ソードワールド二次創作小説(ファリスの聖戦士) 作:シットライヌ
大聖堂の前庭に、激しい金属音が響き渡った。
ダニエル座長が率いる聖騎士隊の緻密な集団剣術。だが、クライヴのツヴァイハンダーが描く円軌道と、相手の攻撃軸をそのまま逸らして無力化する『ツヴェヒハウ(交錯斬り)』の前には、聖なる剣の刃も空を切るばかりだった。バルドがラージシールドで突進を食い止め、ジュードが間合いを制し、ミレーヌとエレノアの魔法が整然とした聖騎士たちの陣形を乱していく。
力で叩き伏せるのではなく、相手の威勢と構造の隙間を突き、傷を最小限に抑えて無力化する。その洗練された理合いの前に、聖騎士たちは一人、また一人と武器を打ち落とされ、石畳に膝をついた。
「バカな……! 教団の神聖剣術が、そのような異端の鉄塊に破られるはずが……っ!」
激昂したダニエルが自ら剣を抜き、死角から突進してきたその瞬間——
「そこまでだ、ダニエル」
重厚で深みのある声が大聖堂の広場に通り抜けた。
その一言で、立ち塞がっていた聖騎士たちが一斉に頭を下げ、直立不動の姿勢をとる。大聖堂の重い鉄扉から歩み出てきたのは、純白と紫の紋章を纏った老齢の男——ファリス教団の最高幹部の一人、アルベルティ枢機卿だった。
「枢機卿殿! この脱走神官は教義を汚し、聖地に刃を向けました! 直ちに異端審問に……」
「黙りなさい、ダニエル」
アルベルティは短く制すると、静かな眼差しでクライヴと、その背後に立つ仲間たちを見つめた。
「教義の型に拘泥し、目の前で振るわれた刃の真価を見抜けぬとは情けない。……クライヴと言ったな。お前が振るったその剣には、怨恨も破壊の衝動もなかった。ただ、己の足で立ち、仲間を守り、理(ことわり)を以て不必要な血を流さぬ意志だけがあった」
枢機卿は歩み寄り、クライヴの握る大剣の柄頭、そしてそのまっすぐな瞳を覗き込んだ。
「ファリスの神聖魔法を授からず、落ちこぼれと呼ばれた男が……旅の中で何を見、何を選び取ってきたのか。言葉ではなく、その剣の筋筋が雄弁に物語っておる」
「枢機卿殿。教義とは、人を縛り付け、他者を排除するための盾ではないはずです」
クライヴは静かに、だが揺るぎない声で応えた。
「至高神ファリスが示す正義とは、与えられた教条を丸呑みすることではなく、過酷な現実の中で己の目と意志で真実を見極め、人々を護るために振るう『理合い』の中にこそあると、俺はこの旅で学びました」
広場を心地よい風が吹き抜けた。エレノアの肩口で風の精霊たちが穏やかに踊り、ミレーヌとジュード、バルドが誇らしげに微笑む。
アルベルティ枢機卿は長く深い息を吐くと、柔らかな笑みを浮かべた。
「……見事だ。教義という殻に閉じこもっていたのは、我々の方だったのかもしれんな。ファリスの神殿は、己の正義を自らの手で掴み取った者を拒みはしない」
枢機卿はダニエルに向き直り、静かに告げた。
「彼らの通行を認めなさい。クライヴは脱走者にあらず。至高神の教えを独自の『理』として結実させた、立派な巡礼者であると私が証言しよう」
「枢機卿殿……! ……はっ」
悔しさに唇を噛み締めながらも、ダニエルは深々と頭を下げ、聖騎士たちに路を開けさせた。
白亜の大聖堂を背に、陽光が差し込む大階段の上に立つクライヴたち。
かつて自分を縛り付けていた過去の呪縛は完全に断たれ、自らの足で歩んできた道が正しかったことが証明された瞬間だった。
「さあ、行こう」
クライヴは大剣を背中の鞘へと深く収め、仲間たちを見つめた。
聖地アノスを超え、未だ見ぬ世界と次なる旅路へ向けて、五人の歩みはどこまでも力強く続いていく。