ガゼフ・ストロノーフの朝は早い。日々鍛錬を欠かさずに常に限界まで動き続けるためだ。
しかし、王の剣として戦い抜くことを決めた彼にとってその事は疲れこそすれど苦痛ではなかった
布団を畳み練習の準備をしていると扉が開く音がした。
「ゴブ!……?」
そこには緑色の肌に尖った耳、口元から覗く鋭い歯そして顎に生えている白い髭が特徴的な小柄な亜人ーーゴブリンと茶色の髪をツインテールに纏めた少女ーーネム・エモットがいた。
(昨日までゴブリンはいなかったはず……。モモン殿が何かしたのだろうか?)
困惑した表情を向けながらも、そう考えるガゼフ。
最早、あの御仁が何をしてもさして驚かなくなってきた。
「ノスリさん。お姉ちゃんにガゼフさんが起きたって伝えてくれる?」
「分かりました。エンリの姉御に伝えてきます」
ネムの声に従って出ていくノスリというゴブリン
エンリの姉御と言った声には敬意が込められているのが分かる。
(昨日モモン殿とよく話していた少女が確かエンリという名前だったはず…)
考えれば考えるほどモモンが何かをしたのだろう思いが、疑念から確信に変わっていく
そう思っているとネムという少女がこちらに近づいてきた。
「村長さんとモモンさまがガゼフさんが起きたら来てもらうようにって」
「そうか…ありがとう」
「どういたしまして!」
姉の手伝いができたことが嬉しいのだろうか。満面の笑みを浮かべて返事をするネム
年相応の笑みを浮かべる少女に礼を伝えつつ、村長に借りている家を出る
モモン殿に聞きたいことを脳内で纏めながら、村長がいる家に急ぐのだった
♢ ♢ ♢ ♢
コンコン
村長から村を救ってくれたお礼にと貰った路銀をアイテムボックスにしまっていると扉を叩く音がした。ガゼフが少し頬を上気させて入ってくる。走ってきたのだろうか?
「ガゼフ様どうぞこちらへ」
「ありがとう」
村長に出された席に深く座り込むガゼフ。丸い机を囲んで扉の手前にガゼフ
斜め右に私。斜め左に村長という配置だ
「来てくださってありがとうございます。ガゼフ戦士長」
「いや、礼をするのは此方だモモン殿。………それで、今日はどう言った要件で?」
「今日は此処からエ・ランテルの方に行こうと思っているのでその挨拶と、私の居たところにはなかった武技などのことについて聞ければな、と。」
「そうか。それくらいの事であればいくらでも答えよう。モモン殿は命の恩人なのでな」
(あの人形が発動するまでに時間がかかっただけなんだけどな…。騙しているようで居心地が悪い)
そう思いながら入ってきたゴブリンーーダイノからお茶を貰う
草木を蒸しただけのものだというが、それくらいの物でも元の世界からの基準からすれば高価な物である。匂いを楽しみながら静かにお茶を飲む
「ところでモモン殿、先程のゴブリンは?」
「エンリに渡したマジックアイテムの効果です。エンリの命令には聞きますので害はないですよ。
エンリを傷つけなければ、ですけど。後もう一つ渡してあります。」
「はぁ…。モモン殿には毎回驚かされるな」
諦めたように項垂れるガゼフ。少しの反省と謝罪を心の中で済ませながら立ち直るのを待つ
きっかり30秒経った後、意を決した顔でガゼフは問う
「聞きたいのは武技の事と他に何かあるのか?」
「そうですね、冒険者の事について知りたいですね」
「じゃあ先ずは武技のことについて話すとしよう。武技と言うものは、人、亜人、異形種問わず
覚えられるものでーー」
此方に向き直し真剣な表情で話し始めるガゼフ
感覚に近いものが多いのだろうか?自分の中で情報を整理しながら話を聞く
(武技にはガゼフ戦士長殿の六光連斬や流水加速のような攻撃や防御に使うものとものと、
能力向上のようにバフを一時かけるようなものがあると。こうして聞くと武技というのは戦士版の魔法みたいだな。
「ガゼフ戦士長。武技と言うものを戦士以外が覚えたと言う話を聞いた事はありますか?」
「戦士以外か…。すまない、そのような話は聞いたことがない」
「大丈夫です。ところで、武技の覚え方などを教えてくれますか?」
申し訳なさそうな顔で答えるガゼフ。その姿を見ているとリアルの上司に無理難題を出されていた後輩のようで居心地が悪い。
「あぁ。武技の覚え方は基本的に鍛錬をしているうちにーー」
10分後
ガゼフから聞いた武技の事を己の中で纏める
(武技は鍛錬で覚えられて自分でも作り出せる。強い武技ほど集中力を消費して肉体負荷がかかる、か。まぁ、何の不便さも無ければ大変だもんな。亜人でも使えるらしいしそう考えると武技って本当に便利だなぁ。やはり、戦士職をとっておくべきか)
そこまで考えてふと考える。亜人って冒険者になれるのだろうか?と
(この国での亜人への扱いはそこまで良く無いらしいからな…。レベルアップや収入源確保のためにも、冒険者にはなっておきたいんだが。)
「ガゼフ戦士長、亜人って冒険者になれますか?」
「………。規則に書かれてはい無いから大丈夫だと思うんだが…」
何故か言葉を濁すように話すガゼフ。少し息を吸った後、意を決したように話し出す
「モモン殿は、ダークエルフの王族なのだろうか?」
「へ?」
思わず間抜けな返事をしてしまったが、それどころでは無い。何故王族だと思ったのか聞き出さねば。そう思い震えそうになる声を抑え聞く
「違いますけど…どうしてそう思ったんですか?」
