天獄の熾翼、墳墓の魔王 作:マジックス
白金色の鎧を眺めながら、僕は盾を軽く振った。
主から聞いていた鎧の特徴と一致している。
白金色の全身鎧。その中には誰も入っていない。遠く離れた本体――白金の竜王ツァインドルクス=ヴァイシオンが操作している、人形のようなものだ。
十三英雄の一員として活動していた時にも、この方法で人間たちに混ざっていたらしい。
事態は、僕の計画通りに進んでいた。
主から与えられた情報が完全ではないため、僕も白金の竜王について詳しく知っているわけではない。
それでも、分かっていることはいくつかある。
鎧の状態では、攻撃スキルを積極的には使わないこと。
始原の魔法という力を使うこと。
世界を守るという責任感を持っていること。
必要ならば、汚い手段を使うこともあること。
脅威を発見すれば、鎧を使って相手の戦力を分析すること。
そして、プレイヤーやNPCなど、大きな力を持つ存在を強く警戒していること。
そこまで分かっていれば、相手の行動をある程度誘導できる自信があった。
最初は、この世界でも大きな力を持つ存在である漆黒聖典――特に第一席次を監視していただけなのだろう。
だが、その第一席次すら圧倒する謎の吸血鬼が現れ、法国の強力なアイテムによって洗脳された。
だから、情報を集めるために法国までついてきた。
そのまま観察を続けていたら、強くて可愛い吸血鬼が「世界を滅ぼす」とか言いながら吸血鬼を増やしまくっていたので、可能ならば殺す、無理なら戦うことでこちらの戦力を測ろうとしている。
心の中を読めるわけじゃないけど、大体そんな感じのはずだ。
僕は白金鎧をよく観察する。
「ねぇ! なんでいきなり攻撃するの!」
「……」
うーん、無言。
無理やり喋らせたところで、僕が今知っている以上の情報は取れないだろう。多分。
ナザリック側もこちらを見ている可能性があるし、会話は打ち切りでいっか。
それにしても何もかも思い通りに動きすぎて愉快だ。
白金の竜王は、新しい脅威が現れたことを知った。
ナザリックも、自分たち以外に二つの敵対陣営が存在することに気づくだろう。
そうなれば、いずれ三つ巴の戦いに発展する。
主の目的は、その戦いで遊ぶこと。
主の目的のために盤面を構築できたと思うと、自分が存在する意味を強く実感できる。
平たく言えば脳汁ドバドバってやつだ。
主からは本当に危なそうなら逃げてもいいと言われているけど、この戦いで勝利できれば、さらに主へ利益を持ち帰ることができる。
だからこの勝負もそれなりに本気で戦うつもりだ。
「おっと!」
白金鎧が剣で攻撃を仕掛けてきた。
まあ、僕は武器による攻撃に耐性があるし、盾で受ければノーダメージなんだけど。
僕は吸血鬼としての能力を使い、一気に上空まで飛び上がる。
その後を追うように、白金鎧も高度を上げてきた。
まだ魔法もスキルも見せない。
白金鎧を撤退させないという意味でも、単純な温存という意味でも、今ここで見せるメリットはない。
ペース配分を意識して力を残している僕とは対照的に、白金鎧は最初からかなり積極的に攻めるつもりらしい。
「光武」
白金鎧がそう唱えた瞬間、宙に浮かぶ武器が白く輝いた。
そのうちの槌が、真っ直ぐこちらへ向かってくる。
僕は盾を構え、その一撃を正面から受け止めた。
さっきより攻撃力が上がっている。
これって
まぁ、いいや。
僕には通用しないっぽいし。
僕を攻撃する武器が入れ替わる。
槌、剣、槍、刀。
それぞれの武器でどれが有効かを試しているっぽい。
でもどれも僕の防御を抜くほどじゃない。
白金鎧が相手なら魔法やスキルを使わずに戦っていても僕の勝利は揺るがないだろう。
その時だった。
「《魔法最強化》《
背後から火炎攻撃魔法が飛んでくる。
流石に今から避けるのは難しい。
僕は盾で受け止める。
しかし、盾だけでは防ぎきれず、ダメージを受けてしまった。
僕は耐えながらスクロールを取り出し魔法を使った。
「
魔法が飛んできた方向に振り返ると、全身を深紅の鎧で覆った少女が浮いていた。
普段の華奢な姿を完全に隠すような全身鎧。胸元から腰、脚部まで幾重にも重なった装甲板が覆い、肩から伸びる装甲は鋭く外側へ張り出している。頭部も同じ赤い兜に包まれ、隙間から覗く白い肌と赤い瞳だけが、その中にいるのが少女であることを辛うじて残していた。
背中からは大きな白い翼が左右へ広がっている。
そして何より目立つのは、その手に握られた異様に長い槍だった。
《スポイトランス》。
相手へ与えたダメージの一部を、自分のHPへ変換する神器級の武器。
外見も装備も、聞いていた特徴そのままだ。
シャルティア・ブラッドフォールン。
これで完璧だ。
最初に使ったスキル、
カイレは僕の攻撃で死亡し、シャルティアはちょっとだけダメージを受けただろう。
この世界でも《YGGDRASIL》と同じで洗脳状態のキャラは攻撃した相手に自動的に反撃を開始する。
とはいえ、《YGGDRASIL》とは違い感知範囲外の敵に反撃出来るか微妙だったのでわざと目立つように上空で戦っていたのだ。
ナザリックがシャルティアを救出していないことから、ナザリックは救出ではなく監視を選んだ可能性が高い。
今のこの状況も監視しているはずだ。
これで全陣営それぞれにとっての敵存在が認知されただろう。多分。
「ふふ。あれだけ大騒ぎしてわたしを呼んでおきながら、随分と間抜けでありんすねぇ。背中ががら空きでありんしたよ?」
「あは、手に槍持ってるのに、後ろから魔法?
