スポ根みたいな異能力バトル世界で即死チートを持ってしまった 作:忘れられた女神
ユミナさんとスティアは、明確に俺を奪い合おうとしている。どう見ても、強くにらみ合っているのだから。
ライバルという空気ですらない。もっと凍えた何かだ。それこそ、吹雪のよう。
だが、俺が原因だからこそ止めるのは難しい。それでも、せめてマシになるようには調整しないと。
俺は大きく息を吸って、大きく声を出した。
「とりあえず、怪我だけはしないようにしてくれよ!」
「分かりました。やはり、私たちが白黒つけるには、これしかないですよね。交われ、
「そうね。ソールは見ていなさい。圧壊せよ、
ユミナさんが白銀の剣を出して、スティアは赤い大剣を出す。ふたりはお互いに剣を向け合っていた。どちらも、とても鋭い目で。
これ、まさか俺の言葉で戦いに決まったやつか!?
じゃんけんで決めてくれと言っておけば、おとなしい争いで済んだやつか!?
ただ、いまさら別のルールでと言って聞いてもらえる雰囲気じゃない。横入りしても、結果的にふたりの亀裂を深めるだけ。俺でも分かる。
つまり、もう見守ることしかできない。くっ。人間関係が、こんなにも難しいものだったなんて。歯噛みしても足りない。
今となっては、エミリに対する尊敬が浮かび上がってくるぞ。誰とでも仲良くできるって、本当にすごかったんだな……。
とりあえず、もう一度だけ念押ししておこう。それしか、できない。
「熱くなりすぎないでくれよ! 怪我だけは、本当にやめてくれ!」
「大丈夫です。私、手加減も得意ですから」
「へえ。言い訳はそれで十分かしら?」
ユミナさん、挑発する意図もなさそうな自然体で言っているんだけど!?
スティアは一気に声が低くなったし! もう、俺は何も言わない方が良いやつか? 言葉を発するだけ、ふたりの対立が深まるやつか?
もっと、会話についての本とかを読んでおくんだった……。今となっては、遅すぎる後悔だけど!
完全に、俺は部外者同然。いざとなったら割って入れるように、心構えだけ。
「じゃあ、ソールさん。審判をお願いします」
「そうね。勝った負けたの言い合いなんて、馬鹿らしいもの」
「分かった。ふたりとも、準備はいいか?」
両者を見ると、どちらもすぐに頷く。なら、もう始めた方が良いな。変に引き伸ばしたら、もっと激しい争いになる気しかしない。
腹の底まで息を吸って、俺は叫ぶ。
「
ユミナさんは、剣をだらりと下げながら待っている。構えすらない。完全に、見に回っている。ぶっちぎりの最強だって評判だったし、先手を取るまでもなかったんだろうな。
たぶん、そこが隙になる。スティアに突けるかどうかは分からないが。
スティアはまっすぐに駆け出して、大剣を右手で振り下ろす。俺にまで風切音が届いてきた。
ユミナさんは足を動かして、受ける構えになろうとする。右手の剣は、動いていなかった。即座に手放し、すれ違いざまにスティアの腹に拳を叩き込もうとする。当たる直前に、右手が止まる。
逆にスティアが拳を叩き込もうとすると、ユミナさんはスティアの右足を踏み潰していた。
体勢が崩れた瞬間に、ユミナさんの左拳がスティアの腹に勢いよく叩きつけられる。鈍い音とともに、スティアは軽く吹き飛んでいった。
スティアは顔をしかめて、軽く前かがみになりながら咳き込んでいる。ユミナさんは追撃しようともせず、ただ冷たい目で見守るだけ。
「けほっ、けほっ……。まさか、ここまでやるなんて……」
「なるほど。おおよそ分かりました。その程度なら、私の敵ではありません」
当たり前のように語られる言葉に、スティアは息を呑んでいた。即座に首を振って、前を向いている。剣を構え直して、一気に駆け出した。
「まだ、終わってないのよ!」
スティアが大剣を振り下ろそうとすると、ユミナさんは潜り込んで腹を殴りにかかる。そのまま特に妨害もなく、スティアの腹にクリーンヒットした。大きく折れ曲がって、吹き飛ぶ。
また咳き込むスティアは、困惑したように目を揺らしている。ユミナさんは、冷徹さすら感じる目で見ているだけ。完全に、高みから見下ろしているとしか言いようがない。
もう一度スティアは突っ込んでいって、同じ流れの再演になった。
その次に、スティアは遠くからユミナさんに手を伸ばす。
「ユミナよ、止まりなさい!」
少しも影響を受けた様子もなく、ユミナさんはただスティアに向けて歩くだけ。剣を構えることすらせず。
スティアは怯えたように顔を歪めて、ゆっくりと一歩下がった。
「な、なんで止まらないの……」
「私の体が自由になるように、因果を紡ぎました」
「は……?」
力の抜けた声を出して、スティアは完全に固まる。何度もまばたきをして、自分の手を見ていた。
ユミナさんは、目を伏せていく。どこか、悲しそうに。期待を裏切られたかのように。
今なら、分かる。ユミナさんがどれだけの孤独を抱えていたのか。スティアですら、少しも相手にならない。
誰にも負けることがないと思っていた。それはユミナさんが言っていたこと。つまるところ、苦戦することすらなかったってことじゃないか?
