運だけ男による『神様の殺し方』講座   作:ゐ森

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よろしくお願いします。


プロローグ

 

 

それは突然のことだった。

 

「異動、でありますか?」

 

「ああ、良かったな。栄転だ」

 

「……はあ」

 

戦場から帰還して戦果報告をしようと上官の元へ行ったら、いの一番に言われたのは転属命令。それは栄転などではない。前線からの異動など、十中八九特攻部隊送りだ。

 

「そんな嫌そうな顔をするな。こっちだって言いづらくなる」

 

「ハッ、失礼致しました」

 

暗に死ねと、そういうことだろう。数年前から指揮されている神風部隊。噂には聞いていたし、戦果も出せず上官命令さえ逆らうような無能な兵がそこの部隊送りにされた話はよく聞く。爆弾を乗せて機体ごと特攻するのはさながら、人間を部品に組み込んだようだと、そういった話は現場では絶えない。

 

「神風特攻、ということでしょうか?」

 

「フッ、栄転だと言っただろう」

 

「…?と言いますと?」

 

何だ?もしかして違うとでも言うのか?それならそれで嬉しい限りだが…

 

「喜びたまえ。後方勤務だ」

 

「ハッ……は?」

 

「貴官の長きに渡る戦果が認められ、上が君に栄誉を与えたということだ」

 

ど、どういうことだ?後方勤務?後方勤務と言ったか!?本当に?俺は戦場を離れられるのかっ!?

 

「サガラヨシツグ」

 

「ハッ…!」

 

「貴官を000魔導兵団、タルコス小隊の生存教官に任命する」

 

やった!これで俺も……000魔導?まるまるまる……ぜろがみっつ…ぜろぜろぜろ……000!?

 

「お、お待ち下さいっ!」

 

「…はあ、何かね」

 

「000とは、あの000でしょうか?」

 

「ああ、あの000の新兵集団だ。貴官らで言うところの、所謂2ndと言うやつか?」

 

「は、ハハッ…ハッ…」

 

あ、ああ…頭がグラグラする。何だ?これは悪夢か?いや悪夢以外にあり得ない。だって、こんな、余りに唐突にこんなことが…

 

「そう気を落とすな。栄誉あることだぞ?」

 

「栄誉で、飯が食えますか…?」

 

「……まあ、頑張りたまえ」

 

「あ、ああ…あああァ…!」

 

どうして…!どうしてこんなことに…!!

 

◆◆◆

 

件の配属命令。000魔導兵団教官への任命には思い当たる節が一つだけある。それは遡ること二日前。此度の戦場でのこと…

 

 

 

 

「クソッタレめっ…!援軍の話はどうなってる!!」

 

全くクソみたいな世界だなっ!日本での甘ったれた生活は何処行った!?

 

推定二十年前、俺は日本からこのゴミ同然の世界に来た。何故こんなところに来たのか記憶は無い。死んだのかただ移動しただけなのか、そんなことはどうだっていい。問題だったのは転移先のこの世界だ。ここにはkamiと呼ばれる化け物が蔓延っている。現在人類を抑えて生態系の頂点に君臨している脳足りんの獣共だ。知能がそこまで高くないくせして厄介なのはその体躯と能力。山何個分かも分からないめちゃくちゃデカい奴も居れば、そもそも物理攻撃が通用しないファンタジーお馴染みの能力まで。恐らく違う種類の怪異か何かを、この世界の人間は一纏めにkamiと呼んだ。

そんな奴らが蔓延り、生態系をブチ壊して頂点に君臨する世界で、身元不明の俺には戦う選択肢しか残されていなかった。金を稼ぐ為に、生きる為に、俺は銃を手に取った。死ぬほど銃を撃って、とにかく撃って気付けば二十年。甘ったれた学生だった俺が、今では35を越えた。自分でも大したものだと思う。時には死んだのと変わらないような体験を何度もして、数え切れない程の戦場を渡り歩いて、それでも現状は変わらなかったが。

 

 

「はあ…はあっ…これで終わりだクソッタレ…!」

 

体はそろそろ無理が利かなくなり初めている。所詮現代日本製の平和ボケした粗悪な体だ。それでも、騙し騙し続けていくしかない。生きているだけ運が良いのだ。何せ戦場を共にした同僚は幾人も死んでいる。まるで無限に湧く資材だとでも言うように、際限無く投入される人的資源と、今もまた眼の前で物言わぬ死体となった同僚。こんなところで、二十年だ。

 

「はあ〜っ………帰ろ」

 

きっともう長くないと、最近はそんなことまで思い始めた。自分でも思う。どうかしている。二十年経って変なことを考える余裕が出来たのか、体が衰えて諦めが付いたのか。どうでもいいことだ。今は安全に帰ることだけ考えよう。そんなことを考えていた時だった。

 

 

 

「…っ!?」

 

爆発音!?デカいぞ?奴らの援軍か!?

