スポ根みたいな異能力バトル世界で即死チートを持ってしまった 作:忘れられた女神
女王様が審判を務める
生徒たちが周囲で見守っているのは、まあ当たり前。
ユミナさんと目が合って、控えめに頬の隣で手を振られたりした。エミリと目が合った時に、じっと見てから唇を釣り上げられたりもした。そこまでは良い。
問題は、女王様がわざわざ見に来たということ。彼女は、玉座にすら見える豪華な椅子に座って俺達を見守っている。
ユミナさんやエミリは落ち着いているものの、明らかに生徒たちはざわめいている。
それはそうだ。たかが学生の決闘に、わざわざ女王様がやってくるんだから。スティア王女との関係で、大きな問題になってしまったのかもしれない。
もっと言えば、なんで一週間で来られるのかも謎だ。報告にも予定を空けるにも移動にも時間がかかるだろうに。俺が決闘を挑まれてすぐにでも動き始めなければ、ダメじゃないか?
もしかして、そこまで大きな問題なのか!? まさか、俺を監視しているわけでもあるまいに。
頭を抱えそうになるが、今は無視しよう。俺にとって一番大事なことは、目の前にあるのだから。
俺もスティア王女も、石畳のような舞台の上で向かい合っている。今もまた、俺を強くにらみながら。
だからこそ、やるべきことは分かりきっている。スティア王女との戦いに集中することだ。
女王様には失礼かもしれないが、スティア王女に向き合うことが最優先。俺が傷つけてしまったのだから。
能力は使わないとしても、その範囲で最大限の本気をぶつける。
スティア王女の願いは、きっと誰かと競い合うこと。切磋琢磨すること。だったら、せめて良い勝負を。
努めて女王様を意識しないようにしながら、スティア王女だけをまっすぐに見つめた。
「さあ、死ぬ準備はできた? あたしは、できているわよ」
「わらわから、大事なことを告げよう。今回の勝者が、相手の生殺与奪を握る。神聖王国の主が命じる。よいな、スティア王女」
女王様は、肘をつきながらスティア王女に告げる。
そう。戦いでは殺しは許されないだけ。自分の誇りと人生をかけて、白黒つけるのが
といっても、普段は生き死にの話になんてならない。王女が殺すと言ったから、生殺与奪の話になったのだろう。
スティア王女は、少しだって迷わずに頷いていた。
「宗主国の王には、逆らえないわね。そういうことよ、ソール。この戦いで死ななかったとしても……」
「俺は、あなたを死なせはしません。どんな未来でも、絶対に」
最後まで語らせないまま、俺は返す。
「それが、最後の言葉でいいのね? 本当に、後悔しないわね?」
わずかに、瞳が揺れている。声だって震えている。どこか、迷子みたいに。
だから、迷うものか。
「後悔なんて、絶対にしません。何度でも言います。俺は、あなたを死なせない」
「……そう。なら、覚悟することね。圧壊せよ、
一瞬口を引き結んで、悲しげに目を伏せていた。そして、俺をにらみつける。流れのまま、右手に赤い大剣を出現させた。
合わせて俺も、右手を前に出す。
「覚悟はしていますよ。絶対に、あなたを死なせないって」
現れた漆黒の剣を見て、スティア王女は目を細めた。じっと、何かを確かめるように。
その答えを確認する前に、女王様が立ち上がった。
俺は、剣に宿る力を少しだけ動かす。よし、ちゃんと制御できている。
「さあ、ソール。我がアルテミス王国最強の力、見せてみよ。スティア王女も、よく抵抗してみせよ」
俺にしばらく目を向けてから、女王様は宣言する。
アルテミス神聖王国の近衛騎士には、歴代最強の
それを通り越して、最強?
