スポ根みたいな異能力バトル世界で即死チートを持ってしまった 作:忘れられた女神
ユミナさんとスティアが、俺を奪い合っている。お互いのことを、まっすぐに見ながら。
なんて、単なる妄想。モテない男が、ただ変にうぬぼれているだけ。
……って、言えそうにない空気なんだけど!? 本当に俺の妄想であってくれたりしないか!?
ユミナさんはずっと頬を膨らませたままだし、スティアは腕を組んで目を細めているんだけど。
これ、どう見ても好意的な雰囲気じゃないよな!?
「ソールさんは、私と訓練をするんです! 先に仲良くなったのは、私なんですから!」
「その割には、ソールと話しているところを見た記憶はないけど」
スティアがジトッとした目で見て、ユミナさんは言葉を詰まらせた。図星を突かれたかのように、難しい顔をしている。
対するスティアは、薄い笑みを浮かべながらユミナさんを見ていた。
俺は、どうするのが正解なんだ?
せめてエミリがいてくれれば、間に入ってくれたかもしれないのに!
これ、俺が声をかけて大丈夫なやつか? 余計に燃え上がったりしないか?
ふたりは、俺さえいなければ気が合いそうだと思うんだけど。俺のせいで関係が壊れるとか、最悪どころじゃないぞ。
どうすれば良い? どうすれば良いんだ……?
誰か、答えを教えてくれ……!
ちらりと様子をうかがうと、ユミナさんは胸の前で両拳を握りしめている。
「む、むむ……。仕方ないじゃないですか! 私はソールさんと話をしたいのに、皆さんが邪魔するから!」
両手が勢いよく振り下ろされて、また頬が膨らんだ。
ちょっと小動物みたいで可愛いとか思ってしまったけど、絶対に言えない。火に油を注ぐのは明らか。
対するスティアは余裕そうな態度のまま、ただ腕を組み続けるだけ。
「皆とやらを優先する程度なんでしょ? ちゃんとあたしは、ソールを優先するわよ」
「これからは、私だってソールさんを優先します! 条件は同じなはずです!」
ユミナさんは身振り手振りも激しく、顔色もコロコロ変わっている。
対するスティアは冷静に見える。この調子で、うまく受け流してくれないだろうか。
というか、仲良くしてほしいんだけど。だからといって、なんと声をかければ良いんだ?
くっ、ぼっちでさえなければ……。今頃、カッコよく収められたかもしれないのに。
というか、カッコよくなくても良い。ふたりが仲良くしてくれるのなら。
そうか。いっそ俺を共通の敵としてふたりの仲を取り持てば。俺という悪をふたりで仲良く吹き飛ばして、一件落着。
って、さすがにそこまではできないよ! せっかく友達になれたのに! もう失うなんて、勘弁してくれ!
「あたしはソールに友達になってって言われたけど。ユミナ、あんたはどうなの?」
「た、確かに言っているところは見ましたけど! 素敵な友情でしたけど! それとこれとは話が別です! そうですよね、ソールさん!」
話を振られた瞬間、ふたりの目が同時に俺を見てきた。
ユミナさんはすがるように上目遣いだし、スティアは試すように目を細めているし。
なんて言ったら良いか分からないけど、黙っているのが最悪だということも分かる。何か、言うしかない。
もう、なるようにしかならない。いくぞ!
「そ、その……。ふたりとも才能もあって努力家だし尊敬できるし、どっちも大事な友達……」
ふたりは、じっと俺を見ている。
どうなんだ!? やっぱり、どっちかの味方にならなきゃダメだったか!?
でも、本当にふたりとも尊敬しているんだよ! どっちかだけを選びたくないよ!
祈るようにふたりを見ていると、スティアがため息をついた。
これは、どっちだ!? 呆れられちゃったか!?
そうなっても仕方ないけど! 自分でも言葉選びが下手だったって分かるけど!
俺はただ、ふたりを見ていることしかできないまま。
スティアの目は、ユミナさんの方を向いた。
ごくり。これは、どっちなんだ……?
「仕方ないわね。確かに、争っていても時間を失うだけよ。ひとまず休戦といきましょう」
「そうですね。一番大事なのは、ソールさんとの時間ですから」
スティアが手を差し出して、ユミナさんが握り返す。お互いに、笑顔になった。でも、圧を感じるんですけど!?
