スポ根みたいな異能力バトル世界で即死チートを持ってしまった 作:maricaみかん
エミリは告げてきた。彼女は俺にふさわしくないのだと。とても苦しそうに顔をこわばらせて、罪を告白するかのように。
だから、分かる。本当にふさわしくないのだと思っているのだと。前にも俺を騙していたとしたらとか言っていた記憶があるし、本当に罪悪感があるのかもしれない。
そうだとしてだ。俺のやることは変わらない。ただ、エミリを信じる。それだけ。
ふたりしかいない保健室の中、俺はまっすぐにエミリに向かい合った。
「エミリは、ずっと俺を支えてくれたよな。出会った時から、今まで」
エミリは唇も引き結んで、目をさまよわせている。どこか迷子みたいに、行き場もなく。
数秒ほど、間が空く。それから、ためらうようにゆっくりと口を開いていた。
「でも、それは純粋な気持ちじゃなくて……」
「俺は何度も助けられた。エミリがいたから、スティアと仲良くできた。レイラと仲直りできたんだ。その感謝は、どんな理由があったって変わらない」
俺はただ、エミリと目を合わせ続ける。どんな気持ちでいるか、しっかりと伝わるように。
エミリはうつむいて、左手を少し握りしめていた。うつむいて、少しだけ目線を動かして。言葉を探すような姿に、俺はただ待ち続けた。
震えるエミリの唇が、わずかに開いていく。
「そっか。いつか、ソール君に本当のことを話すかもしれないね……。その時には、きっとソール君も……」
エミリは力ない声で話している。消えゆきそうな声は、本当に遠くに行ってしまうかのよう。
胸に刻みこむように、静かに聞いた。言葉が途切れた瞬間に、俺は返していく。
「どんなことがあったって、俺とエミリは友達だ。他でもない、エミリに誓うよ」
「ソール君……。じゃあ、指切りしてくれる?」
そう言って、エミリは左手の小指を差し出してくる。一瞬だって、迷うことはなかった。
指どうしが絡み合う中で、少しだけエミリが強く絡めつけてきたような気がする。締め付けるように、ギュッと。俺はただ、受け入れるだけ。それだけ。
ゆっくりと、エミリは穏やかな顔になっていく。それを見て、わずかに息がこぼれた。
「ありがとう、ソール君。じゃあ、今度はおめでとうだね。とってもカッコよかったよ。きっと、誰よりも」
花開くような笑顔とは、きっと今のエミリのこと。そう思わせるくらいの笑顔が、目の前にあった。
だからなのかもしれない。いつもなら照れてしまいそうな状況でも、素直に返せたんだ。
「今の笑顔だけで、頑張った甲斐があったよ。ありがとう、エミリ。そしてごめん。エミリの言葉を信じてやれなくて」
「ソール君は、ずっと私のことを信じてくれていたよ?」
無邪気な様子で、首を傾げている。エミリにとって、間違いなく本心ということ。
だが、俺が辻斬りの話を聞き流したせいで、エミリを守ってやれなかった。それは、間違いなく俺の罪。
許してくれなんて、言えるはずもないが。
「いや、辻斬りの……。そうじゃないな。エミリが満足してくれているなら、それで良いんだ」
「ふふ、いつの間に口説くようなことを言えるようになったの? ソール君、今度は女たらしキングになるつもり?」
半笑いで言うエミリを見て、俺はもういつもに戻ったんだと思えた。からかわれるだけの日常に。
だから、自然と言葉が出てきたんだ。体が覚えているように、勝手に。
「女たらしキングはひどくないか!? いや、褒められてるのか……? 絶対に不名誉だと思うんだけど!?」
クスクスと笑いながら、エミリは俺を見ていた。どこか優しい表情で、そっと見守るように。
「じゃあ、よく考えてみて? ソール君の周り、女の人ばかりじゃない?」
「それは……。否定できないが……。で、でも競い合って仲良くなっただけというか! 下心はないぞ!?」
「本気で私たちを尊敬しているからこそ、厄介なんだよね……」
「どういうことだ!? 下心じゃないとは、ちゃんと認めてくれているんだよな!?」
「ソール君は、とってもおバカさんだってことだよ」
とても晴れやかな笑顔で語っていた。いつくしむような声で、そっと。
本当にどういうことだよ! なんで笑顔でバカだねって言われたんだ!? 歪んだ愛情とか、そういうやつ?
