スポ根みたいな異能力バトル世界で即死チートを持ってしまった 作:maricaみかん
エミリの用意した祝勝会では、横断幕のようなものに『女たらしキングの勝利を祝って』と書かれている。当のエミリは、いたずらっぽいニンマリした顔。
みんなを口説いているみたいな言い回しだし、どんな対応をされてしまうんだ!? みんなの顔を見るのが、メチャクチャ怖いんだが!?
何を言うこともできずに固まっていると、隣から声が聞こえてきた。
「ふむ。ソールさんが私たちをたらしこんでいると……。仮にもベテルギウス家の令嬢と、アキレス皇国の王女をですか……」
ユミナさんは淡々と語っている。これは、どういう反応なんだ!? 怒っているのか? 呆れているのか? まさか、喜んでいるはずもあるまいし。
ハーレムの一員みたいに扱われて喜ぶ女の人がいないことくらい、いくら俺でも知っているぞ。
というか、また国際問題になりかねないネタじゃないか!? スティアをハーレムの一員扱いするとか、下手しなくても死刑だよ!
しかも、今度はユミナさんまで巻き込んでるし! 英雄の孫娘で公爵令嬢なんだけど!? 大問題が大連鎖しそうなんですけど!?
恐る恐るゆっくりとユミナさんの方を見ると、無表情のまま顔を赤くしていた。
これは、どっち? 怒りで顔が赤くなってるの? それとも、照れ? 怒りならどうして良いか分からないし、照れでもそれはそれで分からないんだけど!?
頭を抱えても、大変なことになりそうだ。本当に俺は、何をすれば良いんだ……?
答えが出る前に、スティアの声が届く。
「まあ、ソール以外の男とは接していないわよね。あたしもユミナも、レイラも。ある意味、正しいのかしら?」
「ふふふ。そうなると、僕たちはソール君に囲われているわけだ。誰が正妻か、決めてみるかい?」
スティアは特に照れた様子もなく話している。普通に冷静だ。そっちはまあ良いというか助かる。問題はもう片方。
弾んだ声で口元を楽しげに歪めているレイラは、いったいどういうことなんだよ! 本当に俺がみんなを囲っているとして、仲良くできる感じじゃないだろ!
正妻とかを争えば、絶対に大変なことになるぞ……。いや、俺とみんなが結ばれるわけでもないが……。
「立場で決めるんじゃなかったら、決めるのはソール君だよ。ね?」
エミリは後ろ手を組んでニヤニヤとキラーパスを飛ばしてくる。本当に勘弁してくれよ! 普段がジャブだとしたら、今回はマウントポジションを取った上での連打だろ!
何をどう答えても、良くない未来が待っているとしか思えないんだけど!?
なんか、実際みんなの目が一気に集まったし! これ、誰を選んでも問題になるやつじゃん! 好意があろうとなかろうと詰んでるじゃん!
き、起死回生の手は……。たとえヘタレと言われようとも、これしかない……!
