スポ根みたいな異能力バトル世界で即死チートを持ってしまった 作:忘れられた女神
王女であるあたしは、アキレス皇国でぶっちぎりの最強だった。
ただ適当に相手を止めるだけで、簡単に勝ててしまうばかり。雑にどこかを止めるだけで、足をもつれさせて倒れたり、手が止まっただけで肘や肩なんかの関節を歪めたり。もっとってこともあった。
忘れもしない。6つ上の兄が私に挑んできた時のこと。
「騎士団長に、訓練をつけてもらった。もう、お前には負けない!」
そう言って、騎士たちや家族たち、使用人たちの前で剣を突きつけてきた。
すぐに両手で振り下ろしてきて、あたしは迷わずに剣を止めるだけ。それだけで、つんのめって兄の頭が剣に当たって、変な方向に曲がった。
泡を吹いた兄の前で、誰もが慌ただしく叫ぶばかり。
あたしは、数人がかりで押さえつけられていたの。まるで化け物みたいに。
「何をしているのだ、スティア!」
そう叫ぶ父の腰は、ただ引けていたわ。あたしは、どこか他人事のように見ていた。
結局、治癒の能力持ちによって兄は助けられたのだけれど。それからは、兄は二度とあたしに近寄らなかった。
それどころか、他の兄弟たちも。
父に、許可された相手にしか能力を使うなと厳命された。国有数の強者や、殺すべき犯罪者くらいにしか。
あたしが本当の意味で全力を出せたのは、あたしを殺しにくる相手にだけ。人を殺す時だけは、手加減なんてしなくて良かったから。
10歳になる頃には、誰も勝負を挑んでこなくなった。盗賊ですら、武器を放り出して逃げ出していたの。
ああ、結局あたしは盗賊より怖がられてるんだ。そう思うだけだった。逃げ惑う相手を、流れ作業のように狩るだけで。
宮中でだって、仲の良い相手なんていなかった。
「万が一負けたら、大怪我じゃ済まないらしいぜ……」
そんな声が聞こえたことも、一度や二度じゃない。誰も、あたしに近寄ろうとすらしなかった。
その当時のあたしは、荒れに荒れていたわ。訓練場の的に、ただひたすらに
バラバラに砕け散る感触を確かめて、ようやく収まっていたほど。
肩で息をしながら、ただ退屈を嘆いていたの。
いま思えば、避けられる理由は単純だった。何度か大怪我をさせていたし、あたしは怒りっぽかったし。どんな目に合うか、とても分かったものじゃなかったんでしょうね。
だからといって、当時のあたしが納得できていたかは別。
そんなあたしにとって、見知らぬ強者は希望だった。そんな相手となら、遠慮なく一緒に戦えるのかもしれない。全力をぶつけても、壊れないのかもしれない。
だから、あたしは強者の情報を探したわ。変装をして城下町に出て、噂話を聞いてみたり。王城の報告を、気配を消してこっそり盗み聞きしたり。
「アルテミス神聖王国には、英雄の孫娘がいるらしいぜ」
「ああ。その血にふさわしい最強なんだろ?」
「もし敵になったら、逃げるしかないな……」
「騎士団長にすら勝てるかもしれないって話だろ? スティア王女ですら、俺達は手を焼いてるってのに」
騎士たちの話を聞いて、あたしは胸を弾ませていたの。
話に聞いていた砂漠を思わせるくらい、ただ蜃気楼を追いかけるだけだったあたしでも。
けど、その期待は裏切られることになった。また盗み聞きをしていた時のこと。
「いっそ、
「ユミナに負けて、鼻っ柱を折られたらってか?」
「でも、アルテミス神聖王国の大会だろ? どうやって出るんだよ」
「それもそうか。いい案だと思ったんだけどな」
その事実を知った時のあたしの感覚は、まさに目の前が真っ暗になるって感じだった。なんかふらっとして、だんだん視界が暗くなっていって。壁に頭をぶつけそうにすらなったくらい。
だからあたしは、国を飛び出すって決めた。
お父様に直談判をして、アルテミス神聖王国にある学園に通えるようにしてもらった。ユミナと同じリゲル学園を希望すれば、すぐに受け入れられたわ。
その時に、みんながこぼれるような息を出していたことは忘れない。厄介者を放り出せて、安心していたんでしょうね。
結局のところ、あたしは嫌われ者だったってわけ。
リゲル学園に向かう馬車の道すがら、あたしはずっと焦がれていた。
