スポ根みたいな異能力バトル世界で即死チートを持ってしまった 作:忘れられた女神
間違いなく、俺は生まれる世界を間違えた。それこそ、山頂に生まれた魚くらいに。
この世界の学園生活では、異能で戦いながら青春を送る。そのはずが、俺の能力は
人を殺して青春も何もあったものじゃない。青どころか真紅の大罪だよ。
とはいえ、国の大会に出るのは学生の義務。俺は参加するしかなかった。
「優勝、ソール! 今年の
それで、なんか国一番になってしまった。俺は審判に手を掴まれ、震えた手で掲げられる。肩で息をしている相手をよそに。
数秒ほど遅れて、まばらな拍手が広がる。お互い、手に持った武器を消した。
当たり前だが、対戦相手に
「まさか、
決勝で戦った少女は、自分を抱きしめて震えている。ほんのわずかに、うつむきながら。
俺が何を言ったところで、敗者に追い打ちをかけるだけ。分かっていたから、ふたりで表彰台に登る間は何も言わなかった。
優勝した俺は、若い女王様にメダルを授けられる。ひざまずいて、それを受け取った。
「素晴らしい戦いを見せてくれたな。ソール。そなたを今年の
「ありがたき幸せでございます」
「女王の名において命ず! 若き英傑たちに、今一度大きな祝福を!」
最初は小さくゆっくりな拍手だったが、女王様がじろりと目を向けた瞬間に万雷の拍手に変わる。
腕を組んでうなずいた女王様が去っていくと、隣から声が届く。
「ふふ、
振り向いた影響で揺れる長い銀髪は、深窓の令嬢みたいだ。
当たり前だが、人に
名案だと思ったのだが、効果がおかしすぎた。訓練しようと思った日になんとなく寄り道をしたら、道端で訓練の良書が売っていたレベルなんだから。
それで、校庭の隅で毎日10時間くらい訓練しているだけで国一番になってしまった。
俺が勝てたのは、努力が報われる結果が無理矢理に通ってしまったってことのはず。勝利への因果を突き破って。
頑張っただけで、どうにかなってしまう。いや、どういうことだよ。怖いよ。
とはいえ、
下手をしたら、女王様からツバを吐きかけられかねない。いや、その程度なら人によってはご褒美なんだけど。
白い目で見られるだけなら、マシな方だろう。おそらく、実際は……。
だから、墓まで持っていく。絶対に。
俺は、目の前にいる相手をごまかすことしかできない。
「まあ、なんか努力してたら……?」
「それだけで……。私の敵など、いないと思っていたのですが……」
目を伏せて、声のトーンを落としている。視界の端で、拳を握りしめていた。許されるのなら、土下座したい。
だが、この場で謝罪なんてしたら、余計に傷つけるだけ。俺でも分かってしまうから、何も言わない。
一度だけ首を振った彼女は、俺とまっすぐに目を合わせてうなずく。そして、にこりと微笑んだ。少しだけ、口の端が引きつっていたけれど。
「次こそは、あなたの能力を使わせてみせます。私の誇りにかけて、絶対に」
そんなこと、できるはずがない。使えば、死ぬんだ。誰に使ったことがなくとも、分かる。
言えたのなら、納得してくれるだろうか。……いや、自明か。
俺はただ、目をそらすことしかできない。
「それは……」
「まあ、あっけなく敗れた私が言っても仕方ありませんね。そうだ。決勝戦の相手が同じ学園なのは、奇遇ですよね」
「えっ?」
なんか、声が裏返ってしまった。
まずい。こんなの、同じ学園とすら知らないと言っているようなもの。
いや、もちろん知っている。英雄の孫娘として有名だったし。そもそも俺達は、戦っている間も同じ制服だったし。
単に、急に話が変わって驚いただけ。
そんな言い訳をする前に、彼女は俺の目をじっと見てくる。どこまでも、まっすぐに。
「あなたは、私の名前を知って……いえ、どちらでも構いません。次の戦いでは、私の名前を魂にまで刻んであげますから」
一度首を振って、もう一度俺と目を合わせてきた。深窓の令嬢みたいな雰囲気は消え去って、獰猛な獣のように笑っている。
これは、やっちゃったのでは? コミュニケーション、大失敗なのでは?
