オーバーロードはダークエルフになりました   作:トドロ

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前回までのあらすじ
アウラ&マーレ「モモンガ様発見!」
モモンガ「アウラとマーレは従姉弟です」
カジット「計画の準備完了まであとちょっと」

今回は多分ほのぼの回です。
冥咲梓さん誤字報告ありがとうございました。
更新タイミングがまとまらない。5時くらいまでに投稿したいのに…


幕間 ダークエルフの幸せな日々

「…………ん」

 

目の前の顔から少しだけ音が漏れる。

その顔は揺れる朝日に優しく照らされており、揺れる金髪が顔に触れてくすぐったい。

 

(あぁぁぁ!か、顔が!顔が近い!可愛らしい!美しい!)

 

内心で不敬の葛藤と天にも昇る幸福感そして姉を差し置いてこの褒美を受け取らさせていただいているという背徳感が衝突し、徐々にしかし確実に幸福感が心を満たしていくマーレ。

本をよく読む彼は語彙力がある方なのだが、今は無きに等しくなっている。

 

彼が何故このような状態になっているのか?その答えは単純明快。モモンガがマーレを抱き枕にする事を望んだからである。いや、抱き枕というのは語弊があるだろう。彼女ーー最早彼とは言えないくらい自身に起きた性の転換についてただそのようなものである。と漠然と感じそれによって不自然さを感じさせないが故にそう表現させてもらおうーーは二人ともっと触れ合う事を望んだのだ。二人は歓喜し、そして同時に悩んだ。触れ合う事は褒美であった。しかしながら、二人の前に立ち塞がる唯一の問題はどう触れ合うか?だった。不敬にならず、かといって褒美として享受できるようなギリギリを悩んで悩んで悩み尽くした。そしてマーレが思わずといった様子で呟いた一緒に寝たいという思いをモモンガが拾っただけなのである。

 

さて、そんなこんなで添い寝をする事になったマーレとモモンガだったが、モモンガのぬいぐるみや抱き枕を抱くようなその腕は決して離さないという意志を感じる。その思いに応えて自分も至高の御方であるモモンガ様を抱きしめたいが、それは不敬であると思うしモモンガ様を起こさないように必死に殺気を抑えている姉が怖いので抱きしめ返すようなことはしていない。彼女は明日触れ合いもとい抱き枕をするのだからもう少しだけその目を抑えてくれないか、と頭の隅で思うマーレ

 

(こ、幸福感で意識が飛びそう…)

 

顔にかかる吐息も柔らかい腕も美しい顔も五感を通じて幸福が突き刺さる。

姉と似た顔であるが、モモンガ様はぶくぶく茶釜様がおっしゃっていたように活発な姉の顔と違い幸薄そうな顔をしている。その顔は慈悲深いモモンガ様の性格をよく表していると感じるし不敬ながら庇護欲を強くそそるとも感じる。そのモモンガ様のお顔が目の前にあるのだ。幸福を感じないNPCはいないだろう。

 

彼は昨日モモンガと出会った時から現在ーー午前6時ーーまで寝ていない。無論、疲労を無効化するマジック・アイテムをつけているため、そのまま活動し続けていても問題はない。

しかし、意識が飛ぶ事はある。そのため、この褒美を最大に受け取ろうとマーレは幸福感で飛びそうになる意識を全力で繋ぎ止めるのだった。

 

 

 

♢ ♢ ♢ ♢

 

 

「おはよう!モモンガお姉ちゃん!朝7時だよ!」

「んぅ……。おはようございます。茶釜さん」

 

腕輪から出る幼い声に応える少し嬉しそうな声。その腕輪は以前ぶくぶく茶釜から貰った物とは別に声を取り直した物である。ユグドラシルサービス終了5日前に貰ったギルメンの悪ふざけの結晶の一つで、以前のものと比べ格段に声優としての技術が上がったものでもある。

 

腕の中のマーレを離し、目を擦ると二人がキラキラとした目で腕輪を見ているのが見えた。

昨日あの後二人から話を聞いた限りギルメンが創造したNPCや傭兵モンスター、果ては自動でPOPする存在ーーシモベーーもモモンガ達アインズ・ウール・ゴウンのギルドに所属する者を至高の御方々と言い慕っており、ギルメンの役に立つことを史上の喜びとしているらしい。

 

ギルメンに創造されたNPCは至高の御方々の中でも自らの創造主を最も慕っていて、その次に慕ってくれているのがモモンガらしい。何でも「他の至高の御方々がお隠れになられる中、最後の最後までナザリック大墳墓に残った御方だから」という事だ。正直その思いは過分な物だと思う。仮に他のギルメンが今このような状況になると分かっていたら、ユグドラシルを辞めることもなく時々は来ていた人が殆どだろう。