今の俺が、歴代最強を超えていると言えるのだろうか。いや、まさか。
なら、女王様は俺の能力を知っているのか? いや、あり得ない。
俺は生涯で3度しか能力を使っていない。どれも、虫相手だ。
列になっているアリの一体に使った時には、ただ歩きが止まった。そのまま置いていかれていた。飛び跳ねるバッタに使った時には、跳ねた先から地面に叩きつけられていた。空を舞う蝶に使った時には、羽ばたきが止まってただ落ちていった。
あまりにも無情な姿に、幼心にすら底知れない恐怖を抱いた。暖かい昼間に、ただ凍えるほどに。
人間どころか、動物にすら使いたくなかった。虫にすら、二度と使わなかった。能力を感じるたびに、決して誰かに触れないように抑え続けた。
そう。俺以外の誰にも、能力の影響を与えさせなかった。
だから、きっとお世辞だ。そんなことより、俺には向き合うべきものがある。
軽く息を吸って吐いて、スティア王女を見つめた。忌まわしき能力を封印する決意を込めて。垂れ下がるように、だらりと剣を構えながら。
「さて、舞台の始まりぞ。世界の礎を築いた聖女様。アルテミス神聖王国を守り抜いた初代
合図と同時に、スティア王女は駆け寄ってくる。全身をしならせて、右手だけで大剣を振り下ろしてくる。受けようと、剣を持ち上げようとする。その剣先が、急に止まった。ピクリとも動かない。
このままでは、防御は間に合わない。即座に剣を手放し、横に飛んで大剣を避ける。地面から、甲高い音が響いた。
床が本当の石畳だったら、砕け散っていたかもしれない。そう思わせるほどの一撃。
「あんたが、まだあたしを甘く見るのなら! ただの痛い目で済むと、思わないことね!」
スティア王女は、俺の剣を蹴り飛ばして大剣を向けてくる。さっき剣が動かなくなったのは、間違いなく彼女の仕業。
名前から、想像はつく。俺の動きを静止させたのだろう。ならば、やりようはある。
蹴り飛ばされた剣を消し、手元に呼び出した。
王女に向けて、足をすべらせるように踏み込む。伸びた右足が固まって、軽く体勢を崩す。一瞬だけして、動けるようになった。
スティア王女が横から風を斬り裂くように大剣を薙ぎ払ってくるのに対し、俺は転がって避けた。地面に転がる肩の横を、風が通り過ぎた。
「能力を使わないのなら、このまま押しつぶすだけよ!」
スティア王女は、そう叫ぶ。腹の底から吐き出すように。
俺の
だが、できない。スティア王女が死ぬことがないとまでは、感覚で分かる。
それでも、もし加減しそこねたら。下手をしたら、彼女は二度と能力を使えなくなるんだ。
だから、絶対に能力なんて使わない。何があろうと、使うものか。剣の握りを、また確かめた。
スティア王女は、もう一度大剣を振り下ろしてくる。もう一度受けようとすると、また剣先が止まる。
やはり、単純にはいかない。俺は大剣の持ち手を殴り飛ばして軌道をずらす。
のけぞったスティア王女に、剣を振り下ろす。剣先が止まった瞬間、手放して左手で殴りかかる。頬に直撃して、王女は倒れ込んだ。
起き上がろうとするスティア王女に右足を振り下ろそうとすると、そこが止められた。王女は、ニヤリと笑みを浮かべる。
転がって起き上がったスティア王女は、下から体をひねって大剣を叩きつけようとしてくる。剣で受けようとすると、今度は右手首が止まった。手元が狂って、すっぽ抜けそうになる。
即座に剣を消し、左手に出して弾き返す。スティア王女は、大きく後ろに体勢を崩す。二歩ほど下がっていた。
隙ができた。一気に駆け寄って剣を振り下ろそうとすると、胸を止められた。
なら、次。剣を足元に手放して、王女に向けて蹴り飛ばす。その剣をつかまれた瞬間に、消して手元に出現させた。
「はあ!? 星枢器《シリウス》ってのは、そんな簡単に出したり引っ込めたりできるもんじゃないでしょ!」
目を真ん丸に見開いて、激しく叫んでいる。大剣を握る手に、かなり力が入っているのが見て取れた。
なら、今。俺は剣を両手で握って突き出す。剣先が止まって、柄が胸に当たりそうになる。
勢いを潰された。また剣を消すと、その瞬間に右手を止められた。
