スポ根みたいな異能力バトル世界で即死チートを持ってしまった 作:忘れられた女神
英雄の孫娘として生まれた私は、客観的には誰よりも恵まれていたのでしょう。
優れた血筋、多くの財産、強い能力。
もちろん、
物心ついた頃には、誰からも容姿で褒められていましたから。それを抜きにしても、今でも視線を集めているのは分かります。
外見だけで、人間のすべてが判断されてしまいますから。ただでさえ、外見による印象は大きいのに。
とにかく、私は多くの人が求めるすべてを持っていました。だから、物心がついたばかりの頃は満たされていたんです。心から、強く。
その頃には、英雄だったお祖父様もいましたから。
「お祖父様、今日も戦ってください!」
「いいとも、ユミナ。今回も、わしが勝つがな」
「今度こそ、私が勝ってみせます! 私は、最強になるんですから!」
半分くらいしがみつくように宣言したこと。今でも覚えています。お祖父様は、少し難しい顔をしていたような記憶があります。
分かっていたのでしょうね。最強であることが、どれほどの乾きを招くのかを。砂漠で水を求めるような苦しみだって。
お祖父様は、ねだるたびに戦ってくださいました。毎回、負けていました。次はどうやって勝つんだって、ずっと考えていました。
そんな幸福な時間も、ほんのわずかでしたが。少なくとも、私の覚えている限りでは。
いつだったでしょうか。お祖父様が起きてこないことを不満に思って、使用人の方に聞いて。
「お祖父様は、亡くなられたのよ」
その言葉の意味も理解できないまま、眠るお祖父様の元へ連れて行かれました。涙を流す皆の中で、私だけは戦ってくれないことに不満を覚えていた。
それこそ、文句まで言っていました。遺体を何度か叩いてすらいましたから。
「お祖父様、戦ってくれないとダメですよ!」
なんて、道理もわきまえずに。結果として、誰もが涙を深めていました。言い訳をすれば、幼かったのです。
そう。わがままを言えば、何でも叶えてもらえる頃でしたから。
あっけなく、そんな日常も壊れてしまったのですが。お祖父様だけが、私の味方だったんです。
これまでと同じ日々は、すぐに過ごせなくなりました。
「誰か、戦ってください!」
そうねだる私を、どうにかしてなだめようとする使用人たち。お父様もお母様も、指導役だった方も、誰も私と戦おうとはしませんでした。
今ならば、理由は理解できます。
お祖父様は、英雄として万軍を打ち払ったと語られていました。実際のところがどうかは知りませんが。とにかく、並外れた強さだと認識されていました。
幼い頃の私ですら、お父様やお母様とは強さの格が違うと感じるほど。
だから、物心つくような年齢ですらお祖父様とまともに戦える私は、周囲にとっては化け物そのものだったのでしょう。
結果として、私は誰からも遠ざけられることになりました。当時の私は、理由も理解できないままで。
誰かに話しかけるたびに、少しずつ心を削っていたのでしょう。当時ずっと持っていたぬいぐるみを、何度も強く抱きしめながら。
それでも、私は誰かと戦いたかった。だから、手段を考えたんです。
「この国で一番強い人なら、私と戦えるはずです! 戦わせてください!」
お父様とお母様に、そうお願いしました。のめり込むような勢いで。
ふたりとも、困ったように顔を見合わせていたのを覚えています。それから、小声でなにごとかを相談していました。
おぼろげではありますが、大負けをすればみたいな話が聞こえたような気がしました。
私は頬を膨らませていたのですが、両親は私の顔を見ようともしなかったんです。
「分かった。なんとか呼んでみよう」
それだけ言われて、両親は私から離れていきました。結局のところ、彼らにとって私は可愛い娘ではなかった。恐ろしい存在だった。当時はまだ、正確には理解できていなかったけれど。
幸いと言って良いのか、最大の不幸だったのか。歴代最強と言われる近衛騎士は、すぐに呼び出されました。
彼は優しく頭に手を置いて、穏やかに撫でてくださいました。
「お嬢ちゃんが、俺の相手になってくれるんだって?」
「はい! 絶対に、負けませんから!」
「良い意気込みだ。きっと良い騎士になれるだろうな」
落ち着いた笑みだったのは、戦うまででした。