いや、自分で言っていて恥ずかしいな……。エミリが俺のことを好きでいる前提じゃないか。いや、友達としては相当好きでいてくれるとは信じているけど。
いや、でも愛情を召し上がれとか言ってたし……。
俺のことを好きなのかって聞くのがダメだってことくらい、いくら俺でも分かるぞ。
だが、ならどうやって世の中の恋人はお互いの好意を確認しているんだ……? 分からない。何も分からない……。
「お、おバカさん……。俺が、おバカさん……」
「ふふ、ユミナさんたちにも聞いてみようか?」
「やめてくれよ!? 同意されたら、もう立ち直れないからな!?」
「あはは、いつものソール君だ。私の大事な大事なおもちゃの」
「いつの間にかおもちゃ扱いされていた!?」
エミリはずっと楽しそうに笑っている。そっと胸に左手を当てて、今の時間を噛みしめるかのように。
だから、俺はただエミリの言葉を受け止めるだけでいい。日常を望むのならば、応えるだけ。
そうだよな。右腕を折って、ずっと不安だったはずだ。苦しかったはずだ。ただの日常に戻れるのなら、それが一番だよな。
正解であることを示すように、エミリは笑顔のまま。
「ふふ。ソール君はずっと私のおもちゃだよ。これまでも、これからもね」
「それでエミリが喜んでくれるなら……? いや、やっぱりおかしいよ! 普通に友達でいてくれよ!」
「あはは、仕方ないなあ。ソール君が望む限り、私たちはずっと友達だよ」
「なら、いつまでも友達だ。そうだろ、エミリ」
「ソール君……。うん、そうだね」
エミリはとても幸せそうに頷いていた。思わず見とれそうなほどの、本当に素敵な顔。
だから、この誓いは決して壊れない。そう信じることができたんだ。
「今度こそ、誰にもエミリを傷つけさせたりしない。約束するよ」
「うん、信じるよ。ソール君のことだけは、絶対に」
「ありがとう。何があっても、嘘にはしないさ」
「そっか……。やっぱり、ソール君にはお礼がしたいな」
わずかに目尻を下げて、染み渡るような口調で語られる。
今のエミリには、負担になるかもしれない。苦しくないのなら、感謝の気持ちは受け取りたいが。
とりあえず、一度は断っておこう。ちょっとお礼がしたい程度なら、手間はかけない方が良いのだし。
「気にしなくて良い。さっきの笑顔だけで、十分だ」
「ううん。私がしたいことだから。腕が治ったら、祝勝会をするね」
「病み上がりになるんだし、無理はしなくても……」
「治ったら、だから。リハビリも必要だし、ちょうど良いかなって」
「なら、大変なことがあったら何でも言ってくれよ」
「うん。ソール君に心配をかけたら、本末転倒だからね」
「そうか。今は、手伝うことはないか?」
「あはは、ソール君は私の着替えを見たいの?」
「き、きがっ……。ごめん、すぐに出ていくから!」
ニンマリと俺を見つめるエミリから、俺は全力で逃げ出した。
特にすることもないので、いつもの訓練場所に向かう。すると、ユミナさんとスティア、レイラが待っていた。
ユミナさんは頬を膨らませて、スティアは腰に手を当てて細めた目で見てきて、レイラは腕を組んで俺と目を合わせてくる。
代表するかのように、ユミナさんは一歩前に出てきた。
「ソールさん、どうして相談してくれなかったんですか? エミリさんの事情を知っていたら、私たちも手伝いましたよ」
ユミナさんの言葉が、胸に突き刺さった。本当に、その通りとしか言いようがない。
能力に関しては、とても言えやしない。使っただけで人が死ぬ能力なんだ。無機物すらもチリと消えゆく能力なんだ。どれほどおぞましいかなんて、俺は誰よりも知っている。
だが、せめてできる範囲での説明は必要だよな。確実に心配させたのだから。
「その……。怒りに染まった俺を、見られたくなかったんだ。みんなの顔を見たら、復讐心が消えそうだったんだ」
「ほんと、バカね……。あたしだって、腹が立ってたわよ。それに、仮にも王女よ。もっと残酷な手段なんて、いくらでもとれたわ。適当に殺しても、問題にもならなかったでしょうよ」
過激な発言をしている割に、俺に対しては穏やかな顔を見せてくれている。
そうだな。別に即死を使わなくたって、復讐なんていくらでもできた。スティアの言った案だけでも、他に発想も膨らむし。
例えば、王女に失礼なことをしたという無実の罪を着せるとか。単純に権力で追い込むとか。
