その日の夜。客室で横になっていた虎杖は、突如として五感を襲った明確な『殺気』に飛び起きた。ドンッ!! と凄まじい破壊音と共に、部屋の壁が粉砕される。飛び込んできたのは、棘のついた巨大な鉄球——モーニングスター。「ッち、待ち伏せってガラじゃねえな!」虎杖は超人的な反射神経でそれを躱し、ベランダへと飛び出す。月明かりの下、鎖を引いていたのは、額から一本の白い角を生やしたレムだった。その瞳は完全に血走っており、鬼の力を解放している。「死んでください、魔女の信奉者……! その身に纏う禍々しい呪い、レムがここで断ち切ります!」「待てって! 話を聞け! 俺はそんな怪しい奴じゃ——」説得の言葉は届かない。さらに速度を増した鉄球が、虎杖の頭部めがけて唸りを上げる。「……あーもう、分からず屋はどこにでもいんな!」虎杖は覚悟を決め、低く構えた。体内の呪力を爆発的に練り上げる。狙うは鉄球そのもの。レムの渾身の一撃が迫る。その刹那、虎杖の右拳が放たれた。完全に同調する、空間の歪み。「おらぁッ!!」『黒閃(こくせん)』。漆黒の火花が炸裂した。空間を爆裂させるほどの衝撃がモーニングスターを直撃する。パキィィィン!!! と、あまりの衝撃に鉄球そのものが粉々に砕け散り、鉄の破片が夜空に飛び散った。「な……レムの鉄球が、素手で……!?」武器を破壊され、衝撃の余波でよろめくレム。「そこまでよ、二人とも!」騒ぎを聞きつけたエミリアが、ラムやロズワールと共に現場へと駆けつけてきた。「レム! 悠仁に何をしているの!?」「ですがエミリア様、この男からは、あの魔女の匂いとは違う、もっと泥濘(ぬかるみ)のような、悍ましい呪術の気配が……!」レムは悔しげに声を荒げる。虎杖は両手を上げて、敵意がないことを示した。「悪かったよ、怖がらせて。俺の身体にはさ、大昔に最悪な呪いが混ざっちまってさ。それに、大切な兄貴たちの魂の残り香みたいなのもあるんだ。……それが、あんたを不安にさせちまったんだな」虎杖の言葉には、一切の嘘も、レムへの怒りもなかった。あるのは、ただ静かな包容力だけだった。「悠仁は、私の命の恩人よ。レム、私の目を信じて」エミリアの必死の説得と、虎杖のどこまでも真っ直ぐな佇まいに、レムはゆっくりと角を収めた。「……申し訳、ありませんでした。レムの、早とちりです」深々と頭を下げるレム。こうして、一触即発の夜は、虎杖の圧倒的な実力と誠実さによって、ひとまずの終息を迎えるのだった。