とある日の夕方
夕暮れのオレンジ色の光が差し込み、格納庫に佇んでいるSP//drのシルエットを静かに浮かび上がらせていた。
ペニーはコックピットや脚部の装甲を開き、集中した面持ちで定期点検と微調整の作業に没頭していた。その近くで、カマラがペニーの様子を見つつ、必要に応じて整備の手伝いをしていた。
「カマラ、あっちの作業台にある14ミリのレンチ取ってくれる?」
「はーいっ!」
カマラはシュルと腕を伸ばして目的の工具を掴むと、ペニーの手元へ軽やかに手渡した。
「ありがとうカマラ。助かるよ。手元になかった工具とかをを取りに行くのは地味に時間を持っていかれるから、カマラが腕を伸ばしてくれると一瞬で終わってありがたいよ」
「ふふん、あたしの腕は万能だからね!」
「はいはい」
そんなやり取りを交わしながら作業を進め、区切りがつくたびに二人は小休憩を挟んだ。
休憩の時間になると、カマラはすっと伸ばした腕でペニーの首から下を優しく包み込み、いつもの『ラバーバインド』を施してくれる。
「はい、疲労回復タイム!」
「ふふ、ありがとう。ふうっ……」
密着した腕からダイレクトに注ぎ込まれる温かなヒーリングファクターの波動と、絶妙な心地よい圧迫感。疲れた筋肉の奥までじんわりと解きほぐされていく感覚に、ペニーは思わず甘い声を漏らして脱力してしまう。
しっかり体力を充填してもらうと、「よしっ。続きをやるぞ!」と元気に作業へと戻っていく。
やがて、専門的な精密回路の調整に入ると、カマラができる手伝いもなくなってきた。
カマラは近くのパイプ椅子に腰掛け、ヒマそうにスマホをいじりながらペニーの様子を眺めていた。だが、どれだけ時間が経ってもペニーは集中を切らさず、黙々と作業を続けている。
(……ペニーったら、完全に自分の世界に入っちゃってるわね。もうすっかり区切りはついたはずなのに……)
集中しすぎて根を詰めている親友を見かねたカマラは、スマホをポケットにしまうと、ニヤリと愛戯っぽい笑みを浮かべた。
作業に没頭するペニーの後ろから、カマラの右腕がシュルシュルと滑らかに伸びていく。
ガシッ!
「えっ……!?」
突然、後ろから伸びてきた大きな手に頭を身体を優しく、けれどしっかりと掴まれたペニー。驚く間もなく、カマラは伸ばした腕を一気に引き戻し、ペニーの身体を自分の手元へと引き寄せた。
それと同時に伸びた右腕がシュルシュルと 一瞬のうちにペニーの首から下全体をぐるぐる巻きにし、完璧なラバーバインド状態を作り上げた。
「わわっ!? カマラ、いきなり何するの〜っ! まだ作業が…」
身体をぴっちりと束ねられ、身動きが取れなくなったペニーは抗議の声を上げた。しかし、カマラは首を横に振る。
「だーめ! 集中しすぎて根を詰めすぎよ、ペニー! 約束の作業時間はもう過ぎてるわ! だから……こうしちゃいます!」
「ひゃああっ!?」
カマラが巻き付けた自身の腕の肉体に意識を集中させると、ペニーの全身を覆うラバーバインドの帯が、ブン……と心地よい一定の周期で細かく振動し始める。
「んんっ……あうっ……何これ……っ!?」
それはカマラのポリモーフによる肉体だからこそ再現できる、極上のバイブレーションマッサージだった。
細かな振動が、作業で凝り固まっていたペニーの肩や背中、腰の奥深くの筋肉へとじんわり浸透していく。カマラの体温とヒーリングファクターの波動が合わさり、全身の疲労と緊張が溶かし去られていく。
「あっ……ふぁ……あう……」
あまりの心地よさに、ペニーの口から抵抗の言葉は消え去り、とろけきった吐息だけが漏れ出した。
