スポ根みたいな異能力バトル世界で即死チートを持ってしまった 作:忘れられた女神
ユミナさんは、俺の喉元に
たぶん、弁解をしても余計に怒らせるだけ。いい加減分かってきた。
だからこそ、俺は圧勝しないといけない。能力を使うまでもないのだと、余裕を見せ続けなければならない。
たとえ、また誤解を招くとしてもだ。嫌われてしまうとしてもだ。
そうしなければ、ユミナさんの全部が失われてしまうんだ。俺が一度能力を使っただけで、あっけなく。
「いくぞ、ユミナさん」
俺は右手に漆黒の剣を出す。この剣は、ただのナマクラとしてしか使わない。スティアと戦った時と同じように。
決意を込めて、まっすぐにユミナさんを見る。
ユミナさんは、獰猛な獣のような笑みを浮かべる。いつかと同じように。
「この瞬間を、ずっと待っていました。まだ一週間ほどなのに、おかしいですよね」
「たぶん、おかしくはないさ。だけど、結果は同じだ」
「ずいぶんと余裕ですね。その顔、歪めてあげますよ。存分に、私の力を味わってください」
覇気すら感じさせる笑みが、目の前に広がる。
だが、今回はそうは行かない。間違いなく、底力まで振り絞って挑んでくるだろう。
剣の握りを確かめて、うなずく。俺は、やれる。いや、絶対にやってみせる。
ただの一度だって追い詰められることなく、叩きのめしてやるさ。ユミナさんのプライドが打ち砕かれようともだ。
命より、将来より大事なものなんてない。だから、傷つけてでも……。
「じゃあ、あたしが審判ね。ふたりとも、準備はいい?」
スティアから声が届いて、ハッとした。落ち着け。緊張しすぎるな。冷静に、頭を回せ。徹底的に詰将棋をして、相手に隙を与えるな。
それが、俺のやるべきこと。負ける可能性なんて、わずかにだって許さない。一度、ゆっくりと息を吸え。
よし、いくぞ。
俺とユミナさんは、同時に頷く。
そして、スティアは大きく息を吸った。
「
即座に、ユミナさんは爆発的な速度で駆け寄ってくる。それこそ、まばたきすれば視界から消えそうなくらいに。
一瞬で剣を振り下ろされて、半歩だけズレてかわす。即座に下から剣を振り上げて反撃すると、受けられた。激しい音が響き渡る。それごと全部吹き飛ばすように、力を込めて剣を振り抜く。
ユミナさんは、宙に舞い上がった。俺は全力で駆け寄って、逃げ場のないユミナさんに突きを放つ。体をひねって避けられた。
無事に着地されてしまって、舌打ちしそうになる。決めそこねた。今が、きっと一番楽な勝機だった。
「は、早い……! これが、ユミナの本気……!?」
スティアが声をこぼすのが聞こえた。だが、そちらを気にしている余裕はない。今度も一瞬で距離を詰めてきて、体の芯に向けて鋭い突きを放たれる。
剣を横にして、左手を添えて受けた。あまりにも重い音が響いて、腹にまで伝わってくる。体が浮きそうになるのを、踏ん張ってこらえた。
即座にユミナさんは回し蹴りを放ってくる。あごに向けて、一直線に。下がってかわそうとすると、スカートの影から裏拳が飛んできた。
拳に膝を合わせて、なんとか弾き飛ばす。少しだけ、相手は体勢を崩した。だが、眼光鋭く俺の隙をうかがっている。うかつに追撃はできない。
ユミナさんは、本当に何でもする気なんだ。
スカートの中を見せても、羞恥心を感じていない。それどころか、自分の衣装すら戦術として利用してきている。
まだ、ユミナさんの目は鋭いまま。ようやく小手調べが終わったというところか。
「やはり、この程度では通じませんね。さすがは、ソールさんです」
「ユミナさんこそ……!」
やはり、すごい人だ。才能に溺れるだけじゃなくて、圧倒的な努力を重ねてきたことが分かる。
いくらユミナさんが天才でも、今ほどの動きにたどり着くには苦労したはずだ。それこそ、信じられないほどの努力を重ねてきたと言い切って良い。
だからこそ、今すぐにでも叩き潰さないといけない。俺に能力を使わせようなんて、そんなことを望ませないくらいに。
ユミナさんは、ケダモノのように唇を釣り上げていた。
「ですが、勝つのは私です! 私の前に、ひざまずきなさい!」
さあ、本気で行くぞ。一切遠慮なく、圧倒的な力で踏み潰してやるさ。
「いや、俺が勝つさ! 今回も、何度だって!」
俺は体内から
ユミナさんが動くのを待たずに、俺は一気に射出した。前から後ろからも、横も上からも。
さあ、どう対応する? できるか、ユミナさん!