 

しかし、それは飽くまでもたらればだ。ただ、二人は最後にぶくぶく茶釜さんが来てくれた事をとても嬉しく感じていた。その事が何より嬉しい。惜しむらくは茶釜さんが今ここにいない事だが、すぐにここに茶釜さんを召喚できるわけでは無い。それでも、茶釜さんの代わりになれずとも二人が安心できるようにしようと決心するモモンガ。それはそれとしてーー

 

「ムニムニだなぁ………」

「ひゃわっ!?」

 

近くのマーレの頬を触る。随分と可愛らしい反応を見せた彼の姿に頬を弄るのを止められない。

ペロロンチーノに言われた通り少しだけ我儘になる事に決めたモモンガは止まらない。

羨ましそうなアウラの頬も触り続けた結果、終わったのは15分間後だった。

 

「よし!二人とも朝食を取ろうか!」

「はい!」

「は、はい分かりました。モ、モモンお姉さん」

 

頬を触り続けた結果ふわふわになった二人の言葉に満足して頷く。急に決めた事とはいえ従姉弟という設定を忠実に再現してくれる二人の演技は本当に違和感がない。今回泊まった宿ーー夕暮れの嘶き亭ーーは中流階級向けの宿屋という事だった。そのため上級階級程のものでは無いものの、綺麗なレストランが併設しているので、そこに向かう。

 

「いらっしゃいませ、こちらメニューでございます。」

「ありがとうございます」

 

案内されたテーブルで渡されたメニューを三人で見る。冒険者組合で見た紙よりも少し綺麗なその紙は丁寧な文字で書かれている。メニューを見て諦めたモモンガは片眼鏡(モノクル)を取り出す。

 

「う〜ん。二人とも何食べたい?」

「え、えっとこの白パンとガブラ魚?のムニエルが食べたいです」

「あたしは…この白身魚のクリームシチューとマキャティアっていう飲み物かな」

「ツィルの果実水とラムチョップのグリルで行こうかな」

 

机に置いてある銀色の呼鈴を鳴らす。

朝から決して軽くは無い量の物だが、この世界のご飯はかつての世界とは違い栄養カプセルのような効率化の究極形のようなものではなく、時間をかけて作られた物である。かつての世界では上流階級しか食べられなかった物を食べられるのだから、食べたい物を食べなければ損だろう。

 

「ご注文は如何なさいますか?」

「白パンとガブラ魚のムニエル、白身魚のクリームシチューとマキャティア、ツィルの果実水とラムチョップのグリルをそれぞれ一つづつでお願いします」

「畏まりました。ご注文を繰り返します。白パンとガブラ魚のムニエル、白身魚のクリームシチューとマキャティア、ツィルの果実水とラムチョップのグリルをそれぞれ一つづつでよろしいでしょうか?」

「はい。大丈夫です」

「分かりました。では少々お待ちくださいませ」

 

ぺこりと一礼して去っていく店員。このペースで食べると財布が少々軽くなりすぎる気がするが自分の事だけで無く、二人の事も考えると仕方ないと思ってしまう。

二人はナザリック大墳墓第九階層にある食堂で多くのご飯を食べてきたらしい。あそこの料理はかつての上流階級ですら気軽に食べられないようなご飯が主だ。そのため、ここの料理が若干物足りなく感じてしまうらしい。と昨日の夜聞いた限りではあるが、その事には十分に配慮して美味しいご飯を食べさせてあげたいと思うモモンガ。

 

「それではごゆっくりどうぞ」

 

目の前に並べられた皿に乗るラムチョップのグリルを見る。茶色く程よく焼けた肉からは少し独特な匂いがする。ただ、嫌いでは無い匂いだ。まだほんの少しだけ湯気の立つ料理に喉を鳴らす

逸る気持ちを整えて、手を合わせる

 

「いただきます」

「「いただきます」」

 

掴むには丁度いい大きさの骨を付属の紙ナプキンで包んで手で掴む。手で温かみを感じながら肉にかぶりつく。しっかりと噛みごたえのある肉の中から肉汁が飛び出して、口内を潤す。肉の内部から香ばしい匂いが漂って嗅覚を刺激し、噛みちぎった後の肉の断面が次の一口を求めさせ、僅かに聞こえるジュワという肉汁の音が心地いい。味覚、嗅覚、触覚、聴覚、視覚。五感を刺激する料理によってついつい微笑んでしまう。

 

「うん。美味しい!」

「は、はい美味しいですね」

「美味しい…よ」

 