最初は作業を止められたことに抗議しようとしていたペニーだったが、脳を麻痺させるような甘やかな振動と温もりの前には、抵抗する意識など消えてしまった。
目をもろんと細め、カマラの腕の中で完全に脱力し、身体ごとトロトロに蕩けてしまう。
「ふふ、素直でよろしい♪」
頭を掴んでいたカマラの右手は力を緩め、そのままペニーのサラサラとした髪を優しく、愛おしそうにナデナデと撫で始めた。
「んぅ……カマラの腕……気持ちよすぎて……もう動けないよ……」
「動かなくていいのよ。今日はもう終わり! あたしの腕の中で、このままゆっくり休みなさい」
夕暮れの静かな格納庫の中。カマラの温かなラバーバインドの微振動に身を委ね、優しく頭を撫でられながら、ペニーはどこまでも甘く幸せな蕩けた心地に浸り続け、あまりの気持ちよさに完全に深い眠りへと落ちていた。
「ふふ、ペニーったら……本当にぐっすり寝ちゃって」
すーすーと気持ち良さそうな寝息を立てるペニーを見て、カマラは愛おしそうに目を細めた。声をかけてみても、ペニーはすっかり夢の中。
「作業の汚れや汗もかいてるし、このまま寝かせちゃうのも可哀想ね。よしっ、あたしに任せなさい!ごめんね!SP//dr」
カマラは巻き付けていた『ラバーバインド』をそっと解くと、ぐったりと脱力したペニーの華奢な身体を抱き上げた。そのまま共用のバスルームへと向かう。
バスルームに到着すると、カマラはペニーの作業服を優しく脱がせ、自慢の両手を使いやすい大きさに巨大化させた。
「泡で息ができなくなったら大変だからね。顔はちゃんと出しておいて……っと」
カマラは巨大化させた温かい両手で、ペニーの身体をそっと包み込んだ。ペニーの可愛らしい顔だけを組み合わされた手の外にちょこんと出させ、首から下を大きな掌の間に挟み込む。
そしてボディーソープを泡立てると、巨大な両手のひらでペニーの身体をスリスリ、モミモミと優しく擦り合わせながら、全身をていねいに洗ってあげた。
「んぅ……ふぁ……」
温かいお湯と、カマラの巨大な両手によるお姫様のような挟み洗いの気持ちよさに、ペニーは目を覚ますどころか、ますます心地よさそうに身体をカマラの手のひらに預けて身を委ねていた。
「これで起きないなんて、相当に疲れてたんじゃない」
丁寧に泡を洗い流した後、カマラは大きなタオルでペニーの身体を優しく包んで水気を拭き取り、ドライヤーでサラサラの髪を乾かしてあげた。そして、肌触りの良いパジャマを慎重に着せ終えると、自分の部屋へと連れて帰り、ベッドへと寝かせたのだった。
「ふぅ、完璧! 自分のベッドでゆっくり休もうねペニー」
満足そうにうなずき、カマラはペニーの隣のベッドへと向かおうとした。
――その時だった。
「…居なくならないで……っ」
ベッドの中から、絞り出すようなか細い声が漏れ聞こえた。
カマラがハッとして振り返ると、ペニーは目を閉じたまま、不安そうに眉をひそめて小さく身悶えしていた。家族も、大切な友達も、目の前で全て失ってきたペニー。夢の中で、かつての孤独な記憶に追われているのかもしれない。
カマラの胸が、キュッと痛んだ。
「……どこにも居なくなったりしないわ。一人になんてさせない」
カマラは自分のベッドへ向かうのをやめ、ペニーのベッドの脇にそっと腰掛けた。そして、伸ばした両腕で、ペニーの首から下をシュルシュルと包み込み、いつもの『ラバーバインド』で全身をぴっちりとぐるぐる巻きに束ねてあげた。
全身を包み込むカマラの肉体の弾力と、密着する温もり。
