スポ根みたいな異能力バトル世界で即死チートを持ってしまった 作:忘れられた女神
スティアとレイラは、お互いをにらみ合っているようにすら見える。
俺としては、できれば仲良くしてほしいと思っているんだが。仮にレイラと仲直りできないとしても、ふたりの関係が崩壊することだけは避けたい。
もっと言えば、俺が輪に入れないとしても、みんなには仲良くしていてほしい。
スティアたちと距離を取るのは、胸を引き裂かれそうなくらいには苦しくなるだろう。それでも、俺のせいで険悪になるよりはマシだ。
だからこそ、できれば仲を取り持ちたいのが本音。
俺が入って良いのか分からないが、険悪なふたりが勝手に仲良くなるとも思えない。せめて、少しは声をかけるべきだろうか。
よし、やろう。あまり深入りしすぎない範囲で。
少しだけ踏み込んで、ふたりの前に出ていく。
「怪我しないようにだけ、気をつけてくれよ!」
ふたりの視線が、同時にこちらを向いた。ぐるりという音が聞こえてきそうなくらいに、勢いよく。
お互いに相手の様子に気づいたようで、また向かい合っている。
「ほんと、気に食わないわ。レイラ、あんたはあたしをちっとも見ちゃいない。今から戦う相手を」
「お互い様じゃないかい? スティア王女が僕と真剣に向かい合っているとは、思わないけどね」
ふたりの話を聞いていると、もしかしてという感情が浮かび上がってくる。
レイラは、俺をどう思っているのだろうか。恨んでいるのだろうか。それとも……。
すぐにでも、答えを知りたい。そうすれば、悩まなくて済むから。もし悪い結果だったのだとしても。
とはいえ、今すぐに問いかけるのが最悪なことだけは、俺にも分かる。黙って見ているしかないだろう。
ふたりは、目を交わし合っている。強く、強く。
「上等じゃない。じゃあ、さっさと決着をつけましょうか。それが早いでしょ」
「同感だよ。起きろ、
「邪魔しないでよね、ソール! 圧壊せよ、
レイラの手元には、無骨な剣が現れた。対するスティアは、真っ赤な大剣を出現させる。
お互いに剣を向けあって、静かにたたずんでいる。どちらも目を細めて、相手をじっと見ながら。
もう、止めても無駄だな。むしろ悪化させるだけだ。
仕方ない。ため息だけついて、俺はふたりの前に立った。
「じゃあ、俺が審判をする。
俺が宣言すると同時に、レイラはスッとスティアの懐まで進む。足音さえ立てずに、流れるように斬り掛かっていた。起こりがほとんど分からないほど、なめらかに。
即座にレイラの剣先が止まる。瞬間、レイラは剣を支柱のようにして、回るように蹴りを放った。スティアは転がって避ける。
レイラはすぐにスッと剣を振り下ろす。剣の静止は、収まったようだ。スティアは大剣で受け、足を踏ん張って押し返していた。
対するレイラは飛んで下がり、またふたりは向かい合う。お互いに、堂々と。
「やるじゃない。勝算があるってのは、本気みたいね。でも、あたしに勝てるかしら!?」
「勝てなくちゃ、僕のすべては止まったまま。そんな自分を、許せはしないとも!」
レイラの時間は、止まったまま。やはり、俺が傷つけてしまったのだろう。今まで忘れられないほどに、強く。
目をそらしたくなる気持ちが、確かにある。だが、それだけは許されない。スティアにも言われたこと。
俺はまっすぐに、ふたりだけを見る。わずかにだって、目をそむけないように。少しだけ、拳を握りしめながら。爪が食い込むのを感じながら。
もう一度、レイラはスティアの元へ駆け寄っていく。今度は、さっきより早く。背中から光を放ちながら、影すら振り払いそうなほどに。
振り下ろされる剣が、一瞬だけ止まる。右腕から光が放出されて、また動き出した。
顔色を変えたスティアは、横に飛んで避けた。同時に、レイラは振り下ろされた剣を返すように切り上げる。
スティアが大剣で受け、激しい音が鳴った。踏ん張るスティアだったが、それでも後ろまで大きく滑っていく。
顔をしかめている姿が、よく見えた。
「確かに、あたしは右手を止めていたはずよ……! どうやって……!?」
「答えを敵に教えると思うのかい!? ずいぶんと甘えたものだね!」
「その通りね! なら、見つけてやるわよ!」
スティアは大剣を構えながら、レイラをじっと見ている。集中しているのが、手に取るように分かる。
答えそのものは、単純なもの。スティアはレイラの体を止めた。そこからレイラは、
腕そのものが動かなくなったとしても、外部から力を注いで強引に動かしたということ。
