2人のティーンエイジ・ヒーローズ   作:ライゼル

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2人の訓練風景その2

また別の日。熱気が残るトレーニングルームには、風を切る軽快な音と爽やかな笑顔が弾けていた。

「ハァ……ハァ……!」

「それっ! イラスティグラブ!」

カマラが繰り出したのは、以前とは比べものにならないほど高速で変幻自在な「イラスティグラブ」だった。ほぼ全力に近いスピードと鋭い軌道を描いて迫るカマラの手。

だが、生身のペニーの動きは格段に洗練されていた。スパイダーセンスと研ぎ澄まされた動体視力、そしてこれまでの幾度ものスパーリングで培った直感が瞬時に噛み合う。ペニーは最小限の身のこなしで、伸びてくるカマラの腕を流れるようにかわしてみせた。

「すごい! すごいよペニー! 今の私のほぼ全力だったんだよ!? 生身でここまで完璧にかわせるようになるなんて!」

カマラは目を丸くして手を叩き、まるで自分のことのように大はしゃぎでペニーを絶賛した。ペニーは呼吸を整えながら、汗を軽く拭って笑みを返す。

「ありがとう、カマラ! カマラが何度も練習に付き合ってくれたおかげだよ。でも、たまたま一回できただけじゃダメだからね。どんな状況でもこれが長続きするように体に染み込ませないと!」

「じゃあさ、さらなるステップアップで……新しいメニューいってみようか!」

カマラはそう言うと、ニヤリといたずらっぽい笑みを浮かべ、右腕だけに意識を集中させた。ドスン!という音とともに、彼女の片手だけがペニーの全身を余裕で丸ごと覆い隠してしまうほど、圧倒的な大きさに膨れ上がる。

 

「次の訓練! 『巨大化した手からの逃走』! 私のおっきな手から、生身でどこまで逃げ切れるかやってみよう!」

「わっ、デカい……! よーし、やってやるぞー!」

ペニーは重心を低く落とし、逃走の体制を整えた。

「よーい……スタート!」

カマラの合図とともに、巨大な手が面で空間を押し潰すように襲いかかってきた。一点を突く「イラスティグラブ」とは異なり、圧倒的な攻撃範囲を持つ巨大な手。ペニーは身軽に跳んで逃げ回ろうとしたものの――

 

「捕まえたっ!」

「ひゃあああ!?」

広範囲をカバーする巨大な掌の前では、逃げ場がなかった。ペニーは瞬く間に片手で丸ごと握り込まれてしまった。

「あはは! 一発で捕まっちゃったね!」

「う〜……面で来られると逃げ切れないよ〜……!」

片手で握られたペニーを、カマラはすぐさま左手も巨大化させて挟み込み、両手の中にすっぽりと閉じ込めた。カマラの大きな両手の中で、ペニーの身体は逃げ場を完全に失う。

「それじゃあ、捕まったペニーへのペナルティ&もみくちゃタイムスタート〜!」

「わっ、あっ、ちょっと……!」

カマラは巨大な両手に絶妙な力を込め、中にいるペニーの身体をニギニギ、モミモミと優しく揉みほぐし始めた。

カマラの手のひら越しに伝わってくるのは、ペニーの10代の女の子らしい華奢で柔らかい肉体の感触だ。力加減を間違えれば簡単に押し潰してしまうからこそ、カマラは細心の注意を払いながら、モチモチとした感触を確かめるようにペニーをもみくちゃにし続ける。

「ペニーってば、普段SP//drに乗ってて頑丈そうに見えるのに、生身はすっごく柔らかくてちっちゃいんだから〜!」

一方で、両手の中で揉みくちゃにされているペニーもまた、カマラの巨大な手のひらがもたらす不思議な感触を全身で受け止めていた。

(……カマラの手、すっごく温かくて柔らかい……)

身体全体を包み込む圧倒的な圧力。けれど、そこにはカマラの「絶対に傷つけない」という繊細で優しい力加減がしっかりと込められているのが伝わってきた。完璧に逃げ道を塞がれ、もみくちゃにされてしまうのは、ひとえに自分の回避能力がまだまだ未熟なせい。ペニーはその事実を素直に受け入れながらも(そして正直なところ、この温かく力強いもみくちゃ感を楽しんでもいながら)カマラの掌の中でジタバタと身を委ねていた。

