スポ根みたいな異能力バトル世界で即死チートを持ってしまった   作:maricaみかん

19 / 20
19話 壊れない約束を

 エミリは告げてきた。彼女は俺にふさわしくないのだと。とても苦しそうに顔をこわばらせて、罪を告白するかのように。

 だから、分かる。本当にふさわしくないのだと思っているのだと。前にも俺を騙していたとしたらとか言っていた記憶があるし、本当に罪悪感があるのかもしれない。

 そうだとしてだ。俺のやることは変わらない。ただ、エミリを信じる。それだけ。

 

 ふたりしかいない保健室の中、俺はまっすぐにエミリに向かい合った。

 

「エミリは、ずっと俺を支えてくれたよな。出会った時から、今まで」

 

 エミリは唇も引き結んで、目をさまよわせている。どこか迷子みたいに、行き場もなく。

 数秒ほど、間が空く。それから、ためらうようにゆっくりと口を開いていた。

 

「でも、それは純粋な気持ちじゃなくて……」

「俺は何度も助けられた。エミリがいたから、スティアと仲良くできた。レイラと仲直りできたんだ。その感謝は、どんな理由があったって変わらない」

 

 俺はただ、エミリと目を合わせ続ける。どんな気持ちでいるか、しっかりと伝わるように。

 エミリはうつむいて、左手を少し握りしめていた。うつむいて、少しだけ目線を動かして。言葉を探すような姿に、俺はただ待ち続けた。

 震えるエミリの唇が、わずかに開いていく。

 

「そっか。いつか、ソール君に本当のことを話すかもしれないね……。その時には、きっとソール君も……」

 

 エミリは力ない声で話している。消えゆきそうな声は、本当に遠くに行ってしまうかのよう。

 胸に刻みこむように、静かに聞いた。言葉が途切れた瞬間に、俺は返していく。

 

「どんなことがあったって、俺とエミリは友達だ。他でもない、エミリに誓うよ」

「ソール君……。じゃあ、指切りしてくれる?」

 

 そう言って、エミリは左手の小指を差し出してくる。一瞬だって、迷うことはなかった。

 指どうしが絡み合う中で、少しだけエミリが強く絡めつけてきたような気がする。締め付けるように、ギュッと。俺はただ、受け入れるだけ。それだけ。

 

 ゆっくりと、エミリは穏やかな顔になっていく。それを見て、わずかに息がこぼれた。

 

「ありがとう、ソール君。じゃあ、今度はおめでとうだね。とってもカッコよかったよ。きっと、誰よりも」

 

 花開くような笑顔とは、きっと今のエミリのこと。そう思わせるくらいの笑顔が、目の前にあった。

 だからなのかもしれない。いつもなら照れてしまいそうな状況でも、素直に返せたんだ。

 

「今の笑顔だけで、頑張った甲斐があったよ。ありがとう、エミリ。そしてごめん。エミリの言葉を信じてやれなくて」

「ソール君は、ずっと私のことを信じてくれていたよ?」

 

 無邪気な様子で、首を傾げている。エミリにとって、間違いなく本心ということ。

 だが、俺が辻斬りの話を聞き流したせいで、エミリを守ってやれなかった。それは、間違いなく俺の罪。

 許してくれなんて、言えるはずもないが。

 

「いや、辻斬りの……。そうじゃないな。エミリが満足してくれているなら、それで良いんだ」

「ふふ、いつの間に口説くようなことを言えるようになったの? ソール君、今度は女たらしキングになるつもり?」

 

 半笑いで言うエミリを見て、俺はもういつもに戻ったんだと思えた。からかわれるだけの日常に。

 だから、自然と言葉が出てきたんだ。体が覚えているように、勝手に。

 

「女たらしキングはひどくないか!? いや、褒められてるのか……? 絶対に不名誉だと思うんだけど!?」

 

 クスクスと笑いながら、エミリは俺を見ていた。どこか優しい表情で、そっと見守るように。

 

「じゃあ、よく考えてみて? ソール君の周り、女の人ばかりじゃない?」

「それは……。否定できないが……。で、でも競い合って仲良くなっただけというか! 下心はないぞ!?」

「本気で私たちを尊敬しているからこそ、厄介なんだよね……」

「どういうことだ!? 下心じゃないとは、ちゃんと認めてくれているんだよな!?」

「ソール君は、とってもおバカさんだってことだよ」

 

 とても晴れやかな笑顔で語っていた。いつくしむような声で、そっと。

 本当にどういうことだよ! なんで笑顔でバカだねって言われたんだ!? 歪んだ愛情とか、そういうやつ?