ユミナさんの力なら、誰とも勝負が成立しない。俺と同じような孤独を抱えていた。そんな直感は、間違っていなかった。
当たり前か。ただ因果を紡ぐだけで、大抵の能力を封じてしまえる。勝利と因果を紡ぐだけで、あっけなく勝ててしまえる。
どれだけ、ユミナさんは退屈だったんだろう。1+1とだけ繰り返し書かれた数百問の問題集を、ただ一から解き続ける。それくらいの苦行だったんじゃないか?
ユミナさんは、もはや歩きすらしていない。ただ離れてスティアの様子を見ているだけ。
スティアは顔をくしゃりと歪めて、自分を抱きしめて震えていた。
「まさか、他人の能力に干渉できるの……?」
「そんな事も知らずに、勝ち続けられたんですね。弱い相手ばかりと、戦ってきたようです」
「止まってよ! 止まりなさいよ!」
スティアは手を伸ばして、何度も力を込めている様子。
ユミナさんは、小揺るぎもせずに歩き続ける。何一つとして通用していないのは、明らかだった。
「無駄だと言っているのが、分かりませんか?」
その言葉に、スティアの腕がだらりと降りていった。それから、顔をおおう。
「こんなの、どうやって勝てばいいのよ……」
「別に、諦めても良いですよ。ソールさんとも、たまに訓練すると良いでしょう」
ユミナさんは表情を変えないまま、淡々と話す。普段のお茶目っぷりなど感じさせない、あまりにも冷たい姿。
スティアはまた激しく震えて、助けを求めるように俺を見る。
そろそろ、止めた方が良いか。
「ユミナさん、そろそろ……」
そんな言葉を発した瞬間、スティアは一気に表情を変えた。俺をにらみつけるように、激しく。執念のようなものが見えるほど。歯を食いしばってもいる。
スティアは震えるほどに拳を握りしめて、勢いよく太ももを殴りつけた。
「まだよ! あたしはソールをボッコボコにするの! この程度で諦めていて、達成できるものじゃないのよ!」
スティアはユミナさんに向けて踏み込む。対するユミナさんは、ため息だけついて拳を握る。
それを見ても、スティアは止まらない。もう一度、勢いよく大剣を振り下ろす。ユミナさんが拳を振ろうとした瞬間、スティアの左手から
ユミナさんの胸元に、珠は一直線に進んでいく。直撃するかと思った瞬間、ユミナさんの胸からも
それはスティアの珠を打ち砕いて、止まることなく進んでいく。真正面からスティアに直撃して、大きくのけぞらせた。
ユミナさんは、またため息をつくだけ。
「私がこれまで
「能力に注ぎ込むより、効率が悪いってんでしょ! 分かってるわよ!」
また、スティアは珠を出す。ユミナさんもまた、珠であっけなく叩き潰す。もう一度、スティアに珠が直撃した。
ユミナさんは、見下すような目をしている。期待外れのものを見るように。それこそ、何も面白くない劇団に向ける目線のようですらあった。
「なら、どうしてそんなくだらない技で私に対抗できると思ったんですか? あなたは、ソールさんとは違うんですよ?」
「もう終わったようなこと、言ってるんじゃないわよ!」
スティアは大剣を激しく振り回す。ときおり珠を出しながら、まるで破れかぶれのように。ユミナさんは、もはや反撃すらしなくなった。ひらりひらりと、ただ踊るように避けるだけ。
もう、ユミナさんはスティアを敵として認識していない。きっと、内心では格付けを終わらせたんだ。
「自分でも、分かっているでしょう? あなたでは、届かない。一生をかけたところで、同じです」
「あんたが、あたしの限界を決めるんじゃないわ! なら、やってやるわよ! 今ここで!」
「どうぞお好きにしてください。あなたが諦めたくなるまで、ね」
「なら、遠慮なく! あたしの力、見せてあげるわ!」
スティアはまた、ユミナさんに向けて踏み出した。大剣を持ち上げて、叩きつけようとしている。
「呆れてしまいそうですね。対抗策もなく、ただ突っ込んでくるだけとは」
「策なら、あるわよ! あんたが教えてくれたことがね! 行くわよ! ユミナの能力ごと、一瞬だけでも止まりなさい!」
その言葉と同時に、ユミナさんの全身が止まる。なるほど。能力に対する干渉を活かしたのか。うまいな。ユミナさんにまで通じるとは。
スティアの大剣は、ただユミナさんに向けて振り下ろされていく。頭に向けて、まっすぐに。
当たるかと思った瞬間、スティアの大剣は自分から逸れていった。
