スポ根みたいな異能力バトル世界で即死チートを持ってしまった   作:maricaみかん

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12話 譲れないものを胸に

 スティアとレイラは、お互いをにらみ合っているようにすら見える。

 俺としては、できれば仲良くしてほしいと思っているんだが。仮にレイラと仲直りできないとしても、ふたりの関係が崩壊することだけは避けたい。

 もっと言えば、俺が輪に入れないとしても、みんなには仲良くしていてほしい。

 

 スティアたちと距離を取るのは、胸を引き裂かれそうなくらいには苦しくなるだろう。それでも、俺のせいで険悪になるよりはマシだ。

 だからこそ、できれば仲を取り持ちたいのが本音。

 

 俺が入って良いのか分からないが、険悪なふたりが勝手に仲良くなるとも思えない。せめて、少しは声をかけるべきだろうか。

 

 よし、やろう。あまり深入りしすぎない範囲で。

 少しだけ踏み込んで、ふたりの前に出ていく。

 

「怪我しないようにだけ、気をつけてくれよ!」

 

 ふたりの視線が、同時にこちらを向いた。ぐるりという音が聞こえてきそうなくらいに、勢いよく。

 お互いに相手の様子に気づいたようで、また向かい合っている。

 

「ほんと、気に食わないわ。レイラ、あんたはあたしをちっとも見ちゃいない。今から戦う相手を」

「お互い様じゃないかい? スティア王女が僕と真剣に向かい合っているとは、思わないけどね」

 

 ふたりの話を聞いていると、もしかしてという感情が浮かび上がってくる。

 レイラは、俺をどう思っているのだろうか。恨んでいるのだろうか。それとも……。

 すぐにでも、答えを知りたい。そうすれば、悩まなくて済むから。もし悪い結果だったのだとしても。

 

 とはいえ、今すぐに問いかけるのが最悪なことだけは、俺にも分かる。黙って見ているしかないだろう。

 

 ふたりは、目を交わし合っている。強く、強く。

 

「上等じゃない。じゃあ、さっさと決着をつけましょうか。それが早いでしょ」

「同感だよ。起きろ、鉄剣(ガベージ)」

「邪魔しないでよね、ソール! 圧壊せよ、静止(プリンシパリティ)」

 

 レイラの手元には、無骨な剣が現れた。対するスティアは、真っ赤な大剣を出現させる。

 お互いに剣を向けあって、静かにたたずんでいる。どちらも目を細めて、相手をじっと見ながら。

 もう、止めても無駄だな。むしろ悪化させるだけだ。

 

 仕方ない。ため息だけついて、俺はふたりの前に立った。

 

「じゃあ、俺が審判をする。神聖なる戦いを(Battle for Praying)!」

 

 俺が宣言すると同時に、レイラはスッとスティアの懐まで進む。足音さえ立てずに、流れるように斬り掛かっていた。起こりがほとんど分からないほど、なめらかに。

 即座にレイラの剣先が止まる。瞬間、レイラは剣を支柱のようにして、回るように蹴りを放った。スティアは転がって避ける。

 

 レイラはすぐにスッと剣を振り下ろす。剣の静止は、収まったようだ。スティアは大剣で受け、足を踏ん張って押し返していた。

 

 対するレイラは飛んで下がり、またふたりは向かい合う。お互いに、堂々と。

 

「やるじゃない。勝算があるってのは、本気みたいね。でも、あたしに勝てるかしら!?」

「勝てなくちゃ、僕のすべては止まったまま。そんな自分を、許せはしないとも!」

 

 レイラの時間は、止まったまま。やはり、俺が傷つけてしまったのだろう。今まで忘れられないほどに、強く。

 目をそらしたくなる気持ちが、確かにある。だが、それだけは許されない。スティアにも言われたこと。

 俺はまっすぐに、ふたりだけを見る。わずかにだって、目をそむけないように。少しだけ、拳を握りしめながら。爪が食い込むのを感じながら。

 

