『立場は同じだった。そうだ、同じだったはずだろ……ッ!! ──どうしてッ! お前だけが
薄暗い部屋に向かい合う男女がいた。
目の下にドス黒い隈を浮かべ、歪な笑みを浮かべながら泣き叫ぶ男に対し、女は悲痛な表情で唇を噛み締めた。
『ッ、伸ばした手を、最初に振り払ったのは君じゃないか!』
『そうだなぁ……お前は手を差し伸べる側だもんなぁ。弱者に寄り添いはするけど、共に歩んではくれない。つまるところずっと上から目線なんだ』
『そんなつもりじゃ……ッ』
女は何かを弁明しようとしたが、それは頭部の無い巨大な騎士が男の影から現れたことで阻まれる。
『良いさ、どうせ俺の吐く言葉は全部醜い嫉妬だ。何かが違えば友達になれる世界もあったかもしれないが──今の俺達は敵同士だ。語るなら、戦いの中で』
こうして男──クロマ・ウェントはかつての級友、勇者ミレイに敗北した。
☆☆☆
「……はー、負けるって最初から分かってても来るものがあるな。嫌いじゃないんだけどなぁ、クロマ」
俺は読み終えた漫画の余韻に浸りながら一息ついた。
『魔導の勇者は禁忌術師』
そんなタイトルの少年漫画がある。
すごい売れているというわけでは無いものの、コアなファンに愛されて粛々と連載を重ねてきたこの漫画も終盤に入った。
簡単に物語を説明するならばこうだ。
ただの村娘だったら主人公ミレイは、ある日村を襲った盗賊に両親を殺されたことで、自身に眠る『禁忌』の名を冠する魔法を授かる。
必死に振りかざした魔法は余波を含め盗賊と村をまとめて消し飛ばし、ミレイはそこで自分に眠っていた力の恐ろしさを感じ、両親に顔向けできるように正しく『禁忌』の力を使い、人助けをしていく──というのが、まああらすじ。
人々から恐れられる『禁忌』の力を正しく使うことで、徐々に認められていく……みたいなストーリーなのだが、この物語を語る上で外せない男こそが、俺の推しであるクロマ・ウェントだ。
「コイツがまたなぁ……人間臭いというか、同情できる部分が多すぎるというか……」
クロマ・ウェントは公爵家の長男だ。
だが、主人公と同様……いや、それ以上に禁忌とされる魔法である『死霊魔法』の才があった。
そのせいでありとあらゆる人間から蔑まれることになってしまい、そのままの勢いで闇堕ちする。
貴族であるなら絶対に入学しなくてはいけない魔法学園に入学した後も、クロマは徹底的に嫌われまくったり嫌がらせを受けて2年で姿を消す。
その間に主人公と若干の関わりがあったのだが、次に出会う時には敵になっていたというオチだ。
「何だかんだ言って主人公も良いやつだから憎めないし」
誰が悪いかと言ったら世界が悪い。
そうとしか言いようがない。
まあ、冷静に考えて死体を使役して操るって特性が宗教的にアウトすぎるのは当然かもしれないが。
ただの読者なのにやるせない気持ちになる。
「人々から恐れられる魔法って点で立場が同じなのは事実なのがね」
ただその風当たりが圧倒的にクロマのほうが酷かった。
世界から蔑まれ、自分のなりたかった
……ひでぇ……。
「ハァ……気分が沈む。あ、そういや飯食ってないしコンビニでも行くか」
前回が良い引きだったせいで今日の更新が待ち切れなかった。それもあって何も食ってない状態だし、と適当に財布を持って家を出る。
幾ら真夜中でも、8月ド真ん中の関東はじわじわと汗が噴き出る嫌な暑さをしていた。
さっさと涼しいコンビニに入りたいと願いながら少し駆け足で向かう最中、ふと左から強烈な光とクラクションの音が聞こえ──
「──────ぁっ」
☆☆☆
「──らわしい。穢らわしい。死体を操るなど、フィルム様に顔向けのできない魔法だ……ッ! 出来損ないめが……二度と私の前に顔を出すな!」
絶望と憎悪と悲しみの入り混じった表情だ。
意識がハッキリしてすぐ罵倒されるってのは何と言うか……普通にショックだからやめて欲しい。
「死んだと思ったらコレか」
状況から察するに、これは転生……いや憑依というヤツなのかもしれない。
身に起きたとんでもない出来事にそこまで驚かずに済んでいるのは、意識がハッキリしたと同時にこれまで過ごしてきた記憶も脳に刻まれたから。
転生と言い難いのはそれが原因だな。
物心つく頃からの記憶を保持している中で、唐突に主人格が
なんだろう。多少驚きはしたがそこまで心が揺れ動かないのはクロマくんが絶望してるからだろうか。
「……魔法が発覚するまでは優しくしてもらってたのか。そりゃ落差で闇堕ちする」
一先ず俺は、誰もいない部屋を見渡して、ため息を吐きながら現状を心の中でまとめた。
……そう、俺はどうやら闇堕ち確定の厄ネタ魔法使い、クロマ・ウェントになってしまったようだ。