草原は赤に染まり、血腥さを漂わせている
そんな中、突如として現れた人物はゆったりと。そうゆったりと。
まるで散歩にこれからいくのかのような気軽な雰囲気を醸し出しながら立っていた
スレイン法国特殊部隊、陽光聖典隊長ニグンはその人物に警戒心と困惑を込めた目を向ける
その人物は顔に異様な仮面をつけ、右手にスラリとした剣ーー恐らく魔法が込められているーー
を持っている。赤黒い軽装備の上に白い服装をしており、その全てが一級品だと感じられた
そして、胸元にまでかかる金髪から飛び出ている長い耳。肌の色から恐らくダークエルフだろう
追い詰めたはずのガゼフが消え現れた人物。つまり、コイツがガゼフが頼りにしていた人物という事だろうか?未知の魔法かアイテムを使ってきた事を考えると警戒は絶やせない
天使達を一度引かせ、壁のように配置し距離を取る。
様子を伺っているとダークエルフが一歩前に出た
「初めまして、スレイン法国の皆さん。私の名前はモモンと申します」
不自然なほどにその声はよく聞こえた。モモンという名前など聞いたことが無い
部下の中で最も記憶力の高い人物に目を向けるが、軽く頭を振られる
偽名の可能性を考えつつ、質問する
「ガゼフをどこにやった?」
「…安全なところに送らせてもらいました。少しばかり皆さんと取引がしたいのですがよろしいでしょうか?」
「…命乞いをするのなら聞くが、亜人と取引することなどない」
亜人相手に取引する気も必要性も無いと言う傲岸さを見せながら言い放つ
「そうですか…。やはりニンゲンはピンキリだな。」
「何だと?」
少し険のある言葉を出すダークエルフ
超越者のような上から目線の言葉に、ニグンは苛立ちを込めて問う
「正直にいってしまうと、私は国家というものにあまり興味がない。どういう戦争が起きて誰が死のうとこの世界では私にとってさして関係ないと考えている。しかし、しかしだ。私がわざわざ助け感謝された相手をそう易々と見捨てるつもりもないのだよ。故にこそーー貴様らの大法螺は聞いていて不愉快極まる」
一気に下がる音程。機械音のように淡々と自らの心の内を吐露するダークエルフ
まるで死神に心臓を掴まれたような恐怖が風となって通り過ぎる
ニグンはその思いを必死に振り払う。恐怖など目の前の人物から与えられるわけがないと
「お、大法螺かほざくなよ、ダークエルフ。で、だからどうした?」
嘲笑を含めた態度を保ちつつ、ニグンは相手に問う
お前一人で何が出来る?と
だがーー
「先程取引といったが、内容は大人しく投降しろそうすれば命までは取らない、だ。
それを拒絶するなら恐怖と苦痛の中で死んで行け」
そう宣言した途端、ダークエルフの姿がとてつもなく大きく膨れ上がる感じがした。
圧迫感を感じ陽光聖典の全員が一歩下がる。ニグンにとってここまでの強者の威圧を感じたのは初めてのことだった。数多の視線を潜り抜け無数の命を奪い数々の強者と戦ってきたニグンがである
「こ、殺せぇっ!!天使で攻撃を開始せよ!!近寄らせるな!!」
「…ふん」
恐怖を押し隠すような大声を上げて命令するニグン
それに対して冷ややかに応答したモモンの腕が振り抜かれる
一撃で光の粒子となって消える二体の
その様子にニグン達は安堵した。
その威圧感と違い、剣を振る速さこそ速かったもののその身体能力に任せて振られた物だったからだ。亜人に多いケースだが、その力に頼った戦い方しかしてこなかったのだろう
安堵した後に、苛立ちが襲いかかる。この程度の相手に恐怖を感じていたのか、と。
「ふん…。口ほどにも無いな」
「?何でかね?」
「知れた事を。貴様には技量がない、どうせその身体能力だけで戦ってきたのだろう?」
「……私は戦士ではない。
「何?………いやハッタリだな。全天使で攻撃を再開せよ」
それはハッタリであらねばならない。魔法に研究を費やし筋力を鍛えることの無い
「…そうか。では事実をお見せしよう。
大気が悲鳴を上げる音を聞いた気がした
飲み込むような黒がモモンを中心に広がり消える。まるで夢幻と感じるかのような僅かな時間
しかし、その結果は否定できるものでは無く天使は間違いなくその攻撃によって消滅させられていた。
「ば、馬鹿なぁ…」
「もう終わりか?」
でなければ殺す。そういう声が聞こえた気がした
動かなければ、この化け物の事を本国に戻って伝えなければならない。
このままでは法国は
「行け!!そして敵を倒せ!!」
襲いかかる天使。上段からの袈裟斬りを難なくかわし、遠心力を加えた剣で逆袈裟斬りを行うダークエルフ。剣が振り抜かれた瞬間、高い防御力を誇る
「もう一度言おう。私は国家間の出来事に口を出す気はない。今後私とカルネ村及び王国戦士団に手を出さないと誓うなら装備を渡すだけで国に返そう。最後通牒だ」
「…………………………わかった。その申し出をありがたく受けさせていただく」
長い葛藤の果てに人類滅亡の道よりかはマシかとニグンは判断しそう答えた。
♢ ♢ ♢ ♢
「はぁ…。疲れた」
そう呟きながら仮面を外すモモンガ。陽光聖典は既に去った後である
陽光聖典を殺し法国と敵対するのは後ほど敵対するにせよ時期尚早すぎると考えた結果であったが、その判断は間違いなかったと言えるだろう。手元に持つ小さな水晶を見る
「魔封じの水晶か……」
投降時に渡された法国の宝だという水晶。調べてみると第七位階の天使が封じられているようだった。封じられている天使自体は弱いが第三位階が普通の世界で、第七位階の天使を封じ込められる存在と言えばプレイヤーである可能性が高いだろう。
この他にも様々なものが引き継がれていると考えた場合。つまり、六大神はプレイヤーだった場合その技術を国家単位で受け継ぐスレイン法国は敵対するとしたら非常に厄介と言えた。
(敵対するかは相手の様子を見てから考えよう。それよりも)
先程の帝国の騎士に偽装した部隊を殺した時に、何かが開く感覚がした。
それだけならこの世界特有の魔法を警戒したのだが
魔法を初めて使った時のように内側に意識を向けると経験値を職業に振り分けることができそうだった。つまり、この世界では100lvを超えられるという事だ。
把握したいことが多いので現状は特に何もしていないが、その事を含めて身の振り方を考えなければならない。
(ガゼフ達にそういう事を説明してもらおうかな?)
「よし。戻るか」
そこで行われた戦いの跡は、夕日に照らされた血が残るばかりであった
補足
Qニグンさんはなんで魔封じの水晶を使用しなかったのか?
A目の前の人物が悪の位相ではない可能性が高く、あの身体能力と魔法の持ち主ならば出し損になると取引を再度持ち出された時に判断したからです