 

「最後はこれね! ズリズリ……♪」

 

カマラが両手を重ね合わせ、スリスリと交互に擦り合わせる。

「ひゃああああっ!? すり潰される〜〜〜!!」

巨大な二つの手のひらの間に挟まれ、ズリズリと揉みくちゃにすり潰されていくペニー。もちろん安全な範囲での加減された攻撃だが、ペニーの口からは悲鳴と笑いが混ざったような声が漏れ出していた。

その後も、この「巨大手回避訓練」は何回も繰り返された。

結果として、今回はペニーは一回もカマラの手から逃げ切ることができず、その度に両手の中に閉じ込められてはニギニギモミモミと揉みくちゃにされ、最後にすり潰されるハメになった。

しかし、ペニーの顔に諦めの色は一切なかった。むしろ、自分の弱点と課題がはっきりと見えたことで、彼女の瞳には燃えるような闘志が宿っていた。

息を整えながら立ち上がったペニーは、腰に手を当ててカマラをビシッと指さした。

「私が完全に避け切れるようになるまで、何回でもつきあってもらうからね、カマラ!」

その言葉を聞いた瞬間、カマラは目を輝かせて両手を高く突き上げた。

「次回も容赦なくやっちゃうからね!」

「むーっ、言ったなー!!!」

ペニーは口を尖らせてプンスカと抗議してみせる。

そのやり取りは、一見するとお互いに譲らない喧嘩のようにも見えたが、そこにはドロドロとした嫌気や遺恨など微塵も存在しなかった。

次元も生まれ育ちも異なる二人。けれど、同じ「ヒーロー」という重責を背負い、ティーンエイジャーとしての悩みを共有し、お互いの強さと優しさを誰よりも理解し合っている。人としても、戦う仲間としても、心から尊敬し合っている真の親友だからこそ成立する、これ以上なく温かく愛おしい戯れだった。

「ふふっ、次は絶対に片手にすら触れさせないんだから!」

「言ったね〜? 私だってどんどん手の動き速くしちゃうんだから!」

顔を見合わせてニカッと弾けるような笑顔を交わす二人。汗をぬぐいながら肩を並べて歩き出す二人の背中には、どんな強敵にも負けない深く確かな絆が輝いていた。

ペニーの身体はすでに、カマラの巨大化した両手の中にすっぽりと収まり、これでもかとばかりにもみくちゃにされていた。

 

 

別の日

 

訓練の滑り出しは順調だったのだ。カマラが繰り出す高速の「イラスティグラブ」も、捕まえようと追ってくる「ラバーバインド」も、ペニーは生身のアクロバティックな身軽さで見事にすべて回避してみせた。

しかし、その後の「巨大な片手」を避ける練習になると、どうしても圧倒的な攻撃範囲を前に逃げ切れず、捕まってはモミモミと揉まれ、仕上げにズリズリとすり潰されるハメになっていた。

(う〜ん……やっぱり面で来られると、生身の可動域じゃ限界があるのかなぁ……)

何回も連続で捕まってしまったペニーは、自分の未熟さを反省し、自戒を兼ねてカマラにこう提案したのだ。

『何回も捕まっちゃったからさ……カマラの好きなこと、何でも一つだけやらせてあげるよ!』

それを聞いたカマラは大喜びで、目を輝かせながらいくつか候補を挙げた。

 

『本当!? えーっとね、一緒に街のスムージー巡りに行くのも捨てがたいし……ペニーを一日中ラバーバインドでぐるぐる巻きにして過ごすのも捨てがたい……あっ、でも! やっぱり巨大な両手でペニーを捕まえて、気が済むまで捏ねくり回したい!』

 

そうして選ばれたのが、まさに今の状況だった。

 

「んんっ……カマラ、捏ねすぎ……っ」

「ペニーが何でもいいって言ったんだからね! こねこね〜こねこね〜♪」

カマラの巨大な両手が、まるで極上の生地でもこねるかのように、ペニーの身体を優しく、けれどしっかりと揉みほぐしていく。

巨大な手のひらの中で揉みくちゃにされ、こねくり回されるペニーだったが、最初こそ大声を上げていたものの、次第にふぅっと身体の力を抜いていった。

(まあ……なんだかんだで、すっごくリラックスできるから良いんだけどね……)