そのザコザコそうな槍は飾りなのかにゃあ?」
「ぬし……今、なんと言いんした?」
「あ、怒った?
その装備大事な物だった感じ?
僕はそれレベルの装備8個は持っているからさ、まさか大事にしてるなんて思わなくて。
ごめんだぜ」
「…哀れでありんすねぇ。
見る目がないなんて」
「それじゃ、試してみる?
僕の盾と君のザコザコ槍どっちが強いか。
どっちの方が見る目がないか」
シャルティアが槍を構えて突っ込んでくる。
よしよし、とりあえず物理で来てくれそう。
「《魔法持続時間延長化》
青く淡い光が僕の全身を包み、重装鎧の表面へ薄い膜のように定着する。
詠唱が終わる頃にはシャルティアが目の前まで迫っていた。
《スポイトランス》の穂先が顔面へ伸びる。
僕は盾を持ち上げた。
槍と盾がぶつかり、甲高い音が空へ響く。
盾は抜かれていない。HPも減っていない。
スポイトランスはHP吸収にデータクリスタルを大量に割り当てている影響で攻撃力自体は高くない。
対して僕の盾は物理防御に特化した装備だ。
物理攻撃力に特化した神器級でも上から抜くのは難しい。
「あれ?君の槍より僕の盾の方が強いみたいだけど。
まさしく矛盾とでも言うべきなのかな?」
シャルティアの顔がさらに怒りで歪んだ。
「死ね!死ね!死ね!!!」
しかし、さっきとは違い、真っすぐ来るだけじゃない。
僕の盾を何とか搔い潜ろうと槍を振り回す。
だけど、効果はない。
僕の小さな体なら下半身も盾で十分に保護出来る。
主はこういうことを想定して僕をロリとして創造したのだろう…。
シャルティアの攻撃を防ぎつつ、チクチクとシャルティアに槍を当てていく。
冷静に魔法を使えば僕の守りを崩せる可能性もあるが、今はそれどころではないらしい。
頭に血が上っているせいか、シャルティアの攻撃は単調だ。
隙を突くなんて容易い。
「パリィ」
槍を盾で大きく受け流し隙を作る。
そして槍をシャルティアに向けて突き出した。
直後、背中に強い衝撃が走った。
「んっ!」
白金鎧の槌だった。
「しねえええええええええ!」
その槌によって出来た隙にシャルティアの反撃が命中する。
その槍の勢いに合わせて後ろに飛び距離を取った。
ボーナスタイムはもう終わりらしい。
僕とシャルティアは吸血鬼同士。
白金の竜王からすれば仲間に見えたはずだ。
僕は吸血鬼出せって言っていたしね?
