天獄の熾翼、墳墓の魔王 作:マジックス
事件が片付いたあと、俺は宿に泊まった。
白仮面を探してみたが、見つけることはできなかった。
兵士に尋ねても、いつの間にか姿を消していたという。
あのような占いも、あの儀式も、俺の知る《YGGDRASIL》には存在しなかった力だ。
別々の能力なのか。それとも、どちらも一つの未知の力から派生したものなのか。
なんにせよ、両方とも実際に結果を出している以上、本物の力である可能性は高い。
特に、あの占いの価値は非常に高いだろう。
忘れないよう、占いの内容を記録しておいた本を異空間から取り出す。
周囲が席を立っても、自分だけはなかなか立たない。
帰った先で、死者に会う。
既に二つとも当たっている。
そして、まだ先のことだと言われた最後の占い。
自分へ向けられた刃を見ても、すぐに敵だと決めつけない方がいい。
刃がどちらを向いているかと、それを誰が動かしているかは同じ話ではない。
その刃を軽視すれば、酷く後悔することになる。
どう考えても、良い内容の占いには思えなかった。
アンデッドに睡眠は必要ない。
俺は一晩中考え続けた。
占いの意味。
あの儀式。
白仮面の目的。
同じことが頭の中をぐるぐると回り続ける。
そんな中、ふと一つの疑問が浮かんだ。
あの占いや儀式は、俺にも再現できるのだろうか?
……調べてみる価値はあるか。
俺は兜を外し、そっと扉に耳――耳?――を当てる。
よし。誰もいないな。
異空間からカードを取り出した。
白仮面が残していったものだ。
自分を中心に円を描くように、一枚ずつカードを並べていく。
「ホニョペニョコ、ホニョペニョコ、ペニョホニャラ」
何も感じない。
いや、少しだけ恥ずかしい気はするが、それはまた別の話だろう。
日記に記録を取る。
鎧を着用した状態で儀式を行った。
特に効果は感じられない。
「《
確か白仮面は、この儀式には高位の戦士が必要だと言っていた。
なら、戦士化の魔法を使った状態ではどうだ?
「ホニョペニョコ、ホニョペニョコ、ペニョホニャラ」
……何も感じない。
再び日記へ記録する。
《
特に効果は感じられない。
その後も条件を変えながら色々と試してみたが、これといった手応えはなかった。
複数人で行う必要があるのか。
タレントのような、白仮面固有の力なのか。
それとも、何か別の条件が存在するのか。
「ホニョペニョコ、ホニョペニョコ、ペニョホニャラ。
闇の力よ、現れよ。
スーパー・ダーク・リチュアル」
…………。
なんだろう。
突然パンドラズ・アクターを思い出して、急に恥ずかしくなってきた。
いや、今は誰も周りにいない。
詳しく考えるのはやめよう。
そうしよう。
コン、コン、と扉が二度鳴った。
うわっ!?
「おはようございます。モモンさん」
ナーベ?
実験に夢中になりすぎて、いつの間にか朝になっていたのか。
き、聞かれてないよな?
「……ああ、入れ」
扉が開き、ナーベが部屋へ入ってくる。
そして入室してすぐ、彼女の視線が床へ落ちた。
あ。
しまった!
儀式に使ったカードを片付けていなかった。
い、いや、別に恥ずかしがるようなことではない。
この世界では、ただの魔法の実験だ。
堂々と対応しろ、俺!
「……あの男の儀式をお試しになっていたのですか?」
「ああ。再現可能なものか確認していた」
「……申し訳ありません。あの男ごときの術を、アインズ様ご自身がお試しになる必要があるのでしょうか」
「ある。少なくとも、奴の占いは既に結果を出している。それに、あの儀式も最終的には第六位階相当の召喚を成立させた」
「ですが、たかが第六位階魔法です。アインズ様のお力には遠く及びません」
「ナーベラル・ガンマよ。確かに、私からすれば第六位階魔法など取るに足らない力だ。
だが奴は、《YGGDRASIL》には存在しなかった方法で魔法を成立させた。
しかも奴の言動や行動を見る限り、本人の魔法レベルを超えた力を引き出している可能性もある。
もしそうならば、ナザリックにとって脅威にもなり得るし、有用な力にもなり得る」
「なるほど。承知いたしました」
ナーベはそう言って頭を下げた。
ふう。
乗り切った。
……いや、そもそも恥ずかしがる必要なんてないんだけど。
「ですが、次に同じような実験をなされるのでしたら、私にお命じください。正体の分からぬ術である以上、アインズ様御自身がお試しになる必要はございません」
「……考えておこう」
言われてみれば、その通りかもしれない。
いや、しかし。
別に危険な実験をしていたわけではない。
白仮面も、代償を必要とする儀式ではないと言っていたし……。
それに、NPCたちへこの儀式をやれと命令するのは、パワハラになるんじゃないか?
もし俺が会社の上司から、この儀式をやれと命令されたら……。
ああ! だめだ、だめだ。
やっぱり、この儀式の検証は俺一人でやろう。
「……ところでナーベ。何か用があって来たのではないか?」
「はい。朝になりましたので、本日のご予定を伺おうかと」
今日の予定か。
まず冒険者組合へ――いや、急いで行く必要はないか。
ンフィーレアの件も、ひとまず片付いた。
白仮面については……今のところ手掛かりがない。
他に何か――
…………。
あ。
「そうだ。アルベドに連絡せねばならなかったな」
「アルベド様に、ですか?」
「ああ。昨日、エントマから伝言を受けていた」
「《Message》」
魔法が繋がる。
『アインズ様。シャルティア・ブラッドフォールンが反旗を翻しました』
「…………は?」