 もう一度、レイラはスティアの元へ駆け寄っていく。今度は、さっきより早く。背中から光を放ちながら、影すら振り払いそうなほどに。

 振り下ろされる剣が、一瞬だけ止まる。右腕から光が放出されて、また動き出した。

 

 顔色を変えたスティアは、横に飛んで避けた。同時に、レイラは振り下ろされた剣を返すように切り上げる。

 スティアが大剣で受け、激しい音が鳴った。踏ん張るスティアだったが、それでも後ろまで大きく滑っていく。

 顔をしかめている姿が、よく見えた。

 

「確かに、あたしは右手を止めていたはずよ……! どうやって……!?」

「答えを敵に教えると思うのかい!? ずいぶんと甘えたものだね!」

「その通りね! なら、見つけてやるわよ!」

 

 スティアは大剣を構えながら、レイラをじっと見ている。集中しているのが、手に取るように分かる。

 

 答えそのものは、単純なもの。スティアはレイラの体を止めた。そこからレイラは、星枢力(スターサイン)を放出することで無理矢理に動かしている。反動だけで、正確に。

 腕そのものが動かなくなったとしても、外部から力を注いで強引に動かしたということ。

 

 そういう手もあったのかと、素直に感心する。失敗していても、右手が止まったままになるだけ。悪くて手首をひねる程度。リスクとリターンを考えると、効果的な手ではあるか。

 

 また、レイラは踏み込んでいく。今度は右足が止まった。同様に足から光が出て、走り続ける。よどみなく、スムーズに。

 こうして見ていて思うが、とんでもない制御能力だ。

 

 足の操作というのは、ただまっすぐに星枢力(スターサイン)を出せばいいというものではない。

 前に踏み込むだけでも、一度足を前に出し、地面を蹴り飛ばして、また地面に踏み込むという流れが必要なんだ。

 つまり、水を出す方向が制御できるホースがあったとして、それで自在にホースの動きを操らないといけないようなもの。超絶技巧と言う他ない。

 

 そんな状況でも、流れるように走っているレイラ。どれほどの努力を重ねたか、何よりも雄弁に語っている。

 並大抵の努力ではないどころか、人生のすべてを捧げるレベルだったはずだ。

 

 俺は、そんな気持ちを踏みにじってしまった。今さら、許されるのだろうか。

 いや、違うな。どんな結果であれ、俺はレイラとまっすぐに向き合うべき。それだけだ。

 なにひとつとして見逃さないように、集中を深めていく。自分が出す息の音すら、聞こえなくなるくらいに。

 

 レイラは誇るような様子もなく、まっすぐに剣を振り下ろす。スティアは大剣で受ける。その瞬間、剣の後ろから光が放出される。剣を押し付ける力が強まるのを、肌で感じた。

 スティアは押し込まれて、また大きくすべっていった。足を後ろに出して、強く踏ん張っていてすら。それでも、不敵に笑っている。

 

「なるほどね。ソールと訓練しただけのことはあるわ。星枢力(スターサイン)を、そこまで操れるなんてね!」

「まだ、褒めてもらうには早いね! スティア王女を打ち破るまでは!」

「上等じゃない! かかってきなさい! このあたしに、勝てるというのなら!」

 

 スティアは笑みを深めて、大剣を構えた。対するレイラは、真剣な顔のまま。

 先に、レイラが動き出した。今度も一直線に、スティアに向けて勢いよく剣を振り下ろす。

 

「同じ手が何度も通用するだなんて、思わないことね!」

 

 スティアは今度は腹のあたりを止めたらしい。胴体が動かなくなって、レイラの剣だけが勢いそのまま。手放すかと思われたが、即座にレイラは背中から星枢力(スターサイン)を出す。

 だが、明らかに動きが遅い。レイラは、さらに星枢力(スターサイン)の量を増やしていた。

 

 察するに、スティアは能力に注ぎ込む星枢力(スターサイン)の量を増やしたのだろう。それで、静止の強度を高めた。

 結果として、レイラはより勢いを強くしなければ動けなくなったということ。

 

