その日はエンリ・エモットにとって厄日であると言える
元々カルネ村は国境付近に存在しているため、バハルス帝国の騎士達が物資を奪い去っていくなどの行為が前々からあった。しかし、村人達だけで職業軍人を追い返せるわけでもなく
やがて村人達は抵抗を諦めた。
その為、毎回騎士が来たとしても諦めて物資を渡す事で穏便に済ませていたのだがーー
今回は違った。村の大人衆が物資を騎士達のトップと思わしき人物に渡して帰ってもらおうとした瞬間、騎士が知り合いのおじさんを斬り捨てた。
「へ?」
そう感嘆符を呟いたのは誰だったのだろう。一人二人と斬られるのを目の当たりにしてようやく誰かが逃げ出した。それからは、阿鼻叫喚の嵐だった。
速度も筋力も武器も何もかもが劣っている村人が勝てるわけがない
勝てないからこそ、諦めて奪われるのを許容したのだから
「エンリ!ネムを連れて逃げろ!」
知り合いが殺されたという事実を必死に噛み砕いていた私はお父さんに言われた通りに走り出した
裏口から外に出て、森に向かう。視界の端でお父さんが真っ赤な血を流して倒れ込む様子が見えた
走る走る走る走る走る走る走る!!
信じられないという思いによって放心状態になっていたからこそ、言う通りに動けたのだろう
今起きている事を理解した頭が思考を再開し、恐怖が脳を支配する。
泣きそうになっているネムの口を押さえながら必死に足を動かす。立ち止まってはならない
止まったのであれば、後ろから一定のスピードで鳴る音に追いつかれて殺されてしまうのだから
森に入る。凸凹とした木の根が邪魔らしい 何度も足が根に引っ掛かりかけても、走る
顔の高さにある枝葉が頬を引っ掻き、視界が悪くなるそれでも、走って走ったのだがーー
「このガキどもが、手こずらせやがって」
右肩が斬られ、痛みで倒れ込んでしまう。ジクジクとした痛みが広がっていく
苛立ちを隠そうともしない男を見て、ここで死ぬのかと冷静に頭が判断する
ゆっくりと離れようとしても、足を踏まれて動けない
ネムを抱え込み、後ろを向く。すぐに来るだろう、痛みを堪えるように
「死ね」
微かな喜悦を含んだ声が耳に届き、剣が振り下ろされる音がした
怯えるネムをより一層抱きしめる。様々な後悔が、脳裏に大挙する中ただひたすらにその時を待つ
「…?」
いつまでたっても、痛みが来ない。何事かと目を少し開け後ろを見てみると
驚く騎士の剣を掴む金髪の
♢♢♢♢
騎士は驚きの表情を浮かべ、力を込める。剣はびくともしない
一方モモンガは安堵する。この程度の強さならコイツらだけでも対処できそうだと考えて
(この程度の強さなら問題なく対処できそうだ)
「自分より弱いものにしか手を出せないのか?」
問いかけても反応はない。理解ができていないのだろう
だが、時間をかけるわけにはいかない。今この瞬間も騎士達は村人を襲っているのだから
そう思い、魔法を発動する。
「
剣を掴んでいる左腕をそのままに、右手が何かを掴み握りつぶす
手が不自然な温かみを得る中、騎士が膝から崩れ落ちる
なんの躊躇いもなく人を殺した自分に嫌悪感を少し抱く中、状況を理解したもう一人が襲いかかる
その攻撃を難なく防ぎ、お返しとばかりに魔法を放つ
「
手の先から白い龍がのたうつようにして飛び出して騎士を包み込む
プスプスという音がして肉が焦げる嫌な匂いが鼻をつく。こちらも膝から崩れ落ちた
両者とも絶命しているのは一目瞭然だった
振り返って姉妹を見ると、姉の方が肩から血を流していた
「む…怪我をしているのか。コレを飲みなさい」
回復薬を怪我をしている方に渡す。少しだけ逡巡したものの受け取り
意を決したように飲み込む。それと同時に傷が塞がっていく
「すごい…あ、ありがとうございます!」
「礼には及ばないよ、ではーー」
「あ、あの!!すみません!」
村の方に行こうとすると、村娘が必死の様相で呼び止めてくる
まだ何かあったのだろうか?と考えて振り向く
「すみません。差し出がましい事を言いますが、このまま私の村を助けてはくれませんか?