だから2VS1になる可能性を考えて様子見していたのだろう。
そして、シャルティアが僕と敵対していることに気づいてシャルティアを利用することを決めた。
「うわぁ。ズルい。
あとでそっちの吸血鬼ちゃんも殺すつもりなのに、洗脳されてる状況を利用するんだ!」
「……」
僕の槍はスポイトランスと同じHP吸収に特化した装備。
シャルティアから吸い取ることで回復したのでHPにはまだまだ余裕がある。
こういう場合はまずは弱い方から倒すのが鉄則だ。
とはいえ、馬鹿正直に真正面から戦っても不利になるだろう。
ここが切り札の使い時だ。
「スキル、
僕の胸から血が流れていく。
流れ出た血は僕の両隣で2つの人型の塊となった。
そして、その人型の血がはじけ飛び、中から青白い肌の2体の吸血鬼が現れた。
LV90、オリジン・ブラッドロード。
効果はシンプル。
HPを削り、削ったHPに応じて眷属を召喚する。
72時間に一度しか使えない切り札的なスキルだ。
《YGGDRASIL》では微妙だった。
消費するHPと眷属の強さが釣り合わない。
特殊能力でダメージを与えると回復するので耐久面は弱点を突かれなければそれなりだが、素手なので攻撃力が雑魚。
消費するHPをケチれば耐久面すら雑魚。
なのでタンクとして運用するしかないのだがヘイトを集める能力もないし、攻撃力も低いしで全然狙われないのだ。
その結果、HPを削ってあまり役に立たない壁を作る本末転倒なスキルだった。
『眷属A、Bたちはあの白金鎧をぶっ殺してー』
この攻撃力雑魚ブラザーズの事情を知っているYGGDRASILプレイヤーならともかく、白金鎧は真面目にオリジン・ブラッドロードと戦うだろう。
そして、LV90なので真面目に戦うとそれなりにウザくはある。
僕の見立てでは白金鎧が強力な攻撃を使わなければ、あるいは使えなければじわじわと追い詰めるんじゃないだろうか?
今のうちに回復しようっと。
スキルを使い地上の20万の吸血鬼に指示を出す。
『みんな~大通りで一列に並んで~』
「戦いの最中に余所見とは、随分と余裕でありんすね!」
「余裕に見えちゃう?
あはっ、もしかして実力差に気づいちゃった?
もちろん、僕の方がかわツヨって意味ね?」
シャルティアが正面から近づいて来る。
その顔は怒りが消えたわけではないが、怒りに支配されたものでなかった。
シャルティアが接近し、お互いの攻撃が届く距離まで入ってくる。
「不浄衝撃盾!」
シャルティアから赤黒い衝撃波が放たれる。
「《魔法最強化》《
盾で受けた上で吹っ飛ばされる。
空中でノックバックした影響で姿勢が崩れかけるがマジックアイテムや魔法の力ですぐに制御を取り戻した。
僕は特にノックバックに強く創造されているからそういうのあんま効かないんだよね。
シャルティアの追撃を再び盾で防いだ。
ただ、不浄衝撃盾によるダメージを完全に防げたわけじゃない。
今は頭に血が上って槍で僕をぶち殺す気満々だからなんとかなっているが、残りのHPにも余裕がないし魔法を使いだしたら一気にピンチになる。
早めに回復したいな。
まずは距離を作って回復する時間を作るか。
「パリィ」
僕は盾で槍を弾いた直後、そのまま背を向けて一気に加速した。
少し飛んだところで後ろを確認すると、シャルティアが少しずつ追いついてくる。
あっちの方が速度は上か。
異形種レベルの差から僕の方が素の能力は高いとは思うんだけど。
確か飛行速度上昇系のスキルを持っている感じだっけ?
なら――。
追いつかれる寸前で急に速度を落とす。
僕がそのまま前へ逃げると思っていたシャルティアは、一瞬だけ僕の横を通り過ぎた。
その隙に進行方向を変え、今度は斜め上へ全力で加速する。
シャルティアもすぐにこちらへ向き直って追ってくるが、その頃には少しだけ距離が開いていた。
純粋な速さでは負けているけど、これなら誤魔化せそうだ。
空中では地上と違って急にブレーキが踏めないので、フェイントで速度差を誤魔化しやすい。
特に同格とのPvP的な読み合い・小技への対応経験が乏しいシャルティアを翻弄するのは簡単だった。
僕はこの世界でかなり戦ってるからねー。
経験が違うのだよ。
地上を見ると僕の眷属たちが大通りで一列に並んでいた。
よし、いい感じ。
僕はさらに太陽を目掛けて飛んだ。
シャルティアも追ってくる。
白金鎧はオリジン・ブラッドロードにかかりっきりだ。
そのまま上がっていき、雲のさらに上まで到達する。
シャルティアの移動速度からしてあと3秒で雲を抜けるだろう。
僕はシャルティアと入れ替わるように雲の中へ潜った。
そして、地面を目掛けて思いっきり加速した。
エリシアから教えられた原作?の情報ではこの世界では重力による加速が空気抵抗に妨げられず、自由落下速度が際限なく増えるらしい。
この世界でも同じか詳しく検証されたわけじゃないけど、思いついてしまったんだからしょうがない。
速度が最大に達したのを感じてから僕は飛行能力を解除した。
僕の体が飛行速度の制限から解放され、地面目掛けて自由落下を始める。
雲を抜けてぐんぐん地面へ落ちる。
入れ替わりトリックに気づいたシャルティアが僕を追ってきている。
でも落下する僕の速度には追い付けないらしい。
みるみる距離が遠ざかる。
「アハハハハハハ!僕の方が速い~!面白~」
そして、そのままシャルティアと十分な距離が開いた。
そろそろいいかな?僕は吸血鬼としての能力を使い飛行しようとする。
…あ、あれ?上手く飛行出来ない。落下の力に勝てない。
辛うじてブレーキはかけられるが、落下する速度には抗えない。
ちょっと加速しすぎた…かも?
