スポ根みたいな異能力バトル世界で即死チートを持ってしまった   作:maricaみかん

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17話 当たり前に勝つべき戦い

 女王様は、俺に対して剣技だけで戦えと言った。それでビリーを打ち破ってみせろと。

 確実に言えることは、能力は禁止されているということ。星枢力(スターサイン)の珠も、かなり怪しい。最悪、星枢力(スターサイン)で加速することすら禁止されているのかもしれない。

 そもそも、細かいルールを確認しても良いものなのか。できれば確かめたいが、女王様に意見することになりかねない。

 

 だが、目を見れば分かる。俺のことだけを見ていて、本当に輝いている。口元も緩んでいて、どこまでも楽しそう。

 若いとはいえ明確に歳上な女王様が、それでも幼く感じるほど。子供みたいとすら思うほどに。

 つまり、俺に悪意を持って戦い方を制限したわけじゃない。俺なら本当に勝てると信じてくれているんだ。

 

 以前だって、俺への拍手が少ないことに文句を言ってくれた。だから、女王様は敵じゃない。むしろ、ずっと俺を助けてくれていた。あるいは、今ですら。

 これまでの行動が、証拠。俺は女王様を信じるだけ。

 

 少しだけ息を吸って、吐く。そうだな。大勢の前で能力を使う意味を考えても、制限されたのは助かった。

 相手の能力を破壊する能力だと思われただけでも、ユミナさんたちとの関係は怪しくなったかもしれないのだから。

 

 だって、戦えば二度と能力を使えなくなるんだ。そんな相手と、どうやって競い合うっていうんだ。

 

「待てよ。そんな相手と戦ったって、俺様の実力を証明できねえじゃねえか」

 

 口答えをしたビリーを、女王様は冷たくにらむ。さっきまでの楽しげな表情は消え去って、目は鋭く細まっている。まるで鬼のようと言えば、失礼だろうな。

 だが、そう感じさせるだけの圧がある。直接見られていない俺ですら、震えてしまいそうなほど。ビリーは苦々しげな顔で舌打ちをするだけ。よくもまあ。

 

 女王様の目は、さらに鋭くなっていった。もはや、虫を見る目としか言えない。

 

「わらわの言葉に歯向かうつもりか? アルテミス神聖王国の女王に、ただのくだらぬ学生が?」

「ちっ、やれば良いんだろ、やれば」

 

 それだけ言い残して、ビリーは俺に向けて槍を突きつけてくる。

 やはり、ルールを確認するのは厳しそうだ。女王様の言葉には口出しできない。

 俺はただ、剣をだらりと下げた。

 

「さて、ソール。わらわを楽しませてくれ! 世界の礎を築いた聖女様。アルテミス神聖王国を守り抜いた初代星枢騎士(ゾディアック)。そしてわらわに、この戦いを捧げよ。神聖なる戦いを(Battle for praying)!」

 

 合図が聞こえると同時に、俺は一気に距離を詰めて剣を振り下ろす。相手は明らかに遅れて槍を動かした。

 だが、気づいた時には槍は目の前にあった。体を傾けて、かわす。頰の横を、風が通り抜ける。突きだったらしい。

 

 さっそく能力を使われたようだ。先行(ラピッドリィ)という名前から察するに、選択肢は絞られる。候補は、いくつか思いつく。

 ビリーは槍を構えながら、俺の方を見ている。口元を歪めているのが、よく見えた。

 

「ただの剣士が、俺様に勝てるもんかよ! 同学年でも最強なんだぞ、俺様は!」

 

 挑発してくるが、取り合う意味もない。同学年で最強と言われても、俺は国一番なのだし。

 いや、逆に利用できるか。挑発に乗ったふりをして、あえて不用意に見える攻撃をすればいい。

 どの道、能力の検証は必要だったんだ。突然攻撃がやってくる現象の正体がつかめれば、どうとでもなるだろう。

 

 ひとまず、即座に右手で剣を突き出す。今度も急に左から槍が薙ぎ払われているので、左手で槍を殴り飛ばす。手に硬い感触があり、相手は体勢を崩す。

 問題なく、弾き飛ばせた。念のために足に力を込めていたが、必要なかったようだ。

 