何故か生返事をする二人。小動物を見るような、それを不敬だと思うような顔をしているが自分を三人称で見れないモモンガは理由に気づかず首を捻る。

食事中、ころころと変わっていく表情や右に左に揺れる体が可愛らしかった。なんて不敬だと思うため言える訳がない二人は楽しそうなモモンガを食事しながら見つめるだけであった。

 

 

 

♢ ♢ ♢ ♢

 

 

「静寂(サイレンス)、振動感知(トレマーセンス)っと。これで十分かな?」

 

ぷにっと萌えから教わった[誰でも楽々情報収集術]。それの内容を思い出しながら、全ての探知防御及び偽装、認識阻害の魔法を使ったモモンガは一息つく。

ここはトブの森の大森林の中心から南に行ったところで元森の賢王であるハムスケのナワバリの中心に近いところである。

 

(あたしが100lvを超えてレベルを上げられるって事は、他のプレイヤーもレベル上げが可能かもしれない。ならレベル上げは必須…アウラとマーレの分も。なら……)

 

自分の認識を確認していくモモンガ。今回したいのはアウラとマーレのレベル上げだ。しかし、二人はレベル上限に達してしまっている。ならばどうするか?そこでモモンガが考えたのが……

 

「じゃあ…先ずはアウラからだな」

「お願いします。モモンガ様」

「行くぞ…超位魔法星に願いを(wish upon a star)」

 

10m程の蒼白いドーム状の魔法陣が展開され、様々な色の文字が飛び交い神聖さを感じる

超位魔法とは第十位階魔法の上に存在するものであり、魔法であって魔法ではないと言われているもので、MPを消費せず代わりに一日に使用できる回数が決められている超位魔法の威力や効果は全て強力無比の物である。

その超位魔法の一つ星に願いを(wish upon a star)は経験値を消費する事でランダムで選ばれる選択肢の中から一つ効果を発動させることができる魔法だ

 

ユグドラシルではレベル上限を解放させる物は無かったがーーもしくは極小確率すぎて見つかっていなかった可能性もあるがーーこの世界でならレベル上限を解放させる事が出来るかもしれないと考えモモンガは今回この魔法を使った。

他の超位魔法と比べ比較的少ない発動準備時間が終了する

 

「おぉ…これは凄いな」

 

モモンガは脳内に浮かび上がった数々の選択肢を見て驚愕と感嘆を滲ませる。

脳内に選択肢が浮かび上がる不快感と何でもできると錯覚する幸福感が同時に心の中で渦巻いている。

 

(どうやらこの世界では願いの大きさによって消費される経験値が違うみたいだな……)

 

どうやら元の物とは大きく変質したその超位魔法は、モモンガの願いに答える事が出来るらしい。その選択肢を心で強く願いながら魔法を発動させる

 

「俺は願う(I wish)!アウラのレベル上限を消し飛ばせ!」

 

キチンと発動されるようにという願いから必要のない言葉を叫ぶと虹色に輝く二本の光がアウラに突き刺さる。負の爆裂(ネガティブ・バースト)が光が反転した黒が放たれる魔法なら、これはその反転する前の光が放たれる魔法だ。

光は一瞬で掻き消え、まるで何も無かったかのように周囲の光は在り続ける。しかしながら、アウラの目に浮かぶ驚愕がそれを否定する。

 

「アウラよ…大丈夫か?」

「大丈夫です。モモンガ様ただ……次のれべるまでの経験値が増えていると思います」

「ふむ……まぁ少し残念だがレベル上限が無くなったならば良しとするか。次はマーレだな」

「は、はい。よろしくお願いします」

 

再度魔法を発動し、マーレのレベル上限を無くすモモンガ。無理矢理上限を解放したからだろうか?二人とも必要経験値が増えているようだった。

 

「よし、じゃあレベル上げをするとして…どこでしようかな?」

「あ、あのモモンガ様…質問してもいいでしょうか?」

「いいぞマーレよ」

「え、えっとここら辺のモンスターは非常に弱いと思うんですけど、ど、どうするおつもりなのか。と思いまして…」

「はぁ…マーレあんたねぇ、そこをモモンガ様が今から説明してくださるところでしょーが」

「うぅ…ご、ごめんなさい。お姉ちゃん」

 

アウラの少し不機嫌そうな目を見て大きく体を震わせ謝罪の言葉を必死に重ねて行くマーレ。

いつしか見たーーユグドラシルサービス終了までの最後の一週間の時も見たがーー光景に頬が緩む。あの姉弟の喧嘩とは少し違うものの、ぶくぶく茶釜の意思を二人の内に見る事ができて嬉しく思うモモンガ。ただ、このまま見続けるのも何か違うので止めに入る

 