無意識のうちにカマラの腕の存在を感じ取ったのか、ペニーは不安そうだった表情や声を和らげ、安心したように「ふぅ……」と小さな吐息を漏らして、深く、深い眠りへと落ちていった。
ラバーバインドで抱き締めたまま、カマラはペニーのベッドにそっと潜り込み、横顔に顔を寄せた。
「寂しい思いはさせない。……良い夢をみてね、ペニー」
大好きな親友を腕の中で優しく包み込みながら、カマラもまた満足そうに目を閉じ、静かに深い眠りにつくのだった。
そして翌朝
カーテンの隙間から朝のやわらかな光が差し込む早朝。
カマラが薄っすらと目を覚ますと、すぐ腕の中でペニーが既に目を覚まし、身動きの取れない身体をもぞもぞと動かしていた。
「……ん……おはよう、ペニー」
「あ……おはよう、カマラ」
カマラの声に反応して、ペニーはぴたりと身体を揺らすのをやめた。
ペニーは胸元までぴっちり自分を縛り上げているカマラの腕を見つめ、少し頬を赤らめながら尋ねた。
「ねえ、カマラ……。昨日、私……どうやってお風呂に入って、着替えたの……?」
カマラは昨晩の出来事を魘されていたことだけは伏せて話をした。
「作業の汗をかいてたし、そのまま寝たら湯冷めしちゃうから洗って着替えさせたの! で、夜中に冷えないようにラバーバインドで保温しておいたんだから!」
少し大袈裟に胸を張って誤魔化してみせた。
ペニーはカマラの優しい嘘に全く気づいていない様子だった。
その説明を聞き終えたペニーは、照れくささを隠すように顔を真っ赤にすると、カマラをジロッと睨んだ。
「カマラのセクハラ!! エッチ!!」
「セ、セセ、セクハラですってぇ!? それにエッチ!?!? ちょ、ちょっと何言ってるのよ!ペニー!」
思わぬ暴言にカマラが目を見開く。ペニーはプイッと横を向きながら、すらすらと言葉を捲し立てた。
「だってそうでしょ!? 私に合意もなく身ぐるみを剥がして、裸の私を好き放題に洗って、同じベッドに入り込むなんて!」
「言い方が酷いし悪いし悪意がすぎるわよ!! ……事実だけど!」
「でしょ!事実でしよ!! だからセクハラでエッチなの!!!」
「ひどっ!? 恩を仇で返すとはこのことね!!
「私はやってとは言ってませーん!それにSP//drの整備を無理やり止めさせたのはカマラだもん!」
「暴言すぎるわ!?」
もちろん、ペニーが本気で怒っているわけではないことはカマラも分かっていた。自分の恥ずかしさ等を誤魔化すために言っているだけだ。カマラもそれを百も承知で、ニヤリと悪戯っぽい笑みを浮かべた。
「…せっかくあたしが甲斐甲斐しくお世話してあげたのに、そんな生意気なことを言う恩知らずなペニーさんには……こうよ!」
ギュチッ!!
「あっ!? ちょっと急に締めないで…わわっ!?」
カマラはラバーバインドに力を込めると、そのまま腕の伸縮を利用して、ペニーの身体をひょいっと浮かせた。
そして、ベッドの柔らかいマットの上にポンポンと叩きつけ始めた!
「わっ! わっ! あっ! ちょっとカマラ! ああっ!?」
「まだまだーっ! そして、こう!」
カマラは伸ばした腕を器用に動かし、ペニーの身体を自分のベッドと、隣にあるペニーのベッドの間でポーン、ポーンと交互に叩きつけて弾ませていく!
「ペニー? 謝る気になったかしら? 反省しないなら、ラバーバインドをもっと絞めてあげるわ!」
ギュチチチッ!
「わかった! わかったから! ゴメンナサイ〜〜っ!!」
ベッドの上でポンポンと跳ねさせられながら降参の悲鳴を上げるペニーを見て、カマラは満足そうに「よしっ!」と声をあげた。
朝の寝室から賑やかな声と弾けるような笑い声が、二人を迎える新しい一日の始まりを明るく告げていた。