対するスティアは、信じられないものを見るかのように大剣を見つめていた。
「なるほど。認めましょう。私の油断を。そして、スティアさんの本気を」
ユミナさんは剣を右手に出現させて、前に向けて傾く。そして一瞬で、スティアの横っ腹に剣を直撃させていた。
「あっ、ぐっ……」
スティアは膝をつく。即座に俺は叫んだ。
「勝者、ユミナ!」
それと同時に、スティアは座り込んだ。そして、悔しそうに地面を叩く。何度も何度も、地面に拳を叩きつけていた。
しばらくして、肩で息をするスティア。ユミナさんは、少し柔らかい顔で手を差し出す。
「呆れてしまいそうと言ったこと、撤回します。一瞬とはいえ、あなたの力は私に通じたんですから。失礼な発言にも、謝罪を。すみませんでした」
スティアはキョトンとしたような顔をして、お腹を抱えて笑い出した。
「戦いの中で挑発するのは、ただの戦術でしょ。ほんと、ユミナってば……。でも、ありがとう」
ユミナさんの手を取って、スティアさんは微笑む。対するユミナさんも、優しい笑顔をしていた。
なんとか、一件落着みたいだ。つい、息がこぼれる。
「じゃあ、これからは3人で仲良くしたいな」
「そうですね。スティアさんも、尊敬できる人だと思います」
「ユミナはもう、尊敬を通り越しちゃいそうよ……。ソールってば、どうやって勝ったのよ……? 最後のあれ、あたしが失敗する因果ってことでしょ!?」
「なんか、頑張って斬ったら……?」
「頑張って斬ったら!? ソール、何を言ってんの!?」
スティアは口をあんぐりと開けている。まあ、本当のことを言えば単純な理屈なんだが。
さっきの戦いみたいに、能力同士がお互いに干渉しあうことはよくある。その時に勝つのは、より影響力の強い能力だ。
つまり、ユミナさんが因果を紡ぐ影響力より、俺が努力が報われない結果を殺した影響力の方が大きかったということ。
単純な能力同士の出力なら、俺の方が上ということだな。
人を殺すような能力だなんて、言えるはずないんだが。いくらユミナさんやスティアが相手でも、人殺しの能力を受け入れられるはずがない。
だって、俺自身ですら嫌うような能力なんだから。他人になんて、絶対に無理だ。
まあ、暗い気分になっても仕方ない。少しでも楽しい話をしていこう。
「実際、そうとしか言えないんだよな……。ユミナさんの能力には、分かりやすい対抗策はないし」
「そうですね。ソールさん以外に負ける可能性を思い描いたのは、幼い頃くらいです」
「あたしも負けたことはないようなものだけど、ユミナは格が違うわ……。可愛い顔して、とんでもないわね」
「私はとびっきりの美少女ですから、当然ですね」
「そういう褒め方はしてないんだけど!? ユミナ、やっぱり変わった人ね!?」
「変わった人ってなんですか! ひどいです!」
ユミナさんは、また頬を膨らませて拳を振り下ろしている。さっきまでの戦いでは、むしろかなり冷たい印象だったんだが。
今は本当に可愛らしい。本当に、いろんな顔のある人だ。
とはいえ、どっちの気持ちも分かる。今回こそは間に入らないとな。
「まあまあ。話が合う人がいないと、あんまり会話の練習もできないからな。俺も分かるよ」
「それ、暗に肯定していませんか!? ソールさん!?」
「あはは! 言われてるわよ、ユミナ」
「ひどいです! 私はこんなに可愛いのに!」
「ほんと、話してみないと分からないものね。ユミナとも、仲良くできそうだわ」
スティアも今は穏やかな顔をしている。しっかりと友達になってくれたみたいだ。
この調子で、もっと仲良くしていければ。
俺も、もうちょっと会話を頑張ってみよう。
「ユミナさんは、本当に可愛いよ。ちょっとドジなところも、素敵だ」
「ドジって言いましたか!? この私に!?」
「それは否定できないと思うわよ?」
「よくも言ってくれましたね……! ソールさんのせいですよ!」
「俺!?」
「とぼけた顔をしても、無駄ですよ! 今度は、ソールさんに思い知らせてあげないといけないようですね……! 交われ、
今度は、俺に勝負を挑まれてしまったみたいだ。どうしてこうなった!?
……なんて、言っている場合じゃないな。
今回も、絶対に能力なんて使わない。使わなきゃ不自然なほど、追い詰められたりもしない。
ユミナさんの真剣な目を見ながら、俺は体内の