「アウラよ、そこまでにしてやれ」

「分かりました。モモンガ様」

「さて、マーレの疑問は尤もだな。この世界ではな経験値の入り方がユグドラシルと少しだけ異なっているらしいのだ。ユグドラシルではモンスターを倒すことによってのみレベルが上がり、任意の職業や種族に振り分ける事ができたが、この世界ではどうやら文字通り経験が力になるようなのだ。分かるか?アウラ」

「はい!モモンガ様が仰りたい事は訓練などによっても経験値が手に入るって事でよろしいでしょうか?」

「正解だアウラよ。更にこの世界では職業や種族を選べず、特定の職業に就くにはその職業に関する経験が必要になるそうだ。それじゃあマーレ、これからやる事がわかるか?」

「え、えっと経験を積む為に模擬戦などの訓練でしょうか?」

「正解だマーレ。それじゃあ二人とも何か就きたい職業はあるか?系統でも良いぞ」

 

何となく確信を得たようなマーレの答えに頷く。二人が己が忠誠心と相談しているのを見て一息つく。アウラとマーレ両名が望んだこととはいえ、人が居ないところでの魔王ロールは非常に疲れる。二人とも76歳とはいえどダークエルフの認識ではまだまだ子供らしいので、モモンガは自身を子供を虐待しているヤバい奴だと少し思ってしまうからだ。

 

「じゃああたしは野伏系に就きたいです」

「ぼ、僕は信仰系の職業に就きたいです」

「よし!じゃあ二人とも訓練を始めるとしようか」

 

 

 

♢ ♢ ♢ ♢

 

「痛い所は無いか〜?」

「は、はい。大丈夫です…!」

 

アウラ・ベロ・フィオーラは肩を揉まれていた。モモンガに肩を揉まれていた。

大事なことだからもう一度。アウラ・ベロ・フィオーラはモモンガに肩を揉まれていた。

経験値を得る為の実験が一通り終わり、マーレとアウラの二人は無事レベルアップを果たしていた。その後夕暮れの嘶き亭に戻ってきた時、マーレが抱き枕になっていた事について気を遣ったのだろう。ーー姉が怖かったともいうがーーモモンガが提案した褒美を姉に与えて欲しいといったのだ。そうしたらモモンガが

 

『なら今日アウラ頑張ったし、疲れただろうから肩でも揉もうか?』

 

と仰ったのだ。それは畏れ多く、抱き枕役だけでも十分な褒美だと申し上げたのだがこれを断るのなら更に凄いのをと、ぶくぶく茶釜様の娘のような存在と触れ合って、ぶくぶく茶釜様との思い出を振り返りたいと仰られた以上至高の御方に造られた存在にとって断れるわけがなかったのだ。

というかそれ以上に不満じゃないだろうか?という不安が見える目遣いをされたら断れなかった

 

「もうちょい強くか?」

「い、いえ!このままで大丈夫です!」

「そうか…。何かあったらいうんだぞー」

「は、はい!」

 

こちらへの気遣いが凄いのか、今のモモンガの揉み具合は猫が何かに対してふみふみするような物であり、痛みも何も無く少し気持ちいいくらいである。しかしながら、モモンガが時々発する「よっと…」とか「んしょ…」という言葉が可愛らしい。不敬であってもその思いだけはどうしても考えるのをやめられなかった。

 

(うぅ……モモンガ様からの褒美は嬉しいんだけど、マーレの目がキマり始めてる…)

 

モモンガの声が発せられるごとに弟の目が強くなっていくのでアウラは気が気でない。

今まで多くの喧嘩をしてきたが、基本的にというか全ての喧嘩においてアウラが優位に動いてきたのだ。そのアウラが少し引くくらいの顔をしながら薬指の指輪を触っている。モモンガは気づいていない様子だがその事を若干恐ろしい

 

「よっ……ふっ………」

「んっ……!?」

 

押されたところが気持ちよく、少しだけほんの少しだけだが声が出てしまった事に驚くアウラ。

アウラとマーレ、更にはかつてのギルドメンバーも知らない事だったが、モモンガは肩を揉む行為が得意だった。別にモモンガが秘密にしているわけでは無かったが、あまり家族やリアルの事を話そうとしなかった為、母親に喜んでもらう為にお金のかからない方法を探し求めたモモンガの特技は誰にも知られる事がなかったのである。

 

そんな事を知らないアウラは不敬かどうか気が気でないのだが、我儘なモモンガはアウラとマーレに離れて欲しく無い為、頑張って肩の疲れを取ろうとしているのでアウラの様子に気付かない。

そんなこんなでアウラはモモンガの肩揉みを堪能するのであった。




レベル関係の表は後々出すつもりです。
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