一瞬の隙に、スティア王女は俺の右側に攻撃してくる。腰を深く入れて、両手で握った大剣を薙ぎ払うように。
俺は左足で後ろに飛びつつ、右足をしなるように伸ばして剣の柄を蹴り飛ばした。王女は剣を取り落としそうになるが、すぐに立て直す。
本当に、うまい。俺の動きに対応して、どこを止めるかを変えてくる。
おそらく一瞬だけ狭い範囲を止めるような能力で、よくぞここまで。彼女の努力がどれほどのものか、何よりも雄弁に伝えてくる。
だからこそ、悲しい。
花を摘むより簡単に、彼女を打ち破れてしまうことが。
「さあ、終わらせますね」
「ソール、いよいよ能力を使うっていうのね! さあ、見せてもらおうじゃない!」
「いえ、使いません。それでも、終わりです」
俺は
ただ純粋なエネルギーが集まった小さく真っ白い珠が、ひとつ現れた。
これが、俺の戦い方。絶対に能力を使わずに、敵を打ち破るための手段。
まず、珠を放つ。スティア王女に向けて、空を駆ける鳥よりも速く。
彼女が大剣で防ぐと、大剣ごと体を浮かばせていった。3メートルほど吹き飛んで、地面を転がっている。
立ち上がったスティア王女は、俺を見ながら目を白黒させていた。
「その珠……まさか、
「俺も、苦労しましたよ。覚えるのに、3ヶ月もかかりましたからね」
「はあ!? 聞いたこともないようなことを、3ヶ月で!? 頭おかしいんじゃないの!?」
「これを出した以上、あなたは終わりです。スティア王女の能力では、俺と珠のふたつには対応できない」
スティア王女は、一歩下がる。その足に、遅れて視線が向かっていた。拳を握りしめ、太ももを叩く。そして、俺をキッとにらみつけた。
「やってみないと、分かんないでしょうが!」
さっそく、大剣を振り下ろしてくる。珠を出現させ、まっすぐにぶつけようとする。珠は止まったが、横から斬りかかる俺の剣は止められていない。
転がるスティア王女に、次の珠を出して飛ばしていく。転がるたび、何度も何度も。王女はただ、転がって避け続ける。
たまに反撃をしようとしてきても、珠で初動を潰すだけ。
繰り返すと、また珠を止められた。だが、対処など容易。ただ、複数の珠を出すだけでいい。
2つ目を出して、右と左から飛ばす。それだけで、スティア王女の対応は遅れだした。
大剣で受け、転がって避け、そして何度か珠を止める。それだけ。もう、俺に向けて反撃することすらできていない。隙ができても、肩で息をするだけ。
だが、王女の瞳から炎は消えていない。
「くっ……。だけど、まだよ! まだ、あたしには切り札が……! その珠を、いくつ出されようと……」
ここまできて、まだ意志を燃やせる。厳しい状況だということくらい、本人が誰よりも理解しているだろうに。
本当に、すごい人だ。俺が同じ状況なら、とっくに諦めていただろうな。だからこそ、能力を使わない範囲で最大限の全力を出す。
スティア王女の本気に応えること。それが礼儀。
たとえ、絶望的な差を見せつけるとしても。
「いくつ、か。百個を超えてから、数えてないですね」
「ひゃ……!? ……くだらないハッタリに、騙されたりしないわよ!」
目を見開いて口をぽかんとさせた後、一気に目を鋭くする。大剣を握りしめて、こちらに向けてきた。
「ごめんなさい。ハッタリじゃないんです」
持てるだけの力を持って、出せるだけの珠を出していく。いま闘技場の端にいるスティア王女の目の前まで、闘技場のほとんどを珠で埋め尽くした。いくつなのかは、自分でも分からない。
「は……? 百なんてもんじゃ、ないじゃない……」
スティア王女は、一歩下がる。そして、二歩。闘技場から落ちそうになって、震えながら戻ってきた。
「降参してください。できれば、苦しませたくありません」
「お断りよ! たとえ勝てないとしても、あたしは最後まであがいてみせる!」
一度だけ深く全身を震わせてから、剣を振り上げる。俺から、少しも目をそらしていなかった。
本当に、誇り高い。王女としてふさわしい、とても尊敬できる人。
だから、全力で叩き潰す。それこそが、誇りに報いることだ。
珠を同時に発射していく。当たり前の結末に向けて、ただ単純に。
「まだ、終わらないわ!
