スポ根みたいな異能力バトル世界で即死チートを持ってしまった 作:忘れられた女神
スティアに挑戦すると宣言した、レイラ。以前、一緒に訓練していた人。
彼女は、どこまでもまっすぐにスティアと向かい合っている。本気で挑むのだと、誰が見ても分かるほどに。
「あたしに挑むってことは、自信があるのよね?」
「もちろんだとも。勝算もなく挑むほど、愚かなつもりはないよ」
レイラは凛とした印象のまま、堂々と胸を張っている。かつて俺と一緒に訓練していた時と、同じように。
スティアはそれを受けて、唇を釣り上げた。楽しそうに、それでいて激しく。
「いいじゃない。あたしに通じるだけの力、見せてみなさい」
「もちろんさ。準備もあるだろうから、明日でいいかい?」
「ええ、構わないわ。あたしとソールの戦いは、見ていたんでしょ?」
「ああ。スティア王女にくらい、勝てないとね。そうじゃないと……」
ちらりと、俺に目を向けてくる。スティアは少しだけ眉をひそめているように見えた。
俺は、ふたりの間に割って入ることもできない。その資格があるのかなんて、分からない。
「レイラ……」
「知っているの、ソール?」
「以前、一緒に訓練していてな……」
「覚えていたんだ。てっきり、忘れてしまったものだと思っていたよ」
レイラは大げさに肩をすくめていた。どこか、鋭く見える目で。
俺は、何を返すこともできない。ただ、口をつぐむだけ。間違っていると、心のどこかで分かっていながら。
本当は、言いたいこともあった。喉が引きつって、出てこなかった。
そんな俺に、レイラは目を細めていく。
「君も、しっかりと見ておくことだね。僕がどれだけ強くなったのかを。じゃあ、例の場所で」
それだけ言い残して、レイラは去っていく。軽く手だけ上げて、堂々と。周囲のとがめるような目など、気にした様子もなく。
また、周囲に身の程知らずだなんだと言われていた。スティアが細めた目を向けるだけで、収まっていく。
俺はレイラに手を伸ばしそうになって、やめた。その手を、スティアはじっと見ていた。
「あんた、レイラと何があったの?」
「それは……」
黙り込む俺のもとに、エミリがやってくる。いつものからかう雰囲気など、どこにも感じさせない姿で。とても心配そうに、眉を困らせながら。
そういえば、エミリは俺ともレイラとも仲良かったんだった。知られているのも、当然か。
だが、うまい言葉が出てこない。ただ、目をさまよわせるだけ。そんな俺の肩に、エミリはそっと手を置く。
「私から話してもいいよ。ソール君は、つらいでしょ?」
「エミリ!? 急に出てこないでよ! ビックリしたじゃない!」
「ふむ、なるほど……」
スティアは目を真ん丸にして驚いていて、ユミナさんはあごに手を当てて考えている様子。
ちょっとだけ、気が軽くなったかもしれない。笑う空気ではないからと、こらえるくらいには。
エミリはちょっとだけ舌を出して、頭を下げた。
「ふふ、ごめんね。でも、ソール君にとってはとても大事な話だから」
「そこまで言われるなんて、何があったのよ……」
「ソールさんが言いたくないのなら、無理に聞こうとは思いません。でも……」
スティアもユミナさんも、俺のことを心配している様子。スティアは眉を下げていて、ユミナさんは胸に手を当てているから。
本当に、優しい人たちだ。俺にはもったいないくらい。
レイラとの件は、完全に俺が悪い。だから、エミリは伝え方に配慮するかもしれない。いつもからかってくるが、優しい人だから。
……なら、俺の口から話すべきだよな。たとえ、ふたりに責められるのだとしても。
一度息を吐いて、俺はふたりに向き合った。
「まずは前提から話そうか。俺は、あの子と、レイラと訓練していた時期があるんだ」
「うん。ふたりとも、楽しそうだったよね」
ああ。本当に楽しかった。レイラとふたりで訓練する時間は。思い出すだけで、今でも笑顔になれそうなくらいに。
ふたりで努力していた頃の思い出は、今でも輝いている。本当に、幸せだったんだ。一緒に剣を振るだけで、
お互いに、剣を振るコツを教え合ったりもした。
足運びに関しては、ほとんどレイラに教わったようなもの。地面からあまり浮かせない方法を、細かく教えてもらって。
レイラがいたからこそ、俺は強くなれたんだ。
エミリから見ても、楽しそうだったらしい。きっと、レイラも楽しんでくれていた証。だからこそ……。
胸の奥が、キュッとするような感覚がある。自業自得だと分かっていて、それでも。