「ちっ、決めきれねえとはな。俺の強さを証明しなきゃならねえってのによ!」

 

 ビリーは憎々しげに舌打ちをしている。さて、強さにコンプレックスがありそうだが。まあ、今はいい。

 

 とにかく、認識できないほど早く動いているという線は消えた。相手に攻撃されてから槍を殴り飛ばせたわけだからな。俺より遅い動きだということ。

 そうなると、後は転移か時間への干渉を検証したい。確認する手段を、思い浮かべた。

 一度距離を取って、振りかぶって剣を投げつける。届く前に、目の前に現れて槍を突き立てられる。それを体を傾けて避け、剣に駆け寄って拾う。特段追撃は仕掛けてこない。

 

 ルール上、念のために星枢器(シリウス)の出し入れは使っていなかった。それでも十分だったようだ。

 ビリーの能力は、転移もできるという認識でいいだろう。だが、厳密には転移能力でもなさそうだ。特に最初、ビリーは急に槍を突き出す体勢に変わったわけだからな。

 姿勢の変化も込みとなってくると、ただの転移では説明がつかない。

 

 先行(ラピッドリィ)という名前からしても、ほとんど答えは分かったようなもの。ただ、まだ結論を出すには早い。

 さて、次の検証だ。俺はできるだけ見下すような顔をした。

 

「ビリー、お前の弱さを証明するだけの戦いに挑んで、どんな気分だ? 俺には分からないから、聞いてみたいものだ」

 

 今度はあえて隙だらけの構えを取る。それこそ、ふにゃりと全身から力を抜いて。横を向きすらした。だが、相手は仕掛けてこない。ただ苦い顔をするだけ。

 

「うるせえ! 俺は無能力(スターゲイザー)もどきに負けたりしねえ! 学年が上だからと枠を取ったクズとは違うんだよ! たかが無能力(スターゲイザー)ごときに負けたクズとは!」

 

 そんなことを言っているのに、俺に対して攻めてはこない。できない理由があるというのが正しそうだ。

 時間に干渉する能力という線も、消えたようだな。俺が横を向いた瞬間に攻撃されていれば、少しは困ったのだから。

 

 そして、ただの転移でもなさそうだ。同様に、俺が横を向いた瞬間に転移をするだけで有効だったのだから。

 まあ、転移も時間への干渉も内包はしているのだろうが。

 

 つまり、答えはひとつ。強制的に先手を取る能力。それを主体に、カウンター型の戦闘スタイルを取っているということ。 

 

 さっきの発言からして、ミンタカ学園の代表はレイラに負けたらしい。それを恥に感じている様子。自分なら勝てたとでも言いたげだったのだから。

 ビリーはレイラまでバカにしてきた。たかが無能力(スターゲイザー)ごときと。いよいよ、本気で叩き潰さないといけないようだな。

 さて、もう潰すことは難しくないだろう。能力は分かった。俺が攻撃を仕掛けたら、それに対して先行してくるだけの能力。

 

 ユミナさんなら、|因果で全く同じことができる。いや、もっと高度なこともできるだろう。その程度の、完全下位互換でしかない。

 つまり、ユミナさんなら勝てる。スティアも、動きを止めてしまえば一発で勝てる。そしてレイラは、カウンター程度は受け流して終わりだろう。

 

 取るに足りない程度の実力を証明するという、くだらないエゴ。それでエミリを傷つけた。相応の報いを受けさせてやる。

 一切能力を使わず、星枢力(スターサイン)も使わず、ただナマクラを振るうだけで打ち破る。

 ビリーの実力がゴミ同然のものだと、女王様の前で、そしてリゲル学園に在籍する生徒達の前で示してみせる。

 

 お前は、リゲル学園にコンプレックスがあったんだろ? だから、エミリの右腕を折った時にリゲル学園の生徒も大したことがないと言った。

 本当に大したことがないのはお前だと、誰の目にも分かる形で証明してやるだけ。

 

 それが報いだ、ビリー。お前の望みは、決して叶わない。叶えさせやしない。くだらない弱者として、アルテミス神聖王国に名を刻め。それこそが、俺の与える罰だ。

 

 さあ、やろう。まずは、挑発から。

 