その言葉と同時に、スティア王女の目の前にあった珠が止まっていく。30個ほどだろうか。数秒ほどしても、まだ止まったまま。
切り札として、隠し持っていたということ。一ヶ所だけ、一瞬だけしか止められないと油断した隙を突くために。
俺を止めていても、珠は動かせた。だから、正解だ。それも合わせて、流石だ。美しさすら感じる、磨き抜かれた戦術。
だが、それだけ。残りの珠を横や後ろからぶつけるだけでいい。
珠を動かした。回り込むように、囲い込むように。スティア王女はいくつかを大剣で弾き、いくつかを走ってかわす。それが、最後の抵抗。
ひとつぶつかり、のけぞる。ふたつぶつかり、剣を取り落とす。
いつつぶつかる頃には膝をつき、十を数える頃には地面に倒れ込んでいた。
これ以上は、もはやただの虐待でしかない。俺は珠を消す。
スティア王女は、地面を手で抑えて立ち上がろうとしていた。だが、すぐに倒れ込んでいく。
「勝者、ソール! 我がアルテミス神聖王国最強の姿を、よくぞ見せた!」
女王様は喝采する。ユミナさんとエミリが拍手しているのが見えた。それ以外は、まばら。
「勝者への祝福は、どうした?」
女王様が不機嫌そうに視線を向けると、拍手が強まった。
スティア王女は、膝を震わせながら立ち上がっている。その姿を、女王様はじろりと見つめた。
「さて、生殺与奪を握ったのはソールだったな。宗主国の王として命ず。ソールの言葉に、何があったとしても従え」
「もちろん、よ……。たとえ殺されたとしても、あたしの責任だもの……」
ダメージからだろうか。疲れからだろうか。恐怖からだろうか。スティア王女は、とても寒そうに震えていた。目も揺らしながら、俺を見ている。
本当に俺を殺す気なんて無かっただろうに、そこまで覚悟しているんだ。
でも、俺の答えは最初から決まっている。
「最初から、言っているじゃないですか。俺は、絶対にあなたを死なせないって」
「あっ……」
スティア王女は、開けた口を手で抑えている。
俺はそんな彼女のもとに向かって、ゆっくりと手を差し出した。
「俺の願いは簡単です。今度こそ、俺と友達になってください。一緒に、競い合ってください」
「どうして……? あたしは、あんたを殺そうと……」
「それが本音じゃないってことくらい、最初から分かってました。だから、良いんです」
「あんた……」
スティア王女は、少しだけ口を開けたり閉じたりしていた。しばらくして、うなずく。そして、深々と頭を下げた。地面につくほどに、深く。
「ごめん、なさい。あなたを見くびっていたのは、あたしの方だった。あなたは、本当に強くて……」
「頭を上げてください。そんなこと、俺は望んでいません」
ゆっくりと、本当にゆっくりと頭を上げていく。その目は、ずっと揺れ続けていた。
「でも、あたしは……」
「何も言わないでください。あなたがどれだけ誇り高いか、俺はよく知っているつもりです」
もう一度、俺は手を出しだす。相手の手が、わずかに伸びて、また引っ込む。
だから俺は、自分からつかみにいった。
「ソール……」
「あなたが本当に優しい人だってこと、俺には伝わっていますから。だから、お願いします」
こちらから、頭を下げた。
スティア王女は、何度か目を瞬かせる。そして、口元を緩ませていく。
「だったら、あたしのことはスティアと呼んで。敬語も、必要ないわ」
「分かった、スティア。俺も同じでいい」
「もう一度、ごめんなさい。あなたみたいな人と出会えただけでも、国を飛び出してきた価値があるわ」
出会った時と同じ言葉とともに、俺の手をそっと握りしめる。俺も、同じように握り返した。
これで、一件落着。新しい友達もできて、めでたしめでたしだ。
そんな俺を祝福するように、スティア王女は澄み切った青空みたいな笑顔を見せてくれた。
「だから、約束するわ。友達として、いつかあんたをボッコボコにしてあげるから。それこそ泣くまで、ね」
……なんで?
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