ソードワールド二次創作小説(ファリスの聖戦士) 作:シットライヌ
ロマールの東区画、兵装倉庫の陰に位置する薄暗い路地裏。そこが、昨夜三体目の重装歩兵が命を落とした現場だった。軍政庁から遣わされた監察官の案内で現場に足を踏み入れた俺たちは、石畳の上に残された生々しい血痕と、壁に刻まれた深い斬撃痕を注視していた。
「見てください、この石組の傷を……。大剣の厚い切先が、寸分の迷いもなく一撃で叩き込まれていますわ」
ミレーヌが膝をつき、魔導書の表紙で直射日光を遮りながら傷口の角度を注意深く計測する。
「甲冑の胸甲を深々と切り裂き、そのまま背後の石壁まで届いている。生半可な筋力や大振りではありません。相手の重装甲の構造的弱点——鋼鉄の継ぎ目を正確に狙い打っていますわね」
「力任せの破壊じゃなく、完全な『理合い』の刃……。フォルカーさんが言っていた、レイド大剣傭兵隊の秘伝そのものだ」
俺は己のツヴァイハンダーの柄に手を置き、壁の斬痕に自身の刃を重ね合わせるように立ち尽くした。
「でも、変だと思わないかい?」
ジュードが路地の天井を仰ぎ見ながら、スピアの柄で高所の通気口を指し示した。
「ロマールの重装歩兵は常に三人一組で巡回している。いくら一撃離脱とはいえ、他の二人に警笛を鳴らされることなく、静寂の中で三人を瞬殺するなんて芸当、大剣一本で可能なのかな?」
その疑問に応えるように、エレノアが静かに瞳を閉じ、細い指先を空へと掲げた。微かな風が彼女の銀髪を揺らす。
「……風の精霊たちが怯えています。ここに残されているのは、大剣の鉄の匂いだけではありません。……もっと冷たく、湿った『死者の吐息』の気配です」
「死者の吐息だと?」
バルドが眉をひそめ、ウォーハンマーの柄を強く握り直した。
「ええ。ファンドリアの暗黒司祭たちが用いる死霊術(ネクロマンシー)……あるいは、生者の感覚を麻痺させる黒い霧の痕跡ですわ」
ミレーヌの顔色が一段と険しくなる。
「タイデルで私たちが目にしたあの事件……ファンドリアの暗黒信仰が、ここロマールにも手を伸ばしている可能性がありますわ。レイドの無念を抱く腕利きの剣士を死霊術や薬物で操り、ロマール軍に対する絶好の刺客として仕立て上げているとしたら……」
「かつての戦争の怨念を利用して、ロマール内部から混乱を引き起こそうってワケか。胸糞悪い話だな」
バルドの低い唸り声が静かな路地に響く。
「精霊の導きに従いましょう。血と暗黒の澱みが、地下水道の排水口へと続いています」
エレノアが指し示した先には、鉄格子で固く閉ざされた旧市街の地下遺構への入り口があった。巨大な城塞都市の地下に広がる迷宮。そこが、重装歩兵を狩る暗殺者の潜伏先に違いない。
俺は大剣を引き抜き、暗い闇が口を開ける地下への階段を見つめた。
「師匠が授けてくれた技術を、暗黒の陰謀の道具にはさせない。行くぞ、みんな」
仲間たちの足音が揃い、俺たちはロマールの下に眠る深淵の闇へと静かに降り立っていった。