お願いします!!できる限りのことはしますnーー」
「いいとも。もとよりそのつもりだったしね」
呆気に取られている村娘に幾つかの魔法をかけて、そこから出ないように言い駆け出す
後何人生きているかは分からないが、早急に助けに行かなければ
♢ ♢ ♢ ♢
ベリュースは思う
単調で同じことの繰り返しそれ故に退屈だと。
ベリュースはこの帝国騎士団という体のスレイン法国の部隊を率いる隊長である
本国ではある程度の資産家であるので、あくまでも箔付けとしてこの部隊には参加した
しかし、参加したは良いものの、ただ村を回り村人を殺すのは退屈だった
発散の為に村人を襲うこともあったが強く抵抗するので、傷をつけられることもあった
ベリュースが楽しみたいのは、一方的な暴力だけなのだから
「クソ共が!時間をかけさせやがって!」
地団駄を踏み苛立ちを表す。
ベリュースにとって自分より身分の低い人間に時間を取られるのはこの上なく不愉快な事であった。その性格のせいで部下から軽蔑されている事には気づいていないのだが
「む…?」
音がしない。村人も騎士も全員が時間が止まったように動かない
動かない部下達を怒鳴りつけようとして気づく。この場の全ての人間が同じ方向を見ている事に
喉を鳴らし、好奇心と恐怖を半々に全員が見つめる方向に顔を向ける
そこにいたのは、美だった。老若男女を惹きつけてやまない概念に相当するレベルの美しさ。
絶世の美女という言葉が脳内でリフレインする
170cm弱の身長に胸元にかかる輝く金髪。赤い軽装の上に白いベストを着たその体は、慎まやからながらしっかりとしていて、薄黒い肌に黒と赤のオッドアイと合わさり美を形成していた。
溜まっていた欲望が瞬時に膨らむのをベリュースは感じた
「あのダークエルフをひっ捕えろ!!こっちに顔を傷つけずに持ってこい!」
的外れなベリュースの言葉が響く。
止まっていた時間が動き出すように、全員がベリュースの方を向く
ダークエルフが美を表すのであれば、ベリュースは下劣さを表していた
「聞こえないのか!早くあいつをひっ捕えて連れてこい!!」
亜人だからとか、法国の敵だからとかそう言う理念も何もなく叫ぶベリュース
その姿を見て、ダークエルフに剣を向ける。その瞳に、もしかしたらという欲望を宿して
欲望に心を灼かれながら行動を開始する騎士達
異常なほどに統率されたその姿を見てダークエルフが返したのは嘲笑だった
「あぁ、やっぱりコイツらはーー」
その呟きが全て発せられる前に、騎士の一人であるエリオンが走り出す。
それに勢いづくようにロンデスとベリュース以外の全ての人間が動き出す
ロンデスの静止の声を聞かずに走り出した騎士達に許されたのはたったの3歩だった
「最低だね」
剣を持った右手が振り抜かれた後、エリオンの頭は吹き飛んだ
同僚の異常事態に血がかかった騎士達がたたらを踏むが、次々に頭が吹き飛ぶ
ボン!ボン!という音が響き続ける
「て、撤退だ!撤退しろ!!」
顔を青ざめさせたベリュースが叫ぶ。既に兜を脱ぎ捨てて走り出している
それに追随するように一斉に逃げ出す騎士達
「
先程よりも強く白い光を放つ雷龍が騎士達を包みこみ殺していく
誰もが逃げられず、死んでいった。ロンデスを残して
いっそのこと、不快げな表情でも見せてほしいと懇願するほどの無表情さを見せながら
ロンデスの前に女は立つ。「コレが天罰なのだろうか」と考える間に側頭部に衝撃が伝わった
♢ ♢ ♢ ♢
殺した敵は置いておき、一人仲間を静止しようとした人間は縛っておいた。
村人にポーションをかけた後、村長の家でモモンガは思考する
敵対者を殺すのに不快感は抱かないことがアンデッドの設定である
(生きるものに対し憎しみを抱く)が働いているのかと。そうなると納得できることがある
初めてこの世界に来た時、混乱していた頭がゆっくりと冷える感覚があったこと。
コレは、アンデッドの精神安定が働いている可能性が高い
「あ、あの!」
「はい?」
思考の海に沈んでいると、村長がドアから現れて対面の席に座る
疲れた表情をしているが、簡易的な葬儀は終わったのだろう
「この村を助けていただきありがとうございました。それで、何かお礼を…と」
「いえ。私は私の信条を元に動いただけですので」
少し困ったように眉を下げる村長
(何を貰わない時ダメ…か?人助けに褒賞を求めてはならないとは思うんだが、あげようとする人を拒むのも違うか…)
「では、欲しいものがあるのでできればくださいますか?」
「はい。もちろんです」
「では、この場所や魔法についての情報。それと、数日分の宿泊代を少々もらえますか?」
「そんなことでよろしいのですか?」
「えぇ、実は旅をしているのですが迷子でして情報やお金がないんですよね」
「そうなんですね」
納得と安堵の表情を浮かべる村長から聞くところではーー
ここはリ・エスティーゼ王国の国境付近にある村で、一般的な魔法の基準は第三位階が上級だということ。周囲にはバハルス帝国やスレイン法国などが存在していること。その特徴など
(それにしても、第三位階が上級か…。この世界の人間種及び異形種はそこまで強くない可能性があるな…油断は禁物だが。国家間の問題には手を出したくないな〜)
脳裏にチラつくのは、現実世界で幅を利かせ全てを牛耳っていた巨大企業の姿だ
碌でもない現実のような事に手を出したくない。
「そ、村長!遠くに、遠くに騎士達が!!」
「な、何ィ!?」
村長の叫びを聞きながら新たな問題ごとの予感にモモンガは頭を悩ませるのであった。
補足
モモンガさんはオーバーロードの上に無理矢理ダークエルフを重ねている為バグっています。
その為、精神安定がジワジワと来ていたり、剣を持てていたりします。