そういう手もあったのかと、素直に感心する。失敗していても、右手が止まったままになるだけ。悪くて手首をひねる程度。リスクとリターンを考えると、効果的な手ではあるか。
また、レイラは踏み込んでいく。今度は右足が止まった。同様に足から光が出て、走り続ける。よどみなく、スムーズに。
こうして見ていて思うが、とんでもない制御能力だ。
足の操作というのは、ただまっすぐに
前に踏み込むだけでも、一度足を前に出し、地面を蹴り飛ばして、また地面に踏み込むという流れが必要なんだ。
つまり、水を出す方向が制御できるホースがあったとして、それで自在にホースの動きを操らないといけないようなもの。超絶技巧と言う他ない。
そんな状況でも、流れるように走っているレイラ。どれほどの努力を重ねたか、何よりも雄弁に語っている。
並大抵の努力ではないどころか、人生のすべてを捧げるレベルだったはずだ。
俺は、そんな気持ちを踏みにじってしまった。今さら、許されるのだろうか。
いや、違うな。どんな結果であれ、俺はレイラとまっすぐに向き合うべき。それだけだ。
なにひとつとして見逃さないように、集中を深めていく。自分が出す息の音すら、聞こえなくなるくらいに。
レイラは誇るような様子もなく、まっすぐに剣を振り下ろす。スティアは大剣で受ける。その瞬間、剣の後ろから光が放出される。剣を押し付ける力が強まるのを、肌で感じた。
スティアは押し込まれて、また大きくすべっていった。足を後ろに出して、強く踏ん張っていてすら。それでも、不敵に笑っている。
「なるほどね。ソールと訓練しただけのことはあるわ。
「まだ、褒めてもらうには早いね! スティア王女を打ち破るまでは!」
「上等じゃない! かかってきなさい! このあたしに、勝てるというのなら!」
スティアは笑みを深めて、大剣を構えた。対するレイラは、真剣な顔のまま。
先に、レイラが動き出した。今度も一直線に、スティアに向けて勢いよく剣を振り下ろす。
「同じ手が何度も通用するだなんて、思わないことね!」
スティアは今度は腹のあたりを止めたらしい。胴体が動かなくなって、レイラの剣だけが勢いそのまま。手放すかと思われたが、即座にレイラは背中から
だが、明らかに動きが遅い。レイラは、さらに
察するに、スティアは能力に注ぎ込む
結果として、レイラはより勢いを強くしなければ動けなくなったということ。
単純ではあるが、良い手だ。やはり、スティアも戦いがうまい。明らかに初見の手に対して、的確に有効な手が打てるのだから。
ふたりは、お互いに全力を出して真剣に競い合っている。これが、青春というものなのだろうな。俺が、決して得られないもの。得てはいけないもの。
だからこそ、まぶしい。目を焼かれそうなくらいに。
ふたりとも、むき出しの魂をぶつけ合っているんだから。
「ちょっと調整に手間取ったけど、もう通じないのはこっちも同じだよ!」
確かにレイラは適応できたようで、次に右腕を止められても即座に対応していた。スティアに向けて剣を振り下ろし、受けられ、次は薙ぎ払う。今度はかがんで避けられ、切り上げる。まさに流れるような連撃。
スティアは後ろに飛んで、距離を取る。少しだけ、間合いができた。
「ここからが、本番よ! さあ、今度は対応できるかしら!?」
レイラに向けて、スティアはうなるような勢いで大剣を振り下ろす。
かわそうとしたレイラが、足を踏み込む。その瞬間に足が止まる。対応するように、
だが、レイラは前につんのめった。まるで勢いをつけすぎたように。慌てた様子で、逆の足で飛んで距離を取っていた。
ああ、なるほど。今度は緩急をつけるつもりか。さっきまでより、能力に注ぎ込む
つまり、スティアがどれだけの力を注ぎ込んで止めているのかを、即座に見抜かなければならない。
思ったより拘束が弱ければ、さっきのように勢いがつきすぎる。逆に拘束が強ければ、速度が足りなくなる。
俺が同じ手を使われていたとしたら、対応には苦労したはずだ。本当に、うまい。
さて、どうするのか。そう考えた瞬間、レイラの目は鋭く細まっていった。
「なるほど。能力に頼るだけではないようだね。ソールが認めるだけのことはあるみたいだ」
「それで、あたしに勝てるつもりなのかしら!?」
「もう、二度と通じないよ。試してみると良い」
今度のレイラは、目にも止まらぬ速さで駆け出した。流れるように剣を振り下ろし、切り上げ、薙ぎ払う。一連の動きが、舞っているようですらある。まるで、少しも静止など食らっていないかのように。