「騎士星枢祭(スターリット)に出られなくて、良かったじゃないか。分不相応な妄想を抱き続けるだけの、つかの間の幸福を味わえて」

「リゲル学園と同じ数の枠があれば、俺様だって活躍できた! 今から、証明してやるよ!」

「それで、攻めてこないのか? 同じ戦い方しかできない芸のなさを示して満足か?」

「なら、お望み通りにしてやるよ!」

 

 さっそく、槍を突き出してきた。体をかるくひねってかわし、槍を持つ腕が完全に伸び切ったのを確認してから剣を振り下ろす。その瞬間、また槍が目の前に現れた。

 今度は前に進みながら体をひねってかわし、槍を伸ばし切る前に膝を腹に叩き込む。当たってビリーは軽く吹き飛び、何度かむせる。

 

「この程度か。やはり、大したことはないらしい。これからは、身の程をわきまえて生きることだな。猿山の大将として」

「俺様は、負けねえ! ソールの反撃にも先行するだけだ!」

 

 そう言って、すぐに槍を目の前に突き出してくる。首をひねって避けながら、今度は剣を叩きつけようとする。次は横から槍を振っているビリーが目に映った。

 バックステップでかわし、槍を振り払って空いた胴体に剣を突き出す。次は上から槍が振り下ろされていた。続いてサイドステップで避ける。

 

「これが俺様の実力だ! 強者に挑み続けて手に入れた、本物の力だ!」

 

 槍を握りしめながら叫んでいた。よほど思うところがあるらしい。

 さて、ビリーは全力で能力を使っている様子。適当に時間稼ぎをしておけば、やがて星枢力(スターサイン)は尽きるだろう。

 だが、そんな勝利で良いはずがない。一切の言い訳を許さずに、ただ勝ちきってやるだけ。

 

 少しだけ、足元の感触を確かめる。よし、行けそうだな。

 

 まずはビリーに左拳を放つ。当たり前のように、急に右から槍が振られていた。同時に、俺は足に力を込めて、剣を握り締める。

 すべるように動き、ビリーの胸に突きを放った。槍が振り切られる、その前に。

 

「あぐっ……」

 

 狙った通りに、胸に剣が直撃した。やはり、能力の効果が終わる前に同時に能力を発動することはできないらしい。

 ユミナさんですら、複数の因果を同時に結ぶことはできなかったんだ。珠を大量に放った時には、珠をかいくぐる因果を紡いで大量の珠をかわしてから、俺の体に攻撃が当たる因果を紡いだ。

 

 そう。能力は同時に発動することはできない。少なくとも、俺の知る限りでは。

 即死の訓練はできていたあたり、努力が報われない結果はもう殺し終えたということなのだろう。

 

 まあ、俺の能力について考えるのは後で良い。ただ、俺はビリーの槍をめがけて剣を振り下ろす。

 

「まだ、終われるかよ!」

 

 今度は俺の額に向けて槍が突き出されていた。足をずらして体勢を変え、槍とわずかにすれ違う。相手の腕が伸び切る前に、剣の向きを変えて槍に叩きつける。狙い通りに、槍は砕け散っていった。

 

 ビリーは膝をついて、ただうなだれる。目の焦点は合っていないように見えた。

 

「俺様は、ゴミなんかじゃ……。なかった、はず……」

 

 それだけをこぼし、ただ黙り込む。もはや、完全に心は折れたらしい。報いは与えられた。

 何かしら、ビリーにも背負うものがあったのかもしれない。事情があったのかもしれない。だが、知らないし知ろうとも思わない。

 エミリを傷つけたというだけで、俺にとっては敵なのだから。

 

「嘘でしょ……? 能力も使わずに勝った……? そんなの、化け物……」

 

 誰かの声が、やけに響き渡る。そのまま、ざわめきが広がっていく。だんだんと、うなりのように。

 女王様は舌打ちをして、すっと立ち上がった。

 

「勝者、ソール! よくぞわらわを楽しませてくれた! さあ、近う寄れ」

 

 女王様にうながされるままに、俺は近づいていく。ひざまずこうとすると、すぐに手で制された。

 片唇を釣り上げて、心底楽しそうな顔で俺を見ている。

 