「そ、そういうのは俺にはまだ早いから……! まだ学生なんだから……!」
「逃げたわね。別に良いけど。そもそも、あたしたちとソールはまだ対等じゃないもの」
「そうなんですよね。私たちは、まだソールさんと本当の意味で勝負できていませんから」
「今の段階でお互いに足を引っ張る余裕はないとも。そんなことよりも、もっと大事なことが僕たちにはあるんだ」
3人とも、真剣な顔で俺の方を見ている。今の俺は、どんな顔をしているだろうか。能力を使えない以上、俺たちは本当の意味で競い合うことはできない。
たぶん、真実を話しても嫌われはしないと思う。今となっては、それくらいにはみんなを信じている。
だが、分かることもある。話したところで、何も解決しない。それどころか、みんなに気を使わせるだけなのだろう。
俺の能力を知っても、きっと距離を取られたりしない。だからこそ、みんなの心の中に影を残す。
本当は即死が怖くて、厄介だと思っていて、それでも気を使ってしまうだろうみんなに。
前とは理由が違うが、やはり言えはしない。だって、結局のところは何も解決しないんだから。俺の能力がこの世界に拒絶されるべきものだという現実は、決して変わりはしない。
胸の奥がキュッとした。やはり、俺は……。
何が言えるだろうか。空気を暗くするわけにもいかないから、なるべく自然に話をそらせる方向性で……。
「
「そうだとも。たぶん、能力と
レイラは軽く目線を下げていて、何かを思いついている様子だ。たぶん、ユミナさんへの対策なんだろうな。
いくらなんでも、切り札まで今の段階で話せとは言えない。そんなことをしてしまえば、ユミナさんは簡単に対策を打てるのだから。
たぶん、ユミナさんにもスティアにも隠している手札がある。本来、勝負事っていうのはそういうもの。
まあ、俺には能力という特大の隠し事があるからな。他のことを隠す気はあんまりない。
対するユミナさんは、どこか凄みを感じる笑みを浮かべていた。
「ふふ、良いですね。ソールさんに負けてから、楽しみなことが増えました」
「余裕ね、ユミナ。あたしだって、負けたままじゃ終わらないわよ。どこまでも、あたしは強くなるの」
スティアも唇を釣り上げていて、ふたりは向かい合っている。レイラはふたりを見ながら、気炎を燃やしている様子だった。
俺も、もっともっと強くならないとな。二度と追い詰められずに済むように。決して能力を使わずに済むように。みんなの未来が、輝いたままであるように。
「私は、みんなには着いていけそうにないね。私なりに頑張るつもりではあるけれど」
エミリは少し寂しそうな顔をしている。今回も、ビリーのせいで出鼻をくじかれてしまったし。頑張るのも大変ではあるだろう。
俺にできることは少ないと思うが、それでも支えられたら良いな。いや、支えてみせるべきなんだ。
そっと、まっすぐエミリに向き合った。
「エミリが頑張りたいと思う限り、俺はずっと応援するよ。手伝えることがあるのなら、手伝う」
「ソール君を見ていると、僕の尊敬する人を思い出すな……」
そんなことを言いながら、レイラはユミナさんをちらりと見た。ユミナさんは首をかしげていて、よく分かっていなさそうだ。
察するに、ユミナさん本人か関係のある人。いや、思い出すって言い回しでユミナさんを指していることもないか。
レイラの尊敬する人も気になるが、言いたい気分なら言ってくれるだろう。無理に聞き出すこともないか。
「レイラから見て、尊敬できる俺でいたいものだ」
「ふふふ。ソール君のことは、もうとっくに尊敬しているよ。ソール君だって同じだろう?」
「ああ。俺はみんなを尊敬しているよ」
「圧倒的な実力差があるから、嫌味にしか聞こえないのよね……。ソールがそんなやつじゃないのは分かるけど……」
スティアはジト目で俺のことを見てくる。確かに、言われてみればそうかもしれない。
ただ、俺がみんなを尊敬しているのは本当だ。たぶん、どう言ってもダメなんだよな。みんなはすごいって言っても同じだし、俺より下だけどとか言うのはもっと問題だし。
そもそも、何を言っても不正解なやつに思えてきた。
また頭を抱えてしまいそうだ。みんなに対する気持ちを、俺はどう伝えればいいんだ……?