「私がくぐり抜ける未来と、因果を紡いでください!」
ユミナさんは、俺に向けて一直線に進んできた。真正面にある珠を、いくつかは剣で払い、いくつかは当たっても無視し、そして残りは全部かいくぐりながら。
わずかに、珠の制御が乱れた感覚があった。だから、完全にはぶつけられなかったようだ。
「それだけじゃ、足りないな!」
そう、まだまだ。ユミナさんの後ろから、残った珠を襲いかからせていく。同時に、俺は右手の剣を握りしめて、体をひねりながら振り抜く。
ユミナさんが受けようとした瞬間に、左手に剣を出現させる。すでに左手は突きの構えに入っていたので、そのまま叩きつけようとする。
受けても避けても、珠への対応は遅れるだろ。さあ、どうする。
ユミナさんの答えは、前進だった。体をひねりながら剣を避ける。それだけで、抜けられた。因果に強制されるように、ユミナさんは俺に向けて剣を振り下ろしてくる。
「ソールさんに当たる未来と、因果を紡いでください!」
剣の出し入れが、ほんの一瞬だけ遅れた。このままでは、拳で払えない。なるほど。これが因果。誰にも負けないはずだ。相手の動きを強制させるほどの、強力な運命を刻むもの。
だが、対応だってできる。俺に当たるだけならな。
「それで、決めさせたりはしない!」
あえて、無防備に右腕を差し出す。ユミナさんの剣が触れたその一瞬で、全身ごと回転しながら剣を受け流した。
そう。当たりはしたさ。ダメージは通っていないが。
ユミナさんは剣を振り下ろした勢いのまま、前につんのめる。そこに向けて、膝蹴りを放つ。
腹に直撃して、ユミナさんは折れ曲がる。そして、軽く吹き飛んでいった。
着地したユミナさんは、とても鋭利に唇を歪めていた。獲物を見つけたように、激しく。
「ふふ。ソールさんへの対策だったのですが。一段階目は、破られてしまいましたね。ええ、さすがです。簡単には、勝たせてくれません。だからこそ……!」
ユミナさんは、闘気を燃え上がらせているようにすら見える。
どんな対策を練ってきたかは、分かる。俺に能力を届かせるために、使い方を洗練させたということ。
そして、まだ段階を残しているということも。
考えろ。能力の強度を高める方法は、3つ。
ひとつは、能力を使う際に声で宣言すること。ユミナさんもスティアもやっていること。
もうひとつは、能力を影響させる範囲を絞ること。さっきユミナさんがしたこと。
前回は、勝利へと因果を紡いでいた。それは曖昧なものだったから、俺が努力が報われない結果を殺したのとぶつかって、出力で俺が勝った。単純な話。
そんな曖昧な条件で、俺以外には苦戦すらしなかった。ユミナさんは、本当に天才だ。
だからこそ、俺の能力の異常性も分かるんだが。
ただ一戦での勝利と、一生の努力が報われない結果とでは、明らかに範囲が違いすぎる。俺の能力は、あまりにも曖昧な範囲に影響しているのだから。
俺自身も、大した効果が得られるとは思っていなかった。だから、気軽に使った。使ってしまった。
それが、あっけなく国一番になるほどの効果を出してしまったんだ。
他の誰かに能力を使いなんてすれば、どれほどおぞましい結果になるか。
だから、絶対に誰かに能力を使ったりしない。必ず能力なしで打ち破ってやる。