スティアに悪事を働かせることになるから、実際にはやらなかったと思う。それでも、他の案が思いつくだけでも大きい。
今の案だけでも出していれば、他の発想がスティアたちから出ていたかもしれないし。
本当に視野が狭くなっていたんだな。今になって、強く実感させられる。
「ごめん。素直に頼っていれば、みんなに心配もかけずに済んだよな」
「本当だとも。せっかく仲直りできたのにって、不安だったんだよ」
レイラは少しだけ目を細めて俺を見ている。まったくもって、返す言葉もない。
逆の立場なら、俺だって間違いなく不安になった。とんでもなく自分勝手だったと、思い知らされるばかり。
俺はただ、深く頭を下げる。言い訳なんて、少しもできない。ただ俺が間違っていただけと、誰にでも分かるんだから。
しばらく頭を下げたままでいると、レイラから息がこぼれる音が聞こえた。
「ソール君、頭を上げてくれ。僕だって、君を傷つけたいわけじゃないんだ」
言われるがままに、頭を上げる。悲しそうに眉を下げるレイラの姿が目に入った。
たぶん、俺にできることはひとつ。失った時間を少しでも取り戻せるように、みんなとの時間を大事にすること。それだけ。
申し訳なさでみんなから距離を取ることこそ、みんなの気持ちを無視することなんだから。
「俺から言うのもなんだが、訓練に戻ろう。ときどき、エミリのお見舞いにも行って」
「はい、それで良いんです。私たちの望みは、ソールさんと過ごすことだったんですから」
とても優しい顔のユミナさんに、両手を包みこまれた。スティアもレイラも頷いている。だったら、もう謝罪はやめよう。これ以上は、ただの自己満足にしかならない。
だって、みんなは俺と過ごすことを望んでくれている。少しでも良い時間にすることが、つぐないで恩返しのはずだ。
俺たちはみんな、お互いを大事にしている。それだけは、きっと間違いない。
なら、もっと関係を深くできるような何かが良いかな。
「じゃあ、ユミナさんにもレイラと戦ってもらうとかどうだ? お互いに実力を知ったら、意見の交換も進むかもしれない」
「ふふ、良いですね。ソールさんたちが認めるほどの腕前、興味があったんです」
「僕こそ、ユミナさんには興味があったんだ。僕の技がどの程度通じるか、確かめさせてもらうよ」
なごやかに、それでいて鋭い雰囲気でふたりはお互いを見ている。良い関係になってくれそうで、ありがたい。
というか、もしかしたらもう仲良くなっているのかもな。一緒に訓練場にいたあたり。
ふたりは剣を構えて、お互いに向かい合っている。
「観戦も、悪くないわね。あたしがふたりに勝つために足りないもの、しっかりと確かめさせてもらうわ」
ふたりは、スティアの言葉も聞こえていないように見える。俺が合図をすると、すぐに動き出した。
レイラが鋭く剣を振り下ろし、ユミナさんが打ち払う。レイラが有効打を与えそうになるたびに、剣筋がぶれていた。
勝負そのものは、割と一方的に終わった。レイラの攻撃は、ただの一度たりとも届くことはなかった。
剣術ではレイラが優位を取る場面も多かったが、それだけ。因果を乗り越えることまでは届かないまま。
レイラは手を何度か握って離してを繰り返していた。何かの感触を確かめているよう。
「あー、負けちゃったか。まだまだ先は遠いね」
「私には及ばないにしても、確かな実力を感じます。剣技では、学ぶことも多いでしょうね」
「やっぱり、ユミナは強すぎるわよね……。因果への対策ができなきゃ、勝負の土台にも立てないんだもの」
「勝手に攻撃が外れたりするから、俺だって対策は難しいぞ」
「ソールさんは、そんな私に勝ったんですけどね。すぐに、追いついてみせますけれど」
「僕にも、少しだけ道が見えてきたよ。今すぐは無理でも、きっと勝てるはずさ」
そんな感じで、俺たちは以前のように、いや、きっともっと仲良く話すことができた。
お互いの技術や知識を教え合い、それを受けてまた別の案を出す。そんな毎日が続く。
エミリもすぐに腕を治して、ちょっとずつ俺たちを支えてくれていた。
結局5人で祝勝会をすることになり、当日はエミリの部屋にみんなで向かう。
そして扉を開くと、飾り付けられた部屋の中に大きな文字が見えた。
『女たらしキングの勝利を祝って』
エミリ、なんてことを書いてくれたんだ!?
みんなの顔を見ることが、とてもできないんだが!?
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