「大罪司教たちの権能か。……残念だけど、僕は彼らが持っている具体的な『権能』のタネを全て把握しているわけじゃないんだ」
エキドナは少しだけ悔しそうに、だが学術的な正論を述べるように肩をすくめた。
「魔女因子というものはね、それを受け入れた者の精神性やオド(魂)の質、その歪みに呼応して、発現する能力が千差万別へと変化する。僕が『強欲の魔女』だった頃の権能と、今代の強欲である彼が使う権能とでは、全く性質が異なっていて当然なのさ」
「あー、なるほど。そういうことか」
エキドナの言葉に、虎杖は妙に深く納得したように頷いた。
「それになんかそういうの聞き覚えあるわ。俺のいた世界でも、同じ術式なのにさ、術者の生き方とか生まれた時代、解釈の違いで、技の形や表層の現れ方がガラッと変わることがあるんだってな。……確か、宿儺の奴がそんなようなこと言ってたっけか」
「宿儺……君の口から時折こぼれる、その『呪いの王』と呼ばれた存在は非常に興味深いね。同じ因果を扱いながらも、精神によって出力の形を変える。やはり世界の壁を越えても、魂と力の関係性には共通の真理があるということか……!」
エキドナが瞳を爛々と輝かせ、身を乗り出して机を叩く。彼女の知識欲という名の業火が、虎杖の言葉一つで激しく燃え上がっていた。しかし、虎杖はそれ以上彼女の追及に付き合うつもりはなかった。椅子からすっと立ち上がり、自らの大きな掌を軽く握り込んで、身体の調子を確かめる。
「ま、そういうわけなら、あのパチもんの無敵バリアも、アイツ自身のセコい精神性がそのまま形になってるってことだな。なんとなく戦い方のイメージが湧いてきたわ。ありがとな、エキドナ」
「おや、もう行ってしまうのかい? 僕はまだまだ君に聞きたいことが——」
「悪い、エミリアたちが外で待ってんだ。それに、まずはこの『試練』ってやつをサクッと片付けねえとな」
虎杖は白い原っぱの境界、この世界の出口へと歩き出す。エキドナはその頼もしい背中を、名残惜しそうに、だがこれまでにない至上の満足感を湛えた目で見送っていた。
「悠仁くん。……君がこの墓所でどんな『過去』と向き合うのか、楽しみに見届けるとさせてもらうよ」
魔女の言葉が遠ざかると同時に、周囲の白い世界が急速に反転していく。意識が自身の肉体へと戻り、目の前には、墓所の冷たい石壁と、奥へと続く薄暗い通路が広がっていた。
「よし……行くか」
特級術師・虎杖悠仁。数多の死線と六十年の歳月を超えた男が、ついに己の『過去』を試す、第一の試練へと足を踏み入れた。