うなだれる俺の前で、彼女はただ笑顔であり続けた。なんか、鼻歌交じりに。
どんな感情なんだ? 知らないって言われて鼻歌が出るのは、どんな感情なんだ!? もう、猛獣と同じ檻に入った気分だよ!
頭を抱えることすらできずに、ちらりちらりと様子をうかがう。彼女は、ずっと笑顔のまま。
式典が終わるまで、俺はビクビクとするだけ。終えてすぐ、彼女は背中を向けて手を挙げる。
「では、またいずれ。私の名を魂に刻む日を、楽しみにしていてください」
宿命のライバルって感じで、彼女は去っていった。その姿に、ほっと息をつく。
それから、帰るために学園が用意してくれた馬車に乗り込む。隣には、目を真ん丸にした彼女がいた。
大きく開いた口に手も当てていて、さっきまでの顔とは大違い。
そんな俺達をよそに、御者さんは深く頭を下げる。
「ソール様、ユミナ様。よくぞ素晴らしい成果を残してくださりました。学園一同、誇りに思うでしょう」
「しばらくよろしくね、ユミナさん」
俺がそう言った瞬間、彼女の顔は真っ赤に染まった。そのまま顔を覆って、後ろを向いてしまう。
耳まで赤いし、プルプルと震えている。よほど恥ずかしいんだろう。
「その、ユミナさん……」
「何も言わないでください……!」
完全に声が震えている。逆の立場だったらと思うと、こっちまで震えてきそうだ。宿命のライバルって顔で後で名乗ろうとして、すぐにオチがつくなんて。
気持ちはとても分かるから、ただ黙り込んだ。
「違うんです馬車のことを忘れていたわけじゃないんです私だってちょっとかっこいいかなとか思ってたわけじゃないんです分かってください」
ユミナさんは、相変わらず背中を向けたまま。俺は黙って話を聞く。そうしたら、ゆっくりと振り向いてきた。
じっと俺を見て、頬を膨らませながら。
「何か言ってくださいよ……!」
り、理不尽!
そんなトラップがあって良いのか……? 地面に落とし穴どころか、落とし穴が勝手に動いて落としに来るレベルの話じゃないか!
「何かって、何を……?」
「私を全力で慰めるんですよ! そんな姿もかわいいよとか、誰よりも素敵だよとか、あるじゃないですか! こんなに美少女なんですよ!」
自分の顔を指さしながら抗議してくる。いくらなんでも、そんなキザったらしいことが言える度胸はないぞ。まともに話したのも、今日が初めてなくらいなのに。
というか、近いよ! 唇が触れそうな距離なんだが!? どうなってるの!? なんか、かなり第一印象と違うよ!?
本当に、よく顔が見えてしまう。櫛もすんなり入りそうな長い銀髪は、わずかに差し込む陽の光で輝いている。揺れながらきらめく目も、青空を詰め込んだみたい。
紛れもなく、清楚な美少女。誰も疑わないだろう。
ただ、言葉にするには大きな問題がある。
「それを俺に言われて、喜んだ……?」
あごに人差し指を当てながら、ユミナさんは考え込む。そして、胸の前で音を立てて両手を合わせた。
「ちょっと気持ち悪いなって、思っちゃいましたね」
「そこまで言うことなくない!?」
「あっ、ごめんなさい。ソールさんが気持ち悪いわけじゃないんです。むしろ素敵だと思いますよ。目はキリッとしてますし、鼻もシュッとしてますし。ただ、ほぼ初対面の人に言われると思うと……」
手をパタパタと振りながら弁解してくれる。その言葉が、余計にトゲとして突き刺さる。
とはいえ、せっかくの気づかいを無駄にしたら、本当に気持ち悪いと思われてしまいそうだ。俺はうっかりさんじゃないんだ。失敗なんてしないぞ。
「ま、まあそれなら……?」
「ふふっ、ソールさんは面白い人ですね。ちょっと、意外でした」
「それ、褒められてる……?」
「私はそのつもりです。ずっとひとりで訓練されていましたし、気難しい方なのかなって」
ユミナさんの純粋な目が、グサリとくる。にこやかなのに、鋭利すぎる。
うつむくしかできないよ、こんなの!
