スポ根みたいな異能力バトル世界で即死チートを持ってしまった   作:忘れられた女神

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8話 絶対に負けられない戦い

 ユミナさんは、俺の喉元に星枢器(シリウス)の剣を突きつけてきた。刺すような目で俺を見ているので、相当怒っているらしい。

 たぶん、弁解をしても余計に怒らせるだけ。いい加減分かってきた。

 だからこそ、俺は圧勝しないといけない。能力を使うまでもないのだと、余裕を見せ続けなければならない。

 たとえ、また誤解を招くとしてもだ。嫌われてしまうとしてもだ。

 

 そうしなければ、ユミナさんの全部が失われてしまうんだ。俺が一度能力を使っただけで、あっけなく。

 

「いくぞ、ユミナさん」

 

 俺は右手に漆黒の剣を出す。この剣は、ただのナマクラとしてしか使わない。スティアと戦った時と同じように。

 決意を込めて、まっすぐにユミナさんを見る。

 

 ユミナさんは、獰猛な獣のような笑みを浮かべる。いつかと同じように。

 

「この瞬間を、ずっと待っていました。まだ一週間ほどなのに、おかしいですよね」

「たぶん、おかしくはないさ。だけど、結果は同じだ」

「ずいぶんと余裕ですね。その顔、歪めてあげますよ。存分に、私の力を味わってください」

 

 覇気すら感じさせる笑みが、目の前に広がる。

 騎士星枢祭(スターリット)の決勝で戦ったユミナさんは、ハッキリ言ってどこか気が抜けていた。だから、あっさりと勝てた。

 だが、今回はそうは行かない。間違いなく、底力まで振り絞って挑んでくるだろう。

 

 剣の握りを確かめて、うなずく。俺は、やれる。いや、絶対にやってみせる。

 ただの一度だって追い詰められることなく、叩きのめしてやるさ。ユミナさんのプライドが打ち砕かれようともだ。

 命より、将来より大事なものなんてない。だから、傷つけてでも……。

 

「じゃあ、あたしが審判ね。ふたりとも、準備はいい?」

 

 スティアから声が届いて、ハッとした。落ち着け。緊張しすぎるな。冷静に、頭を回せ。徹底的に詰将棋をして、相手に隙を与えるな。

 それが、俺のやるべきこと。負ける可能性なんて、わずかにだって許さない。一度、ゆっくりと息を吸え。

 よし、いくぞ。

 

 俺とユミナさんは、同時に頷く。

 

 そして、スティアは大きく息を吸った。

 

神聖なる戦いを(Battle for Praying)!」

 

 即座に、ユミナさんは爆発的な速度で駆け寄ってくる。それこそ、まばたきすれば視界から消えそうなくらいに。

 一瞬で剣を振り下ろされて、半歩だけズレてかわす。即座に下から剣を振り上げて反撃すると、受けられた。激しい音が響き渡る。それごと全部吹き飛ばすように、力を込めて剣を振り抜く。

 ユミナさんは、宙に舞い上がった。俺は全力で駆け寄って、逃げ場のないユミナさんに突きを放つ。体をひねって避けられた。

 

 無事に着地されてしまって、舌打ちしそうになる。決めそこねた。今が、きっと一番楽な勝機だった。

 

「は、早い……! これが、ユミナの本気……!?」

 

 スティアが声をこぼすのが聞こえた。だが、そちらを気にしている余裕はない。今度も一瞬で距離を詰めてきて、体の芯に向けて鋭い突きを放たれる。

 剣を横にして、左手を添えて受けた。あまりにも重い音が響いて、腹にまで伝わってくる。体が浮きそうになるのを、踏ん張ってこらえた。

 

 即座にユミナさんは回し蹴りを放ってくる。あごに向けて、一直線に。下がってかわそうとすると、スカートの影から裏拳が飛んできた。

 拳に膝を合わせて、なんとか弾き飛ばす。少しだけ、相手は体勢を崩した。だが、眼光鋭く俺の隙をうかがっている。うかつに追撃はできない。

 

 ユミナさんは、本当に何でもする気なんだ。

 スカートの中を見せても、羞恥心を感じていない。それどころか、自分の衣装すら戦術として利用してきている。

 

 まだ、ユミナさんの目は鋭いまま。ようやく小手調べが終わったというところか。

 

「やはり、この程度では通じませんね。さすがは、ソールさんです」

「ユミナさんこそ……!」

 

