人生満喫部の青春活動〜今度の人生は、先延ばし禁止です!〜 作:淺野 蛍
――あれから、五年の年月が経った。
「鈴蘭ー!起きなさーい!」
「……んー」
聞き慣れた声が、部屋の外から聞こえてくる。
「もう朝ですよー!」
「……あと五分」
「五歳児が何言ってるの!」
バンッと勢いよく扉が開かれた。差し込んできた朝日に目を細めながら、布団の中で丸くなる。
「ほら、起きなさい」
「……ねむい」
「昨日早く寝なさいって言ったでしょう?」
布団を剥がされる。寒い。必死に布団にしがみつこうとするが、五歳児の身体では大人の力に勝てるはずもない。
「ほら、顔を洗ってきなさい」
「はーい……」
眠たい目を擦りながら、ベッドから降りた。部屋を出て、そのまま階段を降りる。洗面所に着き、鏡を見る。そこに映っているのは、5歳の女の子。
肩まで伸ばした艶やかな黒髪。子供ながらに整った顔立ち。まだまだ子供らしい体つき。
「うん!今日も私は可愛い!」
自分には、前世の記憶がある。
大学を卒業し、大手企業に就職した。特別裕福な家庭で育ったわけでもなく、特別優秀だったわけでもない。恋人だっていなかったし、友人はいたがそう多くはなかった。周囲から見れば、普通の人生。だからこそ、死ぬ間際になって思った。
――もっと、やりたい事をやっておけばよかった。
そんな後悔を抱えたまま、俺は死んでしまった。そして――気がつけば、女の子として生まれ変わっていた。
そして、俺は一つの誓いを立てた。
全部、楽しんでやる。前世でできなかったことを、一つずつやっていく。
今度こそ――人生を満喫してやる。
◆◆◆◆◆◆◆◆
――あれから、さらに七年。
小学校生活は、驚くほどあっという間に過ぎていった。
「ねえねえ、一緒に遊ぼ!」
入学式の翌日。アタシはさっそく、隣の席の女の子に声をかけた。
「いいよ!」
「やった!」
前世のアタシは、自分から誰かに声をかけることなんて滅多になかった。けれど、今のアタシは違う。
やりたいなら、やる。
話したいなら、話す。
そんな単純なルールを、自分の中に決めていた。
それからというもの――。
「鈴蘭ちゃん、今日遊べる?」
「遊べるー!」
「じゃあ公園行こ!」
「行こ行こ!」
友達が増えた。休み時間はくだらない話で笑い、放課後は公園で遊び、休日には友達と出かける。もちろん、喧嘩もした。
「もう知らない!」
「こっちだって知らないし!」
……そして翌日。
「昨日はごめん」
「アタシもごめん」
「じゃ、遊ぼ!」
「うん!」
仲直り。そんなことを何度も繰り返した。勉強だって、ちゃんとやった。
「鈴蘭ちゃん、テスト何点?」
「九十六!」
「え、めっちゃ高いじゃん!」
「でしょ~?」
前世では勉強も「面倒なもの」としか思っていなかった。けれど、できるようになると案外楽しい。だから勉強もする。遊ぶ時間も削らない。
――欲張りなくらいが、ちょうどいい。
そしてアタシは、少しずつ変わっていった。髪型を変えてみた。服を選ぶのが楽しくなった。流行っているものを調べるようになった。
「鈴蘭ちゃん、それかわいー!」
「でしょ? 昨日買ったんだ~!」
「いいなー!」
「今度一緒に買いに行こ!」
気づけば、アタシは友達の中心にいることが増えていた。もちろん、遊ぶだけじゃない。
家族旅行にも行った。
海にも行った。
遊園地にも行った。
初めての場所に行くたび、胸が躍った。
「やばっ! めっちゃ楽しい!」
その瞬間、ふと思う。――前世のアタシは、こういうことを何度諦めただろう。
「また今度でいいや」「お金が貯まったら」「時間ができたら」「もう少し大人になってから」
そうやって先延ばしにしているうちに、時間だけが過ぎていった。だから、今度は違う。
やりたいことは、やれるうちにやる。遊べるなら遊ぶ。行きたい場所には行く。友達と馬鹿なことだってする。
もちろん、失敗もした。恥ずかしい思いもした。後悔することだってあった。でも――。
「まあ、いっか!」
最後には、そう笑えるようになった。そうして六年間。アタシは、思いっきり小学校生活を楽しんだ。