取り敢えずフリーズしかけた頭を何とか再起動させて、キンジを起こす。よくよく聞くとキンジはうわごとのように「悪い夢だ悪い夢だ悪い夢だ…etc.etc.」と繰り返していた。どんだけショック受けてんだよ。
「ほら! 私は客よ? とっとと飲み物くらい出したらどうなの? 気が利かないわね!」
何て図々し過ぎる発言をしつつそこらへんのソファーに腰掛けるアリア。
「えっと。じゃあ何が良いかな?」
「コーヒーが良いわ。エスプレッソ・ルンゴ・ドッピオ。早くしてね。ああ、そうそう。砂糖はカンナでお願いするわ。」
「か、かしこまりましたお嬢様。」
やけに饒舌に呪文みたいな名前のコーヒーを要求して来るアリアに対して、俺はたじたじだった。
せっせとキッチンに舞い戻り、そういえばステーキを焼いていた事を今更ながら思い出し慌ててお皿に盛り付け。うーん…せっかくだし…アリアにもご馳走するかな。
俺は余っていたフィレ肉をもう一枚用意して下ごしらえを済まし再びフライパンの中へ。
「コーヒーは…どうしよ?」
正直そっち関連の知識はあまり俺には無いし…そうだ! 確かこの辺りに…あった。今現在アラビアに居るであろう両親から送られてきたコーヒーセット一式を取り出し準備。俺の両親はコーヒー好き。そりゃあもう病的なまでに。そのせいか、仕事で海外に行くときによくお土産で特産地のコーヒー豆を送ってくる。お陰で妹達までそれに魅了されてしまい、我が家は俺を除いてカフェイン過剰摂取ファミリーなのだ。いつか病気になるぞ。
お、そろそろステーキも良いかな? コーヒーも三人分用意してと。
「お待たせ~」
「龍遅い! 何時まで待たせるのよ…って、うわぁ何それステーキ? 美味しそう…」
「アリアお腹減ってるか? だったらお呼ばれしていってくれ。」
言いながら手際良くテーブルに料理を並べていく。ライス、ステーキ、コーンポタージュ、サラダ。うん。これだけあれば二人とも満足できるだろう。
「アリア。ドレイ云々の話はまた後でにして手洗ってきなよ。キンジも。」
二人とも余程お腹が空いているのか我先にとキッチンへ急行して席に着く。
「じゃあ。いただきます。」
「「いただきます!!!」」
「あーうまかった…」
「ホントねぇ…龍。アンタ料理上手なのね。ウチのコックにも引けを取らないかもしれないわ。」
二人共本当にいい食べっぷりだった。アリアに関しては食後のデザートに後で食べようと思って買っておいた松本屋名物の『ももまん』を出したらすっごい喜んで幸せそうに食べてくれたのについつい可愛くて愛でてしまった。
「ありがとさん。…で、アリア。『ドレイ』ってどう言うことだ?」
「あ! そうだった! その話をしにきたんだったっけ。すっかり忘れてたわ。」
「おいおい…いきなりドレイとかいっておいてそれはないだろう…」
心底うんざりした様子でキンジが言う。俺も同感だが、アリアが喋るまで特に何も言わなかった。
「キンジ、龍。アンタ達二人共
『強襲科』。その名前が出た時俺とキンジはさぞかし間抜けな顔をしていただろう。
強襲科とは武偵高の選択科目の一つ。主に銃や刀剣を駆使して敵を殲滅する事を主眼に据えた超攻撃的な前衛系の学科だ。しかし、そこで日夜行われる訓練は他の学科に比べて酷く激しく、酷く辛く、酷く厳しい。実際に訓練に付いて行けずに転科する者や、最悪『死』という形で強襲科どころかこの世からおさらばするヤツも実際にいる。生存確率97.1%。つまり100人に3人は生きてこの学科を卒業できないということ。その数値は強襲科に『明日無き学科』などという皮肉めいた通称を付ける程である。そんな恐ろしい所で俺とキンジは去年 死に物狂いで学んでいたのだ。今は比較的武偵高の中でもまともな方の探偵科に所属しているが。
そしてアリアはそんな俺達に強襲科に来い、などと言ったワケで、当然……
「バカ言うな! 俺は強襲科が嫌で探偵科に入ったんだぞ!? 今更何で戻らなきゃならないんだよ!?」
キンジは猛反発していた。まあ、そりゃあそうだよね。だってキンジは…
「それに俺は武偵自体やめるつもりなんだよ。この学校からだって来年四月には一般校へ転校するんだからな。だから、強襲科になんて絶対に行かねえぞ…何期待してんだかしらんが俺にはムリだ。」
そう。去年のある出来事が原因でキンジは武偵をやめるつもりらしいのである。その事件のせいでキンジは世の中と武偵、その両方に絶望してしまっている。ある種、それは当然なのかも知れない。いや、必然といった方が正しいかな?