 単純ではあるが、良い手だ。やはり、スティアも戦いがうまい。明らかに初見の手に対して、的確に有効な手が打てるのだから。

 

 ふたりは、お互いに全力を出して真剣に競い合っている。これが、青春というものなのだろうな。俺が、決して得られないもの。得てはいけないもの。

 

 だからこそ、まぶしい。目を焼かれそうなくらいに。

 ふたりとも、むき出しの魂をぶつけ合っているんだから。

 

「ちょっと調整に手間取ったけど、もう通じないのはこっちも同じだよ!」

 

 確かにレイラは適応できたようで、次に右腕を止められても即座に対応していた。スティアに向けて剣を振り下ろし、受けられ、次は薙ぎ払う。今度はかがんで避けられ、切り上げる。まさに流れるような連撃。

 スティアは後ろに飛んで、距離を取る。少しだけ、間合いができた。

 

「ここからが、本番よ! さあ、今度は対応できるかしら!?」

 

 レイラに向けて、スティアはうなるような勢いで大剣を振り下ろす。

 かわそうとしたレイラが、足を踏み込む。その瞬間に足が止まる。対応するように、星枢力(スターサイン)を放出して駆け出そうとする。

 だが、レイラは前につんのめった。まるで勢いをつけすぎたように。慌てた様子で、逆の足で飛んで距離を取っていた。

 

 ああ、なるほど。今度は緩急をつけるつもりか。さっきまでより、能力に注ぎ込む星枢力(スターサイン)を減らしたということ。

 つまり、スティアがどれだけの力を注ぎ込んで止めているのかを、即座に見抜かなければならない。

 思ったより拘束が弱ければ、さっきのように勢いがつきすぎる。逆に拘束が強ければ、速度が足りなくなる。

 

 俺が同じ手を使われていたとしたら、対応には苦労したはずだ。本当に、うまい。

 

 さて、どうするのか。そう考えた瞬間、レイラの目は鋭く細まっていった。

 

「なるほど。能力に頼るだけではないようだね。ソールが認めるだけのことはあるみたいだ」

「それで、あたしに勝てるつもりなのかしら!?」

「もう、二度と通じないよ。試してみると良い」

 

 今度のレイラは、目にも止まらぬ速さで駆け出した。流れるように剣を振り下ろし、切り上げ、薙ぎ払う。一連の動きが、舞っているようですらある。まるで、少しも静止など食らっていないかのように。

 スティアが苦しそうに歯を食いしばりながら、レイラの剣を受けてはかわす。ただ、反撃には出られていない。

 

 その様子を見れば、分かる。レイラは、たった一度だけで対応できるようになった。なってしまった。

 おそらくは、スティアの様子を細かく見て星枢力(スターサイン)の流れを感じ取っているのだろう。

 俺もやろうと思えばできなくはないだろうが、かなりの集中を要するはずだ。それこそ、ゾーンに入るレベルで。

 

 とんでもないことを、レイラはしている。もはや、超人とすら言えそうなほど。

 

 どれだけすごいのかなんて、もはや言い表せない。レイラの積み重ねたものは、本当に実を結んだんだ。俺が止めたのなんて、余計なお世話だったのだろうな。

 

 それが、目の前の成果。輝きそのもの。

 

 スティアはただ、防戦一方になるだけ。レイラの剣を、歯を食いしばりながら受けて避けてを繰り返していた。

 少しずつ、対応が遅れていく。やがて、追いつけなくなっていた。レイラの剣で押し切られて、体勢を崩す。

 

「もう、手はないのかい? なら、終わりだよ!」

 

 レイラは勢いよく剣を振り下ろす。輝くほどの(スターサイン)で、爆発的に加速しながら。

 

「まだ、終わりじゃないわよ! レイラの動きよ、止まりなさい!」

 

 その言葉と同時に、レイラは固まった。どこか一部分ではなく、全身が。

 さすがに、この状態から星枢力(スターサイン)の放出だけで全身を操作するのは不可能だろう。実際、レイラは固まったままだ。

 