まずい。
落下ダメージ自体は上位物理無効で何とでもなる。
問題はもし落下して地面にめり込んだ状態でシャルティアがやってきたら、逃げ場がない状態で一方的にボコられる可能性があることだ。
その負け方はあまりにもダサすぎる。
落下方向と真逆に精一杯飛行を試みる。
あ、この方法じゃダメだ。
多分、地面に落ちる方が速い。
僕はアイテムボックスに今装備している神器級の盾を仕舞い、伝説級の盾を引き出した。
この盾はノックバックを強化するデータクリスタルを大量に入れている。
この世界になってからフレンドリーファイヤは有効になった。
多分その気になれば自分に魔法を炸裂させることも出来るだろう。
なら自分にスキルを使い、ノックバックを誘発する。
ノックバックは特化した武器を使えばLV1程度の速度で振るったとしても、LV100を吹っ飛ばせる。
なら速度を無視して効果を発揮してくれるかも。
「シールドバッシュ」
僕は盾を持って手首を曲げ自分に向けてスキルを使った。
「うぐっ」
僕の想像通りノックバックが発生し、空中で一瞬空へ上がる。
作戦前にちゃんと装備を準備していてよかった。
装備を神器級の盾に戻す。
白金鎧は相変わらずオリジン・ブラッドロードに苦戦しているようだ。
僕はそのまま首都の大通りへと向かった。
僕の指示した通り、一列に眷属たちが並んでいる。
「とりゃー!」
眷属たちを正面から槍で貫いていく。
槍は眷属の頭を骨ごと砕き貫き、HP吸収によって僕のHPはどんどん回復していった。
そこそこの数を殺して、HPは全回復した。
『みんな~、そこらへんに隠れといて』
指示を出し眷属を隠れさせた。
シャルティアの回復に利用されても面倒だしね。
空に上がり白金鎧に急襲しようとする。
すると、目の前の空間が歪んだ。
「――逃がしんせんよぉ!」
シャルティアが
同時に《スポイトランス》が突き出された。
「うわっ!」
慌てて盾を割り込ませる。
転移魔法を使えるという情報を知っていたので目の前に転移してくることは想定していたのだが、怒りで歪んだ顔があまりにも化け物すぎてちょっと驚いた。
「散々逃げ回った挙句、眷属を殺してHPを回復したのでありんすね?
随分とみっともない真似をしてくれんすねぇ。あれだけわたしの槍を馬鹿にしておいて、結局は逃げてばかりではありんせんか」
「いやー2VS1で攻めきれないそっちほどみっともなくはないかな。
それに仮にみっともなくても僕はカワイイから許されるの!」
「……あの木偶と、わたしを一緒にしないでくんなまし。
あんなものの手など借りずとも、ぬし一人くらいわたしだけで十分でありんす。
とはいえ、ふむ」
シャルティアが僕の体を舐めるように見る。
この視線なんかちょっと嫌かも。
「確かに、その顔は可愛らしいかもしれんせんねぇ。
生意気な性格もねじ伏せた時のことを考えるとこみ上げるものがありんす。
その減らず口が泣いて許しを請うまで、たっぷり可愛がって──」
シャルティアは僕の体を見ながら笑ってる。
「うげ、ねぇそれやめてよ。
キモイから」
「…いつまでそんな言葉使いをしていられるか、楽しみでありんす。
ねじ伏せ、ペロロンチーノ様に与えられたこの槍を馬鹿にしたことを後悔させてあげんしょう。
《魔法最強化》《
盾で魔法を受ける。
軽減はできるが無視できないダメージが入った。
魔法はやめてほしい。
「吸血鬼ちゃん、もう槍はいいの?
それとも、自分でも認めちゃった?
ザコザコ槍だってさ!」
「……その手には乗りんせん。
わたくを挑発して、また槍だけで戦わせる魂胆でありんしょう?
