スポ根みたいな異能力バトル世界で即死チートを持ってしまった   作:忘れられた女神

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2話 突然挑まれた命がけの決闘

 俺の鼻先に、大剣が突きつけられている。その持ち主である王女様は、あまりにも鋭い目をしている。焼き焦がすかのように、俺を睨むまま。

 どちらかが死ぬまで戦えとも言われた。どう見ても、怒りに打ち震えている。

 いったい、どこで間違ったのだろう。今となっては、振り返ることしかできない。

 

 最初に王女様とふたりの部屋に案内された時、まず俺はひざまずいた。

 

「頭を上げて。私たちは、対等に競い合う関係よ。王女とか平民とか、強さの前では何の意味もないことよ」

 

 そっと俺の肩に手を添えて、起き上がらせてくれる。真っ赤な瞳には、燃えるような熱情があった。

 

「ありがとうございます。俺はソール。一応、今年の星枢騎士(ゾディアック)です」

「知っているわ。英雄の孫娘、ユミナを破ったんだって。あたしはスティア。よろしくお願いするわ」

 

 そう言って、手を差し出してくる。服で拭いてから、俺も返す。同じ制服の袖が、重なった。

 柔らかさの中に、硬さがある。ユミナさんと同じ。スティア王女の努力を、言葉よりもはっきりと伝えてくる。

 きっと、とても素晴らしい人。本気で友達になりたい。そう感じた。

 

「はい、こちらこそ。仲良くできると、光栄です」

「……固い手ね。これだけでも、分かるわ。あなたが、あたしより努力してきたってことが」

 

 弾んだ声で語られる。褒められることは、とても嬉しい。

 ……まあ、俺は努力が確実に成功するからというのもあるが。今は、言っても仕方ないか。

 

「スティア王女こそ、とても努力してきたことが伝わります」

「うふふ、良いわね。あなたみたいな人と出会えただけでも、国から飛び出してきた価値があるってものよ」

「俺も、あなたが満足できる学園生活になるように頑張りますね」

「王女だからって、気を使わなくていいのよ。そんなんじゃ、強くなれないでしょ?」

「熱心なんですね。俺も、同じように頑張りたいです」

「なら、さっそく戦いましょうか。あたしの強さとアキレス皇国の誇り、見せてあげるわ」

 

 唇の端を釣り上げて、獰猛に笑っていた。これもユミナさんのように、激しく。だから、きっと仲良くなれるはず。そう思えた。

 

「お手柔らかに、お願いします」

「あなたの星枢器(シリウス)、とくと味わわせてもらうわね。もちろん、あたしだって牙を突き立ててやるわ。この魂にかけて、ね」

 

 俺を見つめる眼差しは、とても強い。戦いに全身全霊をかけているのだと、見て取れた。

 ただ、だからこそ言っておかなければならないことがある。これだけは、譲れない。

 

星枢器(シリウス)の能力を、俺は使いません。その条件で、戦いましょう」

 

 そう言うと、スティア王女はぽかんと口を開けた。まるで、予想外の言葉を言われたかのように。

 

「……えっ」

 

 少しして、王女様は目を閉じる。何事かを考えるように、深く。

 一度震えて、俺を見る。目の奥まで探るように、じっと。何かを察したように目を見開いて、うつむいていた。

 次に俺を見た時、目がすっと細まっていった。激しい冷たさを覚えるほど刺々しく。どこまでもきつく、そして鋭く睨みつけてくる。

 

「そう。あたしには、本気を出すまでもないってわけ。甘く見ていると、痛い目見るわよ」

「違います。もし俺が……」

 

 その先は、続かない。人を殺す能力だなんて、言えるはずがないだろ。

 沈黙が、少しだけ場を支配する。とてもではないが、目を合わせられない。

 

 スティア王女から、歯ぎしりの音が聞こえた。俺が何をしてしまったか、遅れて理解できた。

 空気が冷えていく感覚が、強く伝わってくる。

 

