「あっ!モモン様!」
ててて という効果音がつくような走り方で満面の笑みを浮かべて駆け寄ってくるネム。その様子がたまらなく可愛らしい。昔ブループラネットさんが見せてくれた120年程前の動画に出てきた子犬を見ているようだ。20m程を数秒かけて来たネムを抱え上げる
「おはよう。ネム」
そう言いながらムニムニという擬音が出そうな頬を突く。その柔らかさは指が頬に吸い込まれる程だ。NPCの中でイワトビペンギンの姿をしたエクレア・エクレール・エイクレアーや犬が人の姿をとったようなペストニーニャ・Sワンコなどを創造した餡ころもっちもちは可愛い物好きだったが、今その気持ちに心から賛同できそうだ。そう思っているとネムの父親がこちらに近づいてきた
「おはようございます。モモン様」
「おはようございます。奥様は?」
「今は家にいますね。今日はどういった要件で?」
ネムを抱えながら挨拶をする。少しくたびれた様子で答えるネムの父親
だがその瞳は先日のカルネ村の事件以降変わらない活力に満ちていた
「今日はカルネ村の防備を上げようかな、と。」
「防備…ですか?ジュゲムさん達のお陰でだいぶ助かっていますけど…」
ネムの父親ーーラジア・エモットーーの言う事は真っ当である。
村人達が協力して作っている最中である高い柵やその前に掘ってある深い堀が完成すれば
前に襲ってきた帝国に偽装した法国の小隊であろうともゴブリン達と協力して撃退できるだろう。
正直、この世界における一開拓村にしては過剰戦力と言えた。
「いえ、この村には泊めてもらってお世話になっているのでそのお礼に…と。」
「それはありがたいんですが…どうするんですか?」
その目に困惑を乗せたラジア。その困惑も当たり前との顔でモモンガは頷く
ますます困惑するラジアに背を向けその名を呼ぶ
「おいでハムスケー」
「はいでござる!!」
モモンガの声に応えて森の方から飛び出した魔獣ーーハムスケーーは驚く村人達を無視して
目を輝かせたネムを抱く主であるモモンガの元へと向かう。
ハムスケの目には喜びが浮かんでおり出された手に擦り寄るその姿は、その力強さとのギャップでラジア等村人達の頭をあっという間に混乱させた。
(何で皆あんなに驚いてるのかな?ネムは平気そうだけど…。この子ってそんなに怖い?ただのジャンガリアンハムスターなのに)
不思議そうに首を捻るモモンガ。ネムがハムスケの事を平然と触っているのでこの世界において常識はずれな事をしていると気づいていない。
因みにネムがハムスケの事を触っているのは、モモンガの真似をしてみたら思ったよりフワフワしていて気持ちよかったからだ。そうとは気づかないモモンガは村人達の再起動を待つ
「……。モモン様その……魔獣は?」
「この子に村の防備を任せてみようかな?と思いまして」
ぴったり5分後再起動したラジアの質問に答える。その回答を聞いて少し疲れたように息を吐いたラジア。その顔に納得と困惑と尊敬を滲ませている 流石に軽率すぎたか?と反省するモモンガ
「村長に知らせて来ていいですか?」
「…すみません。お願いします」
(この子で大分強いのか…。もうちょっと考えて動くべきだったかな?ぷにっと萌えさんに怒られちゃうな。今度からキチンと考えてから動かないと)
ネムをハムスケの上に乗せながらそう考えるモモンガであった。
♢ ♢ ♢ ♢
ンフィーレア・バレアレは此処のところ上手く眠れていなかった。
その理由はカルネ村にある。彼のことを良く知る人間にンフィーレアが眠れない理由を聞けば十中八九そう答えるだろう。ンフィーレアが眠れない理由。それは彼の想い人エンリ・ネモットがカルネ村に住んでおり、最近帝国兵が村々を回って人を殺し回っているという話を聞いたからである。
「ンフィーレアさん。もうすぐカルネ村ですが…慎重に行きますよ」
「分かりました」
逸る思いを抑えつけて、今回カルネ村への護衛を依頼した冒険者「漆黒の剣」のリーダー
ペテル・モークの言葉に答えるンフィーレア。今回は祖母のリィジー・バレアレを説得して来たのだが、その時の条件が無事に帰ってくることだったのだ。此処まで来て暴走してはならない
「ルクルット、敵はいるか?」
「いや、見えねーな」
「そうか…ありがとう」
馬車に乗りながら前方にルクルット、ンフィーレアの隣にニニャ。後ろにダイン・ウッドワンダーとペテルという構成を崩さず前に進んでいく。