「お主の勝利である以上、あの小物をどうしても良い。そなたは、何を選ぶ?」

 

 俺はただ、エミリの方を見た。最前列で見守ってくれていた、腕を吊ったままのエミリを。

 彼女はゆっくりと立ち上がって、俺の方に歩いてくる。静かに、ただ一歩一歩。俺のことだけを、じっと見ながら。

 

 俺は駆け寄っていって、しっかりと支えながら女王様のもとへと向かう。エミリに目を合わせると、ただ頷いてくれた。

 

「女王様。俺の願いは、今からエミリが言葉にすることです。たとえどんなことであったとしても」

 

 そう。俺の復讐は、もう終わった。ビリーの弱さを示すことで。今もまだ、ただうなだれたままなのだから。

 だったら、エミリの願いを叶えるべきだ。復讐を望むとしても、許しを望むとしても。俺の気持ちより、よほど大事なことがある。

 エミリが何を願うのか。それがすべて。責任を持つことこそ、俺の役割。

 

 女王様は、すっと目を細めてエミリを見る。どこか、観察するように。エミリは少しだけ震えていた。目を伏せて、自分を抱きしめるように。

 それを支えながら、俺はただ隣のエミリに向き合う。

 

「君の気持ちを、聞かせてくれ。君の願いこそが、俺の願いだ。決めたくない時だけ、俺が決める」

 

 エミリは俺の言葉を受けて、ゆっくりと女王様の方を見る。決意を秘めたような目で、しっかりと。

 

「良いですか、女王陛下」

「構わぬ。わらわの希望を、見事に叶えたのだ。その褒章は、あってしかるべきよ」

 

 くつくつと笑う女王様の隣から、男が一歩前に出てきた。

 

「陛下。恐れながら、剣のみで勝ったとは言えぬのではないかと……。膝を使ったのは、事実でありますゆえ」

 

 言われてみれば、確かに。俺は剣技の範囲だというつもりだった。剣を振りながら足を踏むくらい、普通にやるし。ただ、厳密に言えば剣術ではないと言われれば、反論はできないんだよな。もしかして、やってしまったか?

 

 祈るように女王様を見ると、笑みで返された。そして女王様は、じろりと男へと目を向ける。冷気すら感じる冷たい目で、口を開いた。

 

「近衛騎士ともあろうものが、剣技に足を使うなと言うのか? 剣だけを振り回していれば良いと? 道場剣術しか知らぬのか? のう、ソール」

 

 女王様はちらりと俺を見てくる。やはり、俺の味方をしてくれているみたいだ。女王様を信じたのは、正しかった。

 とはいえ、近衛騎士を悪く言うこともできそうにない。あれも、女王様に対する忠誠なのだろうし。

 

「い、いや……。それは、その……」

「ハッキリ言って良いぞ。そなたであれば、わらわの言葉に逆らったとしても許そう」

 

 息が届くような距離で、ささやかれる。どこか、色っぽい声で。俺はつばを飲んでしまった。

 

「陛下!」

「二度は言わぬぞ。下がれ」

「はっ……」

 

 拳を握りしめたまま、近衛騎士は下がっていく。どこか、屈辱そうに顔を歪めながら。それを冷たい目で見送って、女王様は笑顔で俺を見てきた。

 

「さて、話がそれてしまったな。ソールの願い、わらわが確かに叶えよう。エミリとやら、申すがよい」

 

 視線を向けられたエミリは、息を吸って、吐く。そして、しっかりと女王様に向き合って宣言した。

 

「二度と、ビリーが騎士として戦えないようにすること。それが、私の望む罰です」

「それが望みか。ソール、構わぬな?」

 

 女王様は、試すように俺を見てくる。少しだって迷うことなく、頷いた。

 

「エミリの願いが俺の願いだと、ハッキリと言いました。二言はありません」

「確かに聞き届けよう。さて、下がれと言ったが……。貴様にも役割ができたようよの。やれ」

 

 近衛騎士にあごで指示していた。受けた騎士は、一度ひざまずいてから動き出す。ビリーの前に向かっていって、手を伸ばす。

 

「焼き尽くせ、業炎(インファナル)」

 

