俺は交通事故で車にはねられ痛みに苦しみながらその生涯を終えた。
15歳だった。まだ未来のある若者だ。まだ死にたくなる年齢じゃない。どうして俺がこんな目に遭わないといけないんだ。
意識を失った後、自分がいつの間にか白い空間にいる事に気づき目の前に女神が現れた。女神によると若年で亡くなった者には次の世界に転生する権利があり、チートつきで転生させてくれるとの事だった。
俺は女からモテてチートで世界最強になりたかったので女性の多い異世界で冒険者になる決断をした。貰ったチートはコピーマジックだ。自分の魔力量に応じて指定した物質を増やす事ができる。応用次第でどうにでも活用できる万能チートだ。
女神からチートを貰った後に俺は異世界転生して二度目の人生を赤子からスタートする。
この異世界における俺の両親は共に各地を転々として生きる流浪の冒険者で、幼い頃から二人を見習って冒険者として戦った。冒険者見習いになると共に24時間365日女装をして過ごす事になった。
幼い頃はなぜ女装をしなければならないのか疑問に思っていたが、物事の道理が分かる年齢になるとその理由を理解する事ができた。
この世界の男は女よりも立場が弱く、仕事の選択も娼夫以外は給料が低く、その娼夫の仕事も性病や客から理不尽な暴力を振るわれる危険なものだ。
父は自分を対等な存在として扱ってくれる母と運よく出会えたが、この世界における男の人生は基本的に苦労が多く悲惨なものらしい。
俺の将来を案じてくれているのだ。
両親は自分の人生を全て預けられる生涯の伴侶が見つけられるまでは女装して生きる方が良いとよく俺に言い聞かせていた。
やがて両親は流行り病で亡くなり、俺は女装して一人で冒険者を続けた。
遺言は素敵な人を見つけて幸せになってほしいというものだった。
だがこの男が虐げられがちな世界において母のような人格者と出会えるのだろうか?
冒険者稼業をする中で出会った女は、大半が粗雑で野蛮な者ばかりである。
新大陸時代。
それは偶然にも商船が未知の島に漂着した事から始まる。
漂着した商船の船員はサバイバルしながら島を探索しているうちに謎の建築物を発見する。いわゆるダンジョンだ。
犠牲を出しながら危険な魔物がいるダンジョンを進んだ先には10回分の一生を賄えるほどに価値のある財宝が眠っていた。
この情報が人々にもたらされると多くの者が富を得る事を求めて新大陸に渡り開拓とダンジョンの探索を行うようになる。
こうして冒険者という職業が成り立った。
S級ダンジョンの地下10層にある最奥の空間には暗闇の中に輝く黄金の祭壇がある。
そこにはダンジョンの核となる宝玉を守護するドラゴン・アジ=ダハーカとその配下である爬虫類型の魔物とドラゴンが居る。
俺ことクリス=ブランタンは一人でダンジョン攻略の最終段階であるラスボス討伐に取り掛かっていた。
俺の装備は全身を覆う身体強化のエンチャントが施された銀のミスリル製の魔甲冑、触れた魔術を一時的に無効化する緑のマント、瘴気を吸い込まないための黒いマスク、魔石、そして両親から受け継いだ風を起こす剣と使い古した弓矢と最初に踏破した迷宮で手に入れた召喚魔術の書物、冒険者として修行する中で身に着けた暗視のスキル、それに加えてコピーマジックがある。
俺が地下十層に到達すると音と臭いで魔物たちが侵入を察知し一気に襲い掛かってきた。毒蛇や毒蜥蜴が俺に噛みつこうと素早い動きで体を地面に這わせて走り迫ってくる。
俺は風の剣を振るい周囲の魔物を薙ぎ倒して動きを止めた。敵がひるんでいるうちにケルベロスとオルトロスを召喚して地上の敵の対応に当たらせる。
続けてペガサスを召喚してそれに乗り暗闇を飛翔する。
ドラゴンが俺達を撃ち落とそうと炎や猛毒のブレスをこちらに向かって放ってくるが、俺はその攻撃の軌道を読み、それに合わせて風の剣を振るう。吐き出されたブレスはドラゴン自身の体を負傷させた。ドラゴンは機動力を失って次々と地面に落ちていき、仲間であるはずの魔物も巻き添えを喰らう。
ある程度地上と上空にいる敵が減少したところで俺はアジ=ダハーカにとどめを刺す事にした。
アジ=ダハーカは体を切り刻まれて流した血から新たに配下を生み出すという厄介な性質を持っている。そのため一切血を流させずに倒さなければいけない。
俺は矢の先端に脂と水の魔石の粉末を混ぜたものをつけた弓矢をつがえ、口にめがけて3本同時に放った。軌道補助の魔法がかかった3本の弓矢は見事に呑み込まれ、アジ=ダハーカの体内は水に満たされる。
アジ=ダハーカは水を吐き出そうと下を向いて口を大きく開けるが水は体内に留まり続け、やがて息が絶えた。3つの悍ましい形相の顔は苦悶で歪んでいる。
俺は地上に降りてアジ=ダハーカの首に剣を突き立てて斬り落とす。
ダンジョンの主を失ったドラゴンと魔物は瞬く間に退散していった。
「よく働いてくれたな。偉いぞ。」
俺は3匹の召喚獣の全身をワシャワシャと撫でる。3匹の召喚獣は撫でられながら嬉しそうに鳴いた。ひとしきりナデナデタイムが終わった後、書物に3匹を戻す。
その後一人で膨大な魔物とドラゴンとアジ=ダハーカの亡骸についた毒を浄化して素材として使えそうな物を選別した後、荷車に素材と財宝を積み込んでダンジョンを後にした。
これで俺が単独踏破したダンジョンは二つ目となった。
前世のゲームやモンスター図鑑で得た知識が役に立つ場面が多く初対面のモンスターでも対処する事ができるため、コピースキルはあまり使わないようになった。
「とうとうあのS級ダンジョンを踏破されたんですね!?