しばらくするとカルネ村が見えるくらい開けたところに出た。
「ペテル!」
「どうかしたのか?ルクルット」
「この先にやばい魔獣がいるのが見えた。だけどーー」
「そ、そんな!?本当ですかルクルットさん!?」
「落ち着いてくれンフィーレアさん。まだ話は終わってない」
肩を揺さぶるンフィーレアを宥めながら、メンバーが耳を傾けているのを確認して再度話し出す
「魔獣は居るんだが近くに
「そ、そうなんですね。なら尚更速く行かnーー」
「おっと、ちょっと動かねぇで貰えやすか?」
「なっ!?」
少し低い声とニニャが驚く声が鳴り響く。声がした方を見るとニニャの首元にマチェットが構えられている。そのマチェットを持つ緑色の手は細く筋肉質で、背中から覗く耳もまた緑色だった。
相手の身長が低いのだろう。ニニャの足元には他の足が見え無い
これらの事から分かる事はーー
「ゴブリン!?」
「そうでやすよ。質問に答えてもらいやす。因みに少しでも動いたらこの人の命は無いでごぜぇやすよ」
「そうか…。分かった。ンフィーレアさんは大丈夫ですか?」
「はい」
後ろに回したンフィーレアに確認を取りながら油断なく周囲を見るペテル達
「利口な人は嫌いじゃあないでやすよ。まず一個目。お兄さん方は何でカルネ村に来たんでごぜぇやすか?」
「……後ろのンフィーレア・バレアレさんに依頼されて来た。依頼内容はカルネ村までの護衛だ」
「僕は帝国の騎士が近隣を荒らしてるって聞いたから村の知り合いの無事を確認しに来て…」
「…二個目。そっちの…ンフィーレアさん?村の知り合いってぇのの名前を言ってくれやすか?」
「え、エモット一家ーー」
ツラツラと知り合いの名前を伝えていくンフィーレア
「それくらいでいいでやすよ。ノブラ!姉御に判断を!」
「了解」
ンフィーレアの言葉を止め上に叫ぶゴブリン
それに答えた声と共に右側にある木の上を何かが走るのが見えた
ルクルットが自分の感知外にゴブリンがいたことに驚く
「さてと…。姉御に判断したもらうので大人しくしてて貰いやすよ」
あくまでも淡々と伝えられるその言葉に対して、無力感を滲ませながらペテル達は応じるのだった
♢ ♢ ♢ ♢
「何と!
「えぇ今日冒険者になったばかりなので」
そう答えるモモンガ。先程エンリの幼馴染というンフィーレアと冒険者チーム「漆黒の剣」をエモット家に迎え入れてから10分程話し続けていた。
まぁエンリが無事だと知った時やエンリと話しているときに声が若干上擦っている事からンフィーレアの恋心を見抜いたルクルットがンフィーレアの事を揶揄ってペテルに怒られたり、ハムスケの容姿を見たンフィーレア達の感想を聞いて軽くカルチャーショックを受けたり、ルクルットがいきなりモモンガに求婚してきたりと、主にルクルットのせいではあったが色々あった。
「そうなんですか…モモンさんは凄いですね」
「ありがとうございます。でもまぁ私より凄い人なんてごまんと居ますよ」
「ごまんとって…。」
少し苦笑いを浮かべるペテル達だったが、自分よりも凄い人など多くいるのだ。ユグドラシルでではあったが。だからこそ、強くならねばならない。そう強く思う
「装備も凄いですよね…。」
「うむ!どうやって手に入れたのか教えて欲しいくらいである!」
「コレは仲間との冒険で手に入れた物でーー」
「モモンさんは貴族なんですか?」
そうモモンガの言葉を遮って問いかけてきたのはペテルに
その目はドス黒く濁り、まるでこの世の悪を日々夢で見せ続けられているかのようだ。
その姿は下手すれば絶望のオーラに匹敵する暗澹さを纏っている
(貴族に何か恨みでもあるのかな?でも何で…。装備の豪華さを見てかな?)
「いえ、違いますよ。というか特権階級にさしていい思い出が無くて…」
モモンガは本心からそう答える。無論、たっち・みーなどの上流階級でありながらも親しくしてくれた人はいるが少数しか居なかった。そのためたっち・みー等との思い出は良いものだが、それ以外となると嫌なことしか思い浮かばなかった。
「そうなんですね!私もです!
打って変わって良い声を出すニニャ。その変わりように敵対意識が無くなった事を歓迎すべきか
さっきまでの声を出させる貴族達に地獄を見せるべきか判断しかねながらモモンガ達は話し続けるのだった。
補足
モモンガさんによる防備強化は村長には丁重に断られ、代わりに時々カルネ村による事を約束しました