外もあまり見えない中で、ただ揺れだけを頼りに未来を思い描く。ユミナは、あたしと競い合ってくれるかしら。期待外れだったら、笑ってあげようかしら。
そんなことを考えながら、ふと震える瞬間もあった。また、遠ざけられたらどうしよう。
嫌なことが浮かんだ時は、馬車が檻のようにすら思えた。きっと、皇国の人たちにとっては単なる事実。
日が落ちるたびに、寒さに震えた。星明かりだけを頼りに、前を向いたわ。
ようやくたどり着いたリゲル学園は、とても広かった。アキレス皇国の皇城を超えるくらいに。入口から中を見回しても、全体像すらもつかめないくらいに。
景色が広がっていくのが、空の青さからも伝わってきた。馬車から降りて、肺いっぱいに空気を取り込む。爽やかで、弾むように一歩を踏み出せたわ。
門から入ると、すぐに全容が見えた。
大きなグラウンドに、いくつもある戦いの舞台。石畳のようなものが重なっていて、広いばかり。みんな、武器をぶつけ合っている。誰もが真剣な顔をしていた。故郷と違って。
周囲は木々で囲まれていて、爽やかな香りもしたわ。汗の匂いが届いてきてすら、不快じゃなかった。
一歩を進むたびに、感じたの。あたしには、未来が広がっているんだって。この希望は、きっと夢じゃ終わらないんだって。
みんな、本気で競い合っているんだから。
見回っていると、すぐに出迎えの人がやってきてくれた。たぶん同じ年の、とても可愛い女の子。
よく手入れされた金髪とか、ピンと張っていてホコリもない制服とか、おしゃれに気を使っているのはよく分かった。
甘い香りすらして、ちょっと鼻を動かしそうになっちゃったくらいよ。
その子は、まず深く一礼をしたわ。
「今日案内させていただきます、エミリと申します。どうかよしなに」
「スティアよ。楽にしてくれていいわ。いや、違うわね。普通の生徒みたいに接してほしいの。あたしは、そんな生活が……」
エミリはすぐに微笑んで、いたずらっぽい顔をしたわ。ああ、これがいつもの顔なんだって。
あたしの求めていたものは、きっとすぐに手に入る。そんな希望が、浮かび上がってくるほどに。
「分かったよ。じゃあ、好きにさせてもらうね」
「ありがとう。あたしの望みを聞いてくれて」
「ふふ。形式よりも、相手の望む態度を取ることが礼儀、でしょ?」
背中で手を組んで、体を傾ける。いかにも垢抜けた女の子って感じの動作。ガサツなあたしと違って、人気が出るんだろうなって。
それに、皇城の人たちとは何もかも違った。ただ貼り付けたような笑みで、心にもないお世辞ばかりを言う人たち。
皇族だからと敬語を使うだけで、本当はあたしを恐れていた人たち。
目の前にある、エミリの笑顔を見る。ちょっとだけ、キョトンとした顔をされた。
そのおかげで、すぐに言葉が出てきたの。
「あたし、ユミナと戦うためにやってきたの。
「ふふ、噂になっていたよ。優勝者と戦うために、うちに来たんだって」
「そうよ。あたしは強い人と戦いたいの。だから、ここに来たの」
「じゃあ、私は期待に添えそうにないかな。きっと、勝負にはならないから」
エミリは申し訳なさそうな顔をして、パタパタと手を振る。
いかにもって感じのおしゃれな女の子だし、確かに戦いには重きをおいていなさそうだった。
「まあ、あんまり鍛えているようには見えないけど……。なら、どうしてあたしを怖がらないの?」
「簡単なことだよ。スティアさんが私を傷つけたりしないって、分かりきっているから」
少しも迷いのない目で、告げられた。情報を集めているのなら、あたしの強さなんて噂として伝わっていそうなものなのに。
それでも、どこにも怯えなんてない。皇国で感じていた卑屈さなんて、少しだって感じなかった。
だから、本音なんだってしっかりと伝わったの。
「エミリ……」
「それに、今回の優勝者なら、きっとスティアさんの期待に応えられると思うよ」
「ふふ、ユミナはそこまで強いのね……」
「実は、優勝したのは別の人なんだ。この学園の、ソール君って人」
「……え?」
ユミナが、負けた。前評判では、ありえなかったこと。期待外れだったのかしら。そんな疑問が、最初に浮かんだわ。
顔に出ていたみたいで、エミリが眉をひそめたのが見えた。あたしは、すぐに弁解しようとしたわ。