数々のスパーリングやテストを経て、カマラの力加減は驚くほど絶妙になっていた。巨大な手から伝わる心地よい圧迫感と温もりは、まるで全身を一度に極上のマッサージ機にかけられているかのような快適さだ。凝り固まった身体の疲労が、カマラに揉まれるたびにじんわりとほぐれていく。

何より、大好きな友達を無邪気にもみくちゃにしながら、カマラが心底楽しそうに「あはは!」と笑っている。

ヒーローとしての重責や、日々の緊張感から解放され、カマラがこうして少年のように無邪気な笑顔で精神的にリフレッシュできているのなら、身を委ねる価値は十二分にあった。

「ペニーってば、本当にモチモチしてて柔らかいなぁ〜! ずっと揉んでられるわ」

「もう…」

カマラの手の中で潰され、揉まれ、こねくり回されながら、ペニーは呆れたように、けれど心底心地よさそうに目を細めた。

絶妙な力加減で包み込んでくれるカマラの優しさと、それをおとなしく受け入れるペニーの信頼。

巨大な手のひらの上で繰り広げられる、少し可笑しくて、どこまでも温かい2人だけの特別な時間が、ゆっくりと流れていくのだった。「よし……誰もいないね」

カマラはトレーニングルームの扉をそっと開け、廊下の左右を警戒するように見回した。

両腕を限界まで伸ばし、ペニーを足首から肩まで寸分違わずぐるぐる巻きにした状態のまま、カマラはまるで大きな愛おしい抱き枕でも抱えるようにペニーを胸元にぴったりと引き寄せていた。もし廊下でスパイダーマンやスター・ロードに出くわしたら「カマラ、何やってるんだ……?」と呆れ顔で突っ込まれるのは目に見えている。

だが、幸いなことに廊下には誰もいなかった。2人は誰にも会うことなく、すんなりと自分たちの部屋へと辿り着くことができた。

 

パタン。

 

部屋のドアを閉め、カマラはホッと安堵の息を漏らした。そして、伸ばした両腕でペニーをぴっちりと拘束したまま、吸い寄せられるようにベッドへと向かい、ドスンと腰掛けた。

「ふぅー! 誰にも見つからなくて良かったー!」

カマラは上機嫌で声を上げると、腕の中に収まっているペニーを自分の膝の上にすっぽりと収まる位置へギュッと引き寄せた。

(本当にこのまま話すつもりなんだ……)

顔だけをちょこんと出した格好のペニーは、思わず内心で苦笑した。自分が「好きにしていいよ」と言い出した手前もあるし、何よりカマラの体温が伝わってくるこのラバーバインドの締め付けは、驚くほど心地よくて全く嫌ではなかったのだ。ペニーは何も抗議することなく、ただカマラの腕がもたらす適度な重圧に素直に身を委ねていた。

「ねえペニー、さっきの訓練の続きも含めて、ちょっと作戦会議しよっか!」

「うん、そうだね。この間のミッションで気になったこともあったし」

カマラの腕に全身をぴっちりと包まれたまま、ペニーはごく自然なトーンで会話に応じた。

「まず一つ目だけど……最近街で目撃情報が増えてる、あのゾンビ型のヴィランについて」

「ああ、感染系の能力を持ったヤツらね。生身で近接戦をやると噛まれたり体液を浴びたりするリスクが高いから、ちょっと厄介なんだよね」

ペニーが冷静に分析すると、カマラは抱え込んだペニーの体に寄り添うように腕の密度を増させた。

「そう! だから対策としては、噛まれても感染の心配がないSP//drが先に突入して先制攻撃をかける。敵の動きが鈍ったところに、あたしが巨大化させた手で上から一気に叩き潰す!……っていうのが一番安全で確実じゃないかな?」

