天獄の熾翼、墳墓の魔王 作:マジックス
《Message》が切れた。
白金色の全身鎧。
漆黒聖典から一定の距離を取り、シャルティアとの戦闘にも介入せず、そのまま後を追っている。
そこまで聞けば、候補はかなり限られる。
白金の竜王。
ツァインドルクス=ヴァイシオン。
もちろん、ノクスが見たのが本当にあいつの鎧だと決まったわけではない。白金色の全身鎧なんてものを世界で一着しか作れないわけでもないし、似た装備を持っている別人という可能性まで消えたわけじゃない。
ただ、この時期、この場所で、漆黒聖典をわざわざ遠くから追っているとなれば、まずツァーだろう。
思っていたより面白いことになってきた。
漆黒聖典はシャルティアを連れて法国へ戻る。
その後ろには、おそらくツァーの鎧がいる。
そしてシャルティアがいつまで経っても帰らなければ、当然ナザリックも動く。
法国だけでも使い道はいくらでもあったが、いい感じにツァーまで入ってきた。
このまま俺の想像している方向へ転がってくれたら、かなり面白い。
そうならなければ別のことをすればいいや。
俺は《Gate》を開いた。
行き先は天空城。
門を抜けると、景色が切り替わって見慣れた白い回廊へ出た。
近くにいた者へエリシアを呼ぶよう伝える。それほど待たずに、長衣の裾を揺らしながら本人が姿を見せた。
「お呼びでしょうか、我が創造主」
「肉壁1を復活させる」
「承知いたしました」
それだけ答えると、エリシアはすぐに歩き出した。
俺もその後へ続く。
復活できる数に限りがある以上、誰でもいいわけではない。
今回欲しいのは、多少面倒な状況へ放り込んでも簡単には死なず、そのまま仕事を続けられる奴だった。
肉壁1は設定、見た目、ビルド、名前を全部俺が作ったNPCだ。
当然Lv100。
ただのゲームとはいえNPCの設定、見た目、ビルド、名前を全部決めるとギルドメンバーとの摩擦がそれなりにデカいのでギルドメンバーもNPC作成に関わっている。
一応ビルドは軽く口を出した。場合によっては勝手に作り直すつもりでもあった。
設定や指示の優先順位は転移前に勝手に書き換えればいい。
そんなわけで俺が直接作ったNPCはあまり多くない。
肉壁1は吸血鬼系の種族を伸ばして《The One》まで取得し、剣と盾を使うタンク寄りのNPCだ。
殴り合いで相手を一気に消し飛ばすような構成ではないが、とにかくしぶとい。
正直にいうならユグドラシル時代ではネタビルドだった。
完全に新世界用に特化したNPCというわけだ。
今回使うのにちょうどいい。
復活設備へ着くと、エリシアはそのまま準備に入った。
俺は少し離れたところで待つ。
やがて一通りの操作を終えたエリシアが振り返った。
「準備が整いました」
「やって」
「はい」
復活に必要な金貨が消費された。
以前三体を戻した時と同じように、設備の中央へ光が集まり始める。
最初は曖昧だった輪郭が、少しずつ人の形へ変わっていく。
小さい。
俺よりずっと低い位置に頭がある。
光が薄れるにつれて、鎧に覆われた少女の姿が現れた。
見覚えはある。
ゲーム時代、天空城に置かれていた姿と同じだ。
小柄な身体を覆う鎧。片手には剣、反対側には盾。
肉壁1。
閉じていた瞼が開いた。
ぼんやりと正面を見た後、視線がエリシアへ向く。
そこから周囲を見て――俺を見つけたところで止まった。
「……主様?」
「よ、始めま&おひさ」
表情が変わった。
次の瞬間にはこちらへ来ていた。
両腕が伸びてくる。
抱きつく気らしい。
横へ避けた。
肉壁1は何も抱かないまま俺の横を抜け、その先で止まった。
少し遅れてこちらを振り返る。
「避けられた」
妙に楽しそうだった。
そのまま戻ってくる。
今度は飛びついてこなかったが、止まった場所はやっぱり近い。
近いというか、ほとんど目の前だった。
何だこいつ。
肉壁1は気にした様子もなく俺を見上げている。
しばらくそうしてから、口元が緩んだ。
「主様だ」
確認するように呟いた。
だいぶ設定外の部分があるな。
少なくとも、俺はこんな距離感を設定したつもりはない。