 スティアは大剣を握りしめて、上へと掲げる。

 

「レイラ。あんたは強敵だったわ。でも、これで終わりよ!」

 

 スティアの大剣が動いた瞬間、レイラの胸元から複数の光が現れた。刃のように研ぎ澄まされた、星枢力(スターサイン)の塊が。

 スティアを切り裂こうとするかのように、右から左から、上から下から刃が襲いかかる。

 

 そんな攻撃を受けて、レイラは後ろに飛んで逃げる。まだ、刃は襲い続ける。当たるかと思った瞬間に、星枢力(スターサイン)の刃は止まった。

 

「そっちを止めたね?」

「なっ……!」

 

 スティアが声を出した頃には、レイラの剣はスティアの大剣に叩きつけられていた。

 ガラスが砕けるような音がして、スティアの大剣は砕けていく。それが、決着の証だった。

 

 レイラは、才能の壁を大きく超えるほどに花開いた。俺のように、能力に支えられずとも。星枢力(スターサイン)の刃なんて、俺は知らなかったんだから。他の技も、洗練されていた。

 それを見られただけで、満足だ。たとえ、レイラと決別することになったとしても。彼女はもう、自分の足で立っているんだから。とてもきらめく、素敵な人になったんだから。

 

 感情のおもむくままに、俺は大きく息を吸い込んだ。

 

「勝者、レイラ!」

 

 スティアは膝をついて、肩で息をしている。

 星枢器(シリウス)が砕かれると、かなりの星枢力(スターサイン)が持っていかれるらしい。その結果として、相当な疲労感を覚えるのだとか。

 経験したことはないが、それこそ全力で数分走り続けたほどに感じる人もいるという。

 

 そんなスティアは、地面を叩いて悔しがっていた。涙すらこぼしながら。

 

「油断、したわ……! ソールと訓練してたってなら、読めて当然の手だったのに……!」

「だからこそ、ずっと隠していたんだとも。僕の戦術勝ちだね」

「ええ、その通りよ……。見事なものだったわ、レイラ……」

 

 スティアの手をつかんで、起き上がらせていく。お互いに、ガッチリと手を握り合っていた。

 間違いなく、ライバルとして認め合ったのだろう。とても、素晴らしいことだ。

 

 そしてレイラは、俺の方に向かって振り向いた。そのまま、俺に向けて手を差し出してくる。

 

「これで、証明できたはずだよ。僕はもう、心配されるような弱者じゃないって」

「ああ、そうだな……」

「ねえ、ソール。僕は君を恨んだりはしていないとも」

 

 とても穏やかな声が、俺に届いてきた。声色からして、本心なのだろう。

 俺は、レイラを深く傷つけた。その罪を、許してくれるというのか。

 

「レイラ……ごめ……いや、ありがとう、だな」

「僕こそ、だよ。まだ、君に勝てるほどではないと思う。でも、才能の壁を乗り越えてみせるさ。そして、君の本気にだって……」

 

 柔らかい顔つきで、レイラは俺を見てくれている。なんて、きれいなんだろう。

 そうか……。レイラはずっと、俺と対等になるために頑張ってくれていたんだな……。

 

 だが、だからこそ決して本気を出すことはできない。それは、能力を使うという意味なのだから。

 レイラが俺を大切にしてくれていることは、本当に嬉しい。嬉しいんだ。

 だとしても、俺とレイラが対等になることはない。そう、告げて良いのだろうか。

 

 目をそらす俺に対し、レイラは俺の頬を両手で挟み込む。

 そして、ゆっくりと微笑んだ。草原で咲き誇る花のように、優しい力を感じさせるほど。

 レイラの気持ちに、俺の心も安らいでいった。息がこぼれるほどに。

 

 そんなレイラは、俺の手を握り直す。少し硬い手で、ギュッと強く。

 

「だから、君の一挙手一投足を完全に真似してみせるよ!」

 

 レイラは胸を張って、堂々と宣言していた。

 

 ……どういう判断なんだそれ!?

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