 いや、自分で言っていて恥ずかしいな……。エミリが俺のことを好きでいる前提じゃないか。いや、友達としては相当好きでいてくれるとは信じているけど。

 

 いや、でも愛情を召し上がれとか言ってたし……。

 俺のことを好きなのかって聞くのがダメだってことくらい、いくら俺でも分かるぞ。

 だが、ならどうやって世の中の恋人はお互いの好意を確認しているんだ……? 分からない。何も分からない……。

 

「お、おバカさん……。俺が、おバカさん……」

「ふふ、ユミナさんたちにも聞いてみようか?」

「やめてくれよ!? 同意されたら、もう立ち直れないからな!?」

「あはは、いつものソール君だ。私の大事な大事なおもちゃの」

「いつの間にかおもちゃ扱いされていた!?」

 

 エミリはずっと楽しそうに笑っている。そっと胸に左手を当てて、今の時間を噛みしめるかのように。

 だから、俺はただエミリの言葉を受け止めるだけでいい。日常を望むのならば、応えるだけ。

 そうだよな。右腕を折って、ずっと不安だったはずだ。苦しかったはずだ。ただの日常に戻れるのなら、それが一番だよな。

 

 正解であることを示すように、エミリは笑顔のまま。

 

「ふふ。ソール君はずっと私のおもちゃだよ。これまでも、これからもね」

「それでエミリが喜んでくれるなら……? いや、やっぱりおかしいよ! 普通に友達でいてくれよ!」

「あはは、仕方ないなあ。ソール君が望む限り、私たちはずっと友達だよ」

「なら、いつまでも友達だ。そうだろ、エミリ」

「ソール君……。うん、そうだね」

 

 エミリはとても幸せそうに頷いていた。思わず見とれそうなほどの、本当に素敵な顔。

 だから、この誓いは決して壊れない。そう信じることができたんだ。

 

「今度こそ、誰にもエミリを傷つけさせたりしない。約束するよ」

「うん、信じるよ。ソール君のことだけは、絶対に」

「ありがとう。何があっても、嘘にはしないさ」

「そっか……。やっぱり、ソール君にはお礼がしたいな」

 

 わずかに目尻を下げて、染み渡るような口調で語られる。

 今のエミリには、負担になるかもしれない。苦しくないのなら、感謝の気持ちは受け取りたいが。

 とりあえず、一度は断っておこう。ちょっとお礼がしたい程度なら、手間はかけない方が良いのだし。

 

「気にしなくて良い。さっきの笑顔だけで、十分だ」

「ううん。私がしたいことだから。腕が治ったら、祝勝会をするね」

「病み上がりになるんだし、無理はしなくても……」

「治ったら、だから。リハビリも必要だし、ちょうど良いかなって」

「なら、大変なことがあったら何でも言ってくれよ」

「うん。ソール君に心配をかけたら、本末転倒だからね」

「そうか。今は、手伝うことはないか?」

「あはは、ソール君は私の着替えを見たいの?」

「き、きがっ……。ごめん、すぐに出ていくから!」

 

 ニンマリと俺を見つめるエミリから、俺は全力で逃げ出した。

 

 特にすることもないので、いつもの訓練場所に向かう。すると、ユミナさんとスティア、レイラが待っていた。

 ユミナさんは頬を膨らませて、スティアは腰に手を当てて細めた目で見てきて、レイラは腕を組んで俺と目を合わせてくる。

 

 代表するかのように、ユミナさんは一歩前に出てきた。

 

「ソールさん、どうして相談してくれなかったんですか? エミリさんの事情を知っていたら、私たちも手伝いましたよ」

 

 ユミナさんの言葉が、胸に突き刺さった。本当に、その通りとしか言いようがない。

 即死(ダウンフォール)を使おうとしたのは、明らかに間違いだった。ちゃんと相談していたら、もっとマシな道を選べたかもしれない。

 能力に関しては、とても言えやしない。使っただけで人が死ぬ能力なんだ。無機物すらもチリと消えゆく能力なんだ。どれほどおぞましいかなんて、俺は誰よりも知っている。

 

 だが、せめてできる範囲での説明は必要だよな。確実に心配させたのだから。

 

「その……。怒りに染まった俺を、見られたくなかったんだ。みんなの顔を見たら、復讐心が消えそうだったんだ」

「ほんと、バカね……。あたしだって、腹が立ってたわよ。それに、仮にも王女よ。もっと残酷な手段なんて、いくらでもとれたわ。適当に殺しても、問題にもならなかったでしょうよ」

 

 過激な発言をしている割に、俺に対しては穏やかな顔を見せてくれている。

 そうだな。別に即死を使わなくたって、復讐なんていくらでもできた。スティアの言った案だけでも、他に発想も膨らむし。

 