スティアが苦しそうに歯を食いしばりながら、レイラの剣を受けてはかわす。ただ、反撃には出られていない。
その様子を見れば、分かる。レイラは、たった一度だけで対応できるようになった。なってしまった。
おそらくは、スティアの様子を細かく見て
俺もやろうと思えばできなくはないだろうが、かなりの集中を要するはずだ。それこそ、ゾーンに入るレベルで。
とんでもないことを、レイラはしている。もはや、超人とすら言えそうなほど。
どれだけすごいのかなんて、もはや言い表せない。レイラの積み重ねたものは、本当に実を結んだんだ。俺が止めたのなんて、余計なお世話だったのだろうな。
それが、目の前の成果。輝きそのもの。
スティアはただ、防戦一方になるだけ。レイラの剣を、歯を食いしばりながら受けて避けてを繰り返していた。
少しずつ、対応が遅れていく。やがて、追いつけなくなっていた。レイラの剣で押し切られて、体勢を崩す。
「もう、手はないのかい? なら、終わりだよ!」
レイラは勢いよく剣を振り下ろす。
「まだ、終わりじゃないわよ! レイラの動きよ、止まりなさい!」
その言葉と同時に、レイラは固まった。どこか一部分ではなく、全身が。
さすがに、この状態から
スティアは大剣を握りしめて、上へと掲げる。
「レイラ。あんたは強敵だったわ。でも、これで終わりよ!」
スティアの大剣が動いた瞬間、レイラの胸元から複数の光が現れた。刃のように研ぎ澄まされた、
スティアを切り裂こうとするかのように、右から左から、上から下から刃が襲いかかる。
そんな攻撃を受けて、レイラは後ろに飛んで逃げる。まだ、刃は襲い続ける。当たるかと思った瞬間に、
「そっちを止めたね?」
「なっ……!」
スティアが声を出した頃には、レイラの剣はスティアの大剣に叩きつけられていた。
ガラスが砕けるような音がして、スティアの大剣は砕けていく。それが、決着の証だった。
レイラは、才能の壁を大きく超えるほどに花開いた。俺のように、能力に支えられずとも。
それを見られただけで、満足だ。たとえ、レイラと決別することになったとしても。彼女はもう、自分の足で立っているんだから。とてもきらめく、素敵な人になったんだから。
感情のおもむくままに、俺は大きく息を吸い込んだ。
「勝者、レイラ!」
スティアは膝をついて、肩で息をしている。
経験したことはないが、それこそ全力で数分走り続けたほどに感じる人もいるという。
そんなスティアは、地面を叩いて悔しがっていた。涙すらこぼしながら。
「油断、したわ……! ソールと訓練してたってなら、読めて当然の手だったのに……!」
「だからこそ、ずっと隠していたんだとも。僕の戦術勝ちだね」
「ええ、その通りよ……。見事なものだったわ、レイラ……」
スティアの手をつかんで、起き上がらせていく。お互いに、ガッチリと手を握り合っていた。
間違いなく、ライバルとして認め合ったのだろう。とても、素晴らしいことだ。
そしてレイラは、俺の方に向かって振り向いた。そのまま、俺に向けて手を差し出してくる。
「これで、証明できたはずだよ。僕はもう、心配されるような弱者じゃないって」
「ああ、そうだな……」
「ねえ、ソール。僕は君を恨んだりはしていないとも」
とても穏やかな声が、俺に届いてきた。声色からして、本心なのだろう。
俺は、レイラを深く傷つけた。その罪を、許してくれるというのか。
「レイラ……ごめ……いや、ありがとう、だな」
「僕こそ、だよ。まだ、君に勝てるほどではないと思う。でも、才能の壁を乗り越えてみせるさ。そして、君の本気にだって……」
柔らかい顔つきで、レイラは俺を見てくれている。なんて、きれいなんだろう。
そうか……。レイラはずっと、俺と対等になるために頑張ってくれていたんだな……。
だが、だからこそ決して本気を出すことはできない。それは、能力を使うという意味なのだから。
レイラが俺を大切にしてくれていることは、本当に嬉しい。嬉しいんだ。
だとしても、俺とレイラが対等になることはない。そう、告げて良いのだろうか。
目をそらす俺に対し、レイラは俺の頬を両手で挟み込む。
そして、ゆっくりと微笑んだ。草原で咲き誇る花のように、優しい力を感じさせるほど。
レイラの気持ちに、俺の心も安らいでいった。息がこぼれるほどに。
そんなレイラは、俺の手を握り直す。少し硬い手で、ギュッと強く。
「だから、君の一挙手一投足を完全に真似してみせるよ!」
レイラは胸を張って、堂々と宣言していた。
……どういう判断なんだそれ!?