その前に、エミリが校庭の隅っこを指さしたんだけど。
なんか、やけにボロボロになっている場所。闘技場みたいな舞台が、ヒビだらけになっていたわ。
「優勝者のソール君なんだけどね。あそこで朝から晩までずっと訓練しているんだ」
「それって……」
つまり、尋常じゃない努力をしていたということ。それで、他国にまで名声が響くユミナに勝ったということ。
エミリの指差す先は石畳に見えるけど、あたしには分かる。あれは、
あたしが的を壊していた時に、地面に大剣を叩きつけたりもした。それでも、欠けすらしなかったような。その硬い床が、ボロボロに壊れている。
エミリに目を向けると、とても優しい顔をしていた。ソールって人を心から信じているんだって、初対面のあたしでも分かるくらいに。
だから、きっと本当に素敵な人。
胸の奥に、希望が湧き上がってくるのが分かったわ。あたしにもできないことを、できる人がいるんだって。
ユミナが弱かったんじゃなくて、そのソールって人が強かったんだって。
だから、気付いたら言葉が出ていたの。
「ソールって人と、会える? きっと、そろそろ帰ってくるのよね?」
「ふふ、じゃあ準備しておくね。スティアさんとなら、きっと仲良くできるはずだから」
それから、あたしは部屋に案内された。ソールが帰ってくるだろう日時を告げられて。
何日か訓練をしながら待っていたけれど、思った以上に激しく大剣を振り回しちゃったわ。地面が特別じゃなければ、壊し尽くしちゃっただろうってくらいに。
それで当日。あたしは鏡の前で何度も確認をしていたわ。服にシワはないか、髪は跳ねてないかって。何度も櫛を通して、手でも整えたり。
初めてデートをする女みたいだなって、自分でも笑っちゃったくらい。
やってきたソールは、思っていたよりもカッコよかった。皇城にいたら、きっと噂になっていたくらいには。
優しそうな雰囲気の奥に、少しだけ闇がある感じって言えば良いのかしら。なんとなく、懐かしさも感じた気がしたの。
それで、すぐに自己紹介をして、握手をした。
男の人の手は、あたしのとは違ってゴツゴツしている。これが訓練の証なのか、単なる性別なのかは分からなかったけれど。
知ったかぶりなんかして、努力の証なんて言っちゃったのよね。朝から晩まで訓練していたことは、エミリから聞いていたから。
ちょっと、ずるかったわよね。
そうしたら、ソールはあたしの手の感触を確かめていた。真剣な目で、計られている気すらしたわ。
努力の証だって返してくれて、本当にソールとは仲良くできるんだって思った。競い合えるんだって思ったの。素敵な出会いだって、信じていられたの。
直後に、能力を使わずに戦うって宣言されるまでは。
一気に、体の芯まで寒くなった。胸の奥がキュッとして、指先まで冷たくなるよう。
ソールを見ると、どこまでもまっすぐな目をしていた。何かの決意を秘めたような。
それってつまり、あたしでは絶対に勝てないって思っているってこと。
理解が及んだ瞬間、今度は頭が湧き上がるのを感じた。それこそ、沸騰しそうなくらいに。
ソールを殴るわけにはいかないって思って、自分の太ももを叩いた。それが、我慢の限界だった。
どこまで軽く見られてるのかって、もっと怒りが燃え上がっていった。
命をかけて戦うとまで言ってすら、こゆるぎもしない。あたしを見ていないみたいに、ただ冷静なままだった。
だから、あたしは引けなかった。
すぐに噂が広がって、あたしを遠巻きに見ている人ばかりになった。心配そうな目でエミリが近寄ってきたけれど、目を合わせることもできなかった。
当日まで、あたしはただひとりで訓練するだけ。ただ、剣を振り続けるだけ。
こんなの、求めていたものじゃない。
本当は、ソールと一緒に競い合いたかった。仲良く隣で訓練したり、技を教え合ったりしてみたかった。
でも、止まれなかった。申請した
本番の日に、ただ会場に向かった。誰からも応援されることなく、皇国にいた頃と同じように遠ざけられながら。
ソールに謝れば、もしかしたら仲直りできるのかも。そんな妄想すらしてしまうくらいに。
