ソードワールド二次創作小説(ファリスの聖戦士) 作:シットライヌ
旧市街の地下遺構に蔓延っていた濃密な紫色の死気は、ミレーヌの浄化魔法とエレノアの放った浄化の風によって完全に霧散していた。
ファンドリアの暗黒司祭に操られ、生ける屍としてロマールの兵士を狩り続けていた元レイド傭兵の剣士。その胸をクライヴの『ツヴェヒハウ(交錯斬り)』が正確に貫き、呪縛が断ち切られた瞬間、男の歪んだ顔には微かな安らぎが浮かんでいた。師匠アルブレヒトと同じ無念を抱き、闇に利用されていた哀れな魂を、クライヴは自らの大剣の理合いで救い出したのだ。
「これで、ロマールを裏から揺さぶろうとしていた暗黒教団の糸は断ち切られましたわね」
ミレーヌが、拘束した暗黒司祭の懐から押収した証拠品と羊皮紙の書簡を丁寧にまとめながら告げる。
「不気味な気配もすっかり消えました。地下の風も、ようやく澄んだ流れを取り戻しています」
エレノアが安堵の息をつき、ジュードも「やれやれ、これで夜道を歩く兵隊さんも安心して枕を高くして眠れるね」とスピアを背中に収めた。
「ガハハッ! 地下で暴れるのも悪くねえが、やっぱり太陽の光の下で飲むエールが一番だぜ!」
バルドが大きな胸甲を叩いて笑う。
翌朝。陽光が切り出された石組みの城壁を白く染める中、クライヴたちは再び軍政庁の最上階へと呼び出されていた。
ヴァルター将軍はデスクに置かれた暗黒教団の証拠品と、事態を速やかに解決した五人の姿を交互に見つめ、静かに立ち上がった。
「見事な手際だった。事件を表沙汰にすることなく、我が軍の損害を最小限に抑えて密造の根を断つとはな。……正直なところ、流浪の神官戦士と聞いて侮っていたことを認める」
将軍はそう言うと、羊皮紙に自筆の署名とロマール軍総監の重厚な蝋封を押し、一枚の金色の羊皮紙——特別通行証をクライヴへと差し出した。
「約束通り、聖地アノスへ至る国境関所の通行を許可する。これがあれば、我が国のいかなる要塞も貴様らの通行を阻むことはない」
「感謝します、将軍」
クライヴが通行証を受け取ると、ヴァルター将軍の冷徹な瞳にどこか複雑な色が混じった。
「貴様が振るうその大剣……かつて我が方の陣形を苦しめたレイドの傭兵たちを思い出させた。力任せではなく、こちらの連動と構造の隙間を抉り取るような恐ろしい理合いだ。……失うには惜しい腕だが、引き留めはせん。アノスへの道のりは険しいが、精々無事で進むがいい」
軍政庁を後にした一行は、いよいよグラン・ロマールの南門へと向かっていた。門の向こうには、雄大な山脈の合間を抜けて至高神の聖地アノスへと続く、長大で厳かな道標が伸びている。
クライヴは背中に負ったツヴァイハンダーの柄頭をそっと撫でた。
教義の盲信を捨て、己の眼と意志で手に入れた正義。師匠から受け継ぎ、フォルカーから教わった大剣術の極意。そして、どんな困難も共に乗り越えてきた仲間たち。
「行こう。聖地アノスへ」
クライヴの言葉に四人が力強く頷く。朝日に照らされた街道を、彼らは迷いのない歩みで踏み出していった。