 例えば、王女に失礼なことをしたという無実の罪を着せるとか。単純に権力で追い込むとか。

 スティアに悪事を働かせることになるから、実際にはやらなかったと思う。それでも、他の案が思いつくだけでも大きい。

 今の案だけでも出していれば、他の発想がスティアたちから出ていたかもしれないし。

 本当に視野が狭くなっていたんだな。今になって、強く実感させられる。

 

「ごめん。素直に頼っていれば、みんなに心配もかけずに済んだよな」

「本当だとも。せっかく仲直りできたのにって、不安だったんだよ」

 

 レイラは少しだけ目を細めて俺を見ている。まったくもって、返す言葉もない。

 逆の立場なら、俺だって間違いなく不安になった。とんでもなく自分勝手だったと、思い知らされるばかり。

 俺はただ、深く頭を下げる。言い訳なんて、少しもできない。ただ俺が間違っていただけと、誰にでも分かるんだから。

 

 しばらく頭を下げたままでいると、レイラから息がこぼれる音が聞こえた。

 

「ソール君、頭を上げてくれ。僕だって、君を傷つけたいわけじゃないんだ」

 

 言われるがままに、頭を上げる。悲しそうに眉を下げるレイラの姿が目に入った。

 たぶん、俺にできることはひとつ。失った時間を少しでも取り戻せるように、みんなとの時間を大事にすること。それだけ。

 申し訳なさでみんなから距離を取ることこそ、みんなの気持ちを無視することなんだから。

 

「俺から言うのもなんだが、訓練に戻ろう。ときどき、エミリのお見舞いにも行って」

「はい、それで良いんです。私たちの望みは、ソールさんと過ごすことだったんですから」

 

 とても優しい顔のユミナさんに、両手を包みこまれた。スティアもレイラも頷いている。だったら、もう謝罪はやめよう。これ以上は、ただの自己満足にしかならない。

 だって、みんなは俺と過ごすことを望んでくれている。少しでも良い時間にすることが、つぐないで恩返しのはずだ。

 

 俺たちはみんな、お互いを大事にしている。それだけは、きっと間違いない。

 なら、もっと関係を深くできるような何かが良いかな。

 

「じゃあ、ユミナさんにもレイラと戦ってもらうとかどうだ? お互いに実力を知ったら、意見の交換も進むかもしれない」

「ふふ、良いですね。ソールさんたちが認めるほどの腕前、興味があったんです」

「僕こそ、ユミナさんには興味があったんだ。僕の技がどの程度通じるか、確かめさせてもらうよ」

 

 なごやかに、それでいて鋭い雰囲気でふたりはお互いを見ている。良い関係になってくれそうで、ありがたい。

 というか、もしかしたらもう仲良くなっているのかもな。一緒に訓練場にいたあたり。

 

 ふたりは剣を構えて、お互いに向かい合っている。

 

「観戦も、悪くないわね。あたしがふたりに勝つために足りないもの、しっかりと確かめさせてもらうわ」

 

 ふたりは、スティアの言葉も聞こえていないように見える。俺が合図をすると、すぐに動き出した。

 

 レイラが鋭く剣を振り下ろし、ユミナさんが打ち払う。レイラが有効打を与えそうになるたびに、剣筋がぶれていた。

 勝負そのものは、割と一方的に終わった。レイラの攻撃は、ただの一度たりとも届くことはなかった。

 

 剣術ではレイラが優位を取る場面も多かったが、それだけ。因果を乗り越えることまでは届かないまま。

 レイラは手を何度か握って離してを繰り返していた。何かの感触を確かめているよう。

 

「あー、負けちゃったか。まだまだ先は遠いね」

「私には及ばないにしても、確かな実力を感じます。剣技では、学ぶことも多いでしょうね」

「やっぱり、ユミナは強すぎるわよね……。因果への対策ができなきゃ、勝負の土台にも立てないんだもの」

「勝手に攻撃が外れたりするから、俺だって対策は難しいぞ」

「ソールさんは、そんな私に勝ったんですけどね。すぐに、追いついてみせますけれど」

「僕にも、少しだけ道が見えてきたよ。今すぐは無理でも、きっと勝てるはずさ」

 

 そんな感じで、俺たちは以前のように、いや、きっともっと仲良く話すことができた。

 

 お互いの技術や知識を教え合い、それを受けてまた別の案を出す。そんな毎日が続く。

 エミリもすぐに腕を治して、ちょっとずつ俺たちを支えてくれていた。

 

 結局5人で祝勝会をすることになり、当日はエミリの部屋にみんなで向かう。

 

 そして扉を開くと、飾り付けられた部屋の中に大きな文字が見えた。

 

『女たらしキングの勝利を祝って』

 

 エミリ、なんてことを書いてくれたんだ!?

 みんなの顔を見ることが、とてもできないんだが!?

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。