私は、ただの一撃で彼を打ち破ってしまったのです。放たれる炎を、ものともせずに。炎を片手で弾き飛ばして、相手の
その瞬間、彼は腰を抜かしました。私を見る怯えた顔は、今でも忘れません。顔中が引きつっていましたね。
後になって知ったのですが、歴代最強と言われていたのは偽りでした。いいえ、民衆にとっては真実ではあったのです。
理由は簡単。概念にすら干渉できない弱い能力だからこそ、
その結果として民衆に称えられ、希望となり、やがて近衛騎士になったのです。
お父様もお母様も、強さの認識が甘い人でした。だから、歴代最強と呼ばれるだけで十分だと判断したのでしょう。
結果として、歴代最強すら一撃で打ち破る化け物が誕生したのですが。それも、とても幼い。
近衛騎士は、私を見て逃げるように去っていきました。目も合わせないようにしながら。私は手を伸ばして周囲を見て、誰からも目をそらされました。それだけが、私の結末でした。
そしてすぐ、お父様に呼び出されました。私を見る目は、とても厳しいものでした。
「絶対に、彼に勝ったことは内緒にしておくこと。いいな」
震える声で告げられ、私はただ頷くしかありませんでした。怒りを向ける気力も、当時の私にはなかったのです。
騎士様には怯えられ、お父様には恐ろしい目で見られて。誰も私の味方じゃないんだって。
だから、ただお父様に従いました。誰にも、何も言いませんでした。
それから、私はずっと部屋に引きこもり続けました。何度も何度も、ベッドの上でぬいぐるみを抱えながら。
どうして、みんなが私を遠ざけるんだろうって、嫌われるんだろうって。何も分かっていないままで。
私はただ、本を読み続けていました。朝から晩まで、ずっと。特に気に入っていたのは、道化師が少女を笑わせる話。
孤独だった少女を、道化師はいろいろな手で笑わせていたんです。急に滑ってコケたり、手元から花を出したり、キザなセリフを言ったりして。
僕という美少年に、できないことなんてない。そんな決めゼリフが、とても印象的だったんです。
本当に大好きでした。本に跡が付くくらい、何度も何度も読み返すほどに。
だから、その道化師を真似すれば、私だって誰かに好かれるかもしれない。そんな希望を込めて、私なりに練習もしていたんです。
「お父様! 私はとっても美少女なんですから、もっと良い剣を買ってください!」
なんて、お父様に直訴しに行ったり。すぐに買ってくれたので、これで成功していたと思っていたんです。剣ばかりを握って、何度か振って。それで満足していたんです。
お父様がどんな目で私を見ていたか、知ることもなく。
まあ、今でも正しく知っているわけではないのですが。それでも、分かることはあります。願いを叶えなければ、何をするか分からない存在と見られていた。
少なくとも、私に対する怯えは混ざっていた。間違いありません。
ただ、当時の私は成功したと思っていたんです。
そして、次は使用人の前で道化師のマネをしてみました。
金属でできたコップを持ち上げようとして、失敗して握りつぶす道化として。
「あっ! 壊しちゃいました! 美少女なのに、こんな簡単な失敗をするなんて!」
自信満々な笑顔で、使用人を見ました。彼女は顔を歪めて、ただ数歩下がりました。私が笑顔を向けると、足早に去っていきました。
追いかけていくと、お父様に配置転換を直訴していました。すがりつくように。
「ダメだ。誰かがユミナを見張っていないと、何をするか分からない」
お父様の言葉を聞いた私は、砕けたコップの取っ手を落としました。カランという音が鳴って、ふたりの目が私の方を向きました。
使用人は、涙すら流していました。何事かをブツブツとつぶやいていました。おそらく、命乞いの言葉だったのでしょう。
お父様は、引きつった顔で私の方に近寄ってきました。手が届かない距離まででしたが。
「ユミナ。彼女を傷つけようとしてはいけない。いいな?」
私はただ、にらむような目で告げられるだけ。
それで、気づいたんです。私は、道化師のマネをしてもダメなんだって。私は、ただうなだれるだけでした。
今となっては、理由も分かりますが。凶暴な獣に、鋭い爪でじゃれつかれている。そのような気分だったのでしょう。