 やはり、すごい人だ。才能に溺れるだけじゃなくて、圧倒的な努力を重ねてきたことが分かる。

 いくらユミナさんが天才でも、今ほどの動きにたどり着くには苦労したはずだ。それこそ、信じられないほどの努力を重ねてきたと言い切って良い。

 

 だからこそ、今すぐにでも叩き潰さないといけない。俺に能力を使わせようなんて、そんなことを望ませないくらいに。

 

 ユミナさんは、ケダモノのように唇を釣り上げていた。

 

「ですが、勝つのは私です! 私の前に、ひざまずきなさい!」

 

 さあ、本気で行くぞ。一切遠慮なく、圧倒的な力で踏み潰してやるさ。

 

「いや、俺が勝つさ! 今回も、何度だって!」

 

 俺は体内から星枢力(スターサイン)の白い珠を出す。最初から、訓練場のすべてを埋め尽くすほどに。

 ユミナさんが動くのを待たずに、俺は一気に射出した。前から後ろからも、横も上からも。

 

 さあ、どう対応する? できるか、ユミナさん!

 

「私がくぐり抜ける未来と、因果を紡いでください!」

 

 ユミナさんは、俺に向けて一直線に進んできた。真正面にある珠を、いくつかは剣で払い、いくつかは当たっても無視し、そして残りは全部かいくぐりながら。

 わずかに、珠の制御が乱れた感覚があった。だから、完全にはぶつけられなかったようだ。

 

「それだけじゃ、足りないな!」

 

 そう、まだまだ。ユミナさんの後ろから、残った珠を襲いかからせていく。同時に、俺は右手の剣を握りしめて、体をひねりながら振り抜く。

 ユミナさんが受けようとした瞬間に、左手に剣を出現させる。すでに左手は突きの構えに入っていたので、そのまま叩きつけようとする。

 

 受けても避けても、珠への対応は遅れるだろ。さあ、どうする。

 

 ユミナさんの答えは、前進だった。体をひねりながら剣を避ける。それだけで、抜けられた。因果に強制されるように、ユミナさんは俺に向けて剣を振り下ろしてくる。

 

「ソールさんに当たる未来と、因果を紡いでください!」

 

 剣の出し入れが、ほんの一瞬だけ遅れた。このままでは、拳で払えない。なるほど。これが因果。誰にも負けないはずだ。相手の動きを強制させるほどの、強力な運命を刻むもの。

 

 だが、対応だってできる。俺に当たるだけならな。

 

「それで、決めさせたりはしない!」

 

 あえて、無防備に右腕を差し出す。ユミナさんの剣が触れたその一瞬で、全身ごと回転しながら剣を受け流した。

 そう。当たりはしたさ。ダメージは通っていないが。

 

 ユミナさんは剣を振り下ろした勢いのまま、前につんのめる。そこに向けて、膝蹴りを放つ。

 腹に直撃して、ユミナさんは折れ曲がる。そして、軽く吹き飛んでいった。

 

 着地したユミナさんは、とても鋭利に唇を歪めていた。獲物を見つけたように、激しく。

 

「ふふ。ソールさんへの対策だったのですが。一段階目は、破られてしまいましたね。ええ、さすがです。簡単には、勝たせてくれません。だからこそ……!」

 

 ユミナさんは、闘気を燃え上がらせているようにすら見える。

 どんな対策を練ってきたかは、分かる。俺に能力を届かせるために、使い方を洗練させたということ。

 そして、まだ段階を残しているということも。

 

 考えろ。能力の強度を高める方法は、3つ。

 ひとつは、能力を使う際に声で宣言すること。ユミナさんもスティアもやっていること。

 もうひとつは、能力を影響させる範囲を絞ること。さっきユミナさんがしたこと。

 

 前回は、勝利へと因果を紡いでいた。それは曖昧なものだったから、俺が努力が報われない結果を殺したのとぶつかって、出力で俺が勝った。単純な話。

 そんな曖昧な条件で、俺以外には苦戦すらしなかった。ユミナさんは、本当に天才だ。

 

 だからこそ、俺の能力の異常性も分かるんだが。

 ただ一戦での勝利と、一生の努力が報われない結果とでは、明らかに範囲が違いすぎる。俺の能力は、あまりにも曖昧な範囲に影響しているのだから。

 俺自身も、大した効果が得られるとは思っていなかった。だから、気軽に使った。使ってしまった。

 

 それが、あっけなく国一番になるほどの効果を出してしまったんだ。

 他の誰かに能力を使いなんてすれば、どれほどおぞましい結果になるか。

 