そんなにこの槍の力を知りたければ、ねじ伏せたあとにたっぷりと味わわせてやりんす。
《魔法最強化》《
また盾で受ける。
HPが減るのを感じた。
白金鎧の方を見ると防御寄りの動きをしつつこちらを監視しているっぽい。
ここで僕たちを殺すことは諦めて情報を持ち帰るつもりかな?
ならなるべくこちらの能力を見せないようにシャルティアを相手するか。
それが一番主のためになるだろう。
「ふふっ、おぬしが魔法攻撃に弱いことはもうお見通しでありんす」
「吸血鬼ちゃん、名前はなんて言うの?」
「あはは!わたしに服従する準備でありんすか?
シャルティア。シャルティア・ブラッドフォールンでありんす」
「シャルティアちゃんって自分のこと馬鹿じゃないって思ってそうで面白いよね」
シャルティアは僕の挑発を聞いて、怒りと悔しさが滲むように歯を食いしばった。
「ぐっ! 本当に、本当に生意気な小娘でありんすねぇ」
「ほら、馬鹿じゃないって証明したかったら魔法をどんどん使いなよ!」
「……なんのつもりでありんすか?」
シャルティアは僕を警戒するように睨んだ。
表情がころころ変わってわかりやすいな~。
「動かないなら僕から行かせてもらうよ!」
僕から攻撃を仕掛ける。
僕の槍はシャルティアのスポイトランス同様に大槍。
接近戦では使いづらい。
だから盾を使う。
シャルティアが槍で僕の接近を防ごうとするが、その行動は予測済み。
既に僕の槍がシャルティアの右手を突いている。
当然、右手の槍もすぐには使えない。
「くっ」
「また、僕の方が速かったね」
そのまま、超至近距離まで接近する。
ここではシャルティアの槍も魔法も脅威にはならない。
僕も得意な距離じゃないが、盾がある分シャルティアより遥かにマシだ。
「シールドバッシュ」
スキルを使いシャルティアに攻撃をする。
シャルティアは少しノックバックするが、僕との距離はまだまだ近い。
「はな、れろ!」
シャルティアが僅かに開いた隙間を使い、前蹴りを放つ。
僕は盾を使い、衝撃を横に受け流す。
蹴り足を横へ流されたことでシャルティアの姿勢が崩れた。
これなら近距離でも大槍を振るうことが出来る。
槍の柄で上からシャルティアの頭を殴打する。
「おら!もっと馬鹿になっちゃえ!」
赤い兜の上から確かな手ごたえを感じた。
「よくもわたしの頭を!不浄衝撃盾!」
赤黒い衝撃波が僕の体を弾き飛ばす。
盾でダメージを軽減できるけど、回避が理想なんだよね。
やっぱこのスキル強いな。
発生が早い=正義。
近距離でこれを避けられるの主くらいじゃない?
「
距離が空いた隙にシャルティアが魔法を使った。
シャルティアを中心に白い光の魔力障壁が包む。
放置したら
DPSチェックを入れてくる、なかなか面倒な魔法だ。
魔力障壁に接近して槍で攻撃する。
ガリガリ削れてはいるが、このペースでは回復する隙を与えてしまう。
「
「ちょっと! 回復しないでよ!」
お互いに長期戦特化すぎて、全然HPが削れない。
シャルティアのMPは多少は削れているはずだけど、まだまだ余裕があるだろう。
白金鎧の方を見る。
オリジン・ブラッドロード二体は健在だ。
白金鎧はオリジン・ブラッドロードから距離を取るように少しずつ後退していっている。
ん?よく見るとオリジン・ブラッドロードを倒すというより近づけさせないようにしているような…。
ここからじゃ細かい距離感がよくわからない。
あ、もしかして帰る気かな。
まぁ、それなりに戦ってたわけだし、僕とシャルティアの底は大体見えててもおかしくないか。
今見えている情報で十分だと考えたのかも知れない。
槍を
白い障壁の表面へ亀裂のような光が走った。
「
チッ、これくらいが限界か」
障壁が砕け散る。
「
シャルティアは即座に転移魔法で距離を取った。
僕は聖騎士系の戦士。
魔法戦士のシャルティアは純粋な接近戦じゃ勝ち目は薄いと理解したらしい。
今のところ状況は僕が有利。
シャルティアは魔法攻撃だけで僕を削り切ることは出来ない。
接近戦ではダメージを与えることが難しい。
シャルティアは魔法やスキルを使って僕の隙を作る必要があるだろう。
そして、こんな状況で効果的なスキルを僕は知っていた。
「《エインヘリヤル》」
シャルティアの前に白い光が現れる。
その光は人型を取り、真っ白な見た目のシャルティアへと変化した。