていた特級術師 五条悟や呪いの王 両面宿儺といった数々の怪物と共に戦い或いは挑み数々の死線を超えてきた、現代最強の特級術師——虎杖悠仁。
「いやはや……手違いにしては、些(いささ)か、都合が良すぎるーーねえ」
ロズワールは密かに歓喜していた。初日の王都で『腸狩り』のエルザをけしかけたのは、エミリアを命がけで守る「騎士の器」足り得るかの試金石だ。だが、虎杖はそのエルザを素手で圧倒し、アーラム村の魔獣はおろか、大罪司教『怠惰』や『暴食』すらも一瞬で塵にしてみせた。
虎杖はすでに、エミリアを王にするために十分すぎる程の実績を積み、その背中を支える確固たる覚悟を持っている。ならば、正史のようにナツキ・スバルの尻に火をつけるための陰湿な罠——エルザを再び雇いベアトリスやレムのいる屋敷を襲わせ、アーラム村の住人を人質にしてガーフィールに監禁させたりといった、まどろっこしい手段を取る必要性は最初から完全に消滅していた。