飛行機1階はお洒落で高そうなバーになっている。そしてバーのカウンターには俺達以外の人物が座っていた。
さっきのアテンダントさんなのだろうけど……その人は武偵高の制服を着用していた。
『ヒラフワ』の改造制服を、だ。
「上手い具合に……網にかかりやがってくれましたねぇ」
顔に手を伸ばし……ベリベリと皮を剥いでいく様は、いつかの任務で共に戦ったあいつと全く同じ仕草だった。
「理子……?」
「そうだよりゅんりゅん。みんなの人気者、理子ちゃんで~す。こんばんは♡」
愛らしくパチッ、とウインクしながら俺の声に応える理子。
なんだよ……なんなんだよコレは……
「理子……!? お前、こんな所でなにしてる?」
「やだなぁキー君わかってるクセにぃ。理子があの有名な『武偵殺し』だって。この状況でそれ以外あり得ないでしょお?」
『武偵殺し』? 理子が? なんで?
頭の中がクエスチョンマークだらけで、理解が追い付かない……
「理子……一体どういう事なんだよ? なんで君がこんな……こんな事を?」
「才能ってさぁ、結構遺伝するものなんだよね。どんな分野でもさ。そして武偵高にも遺伝系の天才の卵が沢山居るワケ。でもさ……その中でもお前の一族は特別だよオルメス」
理子は俺ではなく、アリアを見てそう言った。そして『オルメス』という単語を聞いた途端、アリアの表情は険しくなった。
「あんた……何者なの……!」
「理子・峰・リュパン4世……それが理子の本当の名前」
リュパン……? リュパンってあのフランスの大怪盗の事か?
じゃあ理子は……あのアルセーヌ・リュパンの……曾孫って事になるじゃないか!?
「でもさ……周りの人間はみんな理子を『理子』って呼んでくれなかった。お母さまがつけてくれた、このキュートな名前を。こんなのおかしいんだよ」
「なにが……おかしいのよ……?」
「4世。4世。4世。4世さまぁー。どいつもこいつも、使用人まで……一度として理子を『理子』って呼ばずにそう呼んでいた。ひっどいよねぇ」
「だ、だからなによ……4世のなにが不満だってのよ」
疑問をぶつけるアリアに、次の瞬間理子は……
「っ! 不満に決まってんだろ!! あたしは数字か!? ただのDNAかよ!? あたしは理子だ! 理子っていう個人なんだよぉ!!」
物凄い剣幕で怒鳴り散らす理子に、一瞬怯んでしまう。でもこの理子の言葉……俺達に向けた物じゃない……俺達ではない誰かに悲痛に訴えているような……そんな悲壮感も感じられた。
「曾お爺さまを、アルセーヌ・リュパン1世を超えないとあたしは一生あたしじゃない。『リュパンの曾孫』として終わる。だからイ・ウーに入って、あたしだけの力を得た……この力で、あたしはあたしになるッ!」
「待て……待ってくれよ理子、君が何を言ってるのか分からないよ! オルメスって何なの!? イ・ウーって!? そもそも『武偵殺し』だって……本当に全部君なのかよ理子!?」
「『武偵殺し』? そんなのお遊びだよ。本命はオルメス4世……そこに居るアリアだ」
「アリアを……どうする気だ?」
理子は先程までの会話での息の乱れを整えてから、語り始めた。
「百年前、曾お爺さま同士の世紀の対決は引き分けに終わった。なら、オルメス4世を斃せば、あたしは曾お爺さまを超えられる。キンジ……お前もちゃんと、役目を果たしてもらうぞ?」
「! なんで、俺まで?」
突然の指名に慌てて問い返すキンジ。
「オルメスの一族には代々パートナーが必要とされていた。初代オルメスにだって優秀なパートナーが居た。条件を合わせる為に、わざわざお前をくっつけてやったんだよ」
「俺とアリアを、お前が……?」
「そだよ。で~も~……りゅんりゅんまでこのステージに立つ事になるなんてちょっと計算違いだったかな」
今度は俺か……
「りゅんりゅん……出来れば手を出さないでいてくれると助かるかな、流石に理子も1対3はキツいと思うしぃ……もしくは、理子りんの味方してくれなぁい?」
さっきまでの冷徹な雰囲気とは打って変わり、猫なで声で俺を誘う理子。……今までの理子は全部演技だったって事なのか……?
「悪いけど……そのお誘いには乗れないな」
言いながら俺はキンジとアリアを背に前に出る。
「おやぁ残念だ。でもさぁ……そっちの味方するんだったら……あたしも手加減なんてしないぞ」
甘い猫なで声から一変し、また冷徹なモードに切り替わる理子。
よく見ると理子は何時の間にか小さな手のひらに小振りな拳銃……ワルサーP99を弄んでいる。
「龍退きなさい。あいつの狙いはあたしよ。ならあたしが相手をするべきだわ」
「いや、アリア。ここは俺にまかせてほしい」
「ダメよ。あんた、理子と仲良かったんでしょ? あの様子だと必ず殺しに来る。情を持ちながら戦えば負けるわ」
そんなことは百も承知だ。実際理子は強い。手合わせをしたのは試験の時の一回きりて、強襲科での甘めの模擬戦しか経験していないが、あいつと組んだ仕事でどんなに不利な状況下であっても、あいつが手傷を負っているところを俺は見たことがない。けど……!
「違う。違うんだ。俺は殺し合うつもりなんてない。ただ……目を醒まさせるだけだよ」
「くふ。目を醒まさせるぅ? 何言ってるのりゅんりゅん? 理子は至って平常運転なのです」
ベレッタを持ち構えて、俺は理子の説得に臨む。
「さあ、理子。まずは昨日見たアニメの話でもしようか?」
「うーん……それもいいけど……ねっ!」
刹那、超高速で飛来する理子の掌底を直感的 にガード。掴もうもした俺の腕を容易くかいくぐり理子はバク宙で華麗に距離をとる。
「そろそろおふざけは終わりだよ龍。お前も邪魔するなら……まずはお前から潰す」
混じり気のない純粋な殺意の言葉に俺はこう返す。
「なら俺は、俺の命を盗ろうとする悪い怪盗さんを、銭形刑事よろしく逮捕しようか……理子」