目の前に立つ異形。
底冷えするような青に包まれ体のあちこちから突き出しているボロボロの骨に明らかに他の生物の内臓とわかるものが突き刺さり、異様に生命力のある右目には生者への憎悪を、落ち窪んだ左目には煌々と光る蒼を宿したアンデッドの馬。それにまたがる所々切り傷がつき、黒い炭のような物が纏わりついている
そのアンデッド。名を
そんな存在をズーラーノーンが、各国にその根を伸ばしアンデッドを召喚もしくは作成することから多くの存在に怯えられ抹殺対象となる組織とは言え第三位階が一流と捉えられる世界で召喚できるわけがない。事実として
「な、何者だ…!何故儂らの邪魔をする……!」
カジットは辛うじてその言葉を紡ぐ。
今更後悔していても快楽殺人者という事に変わりはないのだし、他者を心配できるほど余裕があるわけでもないのだから。
「何故……?答える気などない………。何をしなければいずれ答えてやろう…」
しわがれた声というよりも、地獄の底から響かせんとするような力強い声が耳朶を打つ。
目をこちらに向けただけだというのに、恐怖で逃げ出しそうになる。それでもなお逃げないのは逃げ出したらどうなるかが嫌でも分かるからだ
(こいつは死の螺旋によって生まれた存在の筈……。それなのに何故他の強力なアンデッドを倒す!?アンデッドは主に生者にしか敵意を抱かない。こちらを攻撃してこないくせに
♢ ♢ ♢ ♢
紙を置いたときにパサリという音が鳴る。
縦に積み上げられた紙は約19cmくらいの高さになっていて、その内容はどれもこれもかつて冒険者として名を馳せ、冒険者を辞めた後もエ・ランテル冒険者組合組合長としてその敏腕を振るうプルトン•アインザックのものとして相応しいものである。
「後……ちょっとか…」
倒れても問題ない様に別の机に載せた水を口に流し込み一息つく。積もって約20cmの書類にハンコを押し切るのが今日昨日一昨日という三日間の仕事ではあるのだが、一つ判子を押すために他の関係各所との擦り合わせを行ったり組合内のトラブルに対処したりと多岐に渡る組合長の仕事は三日間に収まる量ではないーー他の冒険者組合組合長との情報の擦り合わせを行ったり制度の改革のために商人等への根回しなどを行ったり優秀な冒険者の育成や引き留めなどの今回の組合長本来の業務を外れたものを含めたらではあるがーーそれを三日間連続で徹夜する事なく余裕を持って仕事をこなしているあたりが、アインザックの有能さを表しているといえよう
(亜人……ダークエルフの冒険者か…見せ物の様な珍しさで冒険者が増え得る事を喜ぶべきか、それとも貴族達から起こりうるであろう圧力を苦に思うべきか……。イグヴァルジ君のクラルグラや天狼、虹などのミスリル級以上の冒険者になったとしたら余計な圧力が増え、ミスリル級以下であれば要らぬちょっかいをしてきそうか…?どちらにしても面倒臭いが森の賢王を従えているという実力を踏まえれば下手に突くべきではないだろうな。やはり会議でも決まったが貴族や商人への牽制は必要だろうな…仕事が増えそうだ)
つい先程ハンコを押した資料を思い出す。先日新たに冒険者となったダークエルフについて、当然の帰結と言うべきだろうか?他の冒険者組合組合長との話し合いは難航した。何故アーグランド評議国で冒険者にならず、わざわざココまで来たのか森の賢王すら従えるというその実力は本当に人類の為に使われるのか。などなど全く持って意義がないかと言われれば違うと言えるが、時間の無駄の量は?と問われたらそれなりにあったと言えるその会議は結局その冒険者を正式に冒険者と認め他の冒険者の批判を少なくさせる事、暫定金級冒険者にして功績に合わせてランクを上げることで反発を少なくすること、身辺調査を進め貴族への説明を用意することなどが決まった。
その事を改めて意識し、次の書類を確認する。やけに分厚いーーそこまでの書類と比べてであってあくまでも2cmくらいの厚さであるがーー書類の内容はエ・ランテル周辺の調査書であった。最近相次いで起こった帝国の騎士達による村々への襲撃行為。それの被害が万一にもエ・ランテルにも出てこない様にと調査させていたものの報告書なのだがーー
「アンデッドの数が減少しているだと?」
報告書に貼られたメモに書かれた個人的な衛兵長の調査報告。そこにはアンデッドの数が少しづつ減っていて冒険者の視点からその様な事が起きるのかどうか?と書かれていた
(アンデッドの発生割合は発生する為に必要な死体の数が変わらない限り一定の筈だ。ある月迄はそんな事が起こっておらず、アンデッドが放置されている状態ではない以上、
アインザックが冒険者であったことから変わり無かったアンデッドの発生数。それの変動が起こった事に困惑する。しかしながら、不測の事態を考えている内にーーある考えが脳裏を掠める。その考えはとても、そうとても最悪でそれでいて他の考えを圧倒するレベルで正しいであろう考えだった。
(死の螺旋…!!死の螺旋なのか!?)