いや、言及したらダメだ。また争いになるのは明らか。とりあえず、俺も流れに乗ろう。
「なら、
「良いわ。まだ使いこなせているとは言えないもの」
「あの珠ですね……。使い方は、なんとなく分かりますが……」
ユミナさんは、パッと
「もしかして、アルテミス神聖王国では当たり前の技術だったりするの?」
「いえ、ソールさんが使っているのを見て知りました。ですが、私が使うことはないでしょうね」
「まさか、ソールに教わりもせずに……?」
「……? それが、どうかしましたか?」
キョトンとしたような顔で、ユミナさんは首を傾げている。まさか、見ただけで覚えられるとは。本物の天才というのは、こういうことなんだろうな。
俺はあくまで努力が報われない結果を殺しているだけで、才能そのものが優れているわけじゃない。
一度見ただけで、俺が3ヶ月かけて編み出した技を使える。そんな事実を見て、自分に才能があるなんて言えないよな。
だからこそ、そんなユミナさんから優勝を奪ってしまったのが申し訳なくもあるが。
俺さえいなければ、当たり前に優勝できていただろうに。おそらくは、一度も苦戦することすらなく。
そんなユミナさんは、ただ当たり前だという顔をしている。スティアは、顔をひきつらせていた。
「あたしですら、ソールに手から
「えっ……? いま、なんと言いましたか……?」
軽くうつむいて、ユミナさんは低い震える声を出していた。それから、じろりとスティアを見る。
ユミナさんの目を見ると、押しつぶされそうと感じるほどの圧力がある。それこそ、修羅みたいに。
スティアは一歩下がっていた。自分の足を見て、首を振ってにらみ返している。
「な、なによ? 普通の訓練でしょ?」
「ズルいです! 友達と手を握って訓練するなんて、定番じゃないですか!」
ユミナさんは一瞬でむくれた顔になった。さっきまでの圧力は消え去って、可愛らしい感じになってくれた。
スティアは目を白黒させている。まあ、急に雰囲気が変わりすぎていてビックリするよな。晴れていたのにいきなり雷が落ちたレベルだぞ。
ユミナさん、本当に表情や雰囲気がコロコロ変わる。間違いなく魅力ではあるんだけど、ちょっと怖い部分もあるな。
「なら、ユミナもやってみればいいじゃない。あたしの方が先だけどね」
「手なんて握らなくても、
「確かに、それもそうね。いくら友達でも、異性の手をわざわざ握ったりはしないか」
ユミナさんは一瞬だけ俺を見て、目をパチクリとさせる。そして、またスティアの方を見た。
そういえば、馬車の中で再戦の約束をした時に握手はしていたか。不純なものではなく、純粋に約束としてではあるが。
ただ、ユミナさんも異性経験は浅そうだからな。いや、俺も浅いんだが。
それでも、俺は手をつなぐくらいはおかしくないと知っているぞ。
ふたりを見ると、スティアは少し目を細めて、ユミナさんはじっと見返していた。
「……そうですよ! 異性の手を握るなんて、簡単にすることじゃありません!」
「今の間、なんだったの? まさか、自分だけ手を握ろうって話じゃ……」
「ち、違いますよ! 私は友達として、節度を持ってですね……」
「ふーん。友達として、ねえ。ちゃんと、ソールと友達になったの?」
「うっ……。そうですよ! なんでスティアさんは友達になってほしいと言われたんですか! 私は言われていないのに!」
両拳を振り下ろしながら、ユミナさんはヒートアップしている。
まあ、ライバル宣言してすぐに台無しになった出会いだからな。スティアとの友情に比べれば、劇的さは少ないか。
というか、俺も巻き込まれていないか? なんと言えば正解なんだ?