 

何があっても良いよう咄嗟に近くの物陰に隠れる。音のした方を見やれば、そこには先ほど倒したkamiと同種と思われるような奴らが数体居た。

クソッ、もうここには俺と数人の歩兵しか居ない。皆雑魚同然の奴らだ。それで複数体とやり合えと!?無茶だ。絶対に死ぬ。000が…いやせめて2ndでも居てくれればっ…!

 

「退きなさい!私がやるわ!」

 

突如、声と爆風を伴って一人の少女がそこに現れた。

 

「っ…!あれは……来てくれたのか…!」

 

援軍!魔導部隊の…それも願い通り2ndの連中…!

 

魔導部隊。人類がkamiへと対抗する中で生み出された兵士であり、魔導兵装という一部のkamiを元にして作り上げた武装を使える者達の集団だ。俺の所属する機関では000魔導兵団と呼ばれている。そして、その後続となり次世代を担う存在達を、畏怖と敬意と悪意を込めて、俺達は2ndと呼んだ。

 

そして現在、赤い髪を靡かせ化け物に突貫する少女は、無傷のままに敵を蹴散らしている。凄まじい戦力だ。やはり魔導兵装が無ければ人類は絶滅していたのだろう。

しかし遠目にその戦闘を見かけることはあれど、実際にここまでの距離で目にするのは初めてだ。2ndの連中は特に若いと聞いていたが、まさかあそこまでとは。日本で言えば中学生程度か?

 

「ちょっと!一人で突っ込まないでよ!」

 

「あんたが遅いのが悪いっ!」

 

新手の到着…どうやらツーマンセルを組んでいたらしい。新たに到着したのはこれまた年端もいかぬ少年兵。だが、その物々しい見た目は俺達雑兵とは格が違うことを物語っている。

…しかし、助かったな。若い見た目に一抹の不安は感じるものの、彼らならば上手くやってくれるだろう。新兵とはいえ腐っても魔導部隊。対kamiのスペシャリストとも言える連中だ。寧ろ手を出さない方が彼らの邪魔にならずに済む。俺はここらでゆっくりと…

 

「GGYAAAAA!!」

 

「チッ…!うるっさいわね…!?」

 

「ちょっと待って…何か様子が変…!」

 

「ああ!?様子って何が……何、アレ…」

 

ん?おいちょっと待て。何だ今の不穏な会話は。

 

「YAAAAAGッ!!」

 

「姿が…変わった…!?」

 

「何アレ…今まで見たこと…」

 

特殊変異型ァ!?環境順応型か!?いや何かの儀式由来かそもそも時間経過の…クソッ、何かの条件を満たしたか?!

どうする…対応出来るか?まだ完全変態には至っていない…今の間にどうにか…!

 

「AAAAAhhG!」

 

時間が惜しい!突貫だ!弱点は走ってる間に割り出せ!

そうして俺が走り出したその時、他の雑兵もまた、同じ思考をしていた。

 

「「「うおおおオオッ!!」」」

 

「ちょっ…!何で出てきて…!」

 

素晴らしい統率だな全く…!全員考えていることは同じだ。ここで終わらせなきゃ被害が増える。多少の犠牲を払ってもここでトドメを刺す!しかし問題は弱点…そんなものは聞けば良いな!

 

『総員、弱点をどう見る!』

 

無線がここまで小型化するとは…良い時代になったものだな!

 

『恐らく上部の赤いコア、もしくは内部に隠れた状態かと!』

 

『異論ありません!』

 

『こちらも異論無し!』

 

…成る程な。敵は一体。変態中の奴は羽毛のような何かに身を包んで繭を形成中だ。考えろ…何だ?何をすれば良い…!奴らは何を考えて…!