獣の側は、甘えているつもり。あるいは遊んでいるつもり。人にとってはいつ殺されるか分からない恐怖と隣り合わせ。ただ、それだけだったんです。
結果として、当時の私は化け物だと思い知らされました。誰とも仲良くできないんだと、強く突きつけられて。
本を読むのも、やめました。夢見ることの無意味さを、思い知らされるだけでしたから。
だから、逆に私は訓練に傾倒していったんです。お祖父様と戦った思い出だけを、抱えるように。
私は、みるみるうちに成長していきます。剣を振る鋭さも、体さばきも、能力の強度も。
そして同時に、誰もがより遠ざかっていきました。10を数える頃には、まともに話す相手もいないほど。
だけど、私はわずかな希望を抱えていたんです。学園に通うのは、一定の年齢になった者の義務。私の通う学園は、国一番と語られるリゲル学園でした。
そこなら、私に匹敵する強者もいるかもしれない。いないとしても、誰かを成長させれば良いんだって。私だって、たくさん成長できましたから。
胸に抱いた希望は、入学して一週間で打ち砕かれることになりましたが。
私の周囲には、やはり強者はいませんでした。いえ、正確には見逃していたのですが。ソールさんは誰とも距離を取っていたので、私の視界には入ってこなかったんです。
一応、そんな生徒が存在するということ自体は知っていましたが。
とにかく、私は強者を育成する方向を目指していました。比較的強そうな人を何人か見つけて、教えようとしたんです。
「こうやって、剣を振ります。マネしてください」
「えっと……。こうやってって、どうやって?」
「どうもこうも……見ればできるでしょう?」
そう言った時の周囲の顔は、なんと表現すれば良いのでしょうか。苦虫を噛み潰したようなというか、理解できないものを見たようなというか。
いずれにせよ、眉をひそめていることだけは分かりました。私はただ、黙り込んでしまいました。
結果として、私は大失敗したんです。その人たちには、今でも距離を取られています。
それでも、私の周囲には多くの人がいました。私は、最初は嬉しく話していたんです。
ですが、簡単なきっかけで理解できました。私の望みは、何も叶っていないんだって。
「その……。弟がいるんでしょう? 紹介してくれないかしら?」
「いい剣があるんだけど、買ってくれないか?」
そう語る人たちの、なんとも言えない不愉快な目。結局のところ、私という恵まれた立場の人間にすり寄って、甘い汁を吸おうとする人たちばかり。
向けられる欲に気づいた瞬間、周囲がガラクタばかりに変わった気がしました。少しでも輝きを見た自分が、恥ずかしくなるほどに。
笑顔の質も、変わりました。ただ唇を持ち上げるだけに。
私は、ずっとひとりだったんです。それこそ、獣の群れの中に一匹だけいる鳥のように。
いわば、空の広さを感じながら、その広さこそに寂しさを覚えていた。地上で仲良く走る獣たちが、羨ましかったんです。
それからの日々は、とても乾いたものでした。愛想笑いを繰り返し、残りの時間で訓練をするだけの。
だんだんと、心が凍りついていくのを実感していました。私の声が淡々としていくことにすら、周囲は気づかない。心を溶かすような期待なんて、ずっと持てないままで。
私はただ、剣の冷えた感触だけを友としていたんです。
どうせ、私の敵なんていない。目の前の相手を見ることすらなく、ただ雑に戦っていたんです。
それこそ、私の勝利に因果をつなげて剣を振るだけの、信じられないほど雑な戦いを。
運命が変わる日が目の前に迫っているのを、知ることもないままに。
やってきた決勝戦。私はいつも通りに剣を振る。それを弾かれて、もう一度叩きつけようとする。それもまた、弾かれました。
一撃で終わらないなんてことが久しぶりすぎて、私はどうして良いのかも分からないまま。能力を使うことすら思い描けないままに、ただ剣を叩きつけようとするだけでした。
同じことを繰り返して、やがて私の体力に限界がやってくる。その瞬間に、私は剣ごと弾き飛ばされて尻餅をついた。
何が起こったのか、よく分かっていませんでした。勝者の名が告げられて、ようやく理解できたほどに。