「やっぱり会話が下手だよね。見ていて安心できるよ。女たらしキングは、まだ早かったかな?」
その言葉を受けて、ユミナさんは横断幕に目を向ける。真剣そうにながめていた。
「この横断幕、よくできていますね……。手間がかかったんじゃないですか?」
「ユミナ、やっぱり天然よね……。ちょっと話がズレてるっていうか……」
「また私に天然と言いましたね! スティアさんには、思い知らせる必要がありそうですね……!」
「落ち着いて、ユミナさん。美味しい料理を作っておいたから、食べてよ」
エミリはちょっと部屋の奥へと進んで、フタのついたお皿をいくつももってくる。手伝おうとすると、目で制された。
「言ってくだされば、私も料理を手伝ったんですけどね」
「えっと……。逆に手間が増えそうかなって……」
エミリはちょっと気まずそうに返している。まあ分かる。ちょっとだけ頷いてしまった。その瞬間に、ハッとする。ユミナさんの方を見ると、目が合った。
頰が一気に膨らんでいるのが見えた。即座に頭を下げると、腰に手を当てているのも目に入ってしまう。
やらかした。本当に謝るしかない。
「どういうことですか! 私を何もできない人だと思っていませんか!?」
「ユミナはともかく、あたしは焦げないように火を通すので精一杯ね……」
「僕も似たようなものかも。味にこだわること、あんまりないし」
「ごめん、ユミナさん。俺も普通に切って焼くレベルが限界だったよ」
「そ、そうなんですね……。ほっ……」
ユミナさんが息をついている。なんだかんだでお嬢様だし、料理をすることなんてないんだろうな。というか、他のみんなも。
俺はいわゆる男料理くらいしかできない。食べられれば何でも良いくらいのやつ。
ひとまず、ユミナさんはもう怒っていないようだ。失言というかミスをしてしまったが、助かった。
やっぱり、エターナルぼっちキングは返上できないのかもしれない。いや、もうぼっちではないんだが。みんなは間違いなく友達だし。
それでも、本当に大失敗をしてしまった。しっかりと反省をしないとな。
「私の手伝いって、何をするつもりだったの?」
「メイドさんたちに手伝ってもらおうかと。それなら、邪魔にはなりませんし」
「身内での祝勝会に、大げさすぎだよ……。やっぱり、私がやってよかった……」
「誕生日なんかでも、勝手にメイドさんがいろいろ準備するものじゃないですか? それも身内での話だと思うんですけど」
ユミナさんは不思議そうに首を傾げている。本物のお嬢様とは、こういうものなのか。まさに別世界という感じだ。
うっかり包丁を持たせたりしたら、公爵家も巻き込んだ大問題になったりしないよな? なんか、指を切ったりしたら大変なことになりそうだ。
そんなユミナさんを、スティアは半目で見ていた。
「ユミナ、あたしでも分かるわよ……。完全に仲間内なんだから、手作り感が良いってことくらい……」
「大げさすぎるとも。今の僕たちは、ただの学生なんだから」
ふたりの言葉に、ユミナさんは顔を赤くしていく。耳まで染まっていった。
「せ、世間知らずなのは私の方だったんですか……?」
「でも、俺は嬉しいかな。ユミナさんがいろんな一面を見せてくれて」
「ソールさんは、なんで追撃してくるんですか!? 放っておいてくださいよ!」
ユミナさんは完全にむくれている。失敗したっぽいんだが、スティアはユミナさんの方をジト目で見ているし、エミリは優しい顔で俺のことを見ている。
それでレイラは、口をとがらせて俺をじっと見つめてくる。これはいったい、どういう状況だ?
「女たらしキングの本領発揮だね……。やっぱりソール君らしいや」
なんて、ニヤニヤした顔のエミリに言われてしまう。とたんに、ユミナさんは顔をおおって後ろを向いた。
「もう、良いじゃないですか……。早くご飯を食べましょうよ……」
消え入りそうな声で言われたので、ユミナさん以外と顔を見合わせて頷く。まあ、せっかくエミリが作ってくれた料理を冷ましても問題だからな。
とりあえず円卓っぽい席につくと、エミリがすっと右隣に座る。スティアとレイラがちょっと目を合わせていて、その間にユミナさんが左隣に座ってくる。
スティアはユミナさんをちょっとだけ冷たい目で見て、レイラは肩をすくめてからそれぞれ残りの席についていく。
エミリの料理は、前のデートの時より豪華かもしれない。なんか大きい鶏の塊とか、いっぱい具の乗ったピザとかがあるし。全体的に、パーティっぽい。
エミリに手でうながされたので、料理を取っていく。まずは、肉から。
