ソードワールド二次創作小説(ファリスの聖戦士) 作:シットライヌ
オーファンでの冒険を終えた一行は、幾つもの国境を越えて軍事国家レイドへと足を踏み入れた。
レイドの街道には、これまでの国々とは明らかに異なる硬質な佇まいが満ちていた。白銀の騎士団が治安を護るタイデルや、魔術師たちが知識を競うベルダインとは異なり、ここを往来するのは武骨な甲冑を纏い、威圧的な長槍(ピケ)や戦斧を肩にした無数の傭兵たちだった。
「随分と物騒な街並みだね。街行く人の半分以上が獲物を抱えた傭兵だ」
ジュードが周囲の尖った視線を感じ取りながら、低い声で囁く。
「レイドは傭兵の輸出で成り立っているような国ですからね。……ですがクライヴ、貴方が大剣術を授かったという師匠の故郷も、確かこの地でしたわね」
ミレーヌの言葉に、俺は背中に負ったツヴァイハンダーの重みを感じながら静かに頷いた。
かつて教団の神聖魔法を授かることもできず、手に合わないメイスの扱いに苦しんでいた無力な俺に、遠心力と理合いを用いた大剣術を叩き込んでくれた傭兵上がりの師匠。盲信を捨て、己の意志で刃を振るう術を教えてくれた恩人のルーツが、このレイドの地に存在した。
俺たちは師匠がかつて所属していたという軍装店や傭兵斡旋所を訪ね、彼の消息を知る者を捜した。しかし、古い街の酒場でその名を口にした瞬間、給仕の老兵は深々と溜め息をつき、複雑な視線を俺に向けた。
「……あいつの弟子だと言うのか。なら、あの男がなぜ教団の街まで流れ着いていたのか、その理由を知らんのだな」
老兵が差し出した古い杯を前に、俺たちは息を呑んだ。
老兵が語ったのは、かつてレイドが誇った最強の歩兵集団——大剣と長槍を駆使し、神出鬼没の陣形で数々の戦場を支配した「レイド大剣傭兵隊」の壮絶な終焉だった。
「数年前のロマールとの戦争だ。旧レイド帝国軍の主力として出陣したあいつらは、ロマールが誇る『鉄壁の重装槍兵隊』と正面から激突した」
ドワーフのバルドが豪快な笑みを消し、静かに身を乗り出す。
「ロマールの重装槍兵……スイスの歩兵陣形にも似た、隙のない方陣を組む奴らか」
「そうだ。一歩も退かぬ強固な槍の壁と、厳密な規律に支えられたロマールの死の陣形にな、レイドの傭兵隊は真っ向から突撃した。結果は……完全なる壊滅だ。個の武勇と大剣の破砕力に頼ったレイドの陣は、ロマールの圧倒的な組織力と鉄の連動に叩き潰された」
老兵の言葉が、冷たく店内に響く。
師匠が所属していた傭兵隊は、ロマールとの激戦においてほぼ全滅。生き残った師匠は故郷を追われ、失意の中で流浪の身となり、巡り巡って教団の街で俺と出会ったのだ。
「……なるほど。あの方が私に教える際、なぜあれほどまでに『力任せに振るな、相手の勢いを利用し、常に自身の軸を殺すな』と叩き込んだのか……ようやく理由が解りましたわ」
ミレーヌが整然とした口調で、だが痛ましさを込めて呟いた。
師匠が叩き込んでくれたのは、単なる大剣の扱い方だけではなかったのだ。ロマールの完璧な組織戦術に破れ、仲間を失った血の教訓——巨大な個の力であっても、理合いと構造を理解しなければ真の勝利は掴めないという、過酷な戦場での遺言そのものだったのだ。
「……師匠は、敗北の過去を一度も口にしなかった。ただ『剣に生きるなら、盲信ではなく己の理を信じろ』とだけ言っていた」
俺は大剣の柄頭に刻まれた無数の小さな傷を愛おしむように撫でた。
「クライヴ……」
エレノアが静かに寄り添い、風の精霊たちも哀悼の意を示すように柔らかく周囲を舞う。
「へっ、気にするなよクライヴ! その師匠の無念も、お前がそのツヴァイハンダーでアノスまで届ければ、立派な供養になるってもんだろ!」
バルドが豪快に俺の肩を叩き、ジュードも「そうだよ。次に向かうロマールで、その傭兵隊の因縁を越えて見せればいいのさ」と力強く頷いてくれた。
師匠の過去を知り、俺の胸に宿る炎はより深く、静かなものへと変わった。
次なる目的地は、師匠の部隊を壊滅させた絶対の軍事大国ロマール。そこを越えなければ、聖地アノスへの道は拓けない。師匠から受け継いだ大剣の理合いを胸に、俺は新たな覚悟を固めてレイドの街を後にした。