次にユミナさんが打ってくる手は、もう分かる。
能力の強度を高める方法における、最後のひとつ。
「ここからが、二段階目です。行きますよ、ソールさん。さあ、踊りなさい! この私の前で!」
ユミナさんは、全身の
そう。スティアが一瞬とはいえ、ユミナさんに能力を通用させた方法。ユミナさんの能力ごと全身を止めるという広範囲でも、格上に通用させた方法。
後先考えずに、ただ一撃だけにすべての
因果にも、スティアとユミナさんは同じ回答にたどり着いたわけだ。
ユミナさんは、空気を震えさせるほどに
この一撃で、勝負は決まる。そう確信させるだけの圧があった。
対する俺も、構えていく。ユミナさんが何と因果を紡ぐのか。それを見抜かなければ、勝ちはない。
考えろ。頭を回せ。知恵を振り絞って、勝ち筋を見つけるんだ。
今すぐに、
斬り掛かっても、同じになる。先に
ユミナさんの能力に、俺の能力を使う。そんなこと、できるはずがない。
何と因果を紡ぐにしろ、出力で上から潰せるだろう。だからこそ、絶対にできない。
例えば、今回みたいに俺に当たるように因果を紡いだとする。その結果を殺せば、最低でも二度と同じ因果は紡げなくなるはずだ。
最悪の場合、能力そのものが二度と使えなくなる。
ちょうどよく手加減なんてできるほど、俺は能力に習熟できていない。俺自身に使えたのは、失敗しても俺が死ぬだけで済むからだ。
他人で試すことなんて、絶対にできなかった。今だって、同じ。
なら、選択肢はひとつしかない。真正面から、ユミナさんの能力を打ち破ること。
ユミナさんが能力の対象を示すのと同時に、即座に対策を練る。そして、ユミナさんが紡いだ因果を叶えつつ、俺の望む結果を出せば良い。
やれるか、なんて問うまでもない。できなければならない。そうでないのなら、俺は死ぬべきだ。
考えている間に、ユミナさんは
「さあ、覚悟してください! 私の前に、花と散ることを!」
「しているさ! 絶対に勝つって!」
よし、行くぞ。ユミナさんを見つめながら、一気に息を吸い込んだ。
ユミナさんは、また爆発的な速度で駆け寄ってくる。さあ、どう来る。
「因果よ! ソールさんの胸に、私の剣を当てなさい!」
やられた。これで、回転して受け流すという手は使えない。どうあがいても、俺の胸にユミナさんの剣は直撃する。
それでも、できる限りの抵抗をしてみせる。
剣を構えて、ユミナさんに向けて振り抜く。後ろから、
ユミナさんは流れるような動きで避けていく。俺の剣を打ち払い、直撃しそうな珠も弾かれていく。足止めすらもできていない。
もう一度、ユミナさんに向けて突きを放つ。いつもより、少し遅れた。結果、半歩だけズレて避けられた。そのままの勢いで、俺の胸に突きが飛んでくる。
やはり、当たる未来は変えられなかったか。
だが、ここからだ!
「負ける、ものか!」
俺は、全力で息を吸った。そして、すべての
ユミナさんの剣が胸に当たるという結果そのものは、変えられない。だが、抵抗はできる。当たっても、通じないという結果で!
剣や珠に対処する中で、ユミナさんは
なら、後は我慢比べだけ。負けない。負けられるわけがない。俺は誓ったんだ。ユミナさんを死なせない。いや、誰ひとりとして死なせはしないって。
その誓いは、砕けたりしない!