「あんたが能力を使ったら、あたしとは勝負にすらならない。そう言いたいんでしょう」

 

 口元を引き結びながら、低い声で淡々と告げられる。

 

「俺はただ、スティア王女を傷つけたくないだけで……」

 

 納得できる言い方ではない。分かっていて、そう言うしかなかった。

 目の前で、太ももに拳を叩きつけていた。乾いた音が、部屋に響き渡っていく。

 スティア王女の拳は、ひどく震えている。凍えているとすら錯覚させるくらいに。

 

「それが肯定してるって言ってるのよ! ……バカにしてくれたものね」

 

 喉が枯れそうな叫びの後、顔から一気に表情が消える。声色すらも冷え切っていた。一度だけため息を吐いて、スティア王女は俺に向けて軽く手を伸ばす。

 

「圧壊せよ、静止(プリンシパリティ)

 

 星枢器(シリウス)の赤い大剣を出して、俺に突きつけてくる。焼き焦がすような目で、俺を見ていた。

 

星枢騎士(ゾディアック)ソール。あたしと決闘しなさい。どちらかが死ぬまで、ね」

 

 そうして、俺は決闘を挑まれることになった。スティア王女は、目をうるませてすらいた。

 

 言い回しに失敗したのは、否定できない。それは認める。傷つけてしまったのだろう。申し訳ないと思う。

 ただ、どう言い繕っても同じだったはずだ。スティア王女の望みは、決して叶えるわけにはいかないのだから。

 とてもではないが、即死(ダウンフォール)の能力なんて使えない。使えるはずもない。

 

 だって、死ぬんだ。スティア王女の努力も信念も、何もかもを踏みにじって。本当に、ただあっけなく。アリを踏み潰すより、ずっと無造作に。

 

 能力を使う戦いなんて、受けられるはずないだろ。どれだけ恨まれても、絶対にだ。

 

「なんと言われようとも、能力は使えません」

「死にたくなきゃ、本気を出しなさいよ。じゃないと、本気で……」

 

 スティア王女の瞳は、少しだけ揺れている。きっと、俺のことを殺したいわけじゃない。強い言葉を使っているだけなんだ。

 だから、どうか止まってくれ。俺だって、同じ気持ちなんだ。

 

「とにかく、危険なんです。俺は、あなたを殺したくなんて……」

「自分が殺される可能性すら、考えないってわけ?」

「それは……」

「良いわ。正式に、宣言する。星枢騎士(ゾディアック)ソール。あんたに、星枢決闘(リブラ)を申し付けるわ」

 

 国に申請して、ハッキリと白黒つける。そこまでするほどに、怒らせてしまったようだ。

 気持ちは、分からないとは思わない。スティア王女を軽く見ていると言われても、弁解は難しい。

 

 だから、俺は頷いた。決して死なせはしないと、胸の奥で誓いながら。

 

 すぐに、スティア王女は背中を向けて去っていく。強い足音を立てている姿が、とても印象的だった。

 俺はただ、訓練に戻るしかなかった。

 

 それからというもの、校庭の片隅での訓練を遠巻きに見つめるものばかり。ほとんどの人は、俺を見ながらひそひそと話していた。

 みんなに囲まれていたユミナさんと少し目が合ったが、それくらい。みんなの波に流されて、名残惜しそうな目をしていたけれど。

 

 一週間ほど、訓練を続ける。食事では周りの席が空いていたりしながら。ユミナさんが隣に座ろうとして、止められている姿も見た。貼り付けたような笑顔で去っていくのが、印象的だった。

 ずっと、ただ訓練し続けた。ひとりぼっちのまま、ずっと。

 騎士星枢祭(スターリット)に出る直前までくらいは、一緒に訓練していた相手もいたのだが。今は離れ離れ。

 

 俺に対する周囲の目線だけは変わって、ひたすら遠巻きにされるだけ。いつものように、ただカレンダーをめくり続けた。

 