死の螺旋ーーそれはかつてズーラーノーンが行ったものであり一つの都市をアンデッドが徘徊する死都に変えた最悪の儀式である。アンデッドの発生の特徴として有名なアンデッドが多く集まると集まったアンデッドより強いアンデッドが生まれるというものを利用し、大量のアンデッドを召喚する事で強力なアンデッドを発生させ続けるその儀式を失敗させるにはアンデッドの発生速度をこちらの殲滅速度が上回り、更にアンデッドが発生する最低数を下回らなければならない。ただ、かつて死の都とかした場所ではミスリル級が2つ存在していたというのにも関わらず儀式の失敗には至っていなかった。今現在エ・ランテルにはミスリル級冒険者が他の二組が任務の為に他の都市へ行っている為一組しかおらず、それより上の冒険者など存在しない。かつて見た資料のミスリル級冒険者が弱いなどという事は余りにも希望的観測すぎる。もし本当に死の螺旋をこの地で再び起こさせようとしている場合、このままでは滞りもなく成功してしまうだろう。
「いや……そうとは限らないか?」
アインザックはそこまで考えて前任の冒険者組合組合長の時にとある冒険者チームが自らの強化のためにアンデッドを倒していたことがあったという事を思い出す。その時は全ての冒険者を動員する一歩手前までいったため、それ以降勝手に墓地に入ってアンデッドを倒す事は禁止されたが、それを知らない新人がそれを行っている可能性もある。ただ、万が一を考えその様な事が起きているか冒険者達に聞き取り調査を行い墓地を捜索するべきだろう。そう考えて席を立った時
「す、すみません!アインザックさん!き、緊急事態です!!!」
血相を変えて飛び込んできた受付嬢の姿を見て、自らの考えが正しかった事をアインザックは察した。
♢ ♢ ♢ ♢
「ふむ……?」
モモンガは疑問の声を上げる
空から太陽が見えなくなり、まばらな星達や月がエ・ランテルを照らし始めた頃にモモンガ達は冒険者組合で依頼書を見ていた。
「どうしたのモモン姉さん。カルネ村のことが心配?」
隣からの快活なアウラの声に思案する。モモンガは別にカルネ村の防衛については心配はいらないと感じている。減ってしまった村人の代わりにゴブリン隊が戦ってくれるだろうし、カルネ村に行った際には低位アンデッドを使った村人の簡単なレベル上げを行い最低でも帝国の一部隊を撃退できる様にしようとしている。スケルトンを使った村長主導のカルネ村要塞計画は順調に進んでいて、トブの大森林のハムスケの元ナワバリにはアイテムで召喚したハムスケと同レベルの精霊を配置しておいたから多分ナワバリの大きな変動等は無いと思われるので、ナワバリの変更によってモンスターがあぶれるなどの事は無いだろう。モモンガが気になったのはーー
「あたしのスキル〈不死の祝福〉に多数の反応が来たから何か起こってるのかなぁって少し気になった程度だよ。発生しているのは低位のアンデッドだけど、発生量が私がスキルフル活用した
「モ、モモンお姉さんよりもですか?」
少し小声で他者に聞かれない様に話すモモンガ。その内容に驚愕を示すマーレ達を横目にモモンガは考える。反応から発生しているのは大量の低位のアンデッドなので発動しているのは恐らく
大きな音を立てて扉が開く。勢いよく扉を開けた人物はエ・ランテルで有名な錬金術師ーーリイジー・バレアレであった。少し青ざめた様な顔で大きな音を立てて受付の所に向かっていくその姿はとても目線を引いた。気圧されたように冒険者達が一歩引いて道を作るその様は、モーゼの海割りの様だとモモンガはウルベルトから聞いた事を脈絡もなく思い出していた。
「すまんが依頼をしたい。できれば今すぐ動ける冒険者にしてもらいたい」
「い、今すぐですか!?依頼内容はーー」
「孫の捜索じゃ。先程から家に居らん」
「失礼かもしれませんが迷子や外出という可能性h」
「ありえん。いやあり得ないと思い込んでいるだけかもしれんが、薬草採集後に戻ってきたンフィーレアを玄関で見たのが最後じゃ。この後は家にいるつもりだと言っておったしの。その後夕飯の材料を買ってきた時にはもうンフィーレアはいなかったのじゃ」
「それだけでは誘拐などとは言えないのではーー」
「家の中が荒らされておった。高価なポーション類は軒並み盗まれ、商品棚の一部には
焦っているのだろう。それなりの大きさで話される言葉の応酬を組合内の冒険者は聞き続ける。
どうするべきか会話の内容を聞きながら判断しようとする回りを把握しながら思考する
(さてと…どうしよっかな?アンデッドの大量発生とンフィーレアの失踪…関係がないとは言えないか。万が一無関係だったとしてもどちらも厄介事だしね。ンフィーレアのタレントを脅威に思ったプレイヤーの仕業かも知れないし、唯々この街を混乱させる為にこの街の防衛力を越えた戦力をかも知れない。理由も何も思いつかないけれどどうするべきか…)
モモンガは検討する。アウラとマーレの二人の為にどうするべきかを
ペイルライダーが喋っているのは、高位のアンデッドなら喋れるらしいので召喚者からの要請があれば喋るかなという妄想によるものです。