遅れて、悔しさがやってきました。もっと手を尽くしていれば、少なくとも善戦はできたのではないかと。望んでいた瞬間が目の前にあったはずなのに、ただ無駄にしていただけだと。
歯を食いしばりました。拳を握りしめました。ずっと、震えていました。力を込めすぎていたせいで。
負けたことなんて、本当はどうでも良かったんです。
お祖父様と戦った時と同じような戦いが、できたかもしれない。それをふいにしたことだけが、心に残っていました。
次こそは、私の願いを叶えてみせる。それだけを胸に、カッコつけて去っていきました。
馬車に向かう中で、戦いを思い返して。私は、きっと本気を出せる。そんな希望も膨らんでいったんです。
次はどう戦おうか。それを考えるだけで、胸が弾んで。踏み出す足が、軽く感じるほどに。
まあ、直後に馬車で会うという失敗をしてしまいましたけど。それも、結果的には良かったんです。
ソールさんは、私に対して普通に接してくれました。腫れ物みたいじゃなくて、失敗した道化師みたいに。
だから私は、なりたい自分を存分に出せた。いつか憧れていた道化師の姿を、遠慮なくぶつけられたんです。
それで、分かりました。ソールさんは、少しも私を恐れていないって。
本当の私を、ソールさんは受け入れてくれていた。それで、私の世界は花開いていったんです。色づいていったんです。
ただ話をするだけで、かつての幸福を思い出すほどに幸せでした。
ソールさんの、寂しそうに揺れる瞳を見るまでは。
そう。私は、孤独ではなくなった。ソールさんに敗れることで。受け入れてもらえることで。
だけど、ソールさんはずっと孤独なままだったんです。簡単に分かりました。いつか鏡で見た顔と、全く同じでしたから。
ソールさんは、本気を出せない苦しみから解放されていないんだって。私ですら、簡単に負けてしまいましたから。
だから私は、決めました。
ソールさんは、私を無理やり地上に引きずり落としてくれました。隣で、ただ笑っていてくれました。
だったら私は、空の広さを教えてあげるんです。高みまで連れて行って、隣で飛ぶんです。
そう、私自身に誓ったんです。私と同じ孤独を抱えている人を、私を救ってくれた人を、今度は私が救ってみせるんだって。
能力だって、使いました。ソールさんを、決してひとりにしないと因果を紡ぐ。
あくまで、おまじないでしたけれど。能力というものは、効果の範囲が広いほど弱まるものでしたから。
だけど、私にとっては素敵な目標ができたんです。
それからは、訓練にも熱が入りました。どう剣を振ればいいのか。どう能力を使えばいいのか。頭を振り絞りながら、いろんなことを試していったんです。
本当は、ソールさんとも話したかったですけれど。周囲が邪魔で、うまく近づけなかったんですよね。
今となっては、どうでもいい人なんて振り払っていれば良かったと思うのですが。
それでも、ソールさんに勝つことを目指して訓練をする日々は、以前よりずっと輝いていたんです。
振り抜く剣の重さすら愛おしいほどに。照りつける太陽の暑さですら、心地よく感じるくらいに。
訓練を続けて、ある程度手応えを得た頃。
スティアさんと訓練をしているソールさんを見て、いい口実だと思いました。私たちが戦うきっかけにできるって。
適度に挑発したら、まずはスティアさんが釣れました。彼女も、悪くなかったです。少なくとも、私の周囲にいる人達とは違った。
だから、ソールさんも好意的だったのでしょう。
私の優先すべきことは、明らかでしたけど。
だから私は、ソールさんの失言につけ込んで再戦を挑みました。悪いなとは、思っていながら。
結果は、負け。ですが、手応えは得られました。そして、ある確信も。
ソールさんは、本気を出す私たちに焦がれている。幼い頃の私と同じなんです。誰かに触れることを、抱きしめられることを、ずっと望んでいた私と。顔を見ただけで、分かりました。
だから、私はソールさんの手を取ったんです。次こそは、私があなたを空に連れて行ってみせると。
約束します、ソールさん。
私は、絶対にあなたをひとりにはしないって。
あなたをひとりにしない因果を、結びつけてみせるって。
そうですよね。私を、ひとりでなくしてくれた人。
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