王城、賢人会が待ち受ける大広間。虎杖がエミリアの背後に控えると、そこにはルグニカが誇る錚々たる騎士たちが集結していた。『ラインハルト・ヴァン・アストレア』。『ユリウス・ユークリウス』。『フェリックス・アーガイル』。彼ら高名な騎士たちもまた、エミリアの後ろに立つ虎杖悠仁という少年の「存在感」に一目を置いていた。特にラインハルトは、虎杖の中に眠る、世界の理すら書き換えるほどの巨大な「オド(魂)」の質量を察知し、内心で深く戦慄していた。「——これより、王位継承者の選定の儀を執り行う!」重々しい宣言と共に、最後の候補者が姿を現す。近衛兵に守られ、尊大な態度で歩いてくる少女。「フェルト……!」虎杖が小さく呟く。一章の盗品蔵で出会った、あの貧民街の少女だった。ラインハルトに見出され、第五の候補者としてドレスを纏った彼女は、虎杖の姿を見つけると、パッと表情を明るくした。「あ、悠仁! あんたも来てたのか! ……へへ、なんか前より一段とかっこよくなってんじゃん。似合わねえドレス着せられてイライラしてたけど、知った顔がいるなら悪くねえな!」立場を忘れて虎杖に親しげに笑いかけるフェルトの姿に、ユリウスや賢人会は驚きを隠せない。
やがて、審議はエミリアの素性に及んだ。「ふん……嫉妬の魔女と同じ、銀髪のハーフエルフか」「不吉極まりない。そのような者が王に名乗りを上げるとは、ルグニカの侮辱よ!」賢人会の老人たちが、剥き出しの偏見と罵倒をエミリアに浴びせる。原作のスバルであれば、ここで怒りに任せて怒鳴り散らし、場を荒らしていただろう。だが、ここにいるのはあらゆる経験を経てあらゆる修羅場を達観した虎杖悠仁は、声を荒げるような無粋な真似はしない。ただ、静かに一歩、前へ出た。「——っ!?」その瞬間、大広間の空気が凍りついた。虎杖が解き放ったのは、純粋な『呪力の圧』。宿儺の呪い、九相図の血、そして世界の歪みを調律し続けた「本物の死線」を潜り抜けた者だけが放つ、絶対的な強者のオーラ。音は無い。だが、賢人会の老人たちは、まるで巨大な怪物の顎(あぎと)の前に生身で晒されたかのような錯覚に陥り、呼吸を忘れて顔面を蒼白に染めた。ガタガタと椅子の鳴る音が響く。さらに、エミリアの髪飾りにいた小さな猫の精霊——パックが実体化し、虎杖の圧に同調するように、その愛らしい顔に冷酷な笑みを浮かべて老人たちを睨み据えた。「あまり僕の娘を虐めないでほしいな。僕の隣にいる彼が、その気になれば、この部屋ごと一瞬で『細切れ』にされちゃうよ?」パックの警告と、虎杖の放つ底知れない圧に、あれほど傲慢だった賢人会は完全に口を噤み、静まり返った。沈黙の中、エミリアは毅然と前を向き、凛とした声で自身の所信表明を放つ。「私は、不当な偏見をなくしたい。この国に生きる全ての人が、公平に、等しく扱われる国にしたい。それが私の望みです」彼女の真っ直ぐな言葉は、虎杖が作り出した「誰も口挟めない静寂」の中で、確かな説得力を持って大広間に響き渡った。その後、クルシュ・カルステン、プリシラ・バーリエル、アナスタシア・ホーシンら他の王選候補者たちも、それぞれ原作通りに「国を己のものとする」「竜への依存からの脱却」といった堂々たる所信表明を終える。虎杖がでしゃばらず、圧倒的な武威と風格でエミリアの背中を支え切ったことで、エミリア陣営は「最も底が知れない、侮れない陣営」として、王都の歴史にその名を深く刻み込むのだった。