ひとくち食べただけで、やはりエミリの料理は美味しいと分かる。スパイスが効いていてジューシーだし、かなりガツンと来る。ハッキリ言って、今まで食べた料理の中で一番好きだ。
うっかり油断すると、ユミナさんたちの分まで食べかねない。本当にそれくらい美味しいので、逆に箸を進められないくらいだ。
エミリはただ、穏やかにニコニコとしていた。
「ふふ、遠慮なく食べてね。足りなくなったら、まだ持ってくるから」
「それに、今回ばかりは誰に一番食べてほしいかは分かりますよ。エミリさんのために、ソールさんが戦ったんですから」
「え、ええ。そうよね。ソールに食べてほしいのは、当然よね」
「スティアさん、残念なのかい?」
「う、うるさいわね。仕方ないでしょ。とっても美味しいんだもの」
スティアは少し顔を赤くしている。たぶん勢いよく食べていたんだな。前も食堂で大量に食べていたし、お腹をすかせていたんだろう。
女の子に言うのはあれだけど、大食いというか。ちょっと頬を染めているのも相まって、可愛らしいというか。
スティアと目が合うと、少しだけにらまれてしまった。仕方ないので、俺は食事に戻る。
「ソールさんの顔を見るだけで、満足しているのが伝わってきますね」
「ふふ、そうだね。ユミナさんも、料理を覚えてみる? 教えるくらいならできるよ」
「では、お願いします。それなりの腕になったら、ソールさんに食べていただきましょう」
「あたしも、お願いしてもいいかしら……? 良い料理が作れたら、訓練用のメニューにも役立ちそうだし……」
「なら、僕も負けていられないね。確かに、訓練を考えるのなら食事は大事だよ」
ユミナさんは真面目な顔をしていて、スティアは目をそらして頬をかいていて、レイラはぐっと拳を握っていた。
なんとなく、みんなからやる気を感じるような。俺もお願いしようかと思っていると、その前にエミリが唇に指を当てる。
口をつぐむと、エミリはみんなをちらりと見た。
「素直になれない人には、教えなくても良いんだよ?」
スティアとレイラを見ながら、エミリはいたずらっぽい笑みを浮かべる。
なんか、スティアも顔を赤くしていて、レイラは難しい顔で腕を組んでいた。ユミナさんが穏やかに笑っていると、まずはスティアがエミリに近寄っていく。
「ソールにも、食べてもらいたいわ。だから、お願い」
「僕も同じ気持ちだよ。やっぱり、食べてもらえる誰かの顔を思い浮かべるのは違うんだ」
「なら、良いよ。ふふ、楽しい時間になりそうだね」
なんか、みんなの手料理を食べられる話になりそうだ。たぶん失敗することもあるだろうが、生焼け黒焦げでもない限り笑顔で食べよう。
たぶん、作ってくれるだけで満足できる気はするんだよな。
「じゃあ、楽しみにしているよ。みんなの料理なら、いくらでも食べられそうだ」
「ふふ、私の料理もたくさん食べちゃうくらいだもんね?」
「そうだな。今回もとても美味しかったよ、エミリ。ありがとう」
「どういたしまして。そうだ。訓練さえすれば、料理は必ず上手になるものだから。みんななら、すぐに美味しい料理が作れるよ」
はにかみながら、エミリはみんなに視線を向ける。みんなはそれぞれに、笑顔を浮かべていた。
「なるほど。やはり訓練ということですね……」
そう言って、ユミナさんは俺の方を見て修羅みたいな笑みを浮かべる。たぶんこれ、戦いのことも考えているやつだ。
釣られたように、スティアもゆっくりと唇の端を持ち上げていく。
「そうね。どんな勝負であれ、負けていられないわ」
「同感だとも。僕の願いを叶えるためにも、立ち止まってはいられない」
「なら、ちょうど良い舞台があるよ」
エミリは胸を張って、堂々とした笑みを浮かべていた。ユミナさんは、もっと笑みを深めた。激しい圧を感じさせるほどに。
「
「そうね。今度こそ、あたしは勝ってみせるわ」
「僕こそ、今のままでは終わらないよ。ね、ソール君」
みんなの視線が俺に向いて、俺も強く頷いた。それに合わせて、エミリがグラスを上に掲げる。
「じゃあ、みんなで約束しよっか。全力で競い合うって」
俺たちはお互いを見て頷いて、グラスを掲げあった。
今度の
俺はまだ、来年の入学式や本戦で、能力を暴くために多くの刺客が送られてくるのを知らないままだった。
これで1章は終わりになります。
以降の更新は、週一更新を目標にできたら良いなくらいの感じです。
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