「そうなのか…知り合いに昔エルフの王族は左右の目が違うと聞いてな。」
「そうなんですね…」
(左右の目が違う、か。アウラ達もいるんだろうか?こちらの世界に飛んできた時間が違うならあり得そうだが。聞いてみるか)
「その王族というのに双子はいましたか?」
「双子?いなかったと思うぞ」
(マーレ達では無い?一応今度エルフの国に行くとして、問題は外見。タブラさんに貰ったやつを使うか。)
そう思い虚空から取り出したのは見事な装飾の腕輪だった。白を基調として金色の枠を揃え所々に宝石が嵌っていて、一部にエルフの横顔が描き込まれている。明らかに一級品だと分かるそれは、名を「パックの腕輪」という。モモンガの姿が変わったと聞いたタブラ・スマラグディナ、ペロロンチーノ、ホワイトブリムの合作であるこの腕輪は、対象の容姿を変化させることができるアイテムで一パーツ50種類の外見を選べる。高位の幻術がかけられており便利ではあるのだが、モモンガからすれば「悪巧みの結晶」とも言えるアイテムであった。
「モモン殿、それは?」
「友人からもらったものでして、目の色を変えておこうと思いまして。」
そう言いながら腕につけ、目のパーツを変更する。すると、赤い方の目が黒目に変わっていく
「これでどうでしょうか?」
「あぁ。大丈夫だと思う」
少し安堵して息をつく。では、また会いましょうと言いかけて思い出す。あのロンデスという男の処遇を聞いていなかったなと。情報源にはなったしどうなっても、というわけでは無いが一応聞いておきたい。
「そういえば、ロンデスという者の処遇はどうするのですか?」
「衛士に引き渡そうと思っている。非道な真似はし無いと思うが…。そうだ、モモン殿」
「何でしょうか?」
「もし王都に来ることがあれば、ガゼフ・ストロノーフの名前を出してくれ。多少は便宜を図れると思う」
「ありがとうございます。ガゼフ戦士長」
その言葉に豪快に笑うガゼフ。その姿を眩しく思いながら様々なことを話すのであった
その後王国戦士団は王都に今一度戻り討伐の旨を伝えるために翌日
モモンガは村の復興を手伝い2日後にカルネ村を出た。
♢ ♢ ♢ ♢
「それで、その者いやそのお方は…神なのだろうか?」
それは幾度となく繰り返された質問。しかしてそれは、この会議の議題であり彼らにとって国家のあり方を変化させる可能性があるほど大事な物だった。
風の神官長であるドミニク・イーレ・パルトゥーシュは少しだけため息をつく。
感情を抑えられる彼であっても、この現状にはため息しか出なかった。
先日ーー風の巫女姫から驚くべき事が伝えられた。
ニグン・グリッド・ルーイン率いる陽光聖典が必死の形相で法国へと向かってきているとのことだった。彼らは碌な装備ひとつつけておらず、完全なる敗走状態であった。
それが、単なる敗走ならば良かった。いや、人類のためにしている任務を失敗したのだ良くはない。ただ、単なる力の測定不足が発生してーー例えばガゼフ・ストロノーフが王国の五宝を実は持っていたなどの事だがーーいたなら良かった。計画の修正を行う必要があるし今まで殺してきた村人達のことが無駄になったのではあるが。ただ、他の聖典によって無事に本国に着いたニグンから聞かされたのは法国を揺るがすレベルの出来事であった。
ニグン達が敗れたのは、たった一人。ガゼフ・ストロノーフを追い詰め任務達成の目前に迫った時一人の亜人にそれを阻まれた。阻んだ亜人ーーダークエルフーーの名前はモモン
成したことは一つの魔法により四十体弱の
そこまで聞いて神官長達は考えた。神の再臨を
戦士職ではないというのに、真似事でそのレベルというのは神或いは神人の可能性が高い。
神人であっても神であっても村を守るために戦ったのだ。その性格は善よりであると言えよう。
その戦力は日々人類と戦う法国であれば喉から手が出るくらいに渇望するものである
「神人でなければ良いが」
縋るように呟く最高神官長
その言葉に誰もが同意する。現在スレイン法国はエルフの国と戦争中でありその国の王であるエルフの王とは何かと因縁のある相手だ。神またの名をぷれいやーと呼ばれる存在は人間種に協力する事が多い。かのアンデッドでありながら人間を慈しんだと言われる死の神スルシャーナのように。
ただ、神人であれば話は別だ。神人が人間種に協力する保証は無い
それに、万が一あのエルフの王の親戚だった場合、新たな敵が発生したということである
ただでさえ敵は多いというのに陽光聖典を壊滅させるレベルの敵が現れたならたまったものでは無い
「万が一、神人だった場合は?」
「漆黒聖典を出すべきだな。他の聖典はそのレベルの敵を倒せるわけではないだろう」
「一応どちらにつくかなどは聞いておくべきか?」
「そうですね。ただ、他の聖典も使うべきではーー」
(どちらにしても、複雑だな)
同僚達が話を続ける中、ドミニクは考える。
その職業柄多くの亜人を殺してきた彼にとって新たな神を戴くのは問題ない。
信仰心が悪感情を塗り替えるためだ。
しかしそれでもしこりは残る。
神か神人か 味方か敵か 人類にとって益か否か どのような対応をすれば良いか
話題は尽きず、会議に終わりは無い
会議は進まず。各々が人類を思う故に
補足
ロンデスさんは拘束された後、ガゼフ達に事情を聞かれたりしていました。他国に捕まることは天罰の一種だと思っています。