 

 

その時、誰かの言葉が思い出された。

 

『kamiとは、獣の名である』

 

訓練兵時代に聞いた、今は亡き教官の言葉だった。

 

『醜悪で、度し難い獣。その中には、あらゆる悪意が詰め込まれている』

 

…そうだ。奴らなら…

 

『…各員に通達、上のコアは囮。格に騙されるな。下が本体だ!』

 

『本気ですかっ!?』

 

『考えろぉ!奴等なら、あの悪意ならどうする!?』

 

伝わる筈だ…!俺達の中に新兵は居ない。なら!奴らの習性など骨の髄まで理解している筈…!

 

『…了解!』

 

『こちらも了解!』

 

『同じく了解!』

 

よしっ…流石だな同士よ。

 

『変態中にも反撃は来る!張り切って死ねぇ!!』

 

『『『ハッ!』』』

 

言うと同時、狙ったかのように光り出した赤いコアから光線が放たれた。

 

「うおおおっ…!?」

 

クソッタレ!変態中にこの威力か!?辺り一帯が焼土と化すぞ…!

 

「ハッ!ハッ…!」

 

それでも誰も走るのを止めていない。今止まれば皆で仲良くお陀仏だ。生き残るのはあの2ndの連中だけ。そんなもの受け入れてたまるかあっ!

 

『変態中kami近辺の魔導部隊の二人組、聞こえるか!』

 

『こちら000魔導兵団、アレフ·リチャードです』

 

アレフ…少年の方か。

 

『諸々は省くぞ!我々歩兵は見ての通り敵本体に突貫を仕掛ける!必ずこの変態中に趨勢を決したい…その為、もし我々が失敗したらその後の対応は頼んだ!』

 

『ちょっとぉ!勝手なこと言わないでよ!あれはあんたらに務まる相手じゃないわ!』

 

クソッ、今度は少女の方か。戦場でこれとは先が思いやられるな!

 

『重々承知している。その上でもう時間が足りない!何かあっても死ぬのは我々だ!すまないが後は頼んだぞ!』

 

変態中のkami相手に決めなければそもそも彼らに頼らざるを得ないんだ。何もせず奴の強化を待つなど、断固としてあり得ん。もし敵からの攻撃を養分にして変態を完了するとしても、あの見え見えの赤いコアは囮だろう。…これで見当違いの大失敗となれば無能の謗りは避けられんな。

 

『ちょっとまっ』

 

文句を聞いている暇はない。もはやその雑音は俺の耳には届かずにいる。状況がそれどころではないのだ。化け物に近づく度、心が壊れるような恐怖心を訴えている。けれど体は震えない。止まる選択肢など無いように走り続ける。備え付けられたナイフを取り出し握る。脳は理性を保ったまま、只管に命令を出し続けていた。

 

「AAAAAhh!」

 

「ッ!!」

 

またも迫り来る光線。至近距離で打たれたそれに、最早完全に避け切ることは出来ない。

 

「チィッ!」

 

クソッ、肩が焼けた!しかしこれで!!

 

「ウオオオオッ!!」

 

ナイフを突き刺せ!そのまま蹴り上げろおっ!

 

「GBBAAAAAh!!」

 

効いてる!なら次で

 

「―――!」

 

「っ!?」

 

 

瞬間、景色が白くなった。音も何も感じなかった。異変を感じて咄嗟にガードした腕のお陰で、かろうじて他は守れたらしい。

次に目を開いた時には全てが終わっていた。

 

 

 

 

 

「うっ…ごっ…が…」

 

な、何だ?どうなって…これは…空?もしや倒れて……。この感触、腕は……片方か。まあいい。

 

「おい!目覚めたぞ!さっさと担架!」

 

「…いらん。肩を貸してくれ…」

 

「おっ、おい…安静に」

 

仕方ない。起きるか。

 

「重症者は他にも居るだろう。俺は良い」

 

「…そうか、無理はするなよ」

 

「ああ、どうとでもなる」

 

片腕でどうにか起き上がり、自身が想定以上に動けることを示す。まあ脚は折れていないからな。運が良かったのだろう。それにしても左腕は失ったらしい。二の腕の辺りから先が無い。止血され、包帯でグルグル巻きだ。まあ仕方ないな。恐らくやられたのは最後の爆発。あの瞬間が決め手だった可能性は高い。死ぬ時に爆破して道連れにでもしようという魂胆だろう。奴らにしては優しい部類だ。