結局、できなかったけれど。だって、アルテミス神聖王国の女王様が出てきたんだから。その前で、やっぱりやめますなんて言えるはずない。
だからあたしは、せめてソールの全力を味わって終わりたいと思ったの。
できる限りの挑発をして、怒りを買おうとしたわ。その度に、自分の心すら削っていくのを感じながら。
分かっていた。悪いのは全部あたしだって。ソールにも何か事情があったのかもしれないって。
それも全部振り払って、あたしはただ戦いに挑んだ。せめて、全身全霊で叩きのめすんだって。命令して、また戦ってもらうんだって。
命令で作る関係に意味がないなんてこと、誰よりも分かっていたのに。国では、あたしの命令を受けた相手はみんな嫌がっていたんだもの。
それでもソールに対して全力で戦って、けれどあたしは勝てなかった。
そんな戦術もあるんだって、感心したわ。ちゃんと向かい合っていれば、もっとマシな形で見れたのかもって後悔もした。
まあ、そんな感傷なんて簡単に打ち砕かれたんだけど。
ソールは
追い詰められて、一歩下がって。そして気づいた。ソールの目が、どこか心配そうにあたしを見ているのを。
どこかで見たことのあるような目。そんな気がしたわ。
すぐに、答えにたどり着いた。あれはきっと、あたしが壊れないか不安な目。
だからこそ、あたしは一歩を踏み出した。絶対に、そんな心配なんてさせないんだって。あたしの強さを、ソールに示してみせるんだって。
それもまた、すぐに打ち砕かれちゃったんだけど。
ソールは
気づいた時には、あたしの体は逃げ出そうとしていた。ソールの目が悲しげに染まったのを見て、あたしは歯を食いしばって耐えたのだけれど。
ソールは、あたしを壊れ物みたいに扱っていた。花を手折ってしまわないように、そっと触れるような手つきで。
戦いで何を言っているのかと、自分でも思うわ。でも、正しいって分かった。
そして、どうしてあたしが怒り狂ったのかも理解できたの。結局、同族嫌悪だったんだって。
あたしは、すぐに壊れる周囲につまんないと思っていた。ソールもきっと同じ。あたしを相手にしてすら、足りないと思っていた。
だからこそ、せめて前のめりに倒れてみせる。あたしから逃げるやつらとは、決して同じにならないって。
まあ、切り札を切ったところであっけなく負けてしまったのだけれど。
それで女王様が裁定することになって、ソールに生殺与奪を握られることになった。
あたしは、何をされても受け入れるって決めていたわ。だって、ソールは昔のあたしと同じだったから。それと同じ気持ちを、ただ味わわせただけだったから。
なんて言っても、結局ソールはあたしとは違ったんだけど。
友達になりたいって言ってくれた時の目は、あたしを尊いものとして見る目だった。本気で尊敬しているのが、どこまでも伝わってきた。
あたしに勝てない周囲を、あたしはずっと見下していた。ソールは、あたしの努力と誇りを心から認めてくれたの。
仲直りしようって、手を差し伸べてもくれた。
だからこそ、あたしは手をつかめなかった。醜いあたしなんかが、触れていい存在じゃない気がして。あたしは弱いやつらをゴミとすら思っていたんだもの。
それで手を引っ込めようとしたら、ソールに強くつかまれた。
暖かくて、優しくて、とても固くて頼もしい手。それで、大事に握りしめてくれた。
ああ、あたしは本当の友達を手に入れられたんだ。心からそう思えた。
だからこそ、ソールの目を思い出した。戦っている時の、どこか弱々しい目を。
ソールは、あたしに全力をぶつけたら壊れるって思っているのよね。
まだ、正しい。あたしは、ソールの能力を使わせることすらできなかった。その手前で、折れそうにすらなっていた。
だけど、そんなの対等じゃない。だから、あたしは決めたの。
ソールが全力を出しても壊れないって、証明してみせる。どこまでも強くなって、あなたが泣くほどに負かせてあげる。
そうすれば、あたしに能力を使っても良いって伝わるでしょ。世界に失望なんて、しなくて済むでしょ。
どうか、楽しみにしててよね。
ねえ、ソール。あたしの、初めての友達。
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