 その手に、赤い杖が現れる。すぐに、近衛騎士はビリーに杖を向けた。

 

「ビリーの星枢力(スターサイン)を、焼き尽くせ」

 

 そのままビリーは燃え上がり、激しくのたうち回っていた。女王様を見ると、手で制された。よく見ると、煙や焦げの匂いはしない。つまり、命に関わるような攻撃ではない。

 そうか、星枢力(スターサイン)だけを燃やしているんだな。そっと胸をなでおろした。

 

 しばらくして、炎は消える。ビリーからは、少しも力を感じ取れなかった。

 

 近衛騎士は、観客席に目を向ける。その先に、ユミナさんがいた。彼女はただ、胸を抑えてうつむく。

 なにか、あったのか? 俺はただ、近衛騎士を見る。彼はただ、眉を下げて悲しそうな顔をしていた。

 

 近衛騎士を見続けると、硬い表情に戻って女王様のもとへと戻っていく。そして、じっと立ち尽くしていた。

 

 女王様を見ると、少しだけ唇を持ち上げている。今もまだ、俺だけを見ながら。

 

「ソールには及ばぬが、悪くない能力であろう? 昔は、見るに耐えぬほど弱かったものだが……。ある敗北を機に、鍛え直したらしい」

 

 そう言って、女王様はちらりとユミナさんの方を見る。もしかして、ユミナさんと関係があるのだろうか。いや、無関係の俺が問いかけるべきことではない。事実がどうあれ、ユミナさんが言いたいかどうかがすべて。

 それに、俺には聞くべきこともある。俺の復讐の、その結末をしっかりと確認しなければならない。

 

「女王様。ビリーは……」

「エステルと読んでもよいのだぞ? そなたには、特別に許そう」

 

 女王様は屈んで、柔らかそうなものが目に入ってしまう。そんな状況じゃないのに、目が吸い寄せられてしまいそうだ。

 というか、すごい服の切れ目なんだけど……。いや、真剣な話なんだ。ちゃんと本題に向き合わないと……。

 

「そ、その……。エステル様……」

「あはは、いつものソール君だ……」

 

 こぼれたような声が届いて、エミリに視線が向かいそうになる。その前に、女王様にあごを押さえられた。ニンマリと笑うのが、目に入る。

 

「そうか、これがいつものソールか。顔を真っ赤にするとは、愛らしいものよの。お主が近衛騎士になってくれたのなら、楽しそうなものだが……」

「陛下。お言葉ですが……」

「まったく、つまらぬやつよの。さて、ソール。こやつの能力は、持って1年であろう」

 

 その言葉が聞こえて、気づけば息がこぼれていた。

 なんだかんだで、目の前で誰かの人生が終わる姿は見たくなかったらしい。俺の手でビリーの能力を殺していたら、いま感じた重さを背負うことになっていた。

 女王様に、助けられたのかもしれないな。そう感じて、女王様の方を見る。楽しげに、ニヤリと笑っていた。

 

「エミリと言ったか。貴様が望むのであれば、定期的にかけ直させても良いが……」

 

 その言葉に、エミリは俺の方を見る。そして、目を閉じてゆっくりと首を横に振った。

 

「いえ。ソール君に、重すぎるものは背負わせたくありませんから」

「そうか。では、下がって良いぞ」

 

 エミリは一度頭を下げて、ゆっくりと戻っていく。付き添おうとすると、女王様は笑顔で手を振ってから堂々と去っていった。

 

「またの、ソール」

 

 それに頭だけ下げて、エミリに寄り添う。

 隣で支えながら、俺たちは保健室に向けて歩いていく。ただ、足音だけが響く。

 エミリは、何度もうつむいていた。だから、気軽に声をかけることもできないまま。

 

 たどり着いた先で、ふたりきりになって。俺たちはそっと向かい合う。

 エミリは、下を見て、拳を握りしめて、目をさまよわせる。少しして、俺に目を合わせる。とても真剣な目で、俺を見ていた。重いものを背負ったような顔で。

 

 ゆっくりと、エミリは口を開く。

 

「私、やっぱりソール君にはふさわしくないと思うんだ」

 

 悲痛そうな声で、そう語られる。

 

 エミリ……? どういうことだ……?

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