ユミナさんもスティアも、神妙に聞いてくれている。
「
「……ああ。俺もレイラも、能力を使わない戦い方の研究をしていてな」
「ソールと同じ……。なるほど、強敵かもしれないわね……」
「ああ。勝算があるというのなら、本当に自信があるはずだ。レイラは、そういう人だからな」
「ソールには悪いけど、あたしは楽しみだわ。あたしを追い詰められるようなやつが、他にいるのなら」
「それでいいと思うよ。ソール君の都合は、スティアさんやユミナさんには関係ないし」
エミリの言う通りだ。あくまで、俺の問題でしかない。
それでも、話すべきことではある。俺とふたりが、本当に友達であるために。
「話を続けようか。俺もレイラも、お互いに尊敬しあっていたんだと思う。少なくとも、当時は」
「だけど、今は遠ざかっている。それだけのことが、あったのよね」
「ああ。きっかけは、
「……なるほど。力の差というものは、残酷ですからね」
「それは、つまり……。あたしたちと同じ……」
ユミナさんもスティアも、目を揺らしている。大枠は察したみたいだ。
まあ、単純な話だな。
もちろん、ただ実力差があるだけのことが悪いだなんて言うつもりはない。そんなことを言い出せば、ユミナさんやスティアまでもが罪人になってしまうのだから。
俺が本当に抱える罪は、ここから。声が震えそうになるのを抑えながら、話を続けていく。
「レイラは、本戦で負けてから無理な訓練をするようになってな」
「それで、ソール君は止めようとしたんだよね」
「ああ。だが、止められなかった。むしろ、怒らせてしまったよ」
「それは……。仕方のないことなんじゃないですか? 私たちにとっては、ただの運命ですよ」
「……ええ。会話の努力で、どうにかなることじゃないもの」
「いや、違うんだ。俺は、本当は能力を持っている。それを、レイラに伝えていなかっただけなんだ」
ユミナさんもスティアさんも、難しそうな顔をしている。力の差だけだと思い込んでいるようだ。ふたりにも、格差による別れはあったのだろう。
ただ、やはり俺は違う。強さだけなら、もっと円満に別れられたはず。レイラは、まっすぐな人だったから。
そんなレイラから見て、俺はどう映っただろうな。本当に能力を持たないレイラと違って、俺はただ能力を使わないだけ。
それでいて、
もっと言えば、俺は努力が報われない結果を殺した。レイラはただ、純粋に訓練を重ねていただけ。
能力によって支えられてきただけの俺と、本当に苦境の中にいたレイラ。その差を、俺は軽んじていた。
レイラは、本当に歯を食いしばって努力していたから。隣で剣を振る俺を、何度もじっと見ながら。
ただ異能で勝っているだけの俺と違って、必死に運命に抗っていたんだ。
自分をいじめ抜くように、激しく。ずっと重りを付けて訓練もしていた。手の皮がめくれきっても、それでも剣を振り続けていた。
きっと、俺の性質を察していたのだろう。だから、俺より強度の高い訓練をすることにこだわっていた。
最後には、俺は最悪の傷つけ方をした。
歯を食いしばってしまいそうなほどだ。全部、俺のせいなのにな。
「能力を持っているって、後で伝えたのかしら?」
「いや。そこまで苦しい思いをする意味があるのかと聞いた。聞いてしまったんだ」
その時の顔は、今でも鮮明に思い浮かべられる。震えながら歯を食いしばって、揺れる目で俺を見ていたこと。
どれだけ傷つけてしまったのかなんて、考えるまでもない。
本当に、俺は愚かだった。もっと深く考えるべきだったんだ。能力で努力が報われない結果を殺した時から、ずっと。
「ソールさん……」
「きっと、誰が悪いってわけじゃないんだよ。ただ、状況が悪かっただけ」
ユミナさんは悲しそうに胸に手を当てていた。エミリは励ますように、俺の手を握った。
だが、俺には分かる。
「いや、違うんだ。俺は無理な訓練を止めることもできないまま、ただレイラを傷つけただけ」
声をかけるたびに、レイラは激しい訓練をするようになっていった。だから、俺の方から遠ざかることを選んだ。
それっきり、一度も話していない。とてもではないが、できやしなかった。
彼女が練習している方に、視線が向きそうになる時もあった。そのたびに俺は首を振って、剣を握り直していた。本当に苦しいのは誰かなんて、問うまでもないことだから。
「ソール君は、またレイラさんと仲良くしたいんだよね。また傷つけちゃうのが怖いだけで」
「ああ。だが、そんな資格があるのかなんて……」
「ソールってば、ヘタレね。当たって砕けちゃえばいいのよ」