 だから、絶対に誰かに能力を使ったりしない。必ず能力なしで打ち破ってやる。

 

 次にユミナさんが打ってくる手は、もう分かる。

 能力の強度を高める方法における、最後のひとつ。

 

「ここからが、二段階目です。行きますよ、ソールさん。さあ、踊りなさい! この私の前で!」

 

 ユミナさんは、全身の星枢力(スターサイン)を一気に集中させていく。白銀の剣が、歪んだ音を出すほどに。

 そう。スティアが一瞬とはいえ、ユミナさんに能力を通用させた方法。ユミナさんの能力ごと全身を止めるという広範囲でも、格上に通用させた方法。

 後先考えずに、ただ一撃だけにすべての星枢力(スターサイン)を注ぎ込むこと。

 

 因果にも、スティアとユミナさんは同じ回答にたどり着いたわけだ。

 

 ユミナさんは、空気を震えさせるほどに星枢力(スターサイン)を集中させている。ひどく乾いた音が、ずっと鳴り続けるほどに。

 この一撃で、勝負は決まる。そう確信させるだけの圧があった。

 

 対する俺も、構えていく。ユミナさんが何と因果を紡ぐのか。それを見抜かなければ、勝ちはない。

 考えろ。頭を回せ。知恵を振り絞って、勝ち筋を見つけるんだ。

 

 今すぐに、星枢力(スターサイン)の珠をぶつけるか? いや、ダメだ。ユミナさんが収束している星枢力(スターサイン)そのものが壁になって、突破できない。

 斬り掛かっても、同じになる。先に星枢力(スターサイン)を収束された以上、単純な出力では出遅れてしまっている。反撃を食らって終わりだ。

 

 ユミナさんの能力に、俺の能力を使う。そんなこと、できるはずがない。

 何と因果を紡ぐにしろ、出力で上から潰せるだろう。だからこそ、絶対にできない。

 

 例えば、今回みたいに俺に当たるように因果を紡いだとする。その結果を殺せば、最低でも二度と同じ因果は紡げなくなるはずだ。

 最悪の場合、能力そのものが二度と使えなくなる。

 

 ちょうどよく手加減なんてできるほど、俺は能力に習熟できていない。俺自身に使えたのは、失敗しても俺が死ぬだけで済むからだ。

 他人で試すことなんて、絶対にできなかった。今だって、同じ。

 

 なら、選択肢はひとつしかない。真正面から、ユミナさんの能力を打ち破ること。

 ユミナさんが能力の対象を示すのと同時に、即座に対策を練る。そして、ユミナさんが紡いだ因果を叶えつつ、俺の望む結果を出せば良い。

 

 やれるか、なんて問うまでもない。できなければならない。そうでないのなら、俺は死ぬべきだ。

 

 考えている間に、ユミナさんは星枢力(スターサイン)を収束し終えたようだ。ここから、来る。

 

「さあ、覚悟してください! 私の前に、花と散ることを!」

「しているさ! 絶対に勝つって!」

 

 よし、行くぞ。ユミナさんを見つめながら、一気に息を吸い込んだ。

 

 ユミナさんは、また爆発的な速度で駆け寄ってくる。さあ、どう来る。

 

「因果よ! ソールさんの胸に、私の剣を当てなさい!」

 

 やられた。これで、回転して受け流すという手は使えない。どうあがいても、俺の胸にユミナさんの剣は直撃する。

 それでも、できる限りの抵抗をしてみせる。

 

 剣を構えて、ユミナさんに向けて振り抜く。後ろから、星枢力(スターサイン)の珠を雨あられと降らせながら。

 ユミナさんは流れるような動きで避けていく。俺の剣を打ち払い、直撃しそうな珠も弾かれていく。足止めすらもできていない。

 

 もう一度、ユミナさんに向けて突きを放つ。いつもより、少し遅れた。結果、半歩だけズレて避けられた。そのままの勢いで、俺の胸に突きが飛んでくる。

 

 やはり、当たる未来は変えられなかったか。

 

 だが、ここからだ!

 

「負ける、ものか!」

 

 俺は、全力で息を吸った。そして、すべての星枢力(スターサイン)を胸に集中させていく。

 ユミナさんの剣が胸に当たるという結果そのものは、変えられない。だが、抵抗はできる。当たっても、通じないという結果で!

 剣や珠に対処する中で、ユミナさんは星枢力(スターサイン)を削られていったはずだ。

 なら、後は我慢比べだけ。負けない。負けられるわけがない。俺は誓ったんだ。ユミナさんを死なせない。いや、誰ひとりとして死なせはしないって。

 

 その誓いは、砕けたりしない!