ユミナさんの剣が、胸に直撃する。心臓にまで、衝撃が届いた気がした。だが、息は決して吐かない。
息を吸い込むことすら、今は隙になってしまう。なら、さっき吸い込んだ息だけを頼りに耐えるだけ。さあ、気合いだ。
「まだ、抵抗するんですか! この私の、全力に! やはり、あなたは……!」
ユミナさんは、剣を強く押し込んでくる。
俺はただひたすらに、
それだけ、俺に勝ちたいのだろう。俺に本気を出させたいのだろう。
初めて負けた相手に、リベンジしたい。そんな気持ちは、誰にだってある。俺が相手でさえなければ、心から応援できた。
だって、ユミナさんはとっても素敵な人なんだから。
戦いに挑む時の、少しだけ冷徹な姿。磨き抜かれた武技。そして、しがみつくような執着。
それだけじゃない。ちょっとドジなところも、コロコロ顔を変えるところも、距離感が近いところも。
ユミナさんの素敵なところは、数え切れないくらいに知っている。これからだって、知っていけるはずだ。
なら、命を燃やせ。魂の奥底まで、すべてを注ぎ込め。能力を使わずに勝たなきゃ、何も始まらないだろ!
「諦める、ものか……!」
「いい加減、諦めてください! 勝つのは、私です!」
ユミナさんの溜め込んだ
心臓が、激しく鼓動を打つ。やはり、単なるエネルギーとして使うには、効率が悪すぎる。
能力として使っていれば、拮抗すらしなかっただろうな。俺の魂が教えてくれる。
だが、だからこそ。俺は勝つ。勝ってみせる。
その意志を込めて、俺はあえて一歩踏み込んだ。ユミナさんの剣が、少し下がる。
やれる。やってやる。全身の
「お断り、だ……!」
「ソールさん……! 諦めれば、楽になれますよ……!」
「うぉおおおおおおっ!」
全身に力を込めて、足を踏みしめる。腕を振り抜く。そう。肉体の力だって、少しは足せる。
一気に、地面を蹴り飛ばした。胸の痛みを、無視しながら。
全力で、押し込む。押し込み続ける。
ユミナさんは、一歩下がる。また押し込む。また一歩下がる。
「これで……終わりだ!」
この一瞬で終わっても良い。そんな気持ちで、ただすべてを振り絞る。
やがて、ユミナさんの剣はズレる。その持ち手を、一気に殴りつけた。
剣は宙を舞って、地面に落ちる。カランという音が鳴った。何度も転がって、最後には止まる。
ユミナさんも、尻餅をついていった。その顔面に向けて、拳を振り抜く。
当たる直前に、止めた。ユミナさんは、ただ俺だけを見ていた。数回、まばたきをしていた。
「勝者、ソール!」
スティアの声が聞こえて、俺は地面に座り込んだ。肺の奥から、一気に息がこぼれた。
よし、勝てた……。
立ち上がったユミナさんが、手を差し出してくる。悔しそうに眉をひそめて、それでもまっすぐに俺を見て。
「負けてしまいましたね。また、能力も使わずに……」
「ユミナさんは、本当にすごい。それは間違いない」
「慰めは、良いんです。私が未熟なだけですから」
「いや、それは……」
「何も、言わないでください。今度こそ、あなたに本気を出させてみせますから」
そう語る瞬間の笑顔は、太陽よりも輝いていた。手を握ると、染み込むような温かさが伝わってきた。
だからこそ、俺は誓ったんだ。
どんな未来が待っていても、決して能力は使わないと。ユミナさんがどれだけ成長しようと、能力無しで超えてみせると。
そんな俺に、ユミナさんは花開くように笑いかけてくる。
「だから、いつでも私に甘えてくれて良いんですからね?」
……どういうこと?