「素晴らしいわ……! その肉体、どんな綺麗な腸が詰まっているのかしら!」
エルザの瞳が歓喜に濡れる。彼女の速度がさらに跳ね上がり、壁や天井を跳ねながら、四方八方から虎杖を切り刻みにが裂け、虎杖の肌に無数の赤い線が走る。だが、その傷口から流れる血は、地面に滴り落ちることはなかった
「『赤血操術』」」
虎杖の意思に従い、空中に飛散した血液が瞬時に硬質化。無数の鋭利な針——『血刃(けつじん)』へと姿を変え、全方位からエルザを襲う。
「なっ……!?」
驚愕するエルザ。空中での身動きを制限された彼女へ、虎杖はさらに追い打ちをかける。自身の血を掌に集め、超高圧で撃ち出す。
「『穿血(せんけつ)』!!」
音速を超える血のビームがエルザの肩を貫いた。
激痛に顔を歪めながらも、異常な再生能力で立ち上がるエルザ。
「ふふ、あははは! 自分の血を操る魔法? 最高よ、最高! でも、私の渇きを癒すにはまだ足りないわ!」
執念深く、ゾンビのように間合いを詰めてくるエルザに対し、虎杖は静かに構えをとった。
宿儺との魂の共生、そして激闘の果てに完全に自分のものとした、もう一つの「呪い」の術式を起動する。
虎杖の手が、空中に見えない「線」を描くように振るわれた。
「——『御厨子』」
見えない刃が空間を統べる。エルザが踏み込もうとした床、そして彼女の持つククリ刀が、触れもしないのに細切れにスライスされていく。
対象の耐久性に応じて一刀両断する『解(かい)』の斬撃。
「しまっ——」
武器を失い、逃げ場を無くしたエルザの胸元に、虎杖の拳がめり込んだ。呪力を極限まで同調させた、黒い火花。
「『黒閃(こくせん)』!!」
空間が歪むほどの衝撃波が盗品蔵を揺らし、エルザの身体は外の広場へと派手にぶち抜かれた。吐血し、満身創痍となったエルザは、虎杖の底知れない強さに戦慄していた。これ以上は命がないと本能で察した彼女は、不気味な笑みを残して闇の中へと退却していった。
静寂が戻った盗品蔵。
「悠仁……あなた、一体……」
驚きで声を震わせるエミリアに、虎杖はいつものぶっきらぼうで、どこか優しい笑顔を向けた。
「いや、なんとかなって良かったわ。怪我、ねえか?」
フェルトから無事に徽章を受け取り、月の光にそれを掲げるエミリア。その横顔を見ながら、虎杖は思う。この世界に、かつて自分が背負った「呪い」はないかもしれない。それでも、目の前で泣きそうな誰かがいるなら、その手を引く。それが、モジュロの果てに生き残った虎杖悠仁の、新たな生の意味だった。
「私の本当の名前は、エミリア。ありがとう、悠仁」
異世界の風が、二人の髪を揺らしていた。