ソードワールド二次創作小説(ファリスの聖戦士) 作:シットライヌ
レイドの過酷な山道を越え、一行の前に姿を現したのは、山脈の鞍部を埋め尽くす巨岩の要塞群——軍事大国ロマールの城塞都市だった。
整然と切り出された石組みの城壁は遠目からでも寸分の歪みもなく、幾重にも重なる鉄の城門には、長槍(ピケ)と重装甲冑を完璧に揃えた衛兵たちが整列している。白銀の騎士道に誇りを抱くタイデルや、洗練された魔術師の街ベルダインとは異なる、国家全体がひとつの巨大な戦争兵器として機能しているかのような威圧感だった。
「ひえっ……どこを見ても鉄と石と長槍ばかりだ。兵隊たちの足音まで完璧に揃っているよ」
ジュードが軽快なステップを潜め、小声で囁く。
「完璧な規律と統一された集団行動……これこそがロマールが誇る『鉄壁の方陣』を生み出す源泉ですわね」
ミレーヌが厳重な検問を抜ける際、警戒心を隠しながら理知的な瞳で街の構造を分析する。
無事に検問を通過し、城塞都市の主街道へと踏み入れたものの、俺の肌を刺すような緊張感は解けなかった。通りを行き交う市民や兵士たちの歩法、視線の配り方一つひとつに隙がない。そして何より、背中のツヴァイハンダーを目にした途端、すれ違う重装歩兵たちの視線が途端に鋭く研ぎ澄まされるのを感じた。
「おい、クライヴ……あの連中の目つき、ただの旅人に向けられたもんじゃねえぞ」
バルドが巨岩のようなラージシールドの長さを整えながら、低く唸る。戦神マイリーの戦士である彼にとっても、この街に漂う統制された殺気は不気味に映るらしい。
「ええ。旧レイド帝国の傭兵隊を打ち破った歴史を持つこの国では、あの大剣は『かつての敵国の象徴』であり、同時に彼らの誇る方陣を脅かす可能性を持つ異分子として映るのでしょう」
エレノアの言葉通り、風の精霊たちもこの街の至る所に張り巡らされた監視と、固く閉ざされた人々の疑念を伝えてきていた。
俺たちは噂を聞きつけ、裏通りの兵装市場にほど近い酒場へと身を寄せた。そこは表通りの整然とした静けさとは打って変わり、各国の武器商人や、ロマール軍に雇われた傭兵たちが集う殺伐とした空間だった。
カウンターの隅に腰を下ろし、熱いスープで喉を潤していると、背後からガチャリと金属鎧が擦れ合う音が近づいてきた。
「……見慣れぬ大剣だな、流れ者」
振り返ると、そこにはロマール軍の百人隊長らしき男が、数人の重装歩兵を従えて立っていた。男の胸甲には、かつてレイドとの戦争で功績を挙げた兵士に授与されるという、双槍の刻印が刻まれている。
「その長大な刃、そして足の踏み方……レイドの残り香がする。貴様、死に損ないの傭兵の身内か?」
男の言葉に、酒場全体の雑音がピタリと止まった。群がる傭兵や商人たちが、一斉に俺たちのテーブルへと視線を注ぐ。
俺は静かに立ち上がり、大剣の柄頭に手を添えた。力で威圧するためではない。フォルカーから授かった『ツヴェヒハウ』の理——相手の突きや威圧の運動軸をそのまま受け流し、自らの軸を崩さぬ立ち振る舞いを身に宿して。
「俺はアノスを目指す巡礼者だ。過去の戦争にも、国の確執にも興味はない。……だが、不当な挑発に刃を収めるつもりもない」
俺が静かに、だが一切の揺らぎなく言い放つと、百人隊長の目がわずかに細められた。力任せの粗野な傭兵ではない、鍛え上げられた「理」を持つ者の雰囲気を察取したのだろう。
「……ふん。口の減らない巡礼者だ。このグラン・ロマールで血を見るのが嫌なら、夜の街には出歩かないことだ。……最近は、異国の武器を扱う怪しげな影が夜な夜な兵士を襲っている」
吐き捨てるように告げると、百人隊長は手下を連れて酒場を去っていった。
「夜の街で兵士を襲う影……か。せっかく静かに通過したかったのに、どうやらこの巨大な城塞都市にも、一筋縄ではいかない闇が潜んでいるらしいね」
ジュードが苦笑しながらリュートの弦を弾く。
「単なる辻斬りではありませんわね。ロマールの強固な規律に亀裂を入れようとする、何者かの意志を感じますわ」
ミレーヌの言葉に、俺は背中のツヴァイハンダーの重みを確かめるように深く息を吸い込んだ。
師匠の因縁が眠る国、ロマール。聖地アノスへの道は、この鉄と石の城塞都市で新たな試練を俺たちに突きつけようとしていた。