しかし他の奴らは……どうだろうな。生き残っていたら嬉しいが、あの爆発だ。当たりどころが悪ければ普通に死ぬ。寧ろおかしいのは俺の方だ。片腕だけで済むなどあり得ない…む、見にくいと思ったら右目もやられたらしい。クソッ、結構痛むな。目はどうしようもないから結構な痛手なんだが…左目だけでも残って御の字だな。

 

ああ、やっと帰りの車が来た。

 

「お前もあれに乗ってけ。ほら、肩は化す」

 

「ああ、ありがとう…」

 

「特殊変異だって?災難だったな」

 

話が広まるのは早いもんだな。何処から知ったんだか…

 

「ああ、倒れたからどうなったかは分からんが…」

 

「俺が聞いた話じゃ、変態中に倒し切れたらしい」

 

やはりあの時か。

 

「そうか…他の奴らは?」

 

「…お前だけだ」

 

「………そうか」

 

 

…また、いつも通りだな。

 

 

 

 

 

…と、これが二日前の話。あれから色々あって報告へと本部に戻ってきたわけだが…

 

「どうにかなりません?」

 

「ならんな」

 

上の考えは分からないが、何らかの形であの戦闘が知られたのだろう。どういう経緯かは置いといてあれをきっかけに上の目に止まったのは確かだ。そして何より、こういう異動ではろくなことがない。経験則だが、大抵は人が死ぬ。いつもより2割増しだ。

 

「クソッ!忌々しいkamiめ!」

 

「誰がkamiだ」

 

体に鞭打ってこんなところまで這ってきたのにこれですか。身を粉にして働いてきたのにこれですか。せっかく生き残ったのに何故こうも上手くいかない!?

 

「率直に申し上げて外れ籤でしょう?000の教官など首が幾つあっても足りないと、現場でも有名ではないですか」

 

「まあな、私も良い噂は聞かん」

 

「はあ〜、10年来の部下を見殺しですか。良い御身分ですね上官殿」

 

「フッ、出世出来なかったツケだ。君が悪い」

 

「…まだ仕事中ですが」

 

この人が君呼びなどする時は決まってプライベートだ。例え上官であっても守るものは守って戴かねば。

 

「今日ぐらい良いだろう。今生の別れかもしれん」

 

「そうなるでしょうな」

 

マトモに考えれば、今回の任務で生き残れる訳がない。今生の別れとは全くもってその通りだ。

 

「生きて帰ってこい」

 

「不可能です。分かっておられるでしょう?」

 

「ならば、顔でも見せに行くさ」

 

「その前にくたばりますよ。遂に私にも、運の尽きが来たみたいなので」

 

右目を指しながら答える。今まで運だけで生き残ってきた。しかしあの爆発で失ったものは大きく、生存の可能性は下がるばかり。それでも俺は言うしかない。

 

「それでは、もう一度お願い致します」

 

そして結局、こうなるのだ。上官の命令とあらば、逆らえる者など居ない。

 

「…良いだろう。サガラヨシツグ」

 

「ハッ」

 

「貴官を000魔導兵団生存教官に任命する」

 

「謹んで受命致します」

 

本辞令の目的は、000魔導兵団の新兵を教育することにある。人類の未来を担う者達の教育係。晴れて、栄転だ。

 

「それでは、行って参ります」

 

そう言って部屋を出る。足はもう、次の転属先に向いていた。

 

◆◆◆

 

000魔導兵団。それは我らが連合国の救世主。人類史上初めての、魔導兵装を用いた実戦的部隊の名である。ならばタルコス小隊とは何か。それは魔導兵装への適正、才覚を見込まれた新兵達の部隊。連合の輝かしき未来そのものであり……

 

「本日付でタルコス小隊の教官に配属された。サガラヨシツグだ」

 

教壇の前に立つ。選ばれた者達の顔、うら若き少年少女の顔。どちらにせよ、まだ未熟だ。しかし、しかしである。

 

「私の目的は、君達に戦場での生き残り方を教えることだ」

 

彼らはやはり連合の未来そのものならば、

 

「…ああ、あと一つだけ。君達は、運が良い方かね?」

 

獣と殺し合える、悪魔でなければいけない。

 

 

 

 

 

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