「賛成。SP//drの装甲ならウイルスや毒素も遮断できるし、カマラが離れた位置から広範囲をまとめて押し潰してくれれば、二次被害も防げるしね」

カマラが「叩き潰す」と言った拍子に、感情が高ぶったのかラバーバインドの帯がグニュッと少し強めに収縮した。だが、怪我をしない絶妙な範囲の圧力だと知っているペニーは、特に悲鳴を上げることもなく「ん……」と軽く息を吐いてその圧力を全身で受け止めた。

「それから二つ目! コンビネーションについてだけど……」

カマラはペニーを抱き締め直しながら、熱っぽく語り続ける。

「ペニーがSP//drでWebを張って敵の足止めをしてくれたら、あたしがイラスティグラブで敵の陣形を崩しに飛び込むのはどう? 敵が散らばろうとしたところを、ペニーのトラップで絡め取るの!」

「いいと思う。さっきの回避訓練でも思ったけど、カマラのイラスティグラブって正面から来られると分かってても軌道が読みにくいから、相手はパニックになるはずだよ。そこに私のトラップが重なれば、逃げ場は完全になくなるね」

「でしょでしょ! チームワーク完璧じゃない!」

カマラは大満足で、抱きかかえているペニーをギュッ、ギュッと愛おしそうに締め直した。肉厚な弾力がペニーの背中や肋骨、太ももを均一に圧迫する。その強いマッサージのような圧力を楽しみながら、ペニーは会話を三つ目のテーマへと進めた。

「じゃあ三つ目……カマラの新しい技の開発とアイデア出しだけど。今の状態をベースにするなら、1対1(単体)用と1対多数(集団)用で分けて考えるのがいいんじゃない?」

「おおっ! さすがペニー、分析が鋭い! 具体的にはどんな感じ?」

「1対1なら……さっき私にやってた『巨大手でのすり潰し』とか『ラバーバインドでの完全拘束』をそのまま攻撃技に転用できるよ。相手を逃さず確実に無力化できるし」

「なるほど! 相手をこうやって逃がさないようにギュチチ……って拘束して、そのままスリスリってすり潰しちゃうわけね!」

カマラはノリノリで言葉を再現しながら、ペニーを縛り上げている両腕に目一杯の力加減を込めてグニューッと締め上げた。

「んっ……そうそう、まさに……その締め付け……」

さすがに強力な圧力が加わり、ペニーの口から小さく声が漏れたが、表情には余裕の笑みが浮かんでいる。この圧倒的な拘束感と絶妙な強圧は、今のペニーにとって自分の身体を鍛える最高の刺激であり、心地よいスキンシップそのものだった。

「で、1対多数なら……脚を伸ばして壁や天井に巻き付けて、振り子みたいに自分を飛ばしながら巨大な両拳で広範囲をなぎ払う『大回転スイング』とかどうかな?」

「なにそれ凄そう!! まるでペニーのSP//drみたいな立体機動じゃない! 絶対採用!」

目をキラキラさせるカマラの腕の中で、ペニーは満足そうに口元を緩めた。

「ふふ、じゃあ最後……四つ目の議題。最近のおすすめのスムージーのお店の話だけど」

「待ってましたー! 実はね、ダウンタウンに新しくオープンしたオーガニック系のお店があってね!」

それまでの真剣な作戦会議から一転、カマラのトーンが一気に10代の女の子らしい明るい声に跳ね上がった。

「ベリーとトロピカルフルーツのミックススムージーが絶品らしくて! プロテインの追加もできるから、トレーニング後の水分補給にもバッチリなんだよ!」

「へえ、プロテインも入れられるんだ。それはSP//drの整備で頭を使った後にも良さそうだね」

「でしょ!? 明日の訓練が終わったら、二人で絶対行こうね!」

「うん、楽しみにしてる」

話が一段落しても、カマラがラバーバインドを解く気配は全くなかった。カマラは満足そうにペニーを自分の腕の中にすっぽりと収めたまま、ベッドの背もたれに体を預けてリラックスしている。

ペニーもまた、解いてほしいと頼むつもりは微塵もなかった。全身を覆うモチモチとした温かい圧力と、密着したカマラの心地よい体温。部屋の中に流れるどこまでも穏やかで優しい空気の中で、ペニーはふぅと満足気な息を吐き、そのままカマラの腕に心地よく身を委ね続けた。

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