人生満喫部の青春活動〜今度の人生は、先延ばし禁止です!〜 作:淺野 蛍
第1話『悔いの多い人生』
――今思えば、悔いの多い人生を送ってきた。
月明かりさえも雨雲によって遮られ、先の見えない暗闇が包み込む夜。激しく降る雨が身体に当たり、体温が急速に下がっていくのを感じる。
「っ!!大丈夫ですか!!」
頭の上で、誰かが叫んでいるのがわかる。とてつもない眠気が襲い、瞼が閉じてゆく。
――うるさいなぁ、このまま眠らせてくれよ。
周りは騒然としており、遠くからサイレンの音が聞こえる。周りでは、スマホのシャッター音がそこら中で鳴り響いている。
――何か、あったのか?
目を開けて周りを確認しようとするが、指先ひとつ動かない。横から飛び出してきた2トン近い鉄の塊に撥ねられ、アスファルトの上へ叩きつけられたのだ。
意識不明の重体。首の骨は粉砕し、頭蓋からは絶え間なく赤黒い血が流れ出している。視界の端で、自分の血が雨水に乗って排水溝へと吸い込まれていくのが見えた。
――俺は、死ぬのか……
男は、今までの人生を振り返る。裕福とは言えないが、恵まれた両親のもとで育ち、順風満帆な人生を送ってきた。そこそこ良い大学を卒業し、大手と呼ばれる企業に就職した。恋人はいなかったが、そこそこ気の合う友人が数人いた。まだ、20代前半。人生はこれからも続くと思っていた。
――結局、やりたい事出来なかったな……
視界が急速に黒く塗りつぶされていく。痛みすらも薄れ、ただ冷たさだけが残った。胸に深い後悔を抱いたまま、男の人生は静かに幕を閉じた。
◆◆◆◆◆◆◆
「……………すよ」
――意識が浮かび上がる。
最初に感じたのは、暖かさだった。何かに包まれている。柔らかく、そしてひどく窮屈だ。次に聞こえてきたのは、声だった。
「……大丈夫ですよ」
誰かが何かを話している。けれど、何を言っているのかはよくわからない。頭が妙にぼんやりしていた。ここはどこだ。そう考えた瞬間、妙な違和感に気づく。
――身体が動かせない。
右手を動かそうとするが、思ったように動かない。もう一度力を込める。
「……あ」
動いた。ほんの少しだけ。自分の意思とは関係なく、小さな手が宙を掻いた。
――小さい?
そこで、違和感の正体に気づいた。視界に入った手は、自分が知っているものより遥かに小さかった。指は短く、腕は細い。
まるで――赤ん坊の手みたいだ。
理解が追いつかない。もう一度、声を出そうとする。「ここは……」と言ったつもりだった。
「ぁ……あぅ……」
口から出たのは、意味のない言葉だった。突然、目の前の世界が、ゆっくりとぼやける。誰かが自分を抱き上げたようだ。
「ほら、元気な子ですよ」
その声を聞きながら、ただ呆然としていた。目の前に――巨人がいた。目元が潤み始める。
「ふぇ……っ、ふぇぇ……!」
口が勝手に開き出す。自分の意思とは反して、涙が溢れ出る。
「おぎゃ……おぎゃあ……!」
年甲斐もなく泣き叫んでしまった。この瞬間、男は自分の現状を理解した。
――俺は、赤ん坊になっている。
淺野 蛍と申します。ハーメルン側はイメージ画像を挿絵として挿入しようと思ってます。