俺が書いたのは天才設定、判断基準、役に立ちそうな知識、戦闘技術などが中心だった。
それが今は、それ以外の部分まで勝手に一人の人間として出来上がっている。
まあいいか。
「肉壁1」
「なに?」
「お前に任務を与える」
それを聞いた途端、少しだけ目を見開いた。
「やった!仕事だ!」
嫌がるでもなく、むしろ納得したらしい。
俺から離れる気配はなかったので、そのまま話を続ける。
「法国の方で動いてもらう。ちょっとややこしいから、先に何個か覚えて」
「うん」
俺は今回やってもらうことを説明した。
どこへ向かわせるか。
最初に何をさせるか。
何を見せてよくて、何を隠すのか。
状況が予定から外れた時、何を優先させるのか。
俺から新しい指示が届いた場合にはどうするのか。
全部を細かい手順にしたわけではない。
現地で何が起こるかまで分かっているわけではないし、そのたびに俺へ判断を仰がせるつもりもなかった。
目的と、外してはいけないところだけ伝える。
後は自分で見て決めさせればいい。
肉壁1は黙って聞いていた。
最初こそ俺の顔ばかり見ていたが、途中から少し様子が変わった。
話のある部分で目が止まる。
そこで初めて口を挟んだ。
「そいつら、どれくらい強い?」
「多分、鎧の方はLV80~90台くらいじゃない?本体は知らんけど。
吸血鬼の方はLV100。
あとでエリシアに詳しく聞いといてくれ」
「へぇ、なかなか鬼畜だね。流石主様」
それ以上は聞かなかった。
ただ、さっきより明らかに機嫌がよくなった。
続きを話す。
一通り終える頃には、肉壁1はもう内容を頭の中で弄っているようだった。
少し黙った後、確認してきたのは一つだけだった。
「見つかった後は?」
「その時は状況次第で自己判断。ただ、余計なこと喋るなよ」
「分かってるって」
「じゃ、お願い」
「うん」
即答だった。
俺はエリシアを見る。
「出せるようにしといて。場所はいい感じで」
「承知いたしました。装備を含め、こちらで準備を整えます」
「よろしく」
それで終わりだ。
出口へ向かう。
数歩進んだところで、後ろから足音がついてきた。
振り返る。
肉壁1だった。
「お前は残れ」
「え?」
「準備あるだろ」
肉壁1は一度エリシアを見る。
それから俺を見た。
「ギリギリまで一緒に居たいな♡」
ほんの少しだけ間があった。
「…こんな設定してないんだがな。俺って実はこんな一面があるのか?」
俺はエリシアの方へ向き直る。
「エリシア、面倒だから任せる」
「ごめん主様、真面目にするね。
エリシア?だっけ。
詳しくあいつら教えて」
「その前にまず装備を確認いたします。こちらへ」
「うん」
歩き出したところで、肉壁1がもう一度こちらを見た。
「終わったら隣に行っていい?」
「まぁ面倒じゃなかったらいいよ」
今度こそエリシアについていく。
何だこいつ。
まあ、仕事をするならどうでもいい。
俺はそのまま二人を残して復活設備を出た。
次はエ・ランテル。
原作通りなら、そろそろあの辺も動き始める時期だ。
モモンが冒険者として名を上げていくこと自体は別に構わない。
ただ、知っているイベントを全部横から眺めて、原作通りモモンが全部持っていくのを見ているだけでは面白くない。
少しくらい混ざる。
取れそうなら取る。
そのくらいでいい。
誰の功績をどこまで奪うかは、実際に見てから決めればいいや。
《Gate》を開く。
直接エ・ランテルの中へ出るつもりはなかった。
俺がどこから来たのか調べられた時、いきなり街の近くへ転移してきた記録しかないより、多少でも普通に移動していた方が扱いやすい。
門の向こうに見えるのは、エ・ランテルから少し離れた街道沿いの景色。
そこまで行けば、後は普通に向かえばいい。
《Gate》を潜る。
天空城の白い回廊が背後で消えた。
法国ではシャルティアが運ばれ、その後ろをツァーらしき鎧が追っている。
そこへ、もう一体。
準備が整えば肉壁1も入る。
この先どう転ぶかは、まだ分からない。
だから面白い。
俺はエ・ランテルへ向かって歩き出した。