 

 ユミナさんの剣が、胸に直撃する。心臓にまで、衝撃が届いた気がした。だが、息は決して吐かない。

 息を吸い込むことすら、今は隙になってしまう。なら、さっき吸い込んだ息だけを頼りに耐えるだけ。さあ、気合いだ。

 

「まだ、抵抗するんですか! この私の、全力に! やはり、あなたは……!」

 

 ユミナさんは、剣を強く押し込んでくる。

 俺はただひたすらに、星枢力(スターサイン)を胸に送り込む。ユミナさんは、両手に力を込めて押し込んでくる。歯を食いしばりながら、綺麗な顔を歪めて。

 それだけ、俺に勝ちたいのだろう。俺に本気を出させたいのだろう。

 

 初めて負けた相手に、リベンジしたい。そんな気持ちは、誰にだってある。俺が相手でさえなければ、心から応援できた。

 だって、ユミナさんはとっても素敵な人なんだから。

 

 戦いに挑む時の、少しだけ冷徹な姿。磨き抜かれた武技。そして、しがみつくような執着。

 それだけじゃない。ちょっとドジなところも、コロコロ顔を変えるところも、距離感が近いところも。

 

 ユミナさんの素敵なところは、数え切れないくらいに知っている。これからだって、知っていけるはずだ。

 

 なら、命を燃やせ。魂の奥底まで、すべてを注ぎ込め。能力を使わずに勝たなきゃ、何も始まらないだろ!

 

「諦める、ものか……!」

「いい加減、諦めてください! 勝つのは、私です!」

 

 ユミナさんの溜め込んだ星枢力(スターサイン)が、俺の防御を貫こうとする。俺はただ、全身にある星枢力(スターサイン)を集中させる。

 心臓が、激しく鼓動を打つ。やはり、単なるエネルギーとして使うには、効率が悪すぎる。

 能力として使っていれば、拮抗すらしなかっただろうな。俺の魂が教えてくれる。

 

 だが、だからこそ。俺は勝つ。勝ってみせる。

 

 その意志を込めて、俺はあえて一歩踏み込んだ。ユミナさんの剣が、少し下がる。

 やれる。やってやる。全身の星枢力(スターサイン)を、胸に送り込む。俺の力は、それだけじゃない。

 

「お断り、だ……!」

「ソールさん……! 諦めれば、楽になれますよ……!」

「うぉおおおおおおっ!」

 

 全身に力を込めて、足を踏みしめる。腕を振り抜く。そう。肉体の力だって、少しは足せる。

 一気に、地面を蹴り飛ばした。胸の痛みを、無視しながら。

 

 全力で、押し込む。押し込み続ける。

 ユミナさんは、一歩下がる。また押し込む。また一歩下がる。

 

「これで……終わりだ!」

 

 この一瞬で終わっても良い。そんな気持ちで、ただすべてを振り絞る。

 やがて、ユミナさんの剣はズレる。その持ち手を、一気に殴りつけた。

 

 剣は宙を舞って、地面に落ちる。カランという音が鳴った。何度も転がって、最後には止まる。

 ユミナさんも、尻餅をついていった。その顔面に向けて、拳を振り抜く。

 当たる直前に、止めた。ユミナさんは、ただ俺だけを見ていた。数回、まばたきをしていた。

 

「勝者、ソール!」

 

 スティアの声が聞こえて、俺は地面に座り込んだ。肺の奥から、一気に息がこぼれた。

 よし、勝てた……。

 

 立ち上がったユミナさんが、手を差し出してくる。悔しそうに眉をひそめて、それでもまっすぐに俺を見て。

 

「負けてしまいましたね。また、能力も使わずに……」

「ユミナさんは、本当にすごい。それは間違いない」

「慰めは、良いんです。私が未熟なだけですから」

「いや、それは……」

「何も、言わないでください。今度こそ、あなたに本気を出させてみせますから」

 

 そう語る瞬間の笑顔は、太陽よりも輝いていた。手を握ると、染み込むような温かさが伝わってきた。

 

 だからこそ、俺は誓ったんだ。

 

 どんな未来が待っていても、決して能力は使わないと。ユミナさんがどれだけ成長しようと、能力無しで超えてみせると。

 

 そんな俺に、ユミナさんは花開くように笑いかけてくる。

 

「だから、いつでも私に甘えてくれて良いんですからね?」

 

 ……どういうこと?

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