 昼に行われる星枢決闘(リブラ)を前に、今日も俺は訓練を続ける。

 

 星枢器(シリウス)である漆黒の剣。その握りを確かめながら、ゆっくりと剣を振り下ろす。フォームは今日も安定しているようだ。

 素早く振り下ろすと、地面に当たらずとも土煙が舞う。うん、悪くない。

 剣に宿る力も軽く動かす。剣の外に出す感覚も確かめる。能力を使わないために、しっかり手札は用意している。これも大丈夫だな。手応えに頷いた。

 

 もう一度振り下ろそうとすると、後ろに気配を感じた。足音を消しているようだが、俺には分かる。

 振り向くと、金髪のちょっと派手な少女が真ん丸に目を開いているのが見えた。すぐに駆け寄ってきて、ニンマリと愛嬌たっぷりの笑顔を向けてくる。

 

「30秒も走らなきゃダメな距離で私に気づくって、すごいを通り越して気持ち悪いに入ってるよね」

「いきなり罵倒されるようなことは、した覚えがないんだが……」

 

 額に手を当てて嘆く俺をよそに、彼女は耳元へと近寄ってくる。そっと、ささやくようにかたりかけてくる。

 

「今日も今日とてエターナルぼっちキングだね、ソール君」

「もっと罵倒をしろとは言ってないぞ!?」

「じゃあ、ソール君に友達はいるの?」

 

 首を傾げながら言われた言葉が、俺に突き刺さった。

 話し相手など、それこそいま目の前にいるひとりだけ。ユミナさんとは、学園では話せていないまま。

 なら、目の前の彼女を友達だと言って良いのだろうか。いや、友達はいるのかと聞かれている時点で、カウントされていない可能性がないか?

 

 俺はただ、うなだれるだけだった。

 

「そこでエミリって言えないあたりが、君のぼっちっぷりの証だよね」

「じゃあ、俺と友達だと思ってくれるのか?」

 

 わずかな望みをかけてそう言うと、ゆっくりと目をそらされた。軽く頬をかきながら、口を結んでいる。

 

「私とソール君じゃ、釣り合わないかな……。生きている世界が、違うんだよ」

 

 あっけなく、願いは打ち砕かれた。

 ずっとひとりの俺と、誰とでも仲が良い愛嬌たっぷりの美少女じゃ、確かに生きている世界が違うだろうけど!

 

「さっきまでの話は何だったんだ!? 俺の希望を返してくれよ!」

「王女様から星枢決闘(リブラ)を挑まれたソール君が、誰からも遠巻きにされてるって話?」

「そんな解説をしてくれと頼んだんじゃない! 俺の心が壊れちゃうだろ!」

 

 エミリは人差し指をあごに当てて首を傾げている。まるで、よく分からないことを聞いたように。

 俺は普通のことを言っているはずなのに、なんて顔をするんだ。これじゃあ、俺が変な話をしたみたいじゃないか。

 

「ソール君の心と鉄をぶつけたら、たぶん鉄が砕けると思うけど……」

「俺を何だと思っているんだ? もう、何を言われても怒らないぞ……」

「結構図太い人だとは思ってるかな。私に色々言われても、平気な顔をしてるし。……ね?」

 

 唇が触れそうなくらいに、近づいてくる。とんでもない美少女の顔が、目の前いっぱいに広がっている。

 明るい金髪と真っ白な肌は陽光に照らされて輝いており、唇は吐息ですら揺れるほどプルップル。澄んだ目に見つめられると、吸い込まれそうだ。

 

 ……くっ。エミリの暴力的な魅力の前に、太刀打ちできない。

 ここまで美少女じゃなければ、もっと早く逃げ出せたかもしれないのに。俺はエミリという沼に沈んでしまっている。

 

 対抗しても、絶対に勝てない。俺はあっけなく仕留められる運命なんだ……。

 