本当にすごいですクリスさん!」
冒険者ギルドに戻り素材の提出と換金を行う為に回収所に来た際に通りかかる冒険者から次々と称賛の言葉を投げかけられた。
誰もが俺を羨望の眼差しで見ている。最初にダンジョンを単独で踏破した時から俺の噂はあっという間に広がりこのような眼差しで見られるようになった。最初は気恥ずかしかったがだんだんとこの視線にも慣れてきた。
「この荷台3つの荷台に乗っているのが今回のダンジョン攻略で得たモンスターの素材と財宝だ。
本当はこの荷台の分より多くのモンスターが素材になるはずだったが戦闘の際に焼失してしまった。
だが財宝は全て問題のない状態で回収できた。
早速鑑定して換金してくれ。」
俺は新人冒険者であり鑑定担当の仕事をしているオーガスタに声をかけた。
オーガスタはオレンジ色の髪と瞳、白磁のような肌を持つ軽装備を身に着けた溌溂とした女性だ。
オーガスタは元気な声で返事をする。
「了解しました!
早速鑑定を行います!
ところでなぜクリスさんはとても強いんですか?
私もクリスさんみたいに強い冒険者になりたいです!
よかったら秘訣を教えてくれませんか?」
「私は子供の頃から両親と共に冒険者をしていてな。
冒険者歴はざっと20年だ。
最初は強かったわけではないが、探索の仕方や敵を効率よく倒すやり方を少しずつ覚えていく事で成長できた。
私の強さは素質と経験の二つで出来ている。」
「私も頑張れば強くなれますか?」
「ああ、努力すれば強くなれるさ。」
「よう、クリス、久しぶりだな。
二つ目のダンジョン踏破おめでとう。
ところで赤狼の牙に加入する気にはなったか?」
俺がオーガスタに励ましの言葉をかけた時に割って入る者が現れた。
赤髪に赤目、褐色の肌とたわわな胸を持つへそ出しスタイルの服装に身を包んだハルバード使いの冒険者。それがガラテアという女だ。はっきり言って爆乳でエロい。
だが表では女として生きている俺が女の体を前に欲情でもしたら異常者とみなされてしまうので爆乳を前に必死で平静を装おう。
「またお前か、返事は断るの一択だ。」
「なんでだよ!私のパーティーはS級だぞ!
加入すれば色んな恩恵が受けられるし、報酬も皆で山分けできるんだぞ?
なぜ断る必要がある!?」
「一人でダンジョンを踏破できる私に仲間は必要ない。」
「またそれか!一人で寂しくないのか!
いつも一人で飲んでるし、いつも一人で戦ってるし、お前は勝利の喜びを、勝利の後の酒の味を仲間と共に味わって楽しもうとは思わないのか?」
「思わない。」
それは嘘だ。
というか本当は女の子を囲んでモテモテハーレムを作りたい。
でもこの世界の女は肉食獣。
女だらけのパーティーに男一人が飛び込んで無事に何も起きない事があるものか。
文字通り骨まで吸い尽くされて死んでしまう可能性が高い。
なのでハーレムに加える女の子は性欲強めでおっぱいは大きめだが素直で大人しく俺を対等な人間として見てくれる子がいい。
赤狼の牙に所属する女はその対極だ。
元傭兵であるガラテアを中心に集まった荒くれ者たちの集まり。
基本的に武力で屈服させなければ言う事に従ってくれない聞かん坊ばかりだ。
「どうしても加入してほしいんだ!頼むよ!」
「断る。」
ガラテアは必死に頼むが俺は素っ気なく返事した。
「じゃあ二人だけの真剣勝負で私と決着をつけてくれ!」
「真剣勝負?」
「そうだ、私が負けたら得物のハルバードをお前にやる。
私が勝ったら赤狼の牙に加入してくれ!」
俺は少しの間考えた。
俺は冒険者として20年活動してきてある程度の敵は倒す事ができる。
それに少し前にダンジョンを一人で踏破した。
この世界の基準では俺は強者の側にいる。
ガラテアは元傭兵のS級冒険者で冒険者歴は5年だ。
勝ち目はありそうに思える。
確かガラテアのハルバードは魔物の牙を削り出して不壊のエンチャントを施した業物だと聞いた事がある。
「いいだろう。」
「本当か?じゃあ早速───」
「勝負は3日後、周囲に人が誰もいないところで行いたい。
場所はこちらから指定する。
いいな?」
「分かった!」
こうして俺とガラテアは3日後に一対一で真剣勝負をする事になった。