スティアには、ハッキリと告げられてしまった。そうかもな。俺がどうしたいのかに関係なく、レイラが選ぶべきことなんだから。
きっと、レイラは俺を許してくれないだろう。それでも、俺から伝えるべきこと。
レイラの去っていった方を見る。立ち上がることは、できなかった。
情けないな、俺は。ただ、遠くを見ていることしかできないんだから。やるべきことが、ハッキリと分かっていてすら。
スティアがため息をついた音が、後ろから聞こえてきた。
そちらを向くと、呆れたような目を向けられている。
「ま、良いわ。どの道、あたしとレイラは戦うのよ。あんたは、ただ見ていればいい。そこからまで、逃げないわよね?」
スティアに告げられて分かった。今の俺は、逃げている。レイラと向き合うことから。
なら、せめて見守るべき。レイラとスティアが、どう戦うのか。どんな決着を迎えるのか。俺が選んだ道の、その結末を。
「ああ、もちろんだ。スティアも、頑張ってくれ」
「手加減なんて、できないわよ。レイラが足りないというのなら、ひねりつぶすだけよ」
「分かった。きっと、それが良いんだろう」
そう。本当の礼儀は、挑まれた戦いに全力で向かい合うこと。俺には決してできない、とても大事なこと。
最初から、ずっと分かっているんだ。今の俺は、ユミナさんにもスティアにも失礼なんだって。
だから、せめてスティアたちの本気だけは邪魔したくない。それが、俺のやるべきことのはず。
「ソール君。きっと、レイラさんは……」
そこで、言葉が区切られた。エミリは、俺の手を抱きしめるように握っている。
今でもレイラは、俺と仲良くしたいと思ってくれているのだろうか。いや、そんなはずはないか。俺は、大変なことをしてしまったんだから。
だが、俺の気持ちは自覚できた。やっぱり、レイラと仲直りしたい。どれだけ都合の良いことを言っているか、分かりきっていても。
そんな俺を、スティアたちはじっと見ていた。
「ああ、そういうこと。だから、あたしに挑んできたのね」
「無駄かもしれない。そう分かっていても、抑えきれなかったのでしょう。悲しいことです。才能の前では、すべてが崩れ去るのに」
「それは、まさか……」
そこから先が、言葉にできない。俺はまた黙り込んでしまう。氷のように冷たい希望を、胸の奥に感じながら。
スティアは俺を見て、エミリを見て、深くため息をついた。とても呆れられている様子。細まった目で、俺を見ている。
まあ、仕方ない。完全に俺が悪いからな。
「とにかく、あんたはあたしたちの戦いを見ていなさい。そうすれば、伝わるはずよ」
「うん。レイラさんも、誰よりもソール君に見てほしいと思っているはずだから」
スティアもエミリも、とても真剣な目をしている。間違いなく、俺のすべきこと。逃げ出すことだけは、しちゃいけない。
たとえレイラと決別をすることになったとしても、俺は向き合わなきゃいけないんだ。
それで、もしレイラと仲直りできるのだとすれば。絶対に、俺から謝罪しよう。深く、深く頭を下げて。
「なら、向き合わないとな……」
「例の場所ってのも、あたしたちが訓練した場所なんでしょ?」
「ああ、そうだな」
「私たちが、きっかけなんでしょうね……。残酷な、話です……。運命そのものに挑むだなんて……」
「うん。だから、ソール君は最後まで見てあげて。レイラさんの想いを」
「分かった。絶対に、見逃さないよ」
それが、どんな答えなのだとしても。心に湧き上がる希望を抑え込みながら、俺は頷いた。
「じゃあ、今日はここまでにしましょうか。お互い、一緒だと訓練に集中できないでしょ」
「そうですね。ソールさんの宿命とも、向き合う必要があるでしょうし」
「やってみなきゃ、分かんないでしょ。行くわよ、ユミナ」
「そうですね。可能性だけは、ありますよね。分かりました。仮想敵としてなら、付き合いますよ」
「お願い、ユミナ。じゃあね、ソール」
そう言って、ユミナさんたちは去っていく。合わせるように、エミリも遠ざかっていった。一度だけ、俺を振り向いてから。
俺は立ち上がって、いつもの場所で訓練を続ける。いつもより、ずっと広く感じながら。日が落ちるまで、ずっと。
そして翌日。朝にはもう、スティアとレイラは向かい合っていたんだ。
「あんたが二度と立ち上がれないくらい、ボッコボコにしてあげるわ」
「できるものならね。僕は、絶対に負けないよ」
冷たさすら感じさせる目で、お互いに鋭く向き合っていた。
……なんか、メチャクチャ険悪じゃない!?