「そ、それより。どうして俺のところに来たんだ?」

「あー、逃げたね。それで、どうしてなんだと思う?」

「……なんだろうな。なんとなく?」

「ハズレー! 正解はー、王女スティア様と星枢決闘(リブラ)をするソール君に、ルールを教えてあげるためでした!」

 

 勢いよくバツ印を作って、ニンマリとしている。

 

「どうしてそんなに楽しそうに……?」

「ソール君は覚えてないかなーって。聞く友達も、いないもんね?」

 

 指を立てながら、胸を張って宣言してくる。どうしても視線が吸い寄せられてしまうのは、悲しき男子のサガ。

 俺の目を見てニヤニヤしているあたり、絶対に気づいている。この魔性の少女は、どこまで狙っているんだ。くっ……。

 

「いくらなんでも、覚えているぞ……」

「ほんと? 相手を殺しちゃいけないこととか、分かってる?」

「当たり前だ。絶対に、誰かを殺したりするもんか」

 

 たとえ死ぬまでというルールだったとしても、変わらない。

 そもそも星枢決闘(リブラ)は殺せないルール。やはり、スティア王女は……。

 

 うん。やはり、何があっても能力を使ったりしない。どれだけ痛めつけられようと、絶対に。

 なんて、スティア王女はそんなことしないだろうけど。

 

「いくらスティアさんに殺し合いって言われたからって、忘れちゃダメだよ?」

 

 エミリは俺の額をツンと押す。楽しげな笑みを、口元に浮かべながら。

 よくもまあ、スティア王女の言葉を知っていたものだ。それとも、みんな知っているんだろうか。

 みんなが俺を見てひそひそ語っていたのを思い出す。あれは、まさか。

 

 俺は王女様にケンカを売ったって広まったということか!? だから、ユミナさんとも遠ざけられていたのか!?

 まずい。このままじゃ、俺の青春は終わってしまう。本当にエターナルぼっちキング一直線だ。

 エミリの言葉を事実にしてしまうのか? 俺は、ずっとひとりぼっちなのか?

 

 ……いや、考えても仕方ない。少しだけ息を吸って、目を閉じる。

 どの道やることは同じなんだ。今はただ、エミリとの会話に集中しよう。

 

「三歩で忘れたりはしないぞ……。国に選ばれた審判が、裁定をするんだろ?」

「分かってるのなら、良いかな。えらいえらい」

「子ども扱いされている……」

「じゃあ、頑張ってね。絶対に、ソール君なら勝てるよ。誰よりも頑張ってきたの、知ってるから」

 

 俺の手を握って、さっきまでとは違う真剣な顔で語りかけてくる。どこまでも、俺のことを信じているみたいに。

 だから、俺の返事は決まりきっていた。

 

「分かった。王女様に勝って、仲直りしてみせるさ」

「うん。きっと、スティアさんだってソール君のことを……」

 

 言い切る前に、エミリは首を振って背中を向ける。

 背中越しに軽く手を振って、振り返らずに去っていった。

 

 俺は星枢器(シリウス)の剣を見つめる。絶対に、ただのナマクラとしてしか使わない。

 誓いを込めて、剣に宿る力を少しだけ操作していく。よし、今日も調子はいい。これなら、能力は使わずに済む。

 剣の握りを深めて、最後に鋭く振りぬいた。そして、剣を消していく。

 

 戦いの場である学園の闘技場に向かい、俺はぽかんと口を開けることになる。

 

星枢騎士(ゾディアック)ソール。わらわを楽しませてみせよ。そして、アキレス皇国の王女スティア。我が国が誇る星枢騎士(ゾディアック)の力を、よく味わうと良い」

 

 ついこの間に見たばかりの、冷たく美しい顔。彼女は、俺を見て意味深に微笑む。俺にメダルをかけてくれたことは、ちゃんと覚えている。

 そう。我がアルテミス神聖王国の女王様が、俺達の審判だった。

 つまり、女王様にまで俺達の話が伝わったことになる。

 

 ……嘘だろ?

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