「それは……その……」
「実は、私も同じなんです。家族以外とこんなに話したの、初めてかもしれません」
それは、ぼっち仲間ってことなんだろうか。そう言おうとして、以前の光景を思い出す。
学園の代表に選ばれて、送り出される瞬間。みんなに囲まれていたユミナさんと、端っこでひとりポツンとしている俺。
ユミナさんと俺は、生きる世界が違うんじゃないか。
いや、そうじゃない。ほとんどの生徒に囲まれていても、ユミナさんはきっと孤独だった。
英雄の孫娘で、優勝候補。そして、さっきの俺みたいな思い込み。そういうものに、邪魔されてきた。
なら、俺のすべきことはひとつ。
「また、次もお話できたら嬉しい」
「私もです。ソールさんとは、気軽に話せてしまいますね。それは、きっと……」
指を合わせながら、モジモジしている。これは、もしかして。
ごくり。俺はつばを飲んだ。
「きっと……?」
返事をするように俺と向かい合って、ユミナさんは続きを話そうとする。
「……どうしてなんでしょう?」
首を傾げて、斜め上を見ながら言っている。
馬車の中だというのに、ずっこけそうになってしまった。やっぱり箱入り娘なのかもしれない。ユミナさんの方が面白い人だよなんて言ったら、ものすごく怒られそうだけど。
あんまり人と接してこなかったから、距離感が近くなった人なのかも。とにかく、変に期待するのも失礼な話。まっすぐに向き合おう。
「何回か話していたら、分かるかもしれないな」
「良いですね。次に戦うまでは、仲良くしましょう。でも、その時が来たら……」
穏やかな顔から、また獰猛な獣のような笑顔に変わる。
修羅とでも言うべき圧があって、震えそうだ。だが、俺はしっかりと目を見つめ返した。せめて、堂々と向き合うために。
だから、俺は手を伸ばした。
「できるだけ、努力するよ」
ユミナさんは俺の手を取ってうなずく。そして、何度か握ったり緩めたりしている。柔らかさの中に、ほんの少しの硬さがある。きっと、努力の証なんだろうな。
どこか真剣な顔で俺の手をにぎにぎしていたユミナさんだったが、しばらくしてハッとしたように顔を上げる。
パタパタと手を振りながら、顔を赤くしていた。
「そ、そういえば、こんな話は知っていますか? 私たちの両方が決勝に出ることが決まった段階で、他国の王女様を学園に招くことになったらしいですよ」
「なんで、そんな急な話の方向転換を……?」
「ふふ、それが関係あるんですよ。彼女、強い人と戦いたいからって留学を望んだみたいで」
そこまで言われれば、俺にも意図は分かった。王女様は、俺と戦うつもりなのだろう。
「うん、負けたりしない。約束するよ」
それが、俺にできる唯一のこと。正解だったみたいで、ユミナさんも微笑んでくれた。
もしかしたら、少しくらいは友達といっていい関係になれたのかもしれない。
「では、ソール様は王女様の元へ案内いたします」
そんな声で時間に気づいたくらい、楽しく話せていたし。
御者さんの案内で馬車から降りて、学園に入る。一声だけかけて、トイレで服と髪を整えてから王女様との話に向かう。ふたりきりの個室らしい。
王女様と戦ったら、また親しい相手が増えたりして。
そう、思っていたのだが。
「
真っ赤な髪ごしに、
俺を殺したいと思うほど怒りに震えているのは、明らか。
……どうしてこうなった?
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