対人経験の少なさが、どうしても出てしまう。エミリさえいてくれれば、少しはマシだったのに。
いや、エミリに頼ってばかりでもダメだ。俺はちゃんと、自分の手で友達を手に入れてみせるんだ。
よし、やるぞ。俺は息を吸って、ユミナさんに手を差し出した。
「なら、あらためて言わせてほしい。ユミナさんも、俺の友達になってくれ」
「は、はい……。ソールさんが、そう言うのなら……」
さっきまでの勢いはどこへ行ったのか、ユミナさんはモジモジしながら頷いた。
手を差し出してくれて、俺も握り返す。相変わらず、柔らかさの中に少しだけ硬さがある。やっぱり、この手は好きだ。
スティアは、俺達が握っている手をじっと見ていた。そして、自分の手を握って開く。どこか、名残惜しそうに。
それからユミナさんを見て、胸を張って大きく口を開いた。
「でも、残念だったわね! ソールの初めては、このあたしよ!」
空気が凍った音が、聞こえた気がした。
ユミナさんは一瞬止まって、ものすごい力で俺の手を握る。折れそうとすら感じるほど。すぐにハッとした顔をして、パッと離してくれた。
でも、明らかに厳しい表情をしている。うつむきながら、とても低い声で話し出す。
「まさか、そこまで進んでいたんですか……? 出会って、一週間ほどで……? ソールさん……? いえ、スティアさん……?」
目から炎でも出そうなくらいの勢いで、ユミナさんはスティアを見る。スティアは、また一歩下がっていた。
マズい。とんでもない誤解をされている。スティア、そういう知識はなさそうだもんな。王女様なんだし。
だが、俺から話をするのもマズくないか? 女の人にして大丈夫な話か?
「な、なによ? 単なる事実でしょ?」
「へえ……?」
ユミナさんは、とても低い声を出していた。周囲に響き渡るほどに、深く。
もう、女子相手とか言っていられない。今すぐに誤解を解かないと、マズい!
直感に従うままに、俺は叫ぶ。
「違う、違うぞユミナさん! 俺が初めて友達になってほしいと宣言したってだけで……!」
「そうなんですか、スティアさん?」
「他にどんな意味があるっていうのよ?」
「ああ、そういうことですか……。スティアさん、耳を貸してください……」
ただ従うスティアの耳元で、ユミナさんはポショポショと話す。スティアの顔は、みるみるうちに真っ赤に染まっていった。
慌てたように、パタパタと手を振っている。
「ち、ちが……。本当に、ただ初めての友達ってだけで……!」
「なるほど、そうでしたか。なら、まだ問題は少ないですね」
納得したように手を打って、ユミナさんは穏やかな顔に戻る。俺はほっと息をついた。た、助かった……。
スティアと関係を持ったと誤解されたら、いろいろな意味で大変だからな。
俺が軽薄な男だと誤解されるのはまだ良いとして、スティアが似たような目で見られたら大変どころじゃない。
もっと言えば、王女様なんだから。軽率に関係を持つ人間として認識されたら、国の問題にもなりかねないはず。
あ、危なかった! 下手をしたら、俺の命が危なかったんじゃないか!?
誤解が解けて、本当に良かった……!
スティアはまだ顔が赤いが、俺は顔を青くしそうだぞ。
口をパクパクしているスティアは、微笑ましくはあるが。今はまっすぐに見れそうにない。
「そ、そうよ! いくらソールが相手でも、出会ってすぐに関係を持ったりしないわよ! ほんと、どんな勘違いよ!」
「いくらソールが相手でも……? ふむ。なるほど……」
ユミナさんは、あごに手を当ててスティアをちらりと見る。
「な、なによ……?」
「いえ。私も、しっかりソールさんと仲良くしないといけませんね。ソールさんみたいな人とは、きっと二度と出会えないでしょうから」
「あたしだって同じよ。初めての友達なんだから」
「スティアさんの言う意味とは違うのですが、まあ良いでしょう」
「あたしは打算でソールを選んだわけじゃないわ。ユミナとは違ってね」
スティアは何気ない様子で話していたが、ユミナさんは違う受け取り方をした様子。
また、ユミナさんは冷たい目に戻る。吹雪でも起きそうなくらいに、薄く目を細めて。スティアもまた、一歩下がっていた。
「な、なによ?」
「スティアさんとは、白黒つけないといけないようですね……! なんですか! 私とは違ってって!」
「あっ……。そ、その……」
「謝っても、もう遅いです! どちらがソールさんの友達にふさわしいか、ハッキリさせましょう!」
指を突き出して、ユミナさんは宣言する。
スティアは腰に両手を当てて、堂々と胸を張っていた。
「ええ。決めましょうか。どっちがソールにふさわしいか、ね」
ふたりはまさに、一触即発。ふたりの間に、火柱が見えそうな気がした。
俺の友達ふたりが、俺を奪い合っているんだが!?