しかし、そんなキンジの反撃も意に介さずにアリアは更なる追い討ちを掛ける。
「『ムリ』『疲れた』『面倒くさい』。私はこの3つの言葉がキライよ。人間の持つ無限の可能性を自分から潰す悪い言葉。私の前では二度と口に出さないでちょうだい。」
と。若干怒り口調で言うアリア。どうやらそれが彼女の真髄らしい。そしてお代わりを入れた俺特製カフェモカを口にしながら機嫌を取り戻して楽しそうに喋るアリア。
「キンジは当然私と一緒にフロントポジションね。龍は…まだ何とも言えないわね。ねぇ龍?アンタ何が得意とかある?」
どうやらアリアの中で俺とキンジは既にアリアのパーティーメンバーに入っているらしい。さり気なく前衛の負傷率No.1のフロントマンにキンジが選ばれている。
「よくないぞ! 俺の話を聞いてたか? そもそも何で俺と龍なんだよ?」
「太陽はなんで昇る? 月は何故輝く?」
何? 今度は何の話?
「キンジは子供みたいに知りたがるばっかり。アンタも武偵なら、自分で情報を集めて推理したらどうなの?」
呆れた口調のアリア。どうやら教える気なんてないらしいな。
「とにかく帰ってくれ。俺は今日疲れたんだ。もう寝たい。」
「やだ。」
「はあ!? 何でだよ!? 不法侵入で訴えるぞコノヤロウ。」
「不法侵入じゃないわ。だってインターホン鳴らしたし、龍が上げてくれたもの。」
キンジが恨みがましそうに俺を見る。その件についてはホントにすまない。
「でもアリア。もう夜だし本当に女子がこんな時間に男子寮をうろついてちゃ変な噂になるよ。その前に帰りなよ。」
「アンタ達二人が私のパーティーに入るって言うまで帰らない。」
「じゃあこのまま朝までいる気か?」
「アンタが素直に頭を縦に振らない可能性は読んでいたからそれ以上でも全然構わないわよ? 準備も万端だし!」
そう言って大きな旅行カバンを俺とキンジに見せ付け得意気にフフン、と鼻を鳴らすアリア。
「何言ってんだ! そんなの絶対ダメだ! 帰れよ!」
「アリア、それは流石にいくら何でもダメだと思u「ズバキュン!」よぉぉぉーーー!!! って! 危なっ!?」
俺とキンジ。両方にまるで的でも撃つかのように二丁の白黒ガバメントで発砲するアリア。ああ、これで今日何度銃撃に口上を遮られたんだろう…
「…出てけ!」
「「え?」」
今なんと?
「な、何で俺達が出て行く側なんだよ!? それは俺の台詞だろうがぁ!」
「うるさい! 分からず屋にはお仕置きよ! しばらく外で反省して帰ってくるなぁ!」
バキュン! ズキュン! バキョン! ズバキュン! っておいおいおい! マズい!このままじゃあ撃ち死にだぁ!
「キンジ! 合い言葉は!?」
「ヤバくなったらすぐ逃げる!」
一目散に逃走。何で部屋主の俺達が追い出されてんだろう…
今日これで何度目だろう? 命の危機に遭うのは。そんな事を考えながら銃弾飛び交うリビングから飛び出し玄関から尻